勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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勇真「でも、一つだけ見落としてる事があるよ」


第34話

「おはようございますルミネア様、早速ですが勇真(アレ)は貴女に相応しくありません、直ぐに別れるか消す事を進言します」

 

「うぁ、第一声がそれとか人格構成間違えたわ」

 

勇真は鎧くん1号(仮)を見て頭を押さえた。

 

「黙れマスター! 私はルミネア様へ話し掛けている、邪魔をするなッ!」

 

で、そんな勇真に鎧くん1号(仮)は話し掛けんなというニュアンスの言葉を吐き、野良犬を追い払うようなジェスチャーをするとルミネアを口説き始めた……鎧の癖に。

 

その鎧くん1号(仮)の態度に勇真は静かに激怒、数秒の葛藤の後、たった今、二十分ほど掛けて作った鎧くん1号(仮)の契約文を手に掛け……

 

「…………人格消去だ」

 

そう呟いて勇真は虚空に浮かぶ魔術文字を引き裂いた。

 

「え?….ちょ、ま、や、やめろよッ! やめろおおおおおおお、お、ぉ…ぉ…………」

 

そして、暫しの断末魔の後、鎧くん1号(仮)は再び了承いたしましたとしか言わない人形に戻った。

 

そんな人形を見て勇真は爽やかな笑顔で汗を拭う。

 

「さて、作り直すか」

 

そんな勇真を見てルミネアはドン引きした。

 

 

 

 

 

 

芳ばしい香りが立ち上る。

 

コーヒー好きには堪らないある種のリラックス効果すらあるこの香り。

 

しかし、そんな素晴らしい香りが漂うカップからレオナルドは顔を顰めて口を離した。

 

「う〜ん、やっぱりブラックコーヒーは不味いな、これが美味しいと言う人の気持ちが分からないよ」

 

それとも、僕が子供だからダメなのかな? そう言ってレオナルドは小猫に笑い掛ける。

 

それに小猫は嫌そうな表情を作ってこう答えた。

 

「あなたは舌が子供だからです」

 

「はは、小猫は相変わらずの毒舌だなぁ、でも本当に苦いんだよーー飲んでみる?」

 

そう言ってカップを小猫に寄せるレオナルド。

 

小猫はそのカップを結構です、と言ってレオナルドに押し返した。

 

「……何が目的なんですか?」

 

「ん、目的ってなんの?」

 

「あなたの目的の話です。人類は滅亡し禍の団はココと英雄派を除いて全滅、にも関わらずあなたは動きを見せない」

 

「ああ、人の存亡も禍の団の壊滅も僕にとっては些細な事だからね、正直あまり興味がないな……いや、禍の団の殆どを潰した宮藤勇真には少し興味があるけど」

 

レオナルドの話に小猫は眉を寄せる。

 

「宮藤勇真が潰した? どういう事ですか?」

 

「ああ、小猫には他の派閥が潰されたとしか言ってなかったね、全ては今言った宮藤勇真個人によってなされた事なんだ」

 

レオナルドは小猫の質問にミルクと砂糖をコーヒーに足しながら軽く答えた。

 

しかし、その内容は軽いレベルの話ではない。

 

事実、その話を聞いた小猫は一瞬呆然とした。

 

「……冗談ですよね」

 

「いや、本当だよ、見てごらん」

 

そう、レオナルドが言うといつの間にか彼の肩に留まっていた小さなコウモリの目が光る。

 

そしてコウモリの目から出た光は虚空に立体映像を描き出した。

 

そこに移るのは勇真がリゼヴィム一派及び他の派閥を潰した際の戦闘映像、もちろん勇真が知らぬ間に撮られたものである。

 

それを見て小猫は愕然としたーーあまりにも、強過ぎると。

 

「なに、これ」

 

「どうだい、剣も魔法も凄いだろう? これが現在人類最強の男だよ」

 

「凄いと言うか、凄すぎます。これは本当に人間なんですか? この力はジークフリートさん以上です」

 

「ははは、それは当然さ何と言ってもジークフリートは彼の使い魔だ、宮藤勇真が自分の力を分け与え作り出した使い魔、それが英雄派のジークフリートに憑依したのが、君を鍛えていたジークフリートの正体さ」

 

レオナルドの想定外にも程がある話に小猫は痛そうに頭を押さえた。

 

「……あなたと話していると驚きばかりで疲れます。まさかとは思いますが、ジークフリートさんがゲオルクに殺されたというのは?」

 

「真っ赤な嘘だ。いや、残念だろうけどジークフリートはもう居ないよ。ジークフリートは勇真の命令を果たし終われば消される運命だった。だから彼は自分の命運を掛けて造物主である勇真に挑み、そして破れ散っていった。ゲオルクは勇真に罪を被せられたのさ、自分の存在を隠蔽する為、そして君達に英雄派を憎ませる為にね」

 

そう言ってレオナルドは勇真とジークフリートの戦闘映像を映す。そこに移るのはジークフリートの最期、そして勇真がゲオルクに化けた瞬間だった。

 

その映像を見て小猫の胸がチクリと痛む。

 

ジークフリートは決して好きな類の人間ではなかった。戦闘映像でも人質を取ろうとする下衆な部分も映されている。良い人間ではないのは確か。

 

だが、それでも彼は自分を鍛えてくれた人なのだ。

 

「……クズ」

 

小猫の口からそんな言葉が零れ落ちた。

 

それには小さくも確かな憎しみが篭っている。

 

そして、そんな小猫の姿にレオナルドは僅かに目を細めた。

 

「そうだね、でも下手に挑んじゃダメだよ。どうしても勇真を殺したければ僕に言ってね」

 

「……あなたはアレを殺せるんですか?」

 

小猫の目は懐疑的だ。

 

全てを把握している訳ではないが、小猫はレオナルドの圧倒的な実力を知っている。

 

しかし、映像で見る勇真の実力はそのレオナルドすら上回っている様に感じるのだ。

 

「おや、疑うの?」

 

心外だなぁ、とレオナルドは苦笑し、ミルクと砂糖をたっぷりと入れたコーヒーに口をつけた。

 

「あなたは彼を人類最強と言いました」

 

「そう、彼は人類最強だ。確かに正面からは僕でも分が悪い。でも、搦め手を使えば勝つ方法は何通りもある」

 

「映像から彼は搦め手も得意そうですが?」

 

「うん、得意だろうね、多分正面戦闘よりも」

 

「……ダメじゃないですか」

 

「いや、問題ないよ。だって彼よりも僕の方が搦め手は上手いからね」

 

静かに、だが確かな自信を持ってレオナルドはそう断言する。

 

もちろんそれは根拠のない自信ではない。

 

「僕らの居場所は彼にはバレていない。しかし、彼はこんな映像を僕に撮られている。この時点で優劣はハッキリしている、そうは思わない?」

 

「……確かに」

 

ここまで言われれば小猫にも分かった。

 

全くもってその通りであると。

 

情報とは相手を罠に嵌めるのに極めて重要な要素だ。そして現在、勇真はレオナルド及び魔獣派の情報を殆ど持っていない。

 

逆にレオナルドは勇真の最大魔法力量、体術レベル、戦い方の癖、使用魔法、そして彼のアジトにルミネア(弱点)の存在、それら多くの有用な情報を持っていた。

 

これを勇真が知れば盛大に青ざめる事であろう。

 

 

 

「まあ、とはいえ危険な相手だ。出来れば僕も彼を敵に回すのは避けたい」

 

「そう、ですか」

 

「残念かい?」

 

「いえ、別に」

 

「ふふ、小猫は嘘が下手だなぁ。でも安心して、彼はきっちり僕が殺すから」

 

「……今、敵に回したくないって言いませんでした?」

 

「言ったよ、でも残念な事に彼にとっては僕ら魔獣派も敵なんだ。彼は必ず僕らを狙う、だから情報アドバンテージがある内に消してしまおうと思うんだ……それに彼が英雄派を見つけてそこを壊滅させたら複数の神滅具が彼の元に行く事になる、そんな事になったらもうどうしようもないからね、消すなら今しかないんだ」

 

「なるほど」

 

その説明に小猫は納得した。

 

確かに、ただでさえ強敵なのにこれ以上強くなったら目も当てられない。

 

「ふふ、それに彼の役割は終わったからね、危険な駒は消すに限る」

 

「……役割? 駒?」

 

 

 

 

 

「そう、彼は僕の計画の駒の一人だ。そして彼には大事な大事な役割があったんだよ。リゼヴィムを消すという役割がね」

 

「……ッ!?」

 

息を呑む小猫。

 

だが、それを気にせずレオナルドは話を続けた。

 

「なぜ僕がこんなに彼の情報を持っていたと思う? それはね、最初から彼に目を着けていたからさ」

 

「さ、最初からとは?」

 

「彼が一時的に英雄派の仲間になった時からだよ。僕は以前からリゼヴィムを消してくれる人材を探していた。だから世界中に仲間を放ち情報を集めていたんだ。それに引っかかるった内の一人が彼だったという訳だ」

 

上手くいってよかった。そう言って楽しげに笑うレオナルド。

 

そんな彼に小猫は首筋に氷を押し当てられた様な寒気を覚えた。

 

「……ひっ」

 

小猫の口から小さな悲鳴が漏れる。

 

「怖がる事ないじゃないか、普通の事だよ天敵を排除したいと思うのは」

 

そんな小猫の様子にレオナルドが悲しげに、拗ねたように苦言を漏らす。

 

普通、こんな子供にそんな態度をさせれば多少は心が痛むもの。

 

だが、小猫はレオナルドのそんな態度を見ても全く罪悪感は浮かばない。

 

むしろ彼女の胸の内は恐怖心でいっぱいだった。

 

そんな小猫の内心にレオナルドは苦笑すると軽く肩を竦める。

 

「仕方ないじゃないか、リゼヴィムと僕は相性最悪、絶対に勝てない相手だったからね、誰かの助けが必要だったんだよ」

 

 

「……じ、じゃあ、彼がリゼヴィムを殺したのは」

 

恐る恐るといった様子で小猫が問う。

 

あなたが全て仕組んだのかと。

 

それにちょっとだけ得意げな笑顔でレオナルドは答えた。

 

「はは、僕がした事なんて微々たるものだよ。彼は都合がいい事に元々リゼヴィムを消すつもりだったからね、だからリゼヴィムの居場所を探知しやすいように少しだけリゼヴィムのアジトに手を加えた。たったそれだけさ」

 

「…………結局全て掌の上、ということですか」

 

「そんな事はないよ、僕の想定外が幾つもの起こっている。それにね、僕がした事なんて本当に普通の事だよ。魔獣創造を持っていれば誰でも出来る実に簡単なお仕事さ」

 

子供でも出来るね、そう付け加え楽しげに笑うレオナルド。

 

ここまで会話してついに小猫は限界に達してしまった。

 

「……ッ、失礼します」

 

そう言って彼女は席を立つと、広い広い食堂から出て行った。

 

 

 

「ああ、行っちゃったか」

 

そう呟き、レオナルドは腕時計を確認する。

 

「約10分、新記録だ。小猫も日々成長してるね。いい事いい事、やっぱり君の教え方が上手いからかな?」

 

「……あんまり白音を虐めるないでくれる」

 

そう言って、レオナルドと小猫以外は誰も居ないと思われた食堂に黒髪金眼の美女ーー黒歌が姿を現わす。

 

その目に若干剣呑さを宿らせて。

 

「虐めたつもりなんてないけど?」

 

「レオと話すだけで白音には虐めにゃん」

 

「えー酷い」

 

「そう思うならまずそのプレッシャーを抑えるにゃん」

 

「これも訓練の内だよ、強大な敵のプレッシャーに動けなくなったら大変だから」

 

そう言ってレオナルドは自然に纏っていた巨大な魔獣の如きプレッシャーを抑え込んだ。

 

「しかし、黒歌はなんでもっと小猫と話さないの? せっかく再開出来て一緒に暮らしてるのに仙術の訓練の時くらいしか顔を合わせてないじゃないか」

 

「…………」

 

「それに会話も素直じゃない。今みたいストレートに話さずどこか茶化すように話してるよね、それって嫌われると思うんだ」

 

「……余計なお世話にゃん」

 

「はは、ごめんごめん、それで準備は整った?」

 

「……宮藤勇真のアジトの孤島近海に仙術で気配を消した大量の魔獣を設置したにゃん、元々気配が薄いタイプの魔獣だから気付かれる事もないと思うわ」

 

「さすがは黒歌、仕事が早いね、じゃあ、今日の深夜に夜襲を掛けようか」

 

「……今日? いきなりなの?」

 

「うん、準備万端なら直ぐに攻めよう。彼は理不尽なくらいの才能の持ち主だからね、下手に長引かせるのは危険だ」

 

「理不尽な才能ってのはレオの方な気がするにゃん」

 

「はは、僕は普通だよ。じゃ、僕は仮眠を取るから夜の12時になったら起こしてね」

 

そう言ってレオナルドは自室へと去っていく。それを見送り黒歌は溜息を吐いた。

 

「……ご愁傷様にゃん」

 

それが誰に当てた言葉かは彼女だけしか知らない。

 

だが、彼女の視線は今も映されている映像、魔導人形の人格作成に四苦八苦する勇真の方を向けられていた。

 

 

 

 

 

 




勇真「俺もまた、レオナルドにおどらされただけの犠牲者の一人にすぎないってことさ」
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