ーー千葉県房総半島のとあるホテル
「うん、美味しい」
「はい、生でお魚を食べるのはちょっと抵抗がありまたが、慣れるととても美味しいんですね!」
勇真とルミネアは新鮮な刺身に舌鼓を打ちながら今後について相談し合っていた。
「さて、今後について話そうか先ずはイッセー達について、ルミネアは彼らに顔を見られた」
「……はい」
ルミネアが申し訳なさそうに肯定する。
「あ、気にしなくていいよ、それでルミネアは自分の名前を名乗った?」
のんびりと甘エビの殻を向きながら勇真はルミネアに問い掛けた。
「あ、いえ、昔同僚だったマリアというエクソシストの名前をお借りしました。でも、元エクソシストとは名乗ってしまいました」
「よし、問題ない。じゃあ、彼等については大丈夫だね」
殻を剥き終えた甘エビを口に運び、美味そうに咀嚼しながら勇真は言う。
「え、で、でも顔を見られてしまいましたよ?」
「それは大丈夫、彼等には会話しながら呪詛を掛けたから」
「呪詛って事は……認識操作か記憶操作ですか?」
「うん、そうだよ。俺がルミネアの背後に転移した瞬間、彼等は驚いて俺とルミネアを見たよね? その直前、転移して直ぐに俺はルミネアに幻術を掛けた、そこからルミネアは金髪碧眼の女の子になっていた訳だ。で、その時に見た君の姿を “ルミネア” と認識する様に仕向けたんだ、あ、違うかマリアだったね」
そんな、まるで風呂掃除したから湯船入れといたよ。みたいな軽い感覚で言う勇真。
もはや彼は勇者というより詐欺師かマジシャンだ。
「け、結構高レベルの悪魔さん達に見えたんですが、そんなに簡単に呪詛に掛かるものなんですか?」
「身体の自由を奪うとか、気絶させるとかはあの短時間で警戒された複数相手には難しいね、でもこの程度の認識操作なら警戒されてても問題ないよ」
今度、ルミネアも試してみるといい、そう、真鯛の刺身をパクつきながら勇真は笑う。
「そもそも記憶ってのは結構適当な所があるんだ。ルミネアも有るんじゃないかな、車に乗ってる時に『あ、この道通ったことがある』と思っても実際は全く通ったことがない道だった、みたいな経験が」
その言葉にルミネアも思い当たる節があった。
「あっ! はい、似たような事なら、前行った教会の近くの家の屋根の色を白だと思っていたら黄色だったという思い違いをした事があります」
「そう、それと同じだ、俺がしたのはちょっとだけその間違いをし易いように操作しただけだけ」
はい、これでルミネア関連は大丈夫。そう言って勇真はマグロの赤身に醤油をつける。
「あ、じゃあ、魔法力の波長はどうしますか?」
「ああ〜それね……………ほい、どう、波長変わった?」
「え? か、変わってます、え? こんな簡単に波長って変えられるんですかッ!?」
勇真は海鮮丼を食べながら、あっさりと、なんでもない事の様に魔法力の波長を変える。
「他人は知らない、でも俺は出来る、で、ゲオルクの波長については残念ながらどうしようもないね、あの三人の認識を狂わせても他にもランスロットーーいや、ジークフリートの波長を覚えている人が居るはずだし、下手に操作するとかえって不自然になっちゃうからね」
「そう、ですね。三人だけ認識がズレてたら明らかに不自然ですもんね」
「まあ、そこはゲオルク(本物)の外道っぷりに期待だね」
あるいは、イッセー達がゲオルクに会う前に俺がゲオルクを消すか、とルミネアに聞こえないくらい小さな声で勇真は付け足した。
まあ、多分、勇真は面倒くさがってしないのだろうが。
死剣と赤腕がぶつかり火花を散らす。
「はあぁああああッ!」
「ーーハッ! セイッ!」
音速を超える攻防、押しているのはイッセーだった。
当然だ、今のイッセーはリアス眷属最強、赤き龍帝の鎧を纏った彼はパワー、スピード、共にリアス眷属の中で “断トツで” 一番なのだ。
『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』
イッセーは最大倍化で下級悪魔の赤子並の魔力を瞬間的に並の上級悪魔以上まで引き上げる。
「ドライグゥッ! 制御を頼む『身体強化』だッ!」
『任せろ、相棒ッ!』
そしてその魔力で持って自身に身体強化を施すのだ。
この身体強化はイッセーがジークフリートから教えられモノに出来た数少ない魔法の一つ、発動、維持に使われるのが魔法力ではなく魔力の為、完全に同一の魔法ではないが、ジークフリートが残した遺産だった。
龍帝の鎧により馬鹿みたいに上昇していたイッセーのパワー、スピードがこれによりまた更に数段上昇する。
それは最大倍化から持って30秒の強化に過ぎない、だが、この短時間だけならイッセーは本気のジークフリートの身体能力に迫る、いや、パワーだけなら完全に彼を上回っているのだ。
「ーーグゥッ!」
その常軌を逸した身体能力を前に木場は一気に防戦一方となってしまう。
仕方あるまい、速度差は3倍以上、パワーに至っては10000倍以上の差なのだむしろ防戦でも戦えているのが奇跡だ。
しかし、その奇跡も長くは続かない。
イッセーは地面を思いっきり蹴り上げ、超音速の大量の土塊を木場に浴びせ掛けると、その攻撃を対処しきれず吹き飛んだ木場に追いすがり、彼の顔面にその剛腕を寸止めした。
「俺の勝ちだな」
「はぁ、また僕の負けか」
イッセーの勝利宣言を木場は溜息まじりに首を振ると素直に負けを認めた。
「……この頃、イッセーくんに全然勝てないな」
少し落ち込んだ様に木場が漏らした。彼の言う通りここ数日、彼はイッセーに負け続けている……いや、彼だけではない1人を除いて眷属全員がイッセーとの模擬戦で敗北し続けているのだ。
「そうだけど、身体強化なしなら普通に負ける時もあるだろ?」
「それってつまり、全力じゃないイッセーくんにしか勝てないって事でしょ?」
悔しそうに木場は言う。さすがに模擬戦での連敗は彼もショックを受けるのだろう。
「そんなこと言ったら木場だって今、全力じゃなかっただろ? まだジークフリートに教えてもらった魔法を使ってないんだから」
「はぁ、使う前に負けちゃったんだよ、僕が教えてもらった魔法は使い所が難しいし、寸止めとか出来ないから模擬戦だと使い辛いんだ。あと、防御魔法と身体強化は僕もしてたよ」
じゃなきゃ最後の散弾に当たった時に死んでたよ。そう言って肩を竦める木場に急いで駆け寄って治癒を施すアーシア。
そんな彼らの様子を見ながら小猫は完全に置いていかれたと、焦っていた。
『キミが一番使えない』
ジークフリートは小猫をそう評した。
彼女にとって本当に悔しく、悲しい事だがそれは事実だった。
アイデンティティーだったパワーと防御力はポジション丸被りのイッセーの完全下位互換。スピードもイッセー、祐斗より遥かに遅く、朱乃の様に中距離、長距離射程の高威力攻撃を使える訳でもない。
また、ギャスパーの様に他人を補助する魔法も、もちろん時間停止能力も持たず、アーシアの様に他者を癒せる訳でもない。
そう、小猫にしか出来ないというポジションが無いのだ。全てが誰かの下位互換、その上、器用貧乏とすら言えないほど得意分野が偏っている。
とは言え、決して小猫が弱いわけではないのだ、ただ、彼女仲間には小猫以上が多数いるそれだけの事なのだ。
「…………」
小猫は無言で強く歯を噛み締める。
「どうしたの? 小猫ちゃん」
小猫の様子が気になったのか、ギャスパーが心配そうに話し掛けてきた。
「………ギャーくん」
「何か心配ごと? ぼ、僕で良ければ相談に乗るよ」
「…………」
ギャスパーのこの言葉に、ギャーくん変わったな、と思うと同時に小猫は彼を強く嫉妬した。
イッセーがリアス眷属最強ならギャスパーは眷属最高の悪魔だった。
どうも彼はジークフリートの魔法が合っていたのか、攻撃、防御、補助と彼から多くの魔法を学ぶ事になる。
それに吸血鬼の特異能力を組み合わせると眷属の殆どが手に負えない存在と化してしまうのだ。
数百匹のコウモリに変身して全方位から攻撃魔法と時間停止を行い、遠距離の複数の仲間に補助魔法を掛け、その上コウモリの『きゅ、きゅ、きゅ』という可愛い鳴き声は全てが強い行動阻害を敵に与える呪詛という最悪具合。
余程の力量差がなければ、広範囲攻撃を持たない者に勝機はない。
そう、もはや小猫の手の届かない高みにギャスパーは居るのだ。
そして、彼は対人恐怖症をある程度克服してすらいる。特にそれが顕著になったのはジークフリート捜索から帰ってきてからだ。
ギャスパーが帰ってきたその時、小猫は見たのだ。何か強い決意を秘めた彼の目を。
「(私とは大違い)」
小猫は暴走してしまうのでは? という恐怖から仙術を封印して使うことが出来ない自分の不甲斐なさに涙を流した。
「え? え、えええッ! ちょ、こ、小猫ちゃん!? ど、どうしたの!? どこか痛いの!?」
いきなり泣き出した小猫にギャスパーはあたふたする。
そして小猫は元引き篭もりにこうも心配される自分が更に情けなくなり、声を噛み殺し泣き続けた。
地図が描かれた的がクルクルと回転する。
その的目掛け、珍しく真剣な表情をしたリゼヴィムがダーツを投擲した。
投擲されたダーツはしっかりと的に刺さる。それにヨシ! とリゼヴィムはガッツポーズを取った。
「ユーグリット♪ どこ刺さったぁ?」
「少々お待ちを………千葉県ですね」
「え〜マジで? おじさん東京狙ったんだけど?」
ニューヨークの時は狙い通りだったのにぃ、そう、不満顔でリゼヴィムは言う。
「では襲撃場所は東京という事でよろしいでしょうか?」
そう、問うユーグリット。
「いやいや、分かってないなぁユーグリットは、おじさん全世界にランダムに国を襲うっていたじゃん? 約束は守らないと♪ だから地域もコレでランダムに選ぶんですよ! ダ○ツの旅ならぬダーツの襲撃、良いんじゃない? うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、あ、ヴァーリきゃん、次の襲撃は千葉県ね、じゅんびよろぴく〜」
「チッ……出掛けてくる」
リゼヴィムに言葉を投げ掛けられたヴァーリは舌打ちして、部屋を出て行った。
「もう、ヴァーリきゃん反抗期? うひゃひゃひゃひゃひゃ! かわうぃね♪ 」
「……よろしいのですか? 彼の態度はいささか目に余るのですが」
「いい、いい、問題ないから♪ だって突っ張っても結局おじいちゃんのお願いには逆らえないわけだしぃ、少しくらい好きにさせてあげないとね、あんまり反抗されるのも面☆倒♪ また、ストレス解消に邪龍と戦わせるのも聖杯の無駄遣いになっちゃうからねぇ♪」
そう、リゼヴィムは孫好きの祖父の様に朗らかに笑った。
あくまで “様に” だが。
ヴァーリはムシャクシャしていた。
憎い祖父にアゴで使われる現状、それが彼に与えるストレスはどんな屈辱を受けるよりも強く彼を攻め立てた。
もう、今、ヴァーリはとにかく誰でもいいから戦いたかった。
そんな時、彼は思ったのだ。
そうだ、駒王学園に行こう、と。
何故ならそこには強敵が居る、自分を殺し、こんな最低な環境に叩き堕とした憎い敵が居る。
頭に来る事だが、ヴァーリはリゼヴィムによってかなり強化された。余程相性が良かったのか死んでからしばらく『白龍皇の光翼』はヴァーリの魂にくっついていた。
その為、復活したヴァーリは依然として白龍皇である、それも復活前より遥かに強大となった間違いなく史上最強、未来においても魔王以上の存在が白龍皇の光翼を奪うとかでもしない限りまず超えられる事がない程、圧倒的最強の白龍皇だった。
ヴァーリは確信している、今ならジークフリートに勝てると。
これは驕りでも油断でもない、純然たる事実だ。今の彼は油断さえしなければ万全のジークフリート相手に無傷で勝つ事も不可能ではない、それ程に力を上げていたのだ。
そして、彼は駒王市に向かう、だが、肝心のジークフリートはもう居ない。
もしかしたら、駒王市は終わりかもしれない。
やったね、ギャスパー、イッセー超強化! 木場強化! その他眷属も描写は無いけど強化!
……小猫現状維持。
あ、ついでにヴァーリも超強化!
……勝てる気がしない。