勇者さんのD×D   作:ビニール紐

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レオナルドくんは超有能。


第43話

「なんの真似だレオナルド」

 

曹操は鋭い瞳でレオナルドを睨んだ。

 

それは、ほんの数分前の事、いざ天界に行かんとした曹操達の前に突如レオナルドが現れ、せっかく作った転移魔法を完膚なきまでに打ち砕いてしまったのだ。

 

「そんなに睨まないで欲しいな、僕は別に敵対しに来た訳じゃないから」

 

「では、なんの為に我々の邪魔をした?」

 

苛立ったように言うのはバルパーだ。

 

自身が聖剣と共に活躍する、彼に取ってそれを邪魔する者は万死に値する。

 

故に、理由次第では同じ『禍の団』のメンバーだろうと容赦しない。

 

そう、バルパーはレオナルドの答えが気に入らない場合、彼を殺すつもりである。

 

それを知ってか知らずか、レオナルドは笑顔でバルパーの問いに答えた。

 

 

「それは、あなた達を天界に行かせない為だよ」

 

 

次の瞬間、レオナルドの首が飛んだ。

 

彼の答えが気に入らなかったのだろう、バルパーは欠片も容赦せず、自身が創った聖剣を振り抜いたのだ。

 

そんなバルパーの行動にレオナルド……の生首は苦笑する。

 

「もう、せっかちだなぁ、理由くらい説明させてよ」

 

そうレオナルドの生首が言うと、彼の “影” からエキドナが飛び出す。

 

エキドナは宙を舞う生首をキャッチ、彼女はソレを優しく胴体の上に置き、バルパーにあっかんべをしてレオナルドの影に戻って行った。

 

「それで、あなた達を天界に行かせない理由なんだけど」

 

「なんでもない風に進めるのだな」

 

首を飛ばされながら、なに食わぬ顔で回復し、話を続けようとするレオナルド。そんな彼を見てゲオルクは呆れたように呟いた。

 

「はいはい、茶々入れないで、理由はね……今行くと全滅するからだよ」

 

再び抜き放たれたバルパーの聖剣、それをレオナルドは素手で鷲掴みにする。

 

「騒ぐなバルパー、話の邪魔だ」

 

「ーーガキがッ!」

 

キレ掛かったバルパーが禁手化しようとし、レオナルドは冷笑を浮か迎え撃つ姿勢に入った。

 

一発触発。高まった二人のオーラに会議室が揺れる。

 

その二人の中間に聖なる槍が突き出されたのは次の瞬間だった。

 

「落ち着け、二人とも」

 

「……曹操、邪魔をするな」

 

誰であろうと斬り殺す、そんな鋭い殺気を込めて言うバルパー。

 

そんな彼の目を真正面から見て曹操は静かに告げる。

 

「俺は落ち着けと言ったぞ」

 

「…………」

 

「…………」

 

暫しの間、無言で睨み合う曹操とバルパー。

 

結局折れたのはバルパーだった。

 

「……よかろう、訳くらいは聞いてやる」

 

そう言って着席したバルパーに曹操はホッと息を吐き出した。

 

「はぁ、そうしてくれ……ではレオナルド続きを言え」

 

「ありがとう、助かったよ。無駄な戦闘をする所だった」

 

「勘違いしないでくれ。俺はお前の襲撃を許した訳ではない。心して答えろ、全滅するとはどういう事だ? バルパーではないが、もしも下らない理由だったら即戦闘に入るぞ?」

 

そうって曹操はレオナルドに聖槍を突きつけた。

 

「それは困るね、僕はあなた達と協力する為にここに来たからね」

 

「簡潔に説明しろ」

 

「はぁ……分かったじゃあ。超簡単に言うよ。天界の戦力が桁外れに増しました。彼等が世界征服をしようと企んでます。個別に戦っても彼等に勝てません。だから協力しましょう、って訳だよ」

 

そう言ってレオナルドは疲れたように肩を竦めた。

 

「天界の戦力が桁外れに増した、とはどういう事だ?」

 

すぐに上がるモノでもないだろう。そうゲオルクがレオナルドに問う。

 

「まあ、それは彼女を見て貰えば分かるよ」

 

「彼女?」

 

レオナルドの影が怪しく蠢く。

 

彼の第二の神器『影の大盾』だ。

 

レオナルドはそのまま、影を操作し、その中から天蓋つきの豪華なベッドを取り出した。

 

「「「………ッ!?」」」

 

そのベッドーー正確にはそこに寝かされている者を見て英雄派三人は驚き、絶句する。

 

そして、一早く立ち直った曹操が掠れた声でその者の名を呼んだ。

 

 

「……オーフィス」

 

そう、ベッドに寝かされていたのは黒髪の幼い少女。

 

人間の姿を取った無限の龍神オーフィスだったのだ。

 

「バカな、何故オーフィスが!?」

 

動揺を隠せない声でゲオルクが問う。

 

動揺するのも無理はない。傍目から見てもオーフィスが弱ってるのが分かるからだ。

 

しかし、これは本来あり得ない事である。

 

何故ならオーフィスは世界最強。並ぶ者なき絶対強者。

 

オーフィスは主神級が100柱集まろうと勝ち目がない究極のドラゴンであり、無限の体現者と呼ばれる程の他とは隔絶した力の持ち主なのだから。

 

「……弱っている? いや、コレは力を奪われているのかッ!?」

 

聖剣厨だがその他の知識や分析力に優れたバルパーがオーフィスの状態を診断する。

 

「そう、彼女は力を奪われてしまったんだ」

 

バルパーの言葉を肯定し、レオナルドは悲しげな目でオーフィスの頭を撫でた。

 

「しかし、一体どうやって?」

 

バルパーがそう呟く。

 

その言葉に反応したのはゲオルクだ。

 

「………そうか、サマエルか! サマエルならばオーフィスを倒す事も、その力を奪う事も可能な筈だッ!」

 

以前、英雄派もサマエルを使ってオーフィスの力を得ようという計画を練っていた事がある。それ故、その結論が出てくるのは当然の事だった。

 

しかし。

 

「違うよ」

 

レオナルドはその答えをあっさり否定する。

 

そんなバカな? という目をするゲオルク。だが、本当にオーフィスを倒すのにサマエルは使われていなかった。

 

「……では、誰がどうやってオーフィスから力を奪ったんだ? 天界が力を増したという事はミカエル辺りか?」

 

「曹操はミカエルがオーフィスをどうにか出来ると思ってるの?」

 

「………いや、思わない。そもそも、サマエル抜きでオーフィスから力を奪うなんて出来るとは考えられない。まさか、勇真がやったのか?」

 

「もちろん違う」

 

「………では誰が?」

 

 

「天界のトップだよ」

 

心底嫌そうに言うレオナルド、その顔はいつもの彼に似合わない疲れが見えた。

 

「本当の意味でのね」

 

 

「「「…………」」」

 

暫しの沈黙。

 

そして、英雄派はレオナルドの言葉の意味を悟り、再び絶句するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇真が取れる手段は一つしかなかった。

 

「ふふ」

 

男が楽し気に笑いながら人差し指を勇真に向けた。

 

殺意や戦意は感じない。

 

だが、勇真には分かる。あの男は自分を殺そうとしていると。

 

認識の違いだ。

 

人が人を害そうとすれば少なからず殺意が生まれる。

 

だが、人が蟻を潰そうと思ったとき、殺意など抱くだろうか?

 

それと同じだ。男は勇真を敵と認識していない、ただの “蟻” と認識しているのだ。

 

 

勇真は自身の直感を信じ全速力で身体を捻る。

 

同時に男の人差し指から放たれた閃光が魔法障壁をあっさり貫通、勇真の左腕を根元から消し飛ばした。

 

「…〜ッ!!」

 

激痛が勇真を襲う。しかし、それに構う余裕はない。

 

勇真は痛覚遮断で激痛をやり過ごすと、魔帝剣グラムを完全開放した。

 

ここで二撃目の閃光、次は右足が消し飛んだ。

 

だが、これも勇真は無視。彼は完全開放したグラムを地に突き立てると、刹那の間に発動させた結界魔法で男の姿を覆い隠した。

 

 

 

「…………」

 

その実力、主神級の数百倍以上。

 

勇真であろうとも、こんな馬鹿げた力の持ち主に勝つなど不可能だ。

 

しかも、ただ力が強いだけでなく魔法使いとしての技量すら、おそらく上、そんなのどうしろという話である。

 

故に勇真が取る手段は逃亡一択。しかし、これもまた不可能だった。

 

何故なら勇真が知らぬ間に、第一天は彼以上の技術と力で張られた超々高度な転移阻害の結界で覆われていたからだ。

 

つまり、勇真はここで死ぬ。

 

それが確実に訪れる未来だった。

 

 

 

 

相手が龍気を纏っていなければ。

 

 

「……おおおおおおおおおおおッッ!!」

 

勇真は裂帛の気合いを込めて結界を維持する。

 

結界内を満たすのは陰惨で凶悪な龍滅の波動、それはただ深く龍の死を望む、禍々しい破龍の結界だった。

 

この結界は勇真のオリジナル魔法、来る龍神との戦いに備えた切り札中の切り札。

 

その名も龍滅結界。

 

魔帝剣グラムとサマエルの究極の龍殺しの力を合成、強化し、その力を持って編まれた対ドラゴン究極の滅殺魔法である。

 

「おおおおおおおおおおおッッ!!」

 

この結界に囚われては龍属性の持ち主は死ぬ、例外なく死ぬ。

 

それこそ龍属性ならば、例え龍神だろうと真龍だろうと致命傷は免れない、そんな勇真最高傑作の魔法だった。

 

 

 

しかし。

 

「おおおおおおおおおおおッッ!!」

 

「……うるさいよ」

 

瞬間、男から爆発的に放出された神力により風船のように膨らむ結界。

 

……そして、数秒後、あまりにも簡単に龍滅結界が弾け飛んだ。

 

 

「…………」

 

龍属性が、アレを破った?

 

勇真は目の前の光景にただただ絶句する。

 

あらゆる龍を例外なく消滅させる筈の龍滅結界が龍属性に破られたのだ、意味が分からない。

 

そんな勇真を尻目に、男は埃を払うように自身に纏わりついた龍滅オーラの残滓を払い落とした。

 

 

「君は愚かだな」

 

先程の楽し気な様子から一転、白け切った表情で男は言う。

 

「…………」

 

「今の魔法、何故私に使った? あんなものが私に効くと思っていたのか?」

 

「……思っていた」

 

正確にはあれ以外効くはずがない、そう勇真は思っていた。

 

しかし、勇真の言葉に男は首を振る。

 

「嘘だな」

 

鋭く言う男に勇真は怯む、それは事実だったからだ。

 

確かに、勇真はあの龍滅結界しかないと思っていた。

 

 

だが、その一方、心の奥底で龍滅結界も効かないだろうと半ば諦めていたのだ。

 

「君は私が誰か分かっていた筈だ、まさか分からぬほど愚かではあるまい?」

 

そう、男の言う通りだ。

 

男の正体など、簡単に分かった。

 

勇真は気づかぬフリをしていただけだ。

 

死んだはずだ、あり得ないと言い聞かせただけだ。

 

 

何故なら男の正体が勇真の想像通りだった場合、どう足掻いても勝ち目がなかったからだ。

 

そう、勇真は信じたくなかったのだ。

 

 

男の正体が 聖書の神だと。

 

 

「そう、私は神だ」

 

勇真の心を読んだのだろう、聖書の神が答えを言う。相手は神様、人の心を読む程度造作もない事なのだろう。

 

「だから愚かだと言ったのだ。私の正体を早々に悟りながら、私がサマエルに掛けた呪いを使って攻撃するなど無意味極まりない愚行」

 

「…………」

 

「私は楽しみにしていたのだよ、私の正体を悟りながら諦めずに何かをしようとする君を、だから、あえて心を読まずに攻撃の発動を許した。にも関わらず、君がしたのはあの下らぬ結界魔法だ」

 

「…………」

 

勇真は無言で聖杯の力と回復魔法を併用し一瞬で左手、右足を再生させると、グラムをしまい『無窮の英雄』を全力発動。

 

同時に強化された偽赤龍帝の鎧を纏い、同じく強化により長剣と化した聖短剣を正眼に構えた。

 

そんな勇真の行動を神は気にしない。神はただ興醒めしたような表情で勇真を見るだけ。

 

おそらく、無駄だと思っているのだろう。

 

まあ、実際、その通り無駄な行動である。

 

「やはり愚かだ。勝機がないと知りながらなお足掻くか、君がすべきベストな行動は、ただ一心に頭を垂れる事だった。私が神と気づいた瞬間、その行動を取っていれば許してやったものを」

 

「………勝機がない? どうかな、やってみなければ分からないぞ」

 

「自分も騙せぬ嘘をつくか……君は救えぬな」

 

 

それが再開の合図だった。

 

突如、勇真の前に数万の魔法陣が発生する。

 

勇真はただ黙って神の話を聞いていた訳ではない。

 

彼は必死に準備していた。この局面を乗り切る為に。

 

 

『Boost Boost Boost Boost ……Boost‼︎』

 

限界を超えた五段階の倍化にレプリカの赤龍帝の鎧にヒビが入る。

 

だが、構わない。一撃だけ保てばいい。これがラストチャンスなのだから。

 

「うおおおおおおおおッッ!!」

 

発動されるのは最高位の結界粉砕魔法。

 

ただし、全魔法力の八割を込め、それを64倍に高めたソレは副次効果で天界そのものが粉砕される威力と範囲を持つ極大殲滅魔法だ。

 

しかし、そんな空前絶後の超魔法を前に神は心底つまらなそうに溜息を吐き出した。

 

そして、神は無言で指を鳴らす。

 

次の瞬間、発動されようとした勇真の魔法が跡形もなく消え去ったのだった。

 

 

「えっ?……ごふぁ」

 

呆然と呟く勇真、そしてその直後、彼の口から鮮血が漏れた。

 

「無駄だと言ったはずだ」

 

聞こえてくる神の冷たい声。

 

神の左手にはいつの間にか赤い肉塊が握られている。

 

「…………」

 

神は無言で肉塊を地面に落とした。

 

落とされた肉塊は白い床を赤く濡らし、今もドクンドクンと蠢いている。

 

それは心臓だった。

 

「…………」

 

勇真は隙になると知りながら、左手を聖剣から離し自分の左胸に触れる。

 

そこには鎧の硬い感触も、肉の柔らかい感触も全く感じる事が出来なかった。そう、勇真の左胸にはただ、大きな空洞があるだけだった。

 

 

「………ッ!」

 

思い出したかの様に左胸から激痛が走る。

 

痛覚遮断が効いていない。

 

勇真は先ほどの手足と同様、魔法と聖杯で傷を塞ごうとした。

 

だが、傷は全く塞がらない。レジストされている訳ではない。しっかり聖杯も魔法も発動しているのに塞がらないのだ……まるで、死ぬ事が決定づけられてしまったかのように。

 

まさか、と勇真は戦慄する。

 

 

先の不可解な魔法消滅、そしていつの間にか抜き取られた心臓。こんな理不尽な現象を起こす攻撃に勇真は一つ思い当たるモノがあったのだ。

 

 

 

「運命、操作?」

 

口から血を零しながら言った勇真の言葉に神はどうでも良さそうに頷いた。

 

「ご名答、魔法は発動せず、心臓を抉られて死ぬ運命を作った」

 

その言葉を聞いた瞬間、勇真の意識が薄れていく。

 

決定された運命が強制的に勇真を消そうとしているのだ。

 

「………ッ!!」

 

勇真は偽赤龍帝の鎧で魔法力を最大倍化、その強大極まる魔法力で運命操作を捩じ伏せんとする。

 

勇真から迸る魔法力に天地が揺れ、空間が軋み、風景が歪む。

 

主神級すら寄せ付けぬ空前絶後の魔法力。

 

 

だが、それでも運命には抗えなかった。

 

どんな力も一度決定された運命をひっくり返す事は出来ない。

 

 

そして。

 

「…………あ」

 

努力も虚しく、勇真の意識は水底に沈む石ころの様に急速に消える。

 

 

 

死の直前、勇真が最後に目にしたものは、つまらなそうに自分に近づく、神の冷たい顔だった。




ナレーション「ユウマのめのまえが、まっくらになった」



ラスボスは理不尽なくらい強くしないと(使命感)

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