その先駆けとなったのが万能型の『弧月』である。
これにより、管理局の魔導師の近接戦闘能力は飛躍的に上昇した。
後に、当時デバイスマイスターの資格を取得したユウ・キリサキ二等陸士(現三等陸尉)が管理局のエンジニアと共同開発したスピード型の『スコーピオン』、更にある元陸士のエンジニアが考案し、現在湾岸警備隊、救助隊の正式武装に採用されている防御型の『レイガスト』が加わることで近接戦闘型の魔導師の能力が向上した。
ーーーーーー管理局技術開発局の記録より抜粋
ユウ達が戦闘を開始した同時刻、リオとコロナとアインハルト、そしてノーヴェは各々家族に連絡を入れて、ヴィヴィオは風呂に入り、穹はなのはから戦術の教えを受け、盤状のシュミレーターで様々な戦術を対戦形式で教わっていた。
なのは「さぁ、この状況はどうする?」
シュミレーター上でなのはの陣営は遠距離型の魔導師が穹側の陣営を全員狙える位置からプレッシャーをかけて、スコーピオン使いの近接魔導師と弧月使いの近接魔導師が穹側の陣営に攻撃を仕掛けている。
穹「(遠距離からの援護がある以上そちらにも意識を割く必要がある。となると不安要素を取り除けば)…………よし、こうです。」
穹が選んだ戦術は『カメレオン』を使用したスコーピオン使いの近接魔導師を遠距離型の方へ向かわせ、相手の近接魔導師をレイガスト使いの近接魔導師と弧月使いの近接魔導師で足止めさせてその隙に遠距離型を倒す。
そして遠距離の援護を潰した上で残る近接型を倒すというものだった。
なのは「正解、遠距離型より近接型を倒すことを選んだ場合、援護射撃で不利になるからね。」
穹「ただそこにいるだけで相手にプレッシャーをかける。こんなやり方もあったんですね」
なのは「けど、それもそれなりに経験や知識がいるし、相手のレベルも考えなきゃいけないよ。教導隊でお世話になっている先輩の言葉を借りるなら『戦術で勝負する時は敵の戦術のレベルを計算に入れる』だね」
穹「なるほど…………………相手がどれくらいやれるかも計算に入れる必要があるってことか」
穹はシュミレーターのユニットが持つ弧月を見て、ふとある疑問が浮かんだ。
穹「あれ、なのはさん。弧月って外見をアレンジ出来ますか?」
なのは「ん?まぁ鍔着けたり色アレンジするくらいは出来るけど?」
穹「じゃあ、ユウさんみたいなアレンジも出来るんですか?」
穹は弧月を見て、ふと初めてユウと会った時に見たユウのアームドデバイスを思い出した。
しかし、ブレードの色や柄の形状が微妙に違うことに気付いた。
なのは「ああ、ユウさんのあれは弧月じゃないよ。全距離対応型アームドデバイス『風刃』、ユウさんが昔お世話になった人が作ってくれたユウさん専用のアームドデバイスだよ」
穹「見た目は弧月に似てますけど、やっぱり性能は違うんですか?」
なのは「うん、性能は弧月以上だよ。加えて風刃には固有魔法が内蔵されているの。『物体に斬撃を伝播させて、目の届く範囲どこにでも攻撃出来る』。攻撃に特化している分対応力に欠けるし一度に撃てる斬撃も限られてるから再装填の間に隙が出来るけど、それを差し引いても強力だよ。…………………………………何せ、4年前のJS事件で襲ってきた戦闘機人3人とガジェット数体をたった一人で倒したくらいだから」
そして、再び結界内、何が起こったのか解らず思考の止まった舞踏者にユウは風刃を振り下ろした。
ギリギリのところで我に返り、避けると自分の後ろにいたアイドラが再び真っ二つに切り裂かれた。
舞踏者(遠隔斬撃!?こんな隠し玉を!!)
処刑人「舞踏者下がれ!」
処刑人はケイを弾き飛ばし、再び距離を取った。
ケイ「久しぶりに風刃使ったな。まぁ出し惜しみしてられる相手じゃねぇか」
ユウ「次は人形兵器がケイさん足止めして、向こうの二人がこっち来そうだな」
ケイ「おいユウ、独り占めは良くねぇぞ」
ユウ「それ、敵さんに言ってくれます?……………そろそろ来るか」
二人が相手に視線を戻した直後、アイドラが一斉にケイに襲いかかり、ユウの目の前には舞踏者と処刑人が各々の武器を構えていた。
ケイ「結局予知通りかよ!おいユウ、こっち片付くまでにそっち終わってなかったら俺も混ぜろよ!!」
ケイは二本の弧月を構えて、襲いかかってくるアイドラに斬りかかっていった。
それと同時に処刑人はその爪をユウに向けてくる。ユウは爪を受け流して、更に死角から迫る魔力刃をレアスキルを使って回避する。
処刑人「この動き……………俺達の攻撃が"視えて"いるのか?」
ユウ「生憎、そういうレアスキルでね」
ユウと処刑人と舞踏者は刃を交えながら、結界内を飛び回る。
しかし、単純な力では処刑人の方が上だった。弾き飛ばされ、ユウはガレージの中に追い込まれてしまう。
処刑人「その若さで大したものだが、年季が違うのだ!もう逃げ場は無い!!」
処刑人は4本の爪を一斉にユウに向ける。しかし、ユウは自分の背後に刃を振るう。
斬撃は壁を伝わって天井を通り、処刑人の肩を切り裂いた。
処刑人「!!!!!」
ユウ「逃げ場が無いのはそっちだよ。少し熱くなりすぎたね」
ユウは再び風刃を振るう。壁と天井から斬撃が縦横無尽に襲いかかり処刑人を切り裂いた。
その時、その処刑人の後ろから3つの魔力刃がユウに襲いかかってくる。
舞踏者(こいつが遠隔斬撃を繰り出す毎に、刀身の光の帯が消えている。つまりあの光の帯が遠隔斬撃の残弾、ならば残り一本使わせれば!!)
舞踏者は魔力刃を4つ重ね、一つの大きな魔力刃にすると飛ばした3つの魔力刃を操って牽制しつつ大魔力刃をユウに飛ばした。
その隙に背後に回って至近距離から魔力刃を飛ばそうとする。
無論、ユウはこれを予知して背後の舞踏者に遠隔斬撃をぶつける。
しかし、それで良かった。これで次の遠隔斬撃は無いと確信したから。
肉を切らせて骨を断つ、光の帯はなくなって好機と見た処刑人は再び爪をユウに向けた時、舞踏者は違和感を覚えた。
舞踏者(待てよ、光の帯は最初は10本だった筈だ。アイドラに2発、処刑人に6発、俺に1発……………もう1発はどこに使った!?)
その答えはすぐに知ることとなった。処刑人のすぐ横の壁から足元にかけて1本の線が入っていて、そこを最後の1発の斬撃が通り、処刑人が気付いた時、4本の爪が切り裂かれた。
舞踏者(我々の動きを予知して、すでに斬撃をガレージの壁に仕込んでいたのか!?)
ユウ「あんた達は強い。管理局の精鋭、更にはエース・オブ・エースに勝ってもおかしくないけど………風刃と俺のレアスキルは相性が良すぎるんだ。悪いな」
デバイス設定
名称:風刃
使用者:ユウ・キリサキ
タイプ:アームドデバイス
術式:ベルカ式
ユウの持つ専用のデバイス、物体に斬撃を伝播させて目に見える範囲どこにでも攻撃出来る遠隔斬撃の固有魔法を内蔵している。
一度に撃てる斬撃は限られており、使用者の魔力量によって変化する。(ユウの場合、10発)