勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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これも全て……


第20話

 

 

「はぁ〜……疲れたぁ」

 

勇真は深い深い溜息を吐いた。

 

自分で作った人形に殺されかけるという馬鹿みたいな、それでいてとんでもない危機からなんとか脱した彼はゴロンと岩肌に転がった。

 

そんなことをすれば普通メチャクチャ痛いし怪我をする、だが強大な魔法障壁を有する勇真からすれば岩肌に寝っころがるのも、布団に寝転ぶのも大差ない。

 

余程疲れたのだろう、彼はボーと空を眺めながら独り言を呟いた。

 

「もう、今日は動かない、ルミネア連れて家帰って寝っころがって二ちゃんでも…………ああ〜ッ!? 家もスマホもパソコンも島ごと消されちゃったじゃんッ!ーーオノレ、ランスロットォォッ!!」

 

ああ、データ移行出来ねぇ、ソフ○バンク行くの面倒クセェ、と勇真は呻いた。

 

今日一番のダメージである。回復魔法で治せないのが困りものだ。

 

「………はぁ、もういいや、ルミネア拾って実家に戻ろう」

 

そう言って勇真は寝っころがりながら指をパチンと鳴らす、その音を媒介として探索魔法を発動、探索網は周囲一帯を音速で駆け巡り三十秒後にはルミネアの現在地を補足した。

 

 

しかし……。

 

「……あれ? この反応ってイッセー? と、リアス眷属ッ!?」

 

 

勇真はまた面倒事が起こった気がして頭を抱えた。

 

 

 

 

……どうしまよう。

 

ルミネアはとても困っていた。

 

勇真に言われて魔導人形を囮に他の無人島に隠れていた彼女なのだが、ジークフリートを追ってきたという悪魔達に捕まってしまったのだ。

 

いや、特に拘束などされている訳ではないので、捕まったというよりは保護されたというのが正しいか。

 

「(こういう言い方はおかしけど、良い悪魔さん達だなぁ)」

 

ルミネアはそう思った。

 

何故なら、咄嗟に元エクソシストだと名乗ってしまったルミネアに危害を加えないのだ、三大勢力が和平を結んだとは言え、未だエクソシストに反感を持つ悪魔は多い。

 

普通、こんな無人島に一人でいるあからさまに怪し元エクソシストが居たら取り敢えず殺る、最低でも無力化するのが悪魔というものだ。逆にこの島に居たのが悪魔で発見したのがエクソシストだとしても同じ状況になるだろう。

 

にも関わらず、彼らはルミネアに危害を加える事はなかった。なので間違いなく、彼らはお人好しで優しい悪魔なのだろう。

 

ルミネアはちょっとだけ悪魔にも良い人が居るんだなぁとホッコリした。

 

「まったく、ジークフリートはどこいったんだよ」

 

そう、イッセーと名乗った悪魔が独り言を言う。

 

「彼の事だ、心配はないと思うけどね」

 

イッセーの独り言を木場と名乗った悪魔が拾う、彼を見ると何故かゴールドジークというか単語がルミネアの頭に浮かんだ。

 

「お外怖いですぅぅ、帰りましょうよぉ、イッセー先輩ッ! 祐斗先輩ッ!」

 

そう怯えるのは茶色い紙袋を頭から被った小柄な人物だった。

 

ジャージ姿で正確な性別は分からないが小柄な体躯と高い声からおそらく少女と思われる。

 

「ギャスパー、まだここに来て30分も経ってないぞ、ジークフリートの扱きを思い出せ、こんなの全然怖くなくなるぞッ!」

 

 

そう言ってイッセーは身震いした。

 

「嫌ですぅぅ、そんなの思い出したくないですぅ、そもそも、あの人がどうこうなるはずないじゃないですか! もう、帰りましょうよぉ〜」

 

「はは、念の為だよ、ギャスパーくん」

 

 

こんな感じの緊張感のない会話を繰り広げる、三人だが、その姿に隙は殆どない。

 

今も、ルミネアが変な行動を取らないか、さりげなく見張っている。

 

囲まれている現状、魔法力を使った瞬間袋叩きに合う、そうルミネアは感じ取り下手な動きを取れないでいた。

 

「(この悪魔さん達、優しいけど油断がない。お人好しだけど高レベル、うう、逃げれない………でも、それよりも、勇真さんは大丈夫かな、きっと、勝ってくれたよね?)」

 

彼等が探しているジークフリートという人物がもし、ランスロットの偽名なら悪いがきっともう、この世にもう居ない。

 

それを申し訳なく思いつつも、ルミネアはそれよりも勇真の無事を祈った。

 

 

その時だった。何者かの探索魔法が使われた。

 

「(これは、勇真さんの探索魔法!)」

 

ルミネアは勇真の無事に安堵し、ホッと息を吐き出した。勇真は別れる前に言っていたのだ。勝ったら風系統の探索魔法を使うと。

 

 

この探索魔法にルミネアを除いていち早く反応したのはギャスパーだった。

 

「……この探索魔法、そしてこの魔法力の波長はジークフリートさんですよぉ! やっぱり無事じゃないですかぁ! さあ、帰りましょうイッセー先輩!祐斗先輩!」

 

「なんだ、やっぱり無事だったか、心配して損した」

 

そう言ってイッセーがホッとしたように呟いた。

 

しかし、ルミネアはこの会話を焦ってしまう。

 

「(あ、そ、そうです! この悪魔さん達が探しているジークフリートというのがランスロットくんなら勇真さんの魔法力と波長は同一のはず! こ、これって不味くないですかッ!?」

 

指紋と同じように魔法力の波長は一人一人で違うもの、故意に無理矢理同じにするのは難しい上、完璧に同じにするのはほぼ不可能なのだ。

 

にも関わらず、ジークフリートと全く同じ波長の勇真がひょっこり顔を出したりしたら……絶対に面倒な事になる。

 

うわぁ、面倒くさい、と言う勇真の姿がはっきりとルミネアの頭に投影された。

 

 

「……この感じだと戦闘をしている様子はないね、おそらく彼は僕たちの存在に気付いたはずだよ、ならここでしばらく待って彼が合流したら一緒に帰ろうーー彼女も連れてね」

 

そう口にして木場はルミネアを見つめた、その目には強い警戒心が浮かんでいる。

 

彼には分かるのだ、ルミネアの力量が並みのエクソシストを大きく逸脱しているということが。

 

そして、疑っているのだ、ジークフリートの行動にルミネアが関係していると。当然だ、じゃなきゃこんな無人島で実力者が何をしているというのだ。

 

その時、新たに通信魔法が四人の耳に届いた。

 

『イッセーッ! 祐斗ッ! ギャスパーッ!』

 

通信は若い女性の声である。そして、その女性の声色は明らかに焦っていた。

 

「あ、部長? ちょうど今『今すぐそこから逃げなさいッ!』……はい?」

 

イッセーの声を遮って通信の女性ーーリアスは鬼気迫る様子でイッセー達に離脱を命じた。

 

「ど、どうしたんですか? そんな焦って」

 

『いいから逃げてッ! そこにジークフリートは居ないわッ! 早くッッ!!』

 

「え、でも、今ジークフリートの魔法が」

 

『ーーーが返って来た』

 

「あ、探索魔法だけ掛けて帰っちゃったんですか、あいつ」

 

『違うのッ! 帰って来たのは、レイヴェルの召喚魔法で帰って来たは、彼女の悪魔の駒だけなのッ! つまり、死んだのよジークフリートはッ! 殺されたのッ! その近くに居る何者かにッ!!』

 

 

瞬間、イッセー、木場、ギャスパーはルミネアの近くから飛び退くと、彼女を囲む様な陣形を組む。

 

そして、即座にイッセーと木場は禁手化(バランス・ブレイク)、イッセーは龍帝の鎧を纏い、木場は死剣を握り締める。

 

ギャスパーはルミネアに停止世界の邪眼を向けながら転移魔方陣を作り出した。更にギャスパーは左手を複数の蝙蝠に変身させると全方位を警戒するように見張らせる。

 

 

「あ〜、本当に悪いんだけど、そのまま、動かないで一緒に転移してもらえるかな? この近くにメチャクチャ危ないヤツが居るみたいなんだ……もしかしたら君かも知れないけど」

 

そう、遠慮勝ちにイッセーがルミネアに告げる。

 

「……イッセーくん、彼女は眷属じゃない、だからこの魔方陣では一緒に転移出来ないよ」

 

「ッ!? さすがにそれは酷いだろッ! ……ギャスパーなんとかならないか?」

 

「ま、魔方陣の様式を若干変更すれば大丈夫ですぅ、で、でも、いいんですか?」

 

ルミネアをチラチラ見ながギャスパーが言う。

 

明らかにギャスパーはルミネアに怯えていた。

 

「大丈夫だ、もしこの子がジークフリートを倒した奴なら俺たちはとっくに殺られているはずだ、それに例えこの子がジークフリートを倒した奴だとしても俺たちが生きてるんだから敵対の意思ないんだろう? それなら事情を聞きたい」

 

「……確かに、そうかも知れないね」

 

「わ、分かりました…………様式を変更、問題なく彼女も一緒に跳ます!」

 

 

「(ど、どうしましょう?)」

 

このまま連れ去られると色々と、そう色々と不味い。自分は良いかもしれないが、勇真が色々と面倒な事になる。

 

そう、ルミネアは思うも逃げ出す方法が思い浮かばない。

 

瞬間転移で逃げる? ………無理だ、いきなりの襲撃を警戒しているのだろう、ギャスパーがこの一帯に自身以外の転移魔法阻害の結界を張っている。

 

飛翔術で逃げる?………無理だ、これも同じく襲撃に備えた球体状の防御結界からは簡単に出られそうにない。

 

結界を切り裂いて逃げる………結界を壊している間に袋叩きに合います。

 

三人を無力化して逃げる………一対一なら可能かも知れないがそれ以上の人数は不可能。

 

諦めて一緒に転移し嘘の事情を話す………そんなに口が上手くありません。

 

 

「(ど、どうすればッ?)」

 

 

そう、ルミネアが焦っていると……。

 

 

『話を合わせるか、ちょっと黙っててね』

 

という、ルミネアだけに聞こえる通信がギャスパーの結界を抜いて彼女の耳に届いた。

 

 

 

次の瞬間、ギャスパーの結界が風の切断魔法で両断された。

 

 

 

 

 

「ここに居たか、探したぞ」

 

そう言って、“黒い霧” を纏ったローブ姿の男が四人の前に現れた。

 

その男の登場に、リアス眷属三人は凄まじい重圧感じた。まるで、本気のジークフリートを目の前にした様なプレッシャー、間違いないコイツが……。

 

「……お前がジークフリートを殺したのか?」

 

イッセーがそう、問いかける。静だがその声には抑えきれない怒りが滲んでいた。

 

「ふむ、その通りだ……仕方なくね」

 

イッセーの言葉に男は軽く答える。

 

「テメェッ!………仕方なくねというのは?」

 

男に激昂しそうになったイッセーだが、ジークフリートに何度も言われた『戦闘中に怒るのは単なる隙だ』という言葉を思い出し、努めて冷静さを保とうとした。

 

そもそも相手はジークフリートを倒した奴だ、自分の遥か格上だ、冷静さを無くしたら一瞬で殺られるッ!

 

ジークフリートの訓練を経て、イッセーは確実に成長していた。

 

「ああ、私は彼に、ジークフリートに英雄派に戻って来てもらいたかったのだよ、彼は優秀だったからね、それで、密かに彼に通信を入れた」

 

「ッ! そうか、だからジークフリートは一人で、いきなり消えたんだね」

 

木場が得心がいった様な顔をした。

 

「その通り、場所を指定し、一人で来るように告げた。そして彼は一人で来た……残念ながら私と戦うためにね」

 

心底残念そうな顔をして男は溜息を吐いた。

 

「な、なんでお前からジークフリートさんの魔法力の波長を感じるんだ!」

 

「ジークフリートの魔法力の波長?……………………ああ、これか、それはな、元々この魔法力が私のものだからなのだよ」

 

やけに長い沈黙の後、男は思い出したようにそう告げた。

 

「……それはいったいどういう事だい?」

 

「簡単な事だ。私は研究で忙しくてな、出来るだけ前線には出たくなかったのだよ。だから密かに私の魔法力を彼に貸した。私の分も働いてもらう為にね、それで、彼には実験の結果その魔法力を得たと嘘を言っておいたのだよ」

 

彼は働き者だったからね、と男は付け加えた。

 

「じゃ、じゃあ、ジークフリートさんが負けたのはッ!?」

 

「ふふ、気が付いたか、そう、交渉が決裂した為、戦闘開始となった、だから開始と同時に私が魔法力を返してもらったのだよ。そして、動揺で隙が出来た彼を極大魔法で始末した。実に呆気なかったよ」

 

そう、邪悪な笑みを浮かべ男は告げる。

 

「……下種が」

 

木場が吐き捨てるように呟く。

 

「戦術と言ってもらいたいね、ジークフリートとて私の行為をそう認識しているはずだ……さて、まあ、話はここまでにしよう、彼女を渡してもらおうか?」

 

「「「ッ!?」」」

 

「…………」

 

男の言葉に三人はルミネアへの警戒心を高める。そしてルミネアは無言で防御魔方陣を形成した。

 

「何を驚く? まさか私と彼女が無関係だと思っていた訳ではあるまい? 彼女はね、私の大切な実験体なのだよ」

 

「実験、体?」

 

「モルモットと言い換えても良いがね……ああ、彼女を渡せば君達は見逃そう、悪くない取引だと思わないか?」

 

そう言って男はプレッシャーを強める。

 

そのプレッシャーは今までイッセー達が敵対した中で最も強く、そして重い。

 

間違いなく過去最悪の敵。

 

これにたった三人で立ち向かうのは完全に無謀な行為だった。

 

しかし……。

 

 

「………断るッ!」

 

少し、躊躇しながらもイッセーはルミネアの受け渡しを拒否した。

 

イッセーの意見に、実験体と聞き自身と境遇を重ねた木場も賛同した。彼は鋭い視線で警戒しながら死剣を男に向ける。

 

その間、ギャスパーは再び転移魔方陣を作り出す。彼も決意を固めたのか、僕も男なんだ、と小さく呟き男を睨む。

 

 

「………はぁ、交渉決裂か、ジークフリートに言われなかったか? 勝機がないのに立ち向かうのは単なる自殺だと」

 

男はやれやれと首を振ると、黒い霧を残して一瞬で消える。

 

高速瞬間転移! 男は一瞬にしてルミネアの背後に移動すると彼女の防御魔法を打ち砕き、彼女を拘束、そして、ルミネアの方を振り向いた三人は猛烈な暴風を叩きつけられ吹き飛ばされてしまった。

 

「ハハハハ、彼女は返してもらう、君達はここ死……いや、君達如き殺すまでもないか? 私は実験で忙しいのでねここらでお暇させていただこう」

 

「ま、待てッ!」

 

転移で消えようとすると男に、鎧で最もダメージが少なかったイッセーが、即座に接近、凄まじい拳打を浴びせ掛ける。

 

しかし、その拳打を男は動きもせずに高密度魔法障壁で完全にシャットアウト。

 

「弱々しい拳だ、もっと腰を込めて打ってはどうかな? まあ、下手に魔法障壁を抜くと彼女が危ないのだかね」

 

その言葉に更なる攻撃を躊躇したイッセー、、そこに男の凄まじい雷魔法が襲い掛かった。

 

「ガガガガゴガッ!?」

 

関電するイッセーを男は指を指して笑う。

 

「ハッハッハッハッ! 変な声出すなよ! 笑ってしまうだろう? まあ、健闘賞だ私の名前を教えてやろう。私はゲオルク、英雄派のゲオルクだ! 私と再戦を望むなら英雄派を追うといい、まあ、私は魔法研究以外のことで記憶を割かない主義だからな、もしかしたら次会うときは忘れているかもしれないが、そこの所は許してくれたまえ」

 

 

そして、痺れるイッセーを嘲笑い男ーーゲオルクはルミネアと共に何処かへ転移してしまった。

 

 

次の瞬間、無人島にイッセーの慟哭が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………悪い事したかな?」

 

連続転移で追跡を出来なくしてから幻術を解いた勇真が珍しく本気で悪い事したかも、といった顔をした。

 

「はい、間違いないです」

 

勇真の言葉にルミネアも同意、彼女の中でもあの勇真の行為は完全に悪い事だった。

 

「いや、ね、一応、手加減したよ? 出来る限り傷つけないようにしたし」

 

「私が捕まってしまったのが悪いのですが、あれはやり過ぎだと思います。言ってる事もやってる事も完全に悪党でしたよ?」

 

私、勇真さんにとってはモルモットなんですか? と、ルミネアがジト目で勇真を見る。

 

「い、いや、下手に良い奴だとおかしいし、仲間って言ったらルミネアを人質に取られるかもしれなかったし、それにゲオルクってあんな感じの奴だった……よね? 確か」

 

「……勇真さんが演じるゲオルクさんの方が百倍悪役でしたよ? 完全に悪の幹部でした」

 

「え、でも、ゲオルクってテロリストで悪の幹部だし……良いんじゃないかな?」

 

「…………まあ、そう、ですね」

 

ルミネアは同意するが、歯切れが悪い。どうにも納得仕切れていないようだ。

 

勇真はルミネアに謝りながら今度イッセーに会ったら飯を奢ろうと決意した。

 

 

 

 

……明らかに飯の奢りで帳消しになるレベルの事ではないのだが。

 

 

 

 

 

 

 




ゲオルクって奴の仕業なんだッ!
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