リリカルなのはー聖王と魔弾の射手ー   作:ハマトラ

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第10話 高町ヴィヴィオ③

───翌日早朝、管理局保護施設

 

目が覚めた穹はふと右手を見るとホルクの本体の指輪が無いことに気付いて、昨夜のことを思い出した。

 

『私の子にならん?』

 

穹「………………すみません、誰かいますか?」

 

穹の呼びかけの直後、スピーカーからノイズがはしりなのはの声が聞こえてきた。

 

なのは『はぁい、いるよ~どうしたの?』

 

穹「ホルクに会いたいんですけど」

 

なのは『あ~うん、ちょっと待ってね』

 

なのはの声の後、少しの間を置いて部屋の扉が開いて扉の前になのはが立っていた。

 

なのは「流石に迷子になっちゃうと思うから、私が案内するね」

 

穹はなのはの後についていった。

 

なのは「……ところで穹君、なんでいきなり敬語に?」

 

穹「事情はどうあれ、世話になった人には礼儀をってホルクによく言われたもので……」

 

なのは「ははは、本当にお父さん?みたいだね」

 

なのははホルクが大分穹の親代わりをしていたのだと思い苦笑を浮かべた。

 

なのは「そういえば穹君、はやてちゃんのお話どうするの?」

 

穹「…………正直、迷ってます。別に嫌ってわけじゃなく、俺なんかがいいのかなと…………俺、殺し屋ですから……」

 

穹は裏社会の人間であり殺し屋、裏の人間とはいえ多くの人間に銃口を向け殺してきた。

だからこそ、はやてから養子の話を聞いた時、嬉しい反面負い目を感じていた。

 

なのは「はやてちゃんは、そういうの気にしないと思うけどなぁ~」

 

なのはは『デバイスルーム』と表示された扉の前で立ち止まった。

 

なのは「今は誰もいないけど、さっきここの責任者の人から許可はもらってるよ。私は外で待ってるから」

 

扉が開いて穹が入ると、整備台の上に置かれた指輪を見つけた。

 

穹「ホルク、起きてるか?」

 

穹の呼びかけに指輪が光り、額に宝石のついた鷹が出てきた。

 

ホルク『穹、すまない。心配させたな』

 

穹「いいさ、お前にも大分負担をかけたな。」

 

ホルク『整備士の話では今日中にはメンテナンスが終わるらしい、お前はどうだ?』

 

穹「俺は大丈夫だ。ただ……」

 

穹は昨夜のことを話した。

目覚めて、初めて人の暖かさを知り、初めて大声で泣き叫び、そして八神はやてから養子にならないかと誘われたことを……

 

穹「俺、どうしたらいいのかわからない。あんな風に優しく接してきたのはあの人が初めてだ。どうすればいいかな?」

 

ホルク『それを決めるのは私ではない、穹自身だ。』

 

予想通りの返答に穹は肩を竦める、常に重要なことはいつも自分自身に決めさせていた。

今回もそうじゃないかと薄々わかっていた。

 

穹「もう少し考えてみるよ、また後でな」

 

デバイスルームから出ると、なのはと知った顔があった。

 

ヴィヴィオ「あ、穹君!」

 

穹「ヴィヴィオ?なんでこんな早く……」

 

ヴィヴィオ「なのはママの着替え持ってきたの、結局昨夜は徹夜だったみたいだから」

 

穹「え…………まさか昨夜ずっと?」

 

よく見るとなのはの目元に少しクマが出来ていた。

はやては各方面への根回し、フェイトは(改竄した)報告書の提出があった為、なのはが穹を見ていることになっていた。

 

なのは「あ~大丈夫、ちょっと眠いだけだから………ヴィヴィオ、私ちょっと着替えてくるから穹君とお話でもして待ってて~」

 

なのはは覚束ない足取りで廊下の奥に消えて、穹とヴィヴィオだけが残された。

 

穹「…………なんか申し訳ないな、色々世話になりっぱなしで……」

 

ヴィヴィオ「色々?」

 

穹「……輸送車襲撃未遂もエントランスでの騒ぎも俺が関わってることが無かったことにされたんだ。それと、八神って指令が俺に養子に来ないかって」

 

ヴィヴィオ「そうなの!?」

 

穹「いや、まだ受けるって決めては……」

 

迷っている、穹の顔を見てヴィヴィオは穹が養子の話に戸惑っていると感じた。

 

穹「俺は殺し屋だからさ、今まで多くの人を手にかけてきた。俺の手は殺してきた人間の血で染まってる。受け入れきれず、あとで後悔させるくらいなら………」

 

ヴィヴィオ「……………私ね、なのはママの本当の子供じゃないの」

 

穹「!!」

 

ヴィヴィオ「私はクローン、古代ベルカのレリック『聖王のゆりかご』を起動させる為だけに作られた……聖王オリヴィエのクローンなの」

 

『聖王のゆりかご』、その単語を聞いて穹は一つの事件を思い出していた。

 

穹「………『JS事件』、お前はあの事件の関係者だったのか」

 

ヴィヴィオ「穹君も知ってたんだ」

 

穹「……ジェイル・スカリエッティは、裏にも色々介入していたからな。」(奴があの事件を起こした時粛清対象になったが、確か奴らが動き出した時には奴は管理局に逮捕されていたんだったな)

 

ヴィヴィオ「なのはママはそんな私も受け入れてくれた、傷だらけになっても私を救ってくれた。あの時教えられたんだ、自分がどうしたいのか、自分の素直な気持ちを伝えることの大切さを。穹君はどうしたい?」

 

穹「俺は………」

 

『それを決めるのは私ではない、穹自身だ』

 

穹は先程も、そして今までホルクが重要なことを自分に決めさせていた理由に気づいた。

穹の中で答えは決まっていた。

 

 

 

程なくして、なのはが着替えを済ませ戻ってきた。

ヴィヴィオは用事がある為帰り、穹もなのはについて元の部屋に戻った。

そして昼頃、再び扉が開いてはやてが入ってきた。

 

はやて「ごめんなぁ~色々やっとったら遅れてしもた。それで話ってのは?」

 

数秒の沈黙のあと穹は深呼吸をして、意を決した。

 

穹「…………………俺は殺し屋、人殺しだ。この手は幾人もの人間の血で染まってる。俺の罪は一生かかっても消えることはない、そんな血と罪で汚れた手をあなたはとってくれるのか?」

 

穹が差し出した手を、はやては迷うことなく握りしめた。

 

はやて「当たり前や……………それに、罪を背負うのには慣れとるんよ。私の家族は皆」

 

 

 

この日、養子手続き書類が提出された。

『八神穹』、それが穹の新しい名前となった。




裏話

なのはは着替えを済ませ、穹達の元へ向かった。
ロッカールームは少し離れた所にあった為、すぐに戻ることが出来た。
穹達の姿が見えた辺りで後ろから肩を掴まれ、引き戻された。

ユウ「なのはちゃん、ちょっとストップ」

なのは「ユウさん!?」

なのはがレイジングハートを構えようとするのをユウは制止して穹達の方を指差した。
丁度、ヴィヴィオが穹に自分のことを話している時だった。

ユウ「もう大丈夫だ、あいつが『向こう』に戻ることは無い。俺のレアスキルがそう言ってる」

ユウはどこからかぼんち揚げを出して、袋を開けた。

ユウ「あいつ、これから楽しみが増えるだろうな。」

ユウはどこか楽しそうな表情を浮かべながら去っていった。








なのは「…………………あ、また逃げられた!!」

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