大和の弟じゃないの?
そう聞かれて、俺は驚愕した。
大和……戦艦大和に弟?
「大和」の姉妹艦は「武蔵」のみのはずだ。
……まてよ?何か居なかったか?
そこでまた俺の頭に情報が入ってきた。
大戦末期に、日本ではマル4計画というものがあった。まぁ所謂軍備拡大計画なのだが、そこに"第110号戦艦"と"第111号戦艦"というものが計画に組み込まれていたのだ。
それぞれ、大和型の3番艦と4番艦になる予定で建造され始めたのだが、悲しき事に計画変更が為されたのだ。
と言うのも、当時、洋上艦は航空機による攻撃に不利だった事が二隻の建造途中に露呈。現存艦艇の対空戦の弱さや空母の少なさもあり、計画変更せざるを得なかったという訳だ。
110号の方を戦艦から空母に改造し直す事で、「信濃」が完成した。
もっとも、信濃は配備から10日程度で潜水艦に沈められてしまったのだが。
そして、もう片方の111号は計画変更時に2割程しか建造されてなく、今更なので解体。
それにより余った資材は残存勢力の対空戦強化に使ったとかなんとか。
こうして、第111号戦艦というものは日の目を見る事なく幕を閉じたのでした。
おしまい。
「……じゃあ、貴方は大和の弟なの?」
「この艦の横っ腹に"BB-111"って書いてあったんだろ?じゃあそうなんだろうよ。」
俺は少女……H42を艦橋の中に招いて話していた。
彼女をソファーに座らせ、お茶を出した後に、俺は資料を漁る。
徐々にだが、俺のこの艦艇についてわかってきた気がする。
全長303.2m、全幅42.1m、吃水16.1m、基準排水量81800t。
大和の姉妹艦(弟艦?)でありながら、全長は約30m、排水量も約2万トンを上回る巨大な戦艦であった。
主力兵装は改19inch三連装砲2基、改17inch三連装砲2基。
その他の兵装としては改7inch三連装副砲2基、改5inch連装高角砲4基、改1inch三連装対空機銃が10基。
加えて、カタパルトが2基に艦尾方面に飛行甲板がついている。
現在、特殊攻撃機であり、大戦時に試作された"橘花"の改良型が20あった。
更に23inch艦首魚雷発射管が6門。その他、装備用とおぼしき設計図がいっぱい。
明らかに、大和を越えた戦艦……いや、航空戦艦か?
まぁ、第111号と書いてあるなら、姉妹艦でもなんでも良かった。
「…………。」
言葉もなく、こちらをじっと見つめる彼女の目に俺はドキリとした。
可愛い。一言で言えばそうだが、実際美少女なのかもしれない。
スラリと伸びた細めの手足に童顔ぽさは残るが整った顔立ち、巨乳という程ではなくても身長の割に膨らんだ胸、そして白さを帯びて煌めく長めの銀髪、妖艶な光を放つ紅い目。
……これは、ヤバいですよ?
だが俺は俺自身のエンジンをかけることなく理性によって鎮圧させる。
洒落にならない事はするものじゃない。
首を振って火照った顔の熱を払ってると彼女は言った。
「……子作りしたい。」
俺は盛大にずっこけた。
疑問じゃない、適当もしくは意志だった。
まぁこうなると冷静に成れるわけで……。
「なんでそうなんだよっ!?」
「……?」
俺がツッコミをいれると彼女は不思議そうな顔をする。
「……だって、格好いいって言った。」
「言ったな、それについてはお世辞だと思ってありがたく受け取っとくよ。」
「……本当に、格好いいよ?」
キョトンとした顔で言った後、優しく微笑みながら彼女は続ける。
「……一目惚れした。……だから、エッチな事して子作りしたい。」
どうしてこう一直線なんだろうか。
「あのなぁ……最近の人間?艦娘?は知らないけれども出会って直ぐにそういうのをするものじゃないんだ。それから、一目惚れしても性格とか器量とかぐらい見なさい?変な男掴まされて逃げられても馬鹿らしいでしょ?」
諭すように、丁寧に俺が言うと彼女は不満そうな顔をしていた。
「……変な男はそうやって注意しない。……それに私の直感は本物。」
数秒、静かになる。
「……わかった。……まずは友達から。」
「わかってもらえて何よりだ。」
「……そうしないと恥ずかしいの?」
彼女はニヤリと笑って俺に近寄ってきた。わかってなかった。
「……なんでそうなる。」
俺は資料集めに戻る。
彼女は背中に引っ付きベタベタと甘えてくる。
……集中できない。
「座っててくれ……頼むから……。」
「……そういえば。」
彼女が言った。
「……名前。……見つかってないの?」
第111号戦艦には明確な名前がなかった。
紀伊、尾張、三河と言った、旧国名からとった候補はあっても、決まらなかったのだからしょうがない。
「……どうするの?」
「うーん……どうすっか。」
3つのどれかにしても良いのだか、797号・798号・799号戦艦といった、"改(超)大和型戦艦"が来た場合に被っても申し訳ない。
なんせ、未完成の俺と計画のみのH42が今ここにいるんだ。あり得なくない。
そうだな……第二次大戦中に居なかった、被らなそうな名前をば。
そう思っていると彼女は。
「……フリードリヒ=ヴィルヘルムは?」
「なんで日本の艦艇なのにドイツ人の名前なんだよ……。」
流石ドイツ艦だ。ドイツの名前って格好いい人多いよな。
「……じゃあ、嘉永は?」
「年号と天皇名は避けた方がいい。死んだあとに明治天皇に怒られるかもしれない。大和型の流れを汲んで日本の旧国名が良いかも知れないな。」
と言うか、なんでこいつスラスラ出てくるんだよ。不思議だわ。
「……じゃあ、周防。」
周防……山口県の旧国名で、周防は第二次大戦中の艦艇には居なかったはずだ
「スオウ……周防か、良いかもな。それにするか。」
俺がそう言い、彼女が微笑んだ時に、艦が光った。
光は数秒で消え、妖精たちがワラワラ出てきた。
「スオウ!キマッタヨ!」
「ナマエキマッタ!」
「ナマエカイテオイタヨー!」
「ヤッタネーヨカッタネー!」
口々に、そんな事を言う。
艦艇は脇に名前が書いてあることがある。
さっきまでBB-111と書いてあっただろうその文字には、"周防"が書き加えられていた。
その様子を彼女の艦の甲板から眺める。
「本当だ。名前が書いてら。」
俺は少し嬉しくなっていると、少女に肩をツンツンとつつかれた。
「……私のも決めてほしい。」
ちょっと、むくれていた。可愛い。
「あー、H42だし……Hから始まる地名で取ろう。ハイデルベルクとかどうだ?」
「……わかった。……ファーストネームが欲しい。」
注文の多い娘だ。ドイツ人の女の子の名前とかわかんないしなぁ……。
「あー……うーん……。」
数秒考えて、決めた。
「ミュリエル……とかどうだ?」
「……わかった。」
彼女は笑った。彼女の艦が光る中、彼女は俺に抱きついてキスをした。
「……私は貴方から名前をもらった。……これで私は貴方と一緒。……絶対離さない。」
光が止むと、彼女はにこやかに微笑んで、俺の首筋を撫でながら繰り返し呟いていた。
「……周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防周防。」
ゾッとした。
可愛らしい娘が可愛らしい声で病的に俺の名前をずっと呟いているこの現実にだ。
俺はどうにかこの現実から逃れられないか考えていると、俺の艦の方の妖精が叫んだ。
「テキシュー!スオウモドッテ!テキシュー!」