3つ同時は流石に欲張りすぎた・・・・・
模擬戦第1回戦は引き分けに終わり、その後休憩を挟んで入れ替わりながら模擬戦が行われた。
穹はこの連戦でシューター、スナイパーによる後方支援戦闘を身に付けて更にシューターによる効率的な戦い方を実戦を通して理解していった。
そして、全ての試合が終了して全員各々が休息をとっていた。そんな中、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、アインハルトは全開戦闘を立て続けに行ったツケが回り、ベッドから動けずにいた。
リオ「うう・・・・・・う、腕があがらない・・・」
コロナ「起きられない~・・・・」
アインハルト「・・・・・・・動けません・・・・」
ヴィヴィオ「ほ、ほんとに・・・・」
穹「馬鹿だな・・・・・・全試合フルタイム全力全開戦闘なんてしたらそうなるだろ」
魔導士としてのキャリア上ペース配分の理解しているルーテシア、現役魔法競技選手で常日頃から鍛えているコウヤに混じって穹が呆れながら全試合内容の分析を行っていた。
ヴィヴィオ「な、なんで穹君は平気なの~?」
穹「鍛えてるし、自分の限界を弁えた上で予めペース考えてるし、何より俺のスタイル上激しい動きが少ないからな」
アインハルト「あの重石の弾・・・・・・まさか旋衝破で返せないとは・・・」
模擬戦の2戦目、アインハルトは序盤で穹とマッチングしたが、穹が黒いハンドガンから撃った鉛弾(レッドバレット)を覇王流のシューターを受け止めて投げ返す技『旋衝破』で受け止めようとしたが、着弾と同時に両手に重石が着けられてしまい序盤にしてすぐ下がる羽目になってしまっていた。
穹「鉛弾(レッドバレッド)は『着弾と同時に弾を重石に変える』ですからね、受け止めるなんて無理ですよ。シューターをバレッドシェル壊さず受け止めてる時点で無茶苦茶ですけど」
ホルク『ログを解析しても従来の魔法技術とは根本的な部分から異なる、おそらく古代ベルカの・・・・・・・覇王の血統に伝わる秘技なのだろう』
ルーテシアがアインハルトにインターミドルの説明をしている頃、穹は模擬戦のログを見ていた。
試合中は自分の役目に集中していた為、他の皆がどの様な戦いをしていたのかは見ていないからだ。
穹[リオのこの魔法戦技・・・・・・噂に聞くルーフェンの体術か。それに雷と火、二つの変換資質まで持ってるとはな]
ホルク『コロナの創生魔法もこの歳でかなりの錬度だ、おそらく元々得意な魔法体系なのだろうな』
穹[こうして見ると、皆凄いな。なのはさん達現役で活躍している管理局の魔導士もルーテシアさんや師匠みたいな嘱託魔導士も、それにヴィヴィオ達も皆日に日に強くなってるんだな。俺も負けてられないな]
ふと視線を上げた時、すぐ目の前にヴィヴィオの顔があった。当然びっくりした穹は座っていた椅子からひっくり返ってしまった。
ヴィヴィオ「そ、穹君大丈夫!?」
ルーテシア「まさかここまでビックリするとはね~♪」
穹「る、ルーテシアさん!」
リオ「話聞いてない穹が悪いんだよ~!」
穹は丁度苦笑を浮かべるなのはから持ってきたドリンクを一つ受け取ると立ち上がって倒れた椅子を元に戻した。
穹「それで何?」
ヴィヴィオ「穹君も、今年のインターミドル出てみない?」
穹「え?」
穹は確かにインターミドルに興味を持って、よく試合映像を見たりしている。出てみたいと思う気持ちはあるが、まだどうしようか迷ってる段階だった。
コウヤ「いいんじゃねえの?出てみろよ」
穹「し、師匠・・・」
コウヤ「錬度も十分だし、出てもすぐ負けはねえだろう。八神指令なら快く許可してくれるだろ」
メガーヌ「私も昔はあの舞台で少女らしい青春時代を熱い戦いに燃やしたものよ」
穹「メガーヌさん、それ少女らしいからかけ離れてますよ・・・・・・なんですか、そのイメージ映像」
メガーヌは現役時代の思い出に耽っているが、それはリング上での魔法のぶつかり合いであり、少女らしいという表現とは全くの逆方向だった。
アインハルトは出場を決めているが、ここで一つの問題が浮上した。インターミドルでは安全の為、CLASS3以上のデバイスを所有し装備する事が原則となっていたが、アインハルトは覇王流を使うモノのデバイスを所持していなかった。
アインハルト「その・・・・でも、真正古代ベルカのデバイスは作るのが難しいと・・・・」
穹「ふむ・・・・・じゃあ、母さんに頼んでみますか?」
ルーテシア「お、私も同じ事考えてたんだ。なんたってバリッバリに真正古代ベルカな大家族!八神家の皆さんに頼めばきっとノリノリで組んでくれるよ!」
そして翌日、相変わらずのリオとスバルの胃袋に驚かされながらも朝食を済ませた穹はルーテシア、アインハルトと部屋で自宅に通信を繋げた。
何故か穹の頭の上にはクリスが乗っているが穹はあえて気にしないようにしていた。
穹「先輩、固くならなくていいですよ、母さんノリ軽いので」
通信が繋がると、すぐにアギトが出て来た。
アギト『お、穹じゃん!それにルールーオーっス!』
ルーテシア「おいーす、アギト」
穹「アギト姉さん、母さん今大丈夫?」
アギト『あ、デバイスの件か?ちょっと待ってて」
アギトが画面の奥に消えて、次に飛び込んできたのは、狸の面だった。
穹「はあ・・・・・母さん、悪ふざけはその辺で」
面が外され、穹の母にして管理局の指令、八神はやてが顔を出した。互いに紹介が済み、リインとアギトを加えて早速デバイスについての話に入った。
アインハルト「えと・・・・・その、格闘戦技だけで戦いたいので武器型ではない方が・・・・」
はやて『そーかー、格闘家さんやもんねー。ほんなら体の動きを阻害する様な装着型もよくないかなー・・・・・・・スバルのナックルやキャリバーもあれ、なんだかんだでめっちゃ重いしなー』
リイン『そーなんですよねぇー』
はやてとリインは一度だけスバルの装着型のナックルとキャリバーを持たせてもらった事があった。
しかし、どういうわけか持ち上がらず、スバルの筋力が疑われた程だった。
アインハルトはしばらく考えて、穹の頭に乗っているクリスを手に取った。
アインハルト「ですから、その・・・・この子のような補助・制御型がいいなと」
はやて『なるほどなー、ほんならクリスの性能を参考に真正古代ベルカのシステムで組むのがええな』
方針が決まり、こうしてアインハルトのデバイス作成が決まった。そして頃合いを見て、今まで黙ってた穹が口を開いた。
穹「・・・・・・母さん」
はやて『?どうしたん?』
穹「俺さ・・・・・・昨日ヴィヴィオにインターミドル出てみないかって誘われたんだ。それで昨夜考えたんだけど・・・・」
穹は昨夜、眠りながらインターミドルに出るべきか考えた。ホルクの言葉を借りると、それを決めるのは穹自身だからだった。
何の為に出場するのか、理由を求められると答えは浮かばない。しかし、それでも出てみたいという気持ちだけがどんどん強くなっていた。
穹「俺・・・・・・今年のインターミドル出てみたいんだ、いいかな?」
はやては少し驚いたが、すぐいつもの母親の顔になって優しく告げた。
はやて『ええも何も、穹が決めたんやろ?なら反対せんよ、頑張りや!ほんなら、土産話楽しみにしてるで~』
そこで通信は切れた。穹は相変わらずな母に笑みをこぼしながら、初めての魔法競技大会に心躍らせていた。
予選開始まで2か月、穹の今までの血生臭い殺し合いとは全く違う新たな戦いが始まろうとしていた。
裏話 狂信者の影
一人の少女が裏社会の一角を歩いていた
「『魔弾の射手』?ヘマやらかして管理局に捕まったらしいぜ。ざまあね――」
男の言葉が終わるより早く、少女の持つ戦斧が男を真っ二つにする
「アジト?知ってはいるけど、蛻の空だぜ?」
少女はとある廃墟の一室に入る、最低限の家具と食料、そして『裏』の地図、ここはかつて裏社会最強の狙撃手、『魔弾の射手』が使っていたアジトである。
しかし、今は誰も使っていない、主のいないこのアジトを少女は勝手に使っていた。
??「ああ・・・・・・・本当だったのね・・・・・・貴方は・・・・・本当に『裏抜け』してしまったのね・・・・・」
少女は懐から3枚の写真を取り出した。
??「許さない・・・・・・・彼を誑かした『夜天の主』も・・・・・・彼に愛想振りまくこいつも・・・・!!」
手元の斧は双剣となり、2枚の写真に突き刺さり壁に刺さる。1枚は管理局の指令、八神はやて、もう1人は穹の最初の友人ヴィヴィオだった。
??「ふふふ・・・・・私が必ず、貴方の目を覚まさせてあげる。待っててね、私の『魔弾』」
少女が恍惚な表情で眺める写真には、殺し屋時代の目つきの鋭かった頃の穹が映っていた。
新章突入、「魔弾の狂信者編」