勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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島ひとつ使い切った完璧な魔導要塞だ。

結界240層、魔法力炉30基、猟犬代わりの魔導人形三体(魔王級)無数の致死トラップ、島の中心部は異界化させている空間もある。

自身のアジトに対する解説 宮藤勇真



第35話

 

戦いが始まった時点で勝敗が決している。

 

余程戦力に差がない限りは綿密に計画を練り、準備に時間を掛けた方が勝つ。

 

勇真もレオナルドもそう思っていた。

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

今回より綿密に計画を練ったのはレオナルドの方である。

 

 

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

 

魔獣派のアジトで力を倍化する音が鳴り響く。

 

これは赤龍帝特有のもの。

 

しかし、今回に限って、否、今の世界に限ってはこの倍化音は赤龍帝だけが放つものではない。

 

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

Transfer‼︎(トランスファー)

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

Transfer‼︎(トランスファー)

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

Transfer‼︎(トランスファー)

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

Transfer‼︎(トランスファー)

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

Transfer‼︎(トランスファー)

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

Transfer‼︎(トランスファー)

 

「そこまででいい、それ以上の譲渡は必要ない」

 

「私の方も大丈夫にゃん」

 

「了解、もういいよロート、ルブルム、パルガン、ヴェルメリオ」

 

そうレオナルドが声を掛けると、黒歌とゲオルクの周囲に居た四体の赤い毛並みの龍と犬が混じった様な魔獣が嬉しげに尻尾を振ってレオナルドに駆け寄って来た。

 

その龍犬を一体一体優しげにレオナルドは撫でる。

 

そして、龍犬を撫で終わるとレオナルドは視線を彼等から力を譲渡された黒歌とゲオルクに向けた。

 

「よしよし、さて、いけそうかな? 黒歌、ゲオルク」

 

問い掛けるレオナルドに二人は頷く。

 

どうやら力の問題は大丈夫な様だ。

 

「そうか、じゃあ早速やってもらおうかな」

 

「分かったにゃん」

 

「了解した」

 

同時にゲオルクと黒歌から黒い霧と膨大な魔法力、妖力が迸る、更に二人の周囲には多数の魔法陣が現れた。

 

「行くわよ」

 

「分かっている」

 

黒歌とゲオルクは息を合わせると、自身が作り出した魔法陣をゆっくりと重なり合わせる。

 

そして、完全に重なり合った多重合一魔法陣に二人から発生した黒い霧が吸い込まれていく。

 

出来上がったのは一本の黒い剣ーー『絶霧』の禁手化『霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)』による結界装置だ。

 

 

「ふぅ、完成だ。奴の居る孤島近海の魔獣を起点に転移阻害、魔法妨害の結界を張った、魔獣は起点ではあるが倒されて問題はない、要はココにあるその剣だからな」

 

額の汗を拭いながらゲオルクがそう言った。

 

倍化譲渡は初体験のゲオルク。

 

自身の全魔法力を遥かに上回る力を初めて使用した為、若干いつもより消耗が激しい様だ。

 

「勇真が脱出に要する時間は? あと魔法妨害はどれくらい効くと思う?」

 

ゲオルクと黒歌の結界作成を静かに見守っていたレオナルドが口を開く。

 

そのレオナルドはゲオルクは既に計算していた予想を口にした。

 

「……あくまで予想だが、全力で脱出に取り組んでも半日は掛かるな、魔法妨害については全ての魔法に強い妨害効果を発揮する。勇真なら使おうとして使えない事はないが通常時に使うより遥かに威力が落ち、また魔法力の消費量も膨大となるはずだ」

 

「分かった。協力感謝するよ。それで黒歌の方は?」

 

「結界内に人間にだけ効く仙術によって作った毒の霧を散布したわ、倍化で効力を高めてるから常人なら1秒でお陀仏にゃん♪……でも、あのクラスの魔法使いなら回復魔法で保たせるでしょうね、多少時間を掛ければ根刮ぎ解呪される恐れもあるにゃん」

 

「それで充分だよ。エキドナ」

 

「はい!」

 

レオナルドの声に元気よく、彼の “影” から金髪金眼の可愛らしい少女が飛び出してきた。

 

「エキドナは今から結界内に入って勇真と戦闘開始、勇真との戦闘時は創る魔獣は実力重視、数は100体も居ればいいよ別に無理に倒す必要はないから。ただ絶対に勇真を結界内から脱出させない事、黒歌の呪いを解呪させない事、良いね?」

 

「分かりました! あれ? でもたった100で良いの? マスターなら100万くらいで攻めろって言うかと思ったんだけど?」

 

「超威力の範囲攻撃が出来る相手に弱いのを多数の用意しても意味ないからね、創る魔獣は最低でも最上級悪魔レベルの力は欲しい。もちろん必要と判断したら創っても構わない、そこは実際戦ってみて決めてね」

 

「そっか、了解♪ じゃあ、いってきまーす!」

 

「うん、頑張って」

 

「はーい、頑張ります!」

 

そう言って、エキドナは笑うと再びレオナルドの影に潜ってこの場から消えた。

 

「さて、じゃあ、黒歌は引き続きみんなに力を譲渡してもらって仙術で毒霧の生成を頼むね、ゲオルクはその毒を結界内に転移よろしく」

 

「分かったにゃん」

 

「了解。それにしても倍化した魔法阻害に毒か……エゲツないな」

 

「そう? この程度で勝てるなら楽なくらいだと思うけど」

 

「まだ、何かする気だったのか?」

 

ゲオルクが呆れたように言う。それにレオナルドはさも心外だと言う不満顔をした。

 

「何かする気かって? 当然するよ。君達だって勇真の情報はある程度持ってるだろ? なら分かるはずだ、この程度なら彼は普通に破ってくるよ」

 

「魔法を阻害された中、倍化譲渡で大幅に強度を増した絶霧の結界をか?」

 

「もちろん。きっとエキドナも撃破される」

 

「……自分の半身を撃破されると知りながら送り出したのか?」

 

「エキドナは僕が死なない限り消滅しないからね。例え倒されても復活出来る。だからもっとも勇真に余裕があり、味方の死亡率が高い戦闘開始に彼女を送ったんだよ。もちろん、それはエキドナも知っての事だ、なんたって僕の半身だからね」

 

だから、毒霧転移の次はこの準備をよろしく。

 

そう言ってレオナルドは虚空にある映像を映すとゲオルクに次の作戦を説明し始めた。

 

それを聞いてゲオルクの顔が青ざめる。

 

「しょ、正気かっ!?」

 

「当然、正気だよ」

 

「下手をしなくても死ぬぞッ!?」

 

「大丈夫、長い間、身体を調整してきたからね、短時間で多少なら問題ない」

 

「だ、だがいくら何でとこれは不味いぞッ! それに今から取り掛かっては間に合わないッ!」

 

「時間なら問題ない。こちらで殆ど終わらせているから、ゲオルクには最後の一押しと最高の結界装置を作って欲しいんだ。力なら幾らでも譲渡するから」

 

レオナルドがそう言うと四体の龍犬がゲオルクに近づきおすわりし、譲渡しますか? といった感じに首を傾げた。

 

「…………はぁ、曹操に謝らねばならなくなるな、いや、失敗しても良いか。もう人類はほぼ滅亡してるのだ構うまい」

 

 

そして、ゲオルクは深い溜息を吐くと、龍犬から大量の力を譲渡され、過去最高の結界装置を創り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「釣れたね」

 

「釣れましたね」

 

凶悪な結界に包まれた島の中心で勇真とルミネアが落ち着いて呟いた。

 

そんな状況下で何故二人が落ち着いているかというと、この襲撃が予定調和だったからだ。

 

勇真は自分が監視されている事に気が付いていた。だが、感知魔法を使ってもその監視者が何者かは分からず、また、どうやって監視しているのかも不明だった。

 

しかし、監視者が誰なのかは、ある程度予想出来る。

 

三大勢力もその他の神話体系も死ぬほど忙しい現状、普通に考えてこうも長時間、高度な技術で自分を監視するのはある程度自分の事を知っている禍の団しか居ない。

 

そう予測を立てた勇真はあえて監視に気付いていないように見せかけ自分の情報を監視の目がある場所で披露した。

 

自分がどの程度の戦力を持っているのかを。

 

自分はどの時間帯に隙が出来るかを。

 

そして、自分の弱点はなんなのかを。

 

 

全ては自分を襲撃してもらう為、敵の居場所を見つける為に。

 

そして今、その思惑通りに大きな魚が餌に食いついた、あとはリールを上手に巻くだけなのである。

 

 

「絶霧の結界、つまり、ゲオルクーー英雄派か? 丁度いい、絶霧は是非とも欲しかったんだよね」

 

「勇真さん、悪い顔してますよ」

 

「おっと、ごめんごめん、外面意識っと」

 

そう言って勇真は悪党全開の黒い笑みから優しげな美少年スマイルに笑顔の種類を切り替えた。

 

「さて、ルミネアこの家が毒と魔法阻害に侵食される予想時間は出た?」

 

「はい、残り1分20秒です」

 

「よし、普通にしたらこの結界解呪は間に合わないね、なんか強い力を持った奴がこっちに向かってるし……と、言うことで」

 

 

勇真の左腕に赤い籠手が現れる。

 

それに元々着けていた黄金の腕輪ーー『無窮の担い手』が溶けるよう混じり合う。

 

そして、勇真の口から力ある言葉が紡がれた。

 

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)』」

 

その言葉と共に勇真から閃光が走る。

 

次の瞬間、勇真は赤と金を基調とした美しい騎士甲冑に包まれていた。

 

『Boost Boost Boost Boost Boost‼︎……』

 

勇真の全身から超越的な、完全に常軌を逸している魔法力が迸る。

 

通常の勇真の30倍以上、主神級すら勝ち目が薄い、人外から見ても尋常ならざる魔法力。

 

今の勇真は小細工抜きで世界で五指に入る実力を持っていた。

 

「5回が限界かぁ、もうちょい頑張ろうよ……まあ、充分か」

 

ちょっと残念そうに勇真は呟くが、気を取り直し彼は瞬時に最高位の結界粉砕魔法を形成、そこに……

 

Transfer‼︎(トランスファー)

 

倍化した魔法力を譲渡する。

 

「ルミネア、貴重品や大事な物は圧縮空間に仕舞ってあるよね?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「よろしい、じゃあ、ちょっとズルいけど無理矢理出させてもらおうかな?」

 

そう言って勇真は結界粉砕魔法を発動。

 

光の速さで駆け巡った粉砕魔法が絶霧の結界を空気を入れすぎた風船の様に破壊。

 

ついでに巻き起こった物理破壊が島と近海……そしてエキドナ、ありとあらゆるものを原子単位の塵へと還した。

 

 

 

 

戦いは綿密に計画を練り、準備に時間を掛けた方が勝つ。

 

 

 

ただし……余程戦力に差がない限りは。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獣派の主城で突き立っていた黒い剣ーー結界の要が音を立てて砕け散った。

 

「ッ!? ……結界を崩壊を確認、本当にアレを破るとはしかもこんな短時間で」

 

当たって欲しくない予想が当たってしまった。

 

そんな心底嫌そうな顔でゲオルクは呻いた。

 

「あ〜 予想より遥かに早いね、これは監視の目に気づいてたね。で、あえて情報を与えて襲撃を待ってたかな? 」

 

レオナルドが困ったように言う。

 

……実際は困ったなんて生易しいレベルではないのだが。

 

「レ、レオッ! どうするの!? 多分、逆探知でこっちの居場所に気付かれたにゃん」

 

「そっか、それで彼はどれくらいで来ると思う?」

 

「………三分くらい」

 

 

 

 

 

「フフフ、それは随分と自分に甘い予想ですね」

 

次の瞬間、レオナルド達は強固な結界に包まれていた。

 

「ーー勇真ッ!? バカな早過ぎるッ!?」

 

「いや、お待たせするのも悪いですから」

 

ゲオルクの叫びにのほほんとした顔で勇真は答える。

 

その言葉に倍化された行動阻害呪詛を織り交ぜて。

 

「ぐおっ!?」

 

「ッ!?」

 

たった一言言葉を交わしただけで地に膝を着いたゲオルクと会話を聞いていた事により立ってるのがやっとの状態になった黒歌。

 

それを満足気に見てから、勇真は唯一普通に立っているレオナルドに視線を向けた。

「それにしてもゲオルクは久しぶりですが、他の方は初めましてだね。知ってるかも知れないけど俺は宮藤勇真って言うんだよろしくね」

 

倍化呪詛をたっぷりと込めて自己紹介。

 

これにゲオルクは意識を失いかけ、黒歌は地に座り込む。

 

「ええ、よろしく勇真、僕はレオナルドと言います」

 

しかし、そんな凶悪な呪詛を受けてもレオナルドは自然体だ。

 

それを見て勇真は目を細める。

 

コイツは強い……と言うより得体が知れない。それが勇真のレオナルドに対する感想だった。

 

故に……

 

 

「そうか君がレオナルドくんか小さいのに魔獣派のリーダーなんだってね。本当に凄い。これからよろしくね」

 

『Boost Boost Boost Boost Boost‼︎』

 

勇真の右手に倍化した魔法力が収束する。

 

「まあ、短い間の事だけど」

 

危険な敵は即滅殺。

 

勇真の右手から神すら滅ぼす神滅の雷撃が放たれる。

 

 

 

この一撃で、魔獣派の巨城は防御結界諸共跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




勇真「立つ鳥跡を濁さず」

無人島「……………」
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