最初のターゲットはイッセーだった。
ヴァーリは龍帝の鎧を纏い、身体強化を発動中のイッセーですら反応仕切れない超々高速で接近、左籠手に強大な魔力を収束させると鋭い魔力刃とし、それをイッセーの首目掛け一閃、その一撃でイッセーの頭は胴体から離脱した。
次の獲物は木場だった。
ヴァーリはイッセーが殺られて怒りの表情となった彼が一歩目を踏み出す前に接近、その顔面を右手で掴むと一瞬で握り潰した。
その次は犠牲者はギャスパーだった。
コウモリになって難を逃れようとしたギャスパーにヴァーリは消え掛けの木場の死剣を投げつけた。死剣は音速の30倍ーー秒速10Km以上でギャスパーに直撃、その上半身を木っ端微塵に打ち砕いた。
そして、最後の生贄はリアス、朱乃、アーシアだった。
左手に作られた魔力刃、そこに更なる魔力込めて巨大化させたヴァーリはそれを一閃、長さ数十メートルとなった刃は狙い違わずリアス、朱乃、アーシアを真っ二つ両断した。
この間、僅か2秒、そんな超短時間の惨劇であった。
「はっ!?」
途切れていたイッセーの意識が覚醒する。
「ゆ、夢?」
とんでもない悪夢を見た、そんな気がしたイッセーが思わずそう呟く。
「夢ではないぞ」
そのイッセーの呟きに何時の間にか、すぐ横に居たヴァーリが答えた。
「なッ!?」
それに驚いたイッセーは横っ飛びでヴァーリから距離を取ると即座に禁手化、龍帝の鎧をその身に纏った。
「ヴァーリッ!」
イッセーは油断なく構えを取ると、静かに佇む白龍皇を睨みつける。
「戦闘再開か? 俺はそれでも良いが今は止めた方がいい、まだ、身体が馴染んでない筈だからな」
「なんの、は」
なんの話だ? そうイッセーが、聞こうとした瞬間、彼の全身から一気に力が抜け、地に膝を着けてしまう。
「な、んだよ……これ?」
力がまるで入らない、口も上手く開けない、そんな身体に戸惑いながらも、イッセーはヴァーリから視線を逸らさず彼に問い掛けた。
「強化して生き返ったばかりだからな、魂が肉体に馴染んでないんだ」
イッセーの問いにヴァーリはなんでもない風に答える。
「きょうか、いき、かえった?」
「そうだ、キミは一度死んだ、それを覚えてるか?」
「…………」
ヴァーリの言葉に、イッセーは悪夢の内容を思い出す。
瞬間移動の如き速さで接近したヴァーリが霞む速度で腕を一閃、首に感じた激痛と、グルグルと回る視界。
そして、その視界に映った仲間たちの最後。
まさか、アレが全て……
「そう、事実だ」
ヴァーリはイッセーの思考を読んだように彼の疑問に答えを述べた。
「キミたちは一度死んだ。俺が殺した……そして魂が身体離れる前に生き返ったんだよ、この聖杯の力でね」
そう言ってヴァーリは右手に持った小さな黄金の杯を掲げた。
「…………なんの、ために?」
自分をそして仲間を殺された怒りと、自分で殺して自分で生き返らせるという意味が分からない行動にヴァーリになんの為にそんな事をしたのか? とイッセーは説明を要求した。
「フッ、キミたちは一度、曲がりなりにも俺を殺した。本来なら俺は死亡し、この戦いはキミたちの勝利で終わった筈だった。だが、俺は聖杯の力で蘇り結果は……知っての通りだ」
「なに、が、いいたい?」
「いや、さすがに死んでから生き返って逆転勝利ってのはちょっとズルいと思ってね」
そう言いヴァーリは肩を竦めた。
「だから今回、俺は引こうと思う。この戦いはドローだ」
「なら、なんでおれたちを、ころしたッ!」
「なに、殺られたら殺り返すのは常識だろう? なんたって俺にはキミたちを生き返らせる手段があったんだしね」
やられっぱなしはプライドが許さない。そう、ヴァーリは理不尽な事を言う。
「おまえ、マジでさいあく、だな」
「ハハ、酷い事を言う、せっかく聖杯で強化してやったのに……まあ、いいか、それではな兵藤一誠、興味が無いという言葉は取り消す。また、俺とキミは戦う事になるだろう、それまで力を上げておけ」
それだけ告げるとヴァーリはジークフリートの居場所を聞きもせず、イッセーたちが気絶している間に準備していた転移魔法でバトルフィールドから消え去った。
「……勝手な、奴」
イッセーは少しはマシに動くようになった口で疲れた呟きを漏らした。
「ッ! そうだ、みんなは!?」
イッセーはヴァーリばかりを見ていて確認出来なかった周囲を見渡す。
そして、イッセーの視界に倒れる仲間たちが映る、それを見て、イッセーは悔しさで歯を噛み締めた。
イッセーは鎧を解除すると一番近かった木場の手首を取り、脈があるか確認する。
「……良かった、生きてるッ!」
どうやらヴァーリが嘘を言ったわけではなかったようだ。意識はないが木場は確かに生きている。それにイッセーはホッとすると、直ぐに次の仲間たちの元へ。
「……部長」
「……朱乃さん」
「……アーシア」
イッセーは三人の胸を揉み、心音が確かにあるか確認すると三人をできるだけ凹凸が少ない平らな地面に移動させた。
そして、イッセーは最後に、作りは良いが歴史を感じさせる古めかしいストライプの服を纏った黒髪の少年の元へ近づき、彼の脈を取る、彼も問題なく生きている。
「ふぅ、良かったみんな無事か」
イッセーは安心したのか、額に浮かんだ冷や汗を手で拭うと……
「………….って、誰だよコレぇぇぇぇェッ!!!!」
ーーと、バトルフィールド全体に響き渡る大声でツッコミを入れるのだった。
「もう、誰だよ、こんな酷い事をする奴は」
そんな自分の行為を全力で棚上げしてリゼヴィムが呟いた。
彼の目の前には半径数kmに渡る巨大なクレーター、その中心部には湖程の規模の燃え盛る灼熱の溶岩、クレーターの周囲は見渡す限り更地となり、おおよそ人口物は何一つ確認出来ない状況となっていた。
「凄まじい威力の魔法でした。直撃すれば危なかったですね」
そう、リゼヴィムの隣に佇むユーグリットが呟いた。
「ユーグリットくん、量産邪龍はどれくらい死んだ?」
「……三割ほどかと」
「うわー、結構死んだねぇ、まあ、この威力の攻撃で7割も生き残ったと考えればマシな方かな?」
まっ、いっか♪ とリゼヴィムは呟く。
「しかし、この威力、恐らくは魔王級の力量の持ち主だと思われますが、いかがいたしますか?」
ユーグリットの質問にリゼヴィムは顎に手を当てて考える振りをする、答えなどとっくに出ているからだ。
「殺そっか、めんどくさそうな相手だし実行はヴァーリくんに頼もっかな♪ はぁ、せっかくの襲撃なのにさぁ人間達はみーんな転移で逃がされちゃうし、やんなっちゃうよ……あの、黒いのって『絶霧』?」
「はい、超々広範囲同時転移、こんな真似が出来るのはあの神滅具を置いて他にはないかと」
確か、英雄派に『絶霧』の所持者の魔法使いが居たはずです。そう、ユーグリットは付け足した。
「魔王級の魔法を使える神滅具所持者か、今代の神滅具所持者はヤバイのが多いねぇ、絶霧は無効化出来るけどちょっとこの威力の魔法は喰らいたくないなぁ、で、そのチート魔法使いくんの名前は?」
「確かゲオルクと呼ばれていました」
「なるほど、覚えとこ♪ さて、じゃあ、帰りますか人が居ない国を襲撃しても意味ないしぃ、まったく、とんだ無駄足だよ」
「ホント覚えてなよゲオルクくん、おじさんちょーと怒ったよ うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ゲオルクは盛大な悪寒を感じ背を震わせた。
「どうしたゲオルク?」
曹操は急に肩を震わしたゲオルクを心配して声を掛けた。
「いや、譲渡系の神器で大量の魔法力を渡されていたが、さすがにこの規模の転移は身体は堪えたようだ」
「そうか、すまない無理をさせたな」
「いや、大した事ではない、流石にこの大量虐殺は防がねばならないからな」
そう、かなり消耗した顔でゲオルクは言った。
ニューヨーク襲撃で使われた転移魔法を解析、そして、マーカーを付けることでこの転移魔法が使われた地域の生物を対象に瞬間超々広範囲転移を『絶霧』で施すという神業的な転移術、それを多数の魔法使いの補助があったとはいえほぼ個人でやってのけたのだ、消耗して当たり前だ。
「そうだな、ゲオルクはしばらく休んでくれ……それでバルパー、転移者の方の方はどうだ?」
「千葉県及び、その周辺の生物の完全転移を確認した……もう少しどうにかならなかったのかね? 人はともかく犬猫、昆虫、果てには一部の邪龍まで一緒に転移されてたぞ」
邪龍の処理が大変だった、そうバルパーと呼ばれた金髪の青年が苦情を述べた。
「この規模で人だけ選別して転移など不可能だったんだよ。で、作業は順調か?」
「まあまあだ、だが、数が数だからな完全に終了するのには2、3日の時間が掛かる、ああ、望むなら現時点で分かっている神器所持者数を教えようか? ついでに抜き出して出来た聖剣使いの因子結晶の数も」
バルパーはマッドサイエンスティストがしそうな邪悪な顔で曹操に笑い掛ける。
その笑みに曹操は引いた。
「……因子結晶については構わない、それはお前にやる契約だからな」
「クックック、そうか、分かったなら神器所持者についてだな、発現、非発現を問わず、現在分かっている神器所持者は256人、おおよそ5000人に一人の割合で神器を持っているな」
「……調べ終わって使えないと判断した者、因子を抜き出した者は?」
「言われた通り、追跡防止の為に世界中の都市にランダム転移させてある、しかし、こんな面倒な事をせずとも次元の狭間にでも捨てる方がよっぽど足がつかないし楽なはずだ」
何故しない? そう、バルパーは曹操に疑問を投げ掛けた。
「……俺たちは英雄を目指す者だ、無意味な殺しはしない」
「それが分からんのだよ、お前が目指す英雄とはなんだ? 誘拐洗脳して無謀な戦いを他勢力に挑ませるのは許容できて、なぜ次元の狭間に無能共を捨てる事が許容出来ない?」
「…………」
バルパーの問いに曹操は答える事が出来なかった。
「ふむ、それが嫌なら転移させる前に全員洗脳しお前を英雄と認識するようにすればよかろう? そうすれば簡単に英雄となれる、一般人を洗脳するなんて、そこらの雑草を引き抜くより容易いからな、それにこの人間共の命を救った事は事実なのだから多少の洗脳くらいはかまうまい?」
「…………そんなものは英雄ではない」
曹操は絞り出した様な声で言った。
そんな曹操の様子にバルパーは皮肉げな笑みを浮かべ肩を竦めた。
「クック、まあいい、私は別にお前の英雄像や英雄願望などにさほどの興味はないからな、興味があるのは最強の聖剣を創る事、そして “私が” 最高の聖剣使いとなる事だ」
「喜べ曹操、英雄派の戦力不足は直ぐに解消されるぞ、私と千の聖剣使いの力によってな」
「ようこそ白音、歓迎するよ」
そう言ったのはまだ年端もいかない少年だった。
おそらく年齢は10歳前後、彼は荘厳な玉座に腰を掛けながら隣に寝そべる巨大な獅子の頭を優しく撫でていた。
巨大な獅子は世界的に見ても最高位に近いレベルの魔獣ーーネメアの獅子だ。
「私は白音ではなく、小猫です」
「白音は君が両親から与えられた大切な名前だろう? 簡単に改名するのは良くないと思うよ? 僕も親に捨てられたがこの『レオナルド』という名は捨ててはいないし」
緊張しながら言った小猫の言葉をレオナルドは優しく嗜める。
「…………」
そんなレオナルドの嗜めに小猫は無言。
それでもレオナルドは余裕の態度を崩さず微笑むと、おもむろに王座から立ち上がり小猫に向かって歩き出した。
「………ッ!」
なんて、プレッシャーッ、小猫はレオナルドの歩みを見て顔を青ざめさせた。
なんの変哲も無い、ただ小さな少年が自分に歩いてくる、その光景が小猫には何百メートルもある巨大な魔獣が自分を踏み潰そうとしているように映った。
「ほう、仙術は封印していると聞いたが、勘がいいんだね」
そんな意味深な事を少年は言う、小猫にはそれが何に対して言われた言葉か分からなかった。
それ以前に考える余裕がなかった。
小猫は重力が何十倍にも増加したような重い重圧をただただ耐えるしかなかったのだ。
「まあ、良いだろう、君が望むなら君を小猫と呼ぼう、さて、改めてようこそ『魔獣派』へ、僕はレオナルド、この魔獣派の王をしている者だ。これからは君の王でもある覚えておいてくれ」
そう言ってレオナルドはプレッシャーで片膝をつく小猫の頭を優しく撫でるのだった。
さすがゲオルク! 勇真には出来ない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる! あこがれるゥ!
英雄派クリーン化計画! 反面教師にバルパーを雇ったよ!