勇者さんのD×D5
もしもの話だ。病気か何かで家族が余命数年となってしまったら、それを本人に伝える方が良いのだろうか?
この選択は人によるだろう、家族の性格にもよるだろう。
だが、なんにしても大きな選択だ。場合によっては生きる気力を失ってしまうかもしれない。あるいは家族から罵倒される可能性もある。
で、そんなネガティヴな事ばかり考えていた勇真はルミネアに寿命の件を切り出せなくなってしまったのだ……ヘタレである。
「……はぁ」
「勇真さん、どうかしましたか?」
溜息を吐いた勇真を心配そうに、そして私、何かマズイことをしてしまいましたか? と気落ちした様にルミネアが聞いてきた。
「ああ、大丈夫、ちょっと考え事をね」
「心配な事でもあるんですか? でしたら私に言って下さい、私なんかじゃ、力になれないかもしれませんが出来る事なら何でもします!」
「うん、ありがとう、でも本当に大したことじゃないから」
「そう、ですか」
「…………」
「…………」
会話が続かない。場に気不味い沈黙が流れる、二人とも自分から会話を進めるタイプでないので一度切れると中々会話が再開しない。故に勇真家は偶にこうなる。
で、こういう時、率先して、頑張って場を和ませようとするのは勇真ではなくルミネアの方だった。
「と、ところで前から聞きたかったのですが、勇真さんは若いのに凄い魔法使いですよね、一体誰に魔法を習ったんですか?」
「……魔法、魔法かぁ、実はコレ習った訳じゃないんだ?」
「え、まさか、独学ですか!?」
「いや、独学というか、聖剣を引き抜いたら勝手に知識と能力が頭に入った」
「え、聖剣をですか?……なるほど、エクスカリバーを回収してたのはそれでですか、でも魔法行使能力を与える聖剣って珍しいですね」
「ああ、それはそうだね……ルミネアは冥界とかとは別に異世界が有るって言われたら信じる?」
「勇真さんが有ると言うなら」
そう断言しキラキラとした目でルミネアは勇真を見上げた。
勇真はルミネアの背に揺れる尻尾を幻視した。少し……いや、かなりこの頃のルミネアは勇真を信じ切っていた、もう、勇真がする事は殆ど全部正しいとか思っているくらい信じ切っていた。
嬉しい事だが、それを勇真はマズイと思う。
その気持ちは分からなくもない。長い間続いた辛い境遇から救い上げてくれた相手を信じたくなるのは分かる、だが、異世界なんて荒唐無稽の話を一発で信じるのは如何なものか?
いつかこの子、詐欺に合うんじゃなかろうか?
「ルミネア、少しは俺を疑おうね」
「え、じゃあ、嘘なんですか?」
「……いや、まあ、本当だけど」
心なしか、ルミネアの目の輝きが増した気がする。
「……まあ、いいや。で、話を戻すと魔法は異世界で聖剣を抜いたら習得してた。というか俺、いきなり異世界に召喚されたんだよね勇者として」
「そうなんですか!?」
凄いです! 流石勇真さん、とルミネアは尊敬の眼差しを勇真に送った。
「ええーこれも信じるの? ルミネア、俺も嘘つくからね、人間は誰でも嘘つくからね、信じる者は救われるとか嘘だからね。掬われるのは足だからね」
「え、じゃあ嘘なんですか」
「……いや、まあ、本当だけど」
ルミネアの目の輝きが増した……展開がループしている。
「もう、いいや、それで世界救ってくれって勇者として召喚された訳だけど、それまで全くこれっぽっちも俺は戦闘とかした事なかったんだよ、そんな奴を勇者として呼んで役に立つと思う?」
「何の役にも立ちません」
流石は元エクソシスト、戦闘関連はシビアで、勇真さんだから大丈夫です! とか思わないらしい。勇真は少し安心した。
「そう役立たずな訳だよ、ならなんで俺なんか召喚したかというと、条件指定して召喚したら来たのが俺だったらしい、その条件が勇者の剣を扱える事」
「そうだったんですか、でも、その割には勇真さんって剣を使うイメージないですね」
「日常生活に剣とか不要だからね、技量も大したことは無いよ、それは分かるかもしれないけど」
「はい、失礼ですが素人ではない程度のレベルに見えます」
「うん、その通り。魔法で身体能力強化をすれば別だけど、魔法無しの素の状態じゃルミネアにも絶対勝てないだろうね、ただ召喚されて初めて知ったけど俺は神器持でね」
そう言って勇真は左手を持ち上げる、同時に彼の手首に光が集まり黄金のルーン文字のようなモノが刻まれた腕輪が出現した。
「【無窮の担い手】って言うらしい。効果は身体能力上昇とあらゆる武器の使い手に成れる事、発動中は勝手に武器の使い方が頭に浮かぶし、技量も上がる」
「あらゆる武器……とは、つまり聖剣、魔剣、神話や伝説の武器でもですか?」
珍しく信じられないといった表情でルミネアは言った。
「そう、まあ、まだ神剣とか神槍は試してないけど異世界の聖剣は使えたし、この世界でも魔帝剣グラムとかは使えた」
「え? グラムって魔剣最強と言われる、あのグラムですか!? じゃあ、勇真さんはグラムの使い手なんですか!? ……いや、でもアレって教会のエクソシストに使い手が居たはずですが?」
「教会の人だったの? 背中から腕生やす、確か白髪でジークとか名乗ってた奴なんだけど、もしかして知り合い?」
「……はい、一応、同じ戦士養成機関出身の先輩です」
「ああー……ちょっと悪い事したかな? 1年くらい前に傷心旅行にヨーロッパに行ったんだけど、なんか、いきなり『一緒に英雄にならないかい?』とか言って来てね、胡散臭くて断ったらいきなり襲い掛かって来たんだよ。やたら強かったけどなんとか勝ってね、あ、殺してはいないよ、だけど危ないから二度と俺を襲えないように呪いを掛けた、ついでに賠償も兼ねて魔剣は没収したんだよ」
「じゃあ、今のグラムは勇真さんが使い手なんですか?」
「いや、グラムは売った」
「え、なんでですか!?……せっかく最強の魔剣の使い手に成れたのに勿体無くないじゃないですか」
「いや、確かに思ったよ、凄い性能だったし。でも、やっぱり要らない。アレ持ち主の寿命を吸うんだよ? ジークから他にも何本か貰ったけど魔剣は全部デフォルトでライフドレイン効果が着いててね、使うだけで寿命が減るとか最悪、だからコレクターに売った。まあ、おかげで一生のんびり暮らせるくらいお金が出来たんだけど」
俺は聖剣の方が好きだし、それに魔法だけで充分、そもそも俺、必要に迫られなきゃ戦う気ないし、ルミネアは違う? そう付け足して勇真は笑った。
「……そうですね、分かってはいるんです。でも、私は弱いから力が減るって事が凄く怖い、今は違うのに、戦う必要なんてないのに」
そう、俯きながらルミネアは答える、トラウマで自分より強い者全般を怖がる彼女に取って力を手放すという事は恐い者を増やす事に他ならない。
だから、今は戦う必要がなくても、誰かに襲われる心配がなくても自分の力は減らしたくない。そんな思いが勇真には感じられた。
「まだ、エクソシストを止めて二カ月も経ってないからね、仕方ないよ。俺もルミネアの状況だったら切り札の為に絶対取っとくし、まあ、今はのんびり暮らそう、危なくなったら……まあ、守るから」
そう、最後だけ小声で若干恥ずかしそうに勇真は言った。それを聞き俯いていたルミネアは顔を上げると、嬉しそうに微笑んだ。
「……はい、よろしくお願いします」
近年、戦うヒロインが数多く存在するが、やっぱりヒロインは守る者だな、と勇真は思った。
「会談ですか?」
イリナ、ゼノヴィアが駒王市から去ってから一週間が過ぎた。リアス眷属一同の説得もありようやく木場が学校に復帰、部活にもしっかり顔を出すようになった。
その為、リアスは眷属一同を集め、政府から、正確には兄の魔王サーゼクスから伝えられた重要な情報を眷属に伝えたのだ。
「そう、今回のことで堕天使の総督アザゼルから提案されたらしいわ、なんでも話したい事があるみたい、その時にコカビエルのエクスカリバー強奪について謝罪するかもなんて言われているけど、あのアザゼルが謝るかしら」
紅髮を揺らし、忌々しそうにリアスは言った。
「堕天使ですもの、信用できませんわ」
リアスの疑問に朱乃も珍しくどこか吐き捨てるように答える。
「でも、結局、エクスカリバーはどうなったんでしょう」
落ち着いたとはいえ、やはり気になるのか木場が真っ先にエクスカリバーの所在を確認する。
「さあ、真相は堕天使側もまだ掴めていないらしいわ、でも、注意してね、堕天使幹部がこの街で殺されたのは事実、もしかしたら私達が知らないだけで相当な実力者がこの街に潜伏しているかも知れないわ」
「そう言えば堕天使幹部ってどのくらい強いんですか? 俺、イマイチ想像つかなくて」
「イッセーくん、堕天使幹部は最上級悪魔と同等レベル、戦闘力は低く見積もってもライザー氏の十倍以上と考えるのが妥当だよ」
「焼き鳥野郎の十倍ッ!? そんなのがご近所にいるかも知れないのかよ!?」
「でも、何の為なんでしょう」
「エクスカリバーがなくなっていたらしいし、聖剣が欲しかったとかか?」
「考えられなくはないけど、もし、コカビエルを倒したのが僕みたいな剣士だったら既に愛剣を持っている筈だし、部長や朱乃さんみたいな魔法、魔力メインの使い手ならそもそもエクスカリバーは要らない、使い手がいない状態で教会の保管庫から奪うなら分かるけど、堕天使幹部と戦うリスクを犯してまで欲しがるとは思えない、僕としては復讐か何かでコカビエルを殺したかっただけで、エクスカリバーはあったからついでに奪ったとかだと思う」
木場が嫌そうに言う。何が理由にせよ復讐の邪魔された形になるのだから当然である。
「なんにしても用心が必要よ、出来るだけ私達はみんなで行動すべきだわ……で、それについて考えがあるのだけど」
そう前置きして、リアスは本題である眷属全員でイッセーの家に下宿するという話を切り出すのだった。
ゴシゴシと勇真は目を擦った。
「わぁ、大きなお家、日本にもこんなお家があるんですね」
「……そうだね」
ルミネアが驚いたような声を上げる、しかし、それ以上に勇真は驚いていた。
お小遣いをあげているのにそれに一向に手をつけないルミネアに業を煮やした勇真は彼女を連れ出し、近所の服屋に向かった。
服すら勇真が緊急に買った物(定員に生暖かい目で彼女さんにですか? と言われ死にたくなった)しか着ていないのだ。
別に勇真だって服を多く持っているわけではない、しかし、室内用のダボダボしたジャージ2着と外出用の、全身コーディネートの見本として置いていた微妙にサイズが大きい物が1セットのみだ、流石にこれは勿体無い。
との事で、勇真はルミネアの好みと店員のアドバイスの本、数万円分の服をプレゼントしたのだ。
カモにされた気がするが、ルミネアもとても喜んでいたので良しとする。
で、問題はここから、帰り道、スーパーに寄ろうとした際にイッセーの家の前を通った勇真が見たものは周りの一軒家の三倍……いや、奥行きも考えて五倍に増築? されたイッセーの家だったのだ。
それはまさに豪邸、日照権とか大丈夫か? と疑いたくなる程の他と隔絶した大豪邸だった。
勇真は再び目元を擦ってから表札を見るがやっぱり『兵藤』と書かれている、見間違いではないらしい。
「ルミネア、ここがこの街を仕切る悪魔の住居だから、注意してね。まあ、もう知ってるかも知れないけど」
「え? あ、上手く隠蔽されてますが、確かに悪魔の気配が僅かに」
ルミネアが若干顔色を悪くし、勇真の側による。
「ああ、大丈夫だよ。まだ正午過ぎだからね、この時間は悪魔達は学校に行ってる、だから鉢合わせることは無いよ。それに俺にもルミネアにもかなり強い認識阻害の魔法を使ってるから」
「そうだったんですか? すいません……私、全然気が付きませんでした」
「術者以外は気づけない魔法だからね、ルミネアに気づかれたらそれは失敗だよ、でも注意してね、高位の悪魔や魔法使いには違和感を抱かれる恐れがあるから、この家の近くを通るのは9時〜15時の間だけか、俺と一緒の時の方が良い」
そう、勇真が注意を促していると、突然、その悪魔の住居の玄関が開いた。驚いてルミネアが勇真の背後に隠れる。
「あら? もしかして勇真君?」
出てきたのはイッセーの母だった。
「あ、お久しぶりです。おばさん」
「そうねぇ、一年ぶりくらいかしら? 元気にしてた」
「はい、おかげさまで」
「そう、良かったわ。後ろの子は……あらやだ、もしかして彼女さん?」
そう言ってイッセーの母は微笑ましそうに勇真とルミネアを見た。勇真は自分の赤くなるのを自覚した。
「……まあ、そんな感じです。ところでリフォームされたんですね」
見え透いた話題転換である。
「そうなのよ! つい先日、リアスさんのお父さん建築関係のお仕事をされていてね、タダでリフォームしてくださったのよ!……あ、リアスさんていうのはウチに下宿している留学生のすっごい美人の女の子ね、なんとその子、イッセーに気があるみたいなのよ!」
「おお、それはおめでとうごさいます」
「そうなのよ、おめでたいのよ、それでウチには最初留学生のアーシアちゃんも……」
イッセー母の話は長くなった。もう一人の留学生アーシアの話に続き、新たに下宿しに来た、姫島朱乃、塔城小猫、木場祐斗の話、更にはイッセーの近況報告まで語ってきた。
ついには立ち話もなんだからと家に招待されたのだが、それは予定があるのでと断り(意味深な笑顔をされた)買い物もせずに帰宅。
その後、暫くの間、ずっとルミネアが顔を赤くしてチラチラと勇真を見上げるのが印象的なとある日常の事だった。
原作と違い、眷属全員でイッセーの家に下宿する事になりました。
ギャスパー? 封印中ですので部室のダンボールで寝てますよ?