勇者さんのD×D4
「それで酷いのよ、勇真君たら『僕は高橋です』なんて嘘ついて私を騙したのよ! イッセーくんもそう思うでしょう!」
「うん、そうだね」
イッセーはもう10回は聞いたイリナの愚痴に棒読みで答えた。おかげで俺もイリナに殺されかけたしねと内心で付け足して。
ファミレス前で勇真にイリナ達を押し付けられて一週間が経過していた。
まあ、押し付けられたと言っても元々、イッセーは彼女達にエクスカリバーの回収、破壊の協力を打診する為に探していたので結果オーライ、それに対してイッセーが勇真に思うところはない。
だが、中学以来久しぶりの再会したにも関わらず手を挙げるだけで声も掛けずに消えるほな如何なものか?
その事で勇真に怒りを覚えたイッセーだが、今は気にしていられない。今はエクスカリバー搜索に集中すべきなのだ。
「で、今日はどうする?」
本日四品目のセットメニューを平らげながらゼノヴィアが言った。
相変わらずの食べっぷりである。
金の事など全く考えていない、悪魔の金だから別にいい、といったある種開き直った考えがゼノヴィアとイリナにはあるのかもしれない。
「相変わらず、凄い食べっぷりだなぁ」
財布の中を覗きながら震える声で匙さじが言った。
そう、ここのファミレスでゼノヴィア、イリナは金を払わない。何故なら無一文だから、故に仕方なくイリナとゼノヴィアの為にイッセー、匙は毎日ファミレスを奢っているのだ(小猫は別、女の子の後輩に出させるなんて男じゃない)
ちなみに菓子パン等では力が出ないらしい。迷惑な話である。
「……兵藤、金大丈夫か?」
匙がボソリとイッセーに耳打ちする。匙の顔が心なしか青いのも無理からぬ事だ。
イリナとゼノヴィアは毎日一食で過ごしている、そしてファミレスのメニューが気に入ったのか、イッセー、匙に奢られる際、滅茶苦茶食べる、もう、フードファイターか? と言ったくらい食べる。既に、この一週間でイッセーと匙が奢った食事代は5万を超える、既にバイトもしてない、特に家が裕福でもない学生には少々厳しい額になってる。
「大丈夫だ。毎年のお年玉を将来ハーレムを作る為に貯めていた俺に隙はない!」
キリッ、という効果音がつきそうな顔でイッセーは言った。それを聞き、匙は安心と呆れを混ぜた溜息を吐き出す。
「はぁ……そうか、良かった。悪いがもう、俺は今日で限界だ、後はお前のしょうもない貯金が頼りだ」
「しょうもなくねぇよ! 将来を考え、コツコツと、そうコツコツと貯めてきハーレム貯金なんだぞ!」
「イッセー先輩、五月蝿いです」
立ち上がり、どんな気持ちでこの貯金に手をつけたか! と力説しようとしたイッセーを小猫が冷静に鳩尾に拳を叩き込む事で黙らせた。
小猫は腹を押さえて悶絶するイッセーを尻目に更に口を開いた。
「それにしても、コカビエルに動きがないのが気になります」
「確かに妙だ、コカビエルはともかくフリード・セルゼンを見かけないのはおかしい、伝え聞く奴の性格なら毎日神父狩りをしていてもおかしくないはずだ、なのにこうも出くわさないのはどういう事だ?」
ゼノヴィアは何かを考えるように顔を俯かせる。
「たまたま、見つけられないとかか? 地方都市っても駒王市は結構広いし」
「それはないと思う」
匙の言葉をイリナが否定した。
「この街に入ってるエクソシストは私達だけじゃないの、他にも数十人、密かに街を探索してるわ」
「そ、そんなにエクソシスト来てるのか!?」
うわぁぁ、怖えぇ! と匙が呻く。悪魔からしたら自分の街を夜な夜な数十人の殺人鬼が徘徊してるに等しい状況だ、そりゃ怖い。
「安心して、私とゼノヴィア以外はエクソシストと言っても補助専門、戦闘力は低いわ、で、もしフリードが神父狩りを続けていたら仲間にもっと犠牲が出ているはずよ」
「そうか……って、数十人も居たら俺たちが協力してるのが教会にバレてるんじゃ!?」
「ああ、だから本来、君達と私達が居るのはかなり不味いんだ、神父の格好をさせて居るのも上に余計な報告をされない為のカモフラージュという為でもある、まあ、これでも私達は聖剣使いだ。悪魔と協力しているのがバレても、任務が終わり次第関係を断てば上もとやかく言うまい」
「……どう関係を絶つ気ですかねぇ」
やけに鋭い視線のゼノヴィアに寒気を感じつつ、悶絶から復活したイッセーは本題へと話を戻した。
「で、今日はどうするこの辺は大体探し終わったよな? 少し遠出するか?」
「でも、祐斗先輩がフリードと遭遇したのはこの辺です」
「確かに、神父狩りをしてないにしてもアジトはこの辺にあって魔法かなんかで隠されてるかもしれないよな」
「そうねぇ……ん?」
どうすかなぁ、と悩んでいたその時、イリナの携帯に電話がかかって来た。
「 あ、ごめん、丁度言ってた仲間のエクソシストから連絡が来たわ、ちょっと外すわね」
続けててね、そう言って、イリナは席を立つ。
「おう……でも、どうすっかなぁ、そろそろ木場がかなりヤバイ、学校は来てないし、部室に顔を出しもしない。今もきっと一人でエクスカリバーを探し回ってるぞ」
「しかたないだろ、あんなキツい過去があったら」
「……祐斗先輩が心配です。おそらくここ数日まともに寝ていないです」
「だよなぁ〜昨日会ったらクマとか出来てたし、でもあの様子だと無理するなとか言っても絶対に聞かないぞ」
ああでもない、こうでもないと3人が話し合っていると、何かしらの連絡を受けたのか、携帯を凝視し、しばらく静観していたゼノヴィアが聖剣捜索とは関係ない事で口を開いた。
「……アーシア・アルジェントの時も思ったが君達は仲間思いなのだな」
「いきなり、なんだよ」
一週間前、部室でゼノヴィアがアーシアを貶したことを思い出したのか、イッセーの口調が若干荒くなる。
「正直、全ての悪魔はもっと自分本位で仲間の事など考えない欲望に忠実な輩だと思っていた、いや、君は性欲に忠実だがね」
「一言余計だ!……エロに忠実なのは否定しないし出来ないけど」
「ふっ、だが、君達はそうではない、転生悪魔だからかも知れないが、私としては他の悪魔よりはずっと好ましかったよ」
そう言ってゼノヴィアもイリナ同様席を立った。
「何処に行くんだ?」
「帰還命令が出た、本国に帰る」
「「はぁ!?」」
イッセーと匙が驚愕の声を上げる、小猫も口を半開きにして唖然としている。
「どういう事だ? 説明してくれッ!」
「コカビエル達のアジトが判明した、ここからそう遠くない場所に魔術的な方法で隠されていたらしい…….そして、そこでコカビエルは何者かに殺されていた。アジトにはフリードもバルパーも居らず、そしてエクスカリバーも残されていなかったとの事だ」
「……どうなってんだよ」
「知らん、ただ、コカビエルという目印を失いエクスカリバーの所在が完全に分からなくなった以上、任務は失敗だ。それ以上の事は今は分からない」
「そんな、じゃあ、木場はどうするんだ!?」
「木場祐斗には兵藤一誠、君の口から伝えてくれ、コカビエル達が持つエクスカリバーが無くなった以上、彼の剣の矛先が私とイリナに向かいかねない」
短い間とはいえ共に協力した仲だ、斬り捨てるのはいささか心苦しい、そう言ってゼノヴィアは踵を返し出口へと足を進めた。
「ではな兵藤一誠、悪魔と協力、なかなか出来ない体験だったよ」
最後にそれだけ言うと彼女は完全にファミレスを出て行ったのだ。
実に平和である。
コカビエルを暗殺してから二週間が経過していた。勇真は家でのんびりと、家事を手伝う以外はゲームをしたり漫画を読んだり、趣味の魔法の研究をしながらいつも通り自堕落な生活を送っていた。
コカビエルを暗殺した当初、ルミネアに経緯を説明し、もう自由に外を歩き回っても大丈夫だと伝えたところ、酷く怯えた目で見られた。
しかし、その視線も5日も経てば薄れ、一週間後には、怯えてしまい申し訳ありませんと、律儀に勇真に謝ってきた。
そもそも、ルミネアに取ってコカビエルとは恐怖の象徴であった。
かつて教会のエクソシストだったルミネアは堕天使討伐の任務でたまたま居合わせたコカビエルに敗北、そして半殺しにされ恐怖のあまり命乞いをした事が堕天使側に寝返ってしまう結果となったそうだ。
そして、その時の事が原因でコカビエルだけではなく自分より強い力を持つ者を必要以上に恐れる様になってしまったらしい。
だから、コカビエルを殺した勇真を恐れてしまった様だ。
無理もない話である。詳しくルミネアは説明しなかったが、フリードとバルパー、そしてコカビエルの会話を魔法で録音、盗み聴聞いていた勇真は彼女の事情を説明された以上に知っていた。
彼女は命乞いの際に “なんでもしたし、なんでもさせられた” 強者に蹂躙される恐怖を体の芯まで味合わされたのだ、心が壊れてないだけマシである。
よって当然、勇真はルミネアの謝罪を受け入れたし、謝る必要もないと言い切った。
で、前記の通り今は平和なのだが、一つだけ問題が発生していた。
ーーそれも重要な問題が。
「……寿命、か」
そう、ルミネアの寿命である。初日にルミネアを治療した時点には分かっていた事だが彼女の寿命は長くない。
捨て子で身寄りのなかった彼女はエクソシスト養成機関で戦闘力が伸びる様に非人道的な人体改造を施されている。
それにより、潜在能力の解放、怪我の治癒力上昇、病気や毒等に対する強い耐性などを得て劇的に戦闘力がアップしているのだ。
しかし、当然の事、殆どの上手い話には裏がある。戦闘力上昇の代償に髪が白髪となり、寿命の約半分が削られ、怪我をすれば常人の数倍の速さで治る代わりにまた寿命が大幅に減る。
そしてコカビエルの元で酷い待遇を受け、更に最近はバルパーの無理な実験により更に大幅に寿命が減少、おそらくルミネアが生きていられるのはあと数年、それは勇真の魔法でも覆せない事だった。
勇真の回復、再生魔法の実力は高い、単純な外傷に対してなら殆ど万能と言っても良し、時間を掛ければ手足の欠損すら直すことが可能だ。
しかし、だからと言って既に無い寿命を延ばす術を彼は持っていなかった。
今のルミネアを救うにはそれこそ、記憶と魂を取り出し保管して身体丸ごと取り替えるか、あるいは伝説上に存在する寿命を延ばす効果があるアイテムを使用するか、はたまた悪魔の駒イービル・ピースなどで人間より高位で寿命が長い種族に転生してしまうくらいしか方法がなかった。
はっきり言って前二つは絶望的である。
一つ目は生命に関する権能を持った神の力が必要なレベル、勇真の寿命があと数百年あったとして、死ぬ迄魔法研究に没頭してようやく届くかな? といった奇跡の業である、当然間に合わないし却下。
二つ目は世界各地に似た様なアイテムの話が残っているが実在するものは驚く程少なく、本物を探していては数十年は掛かるだろう。
更に確実に存在しているモノは闘神クラスの実力者が守っている、流石に勇真も闘神レベルが相手では小細工を幾ら使っても勝ち目がない。いや、手段を選ばなければ勝てずともモノをゲットする方法がないではないがゲットした後に神話体系まるまる一つを敵に回しかねないので却下。
ならば残るは三つ目だけだ、これも難易度が高い、だが、これは前二つよりはかなりマシだ、駒王市には二人の上級悪魔が存在している、言うまでもなくリアス・グレモリーとソーナ・シトリーだ。彼女達と交渉し、ルミネアを眷属に加えてもらう、これが最も簡単に寿命の問題を解決する方法だ。
とは言え、眷属悪魔は狭き門だ。なりたい者は人外を含めて山のように居る、倍率は相当高い。
しかも例え眷属にしてくれたとしても問題はある。これをすると当然ルミネアは眷属悪魔になってしまう、種族が変わるのは抵抗があるだろうし、主の命令を聞かなければならなくなる、また、リアスとソーナは人間から見てかなり当たりの主であるが、万が一、眷属トレードなどされればルミネアがコカビエルの様な主のモノになりかねない。そして逃げ出せば指名手配され最終的に殺される。
もう一つ、いや、二つ悪魔の駒なら選択肢がないではない。適当な上級悪魔、例えばソーナから悪魔の駒を強奪し、王の情報を魔法で書き換え、擬似的に勇真を王に据えて勇真が悪魔の駒を使う、不可能ではないし、主が勇真なので勇真がトチ狂わなければ問題ない。
もう一つは勇真が誰か、例えばリアスの眷属となり全力で出世を目指し、ルミネアの寿命が尽きる前に上級悪魔となり悪魔の駒を政府から貰いルミネアに使う。これがおそらく一番安全ではあるが一万年という長命種族における出世のスピードは人間の社会のそれとは比べものにならない程遅い。
下級悪魔からたった数年で上級悪魔になるとか、勇真がどんなに優秀でも無茶である、飛び級に飛び級を重ねた三歳児が大学を卒業、そのまま起業し成功するくらい無茶で現実味がないものである。
まあ、運悪く悪魔社全体に被害が及ぶような大事件が複数起り、その解決で目覚ましい活躍をしたとかでもすれば分からないが。
ならばどうする?
「やっぱり、悪魔の駒を奪うか? 上手く行けばバレないし、最悪指名手配されても協力すれば逃げられなくはない……いや、それどころかルミネアを悪魔にしたら一緒にセラビニアに逃げれば問題ない? いやいや、あそこ文化水準低過ぎだし、今頃、脅威ミルたんが去ってまた種族間戦争でもしてるだろうし、行くのは止めよう」
勇真はローリスク、ハイリターンな方法がないものかとあれこれ候補を考えて行くが結局、まともそうなのはルミネア自身が良い上級悪魔の眷属になる事だった。
まあ、なんにしても、勇真だけでは決められない。結局選択するのはルミネアで、勇真に出来ることは手助けだけなのだから。
「ああ、この頃、悩んでばっかだ。あれ、俺ってもっとグウタラキャラだったよね? 何も考えずにボーとしていたいのに、どうしてこうなった?」
どう考えても後先考えずにルミネアを拾ったからである、とは言え勇真は後悔していない。彼はのんびり一人でゲームでもしながらゴロゴロしているのが何よりも好きだが、誰かと居るのも悪くない。
ルミネアは家族が居なくなった勇真にとってもう新しい家族なのだから。
祐斗君は犠牲となったのだ、古くから続くオリジナル展開、その犠牲になぁ。