ソードアート・オンライン Daydreamers ー牢獄に咲く花ー   作:夢の中の夢

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懲りずに二話目を投稿。


デスゲーム開始

 転送された先は先程の酒場から少し離れた街の中央広場であった。距離にすればほんの数百メートルほどの移動だ。

 見回せば石畳で舗装された広場のあちこちで光の柱が生まれ、プレイヤーと吐き出していっては消えていく。

 

 急速にその人口密度を増しつつある広場を見ていると、近くに現れた光の柱より友人が現れた。

 

「クリス、こっちだ!」

 

 声をかけるとこちらが向かうよりも先に、友人は駆け寄ってきた。すぐに私の目の前までやってきた友人は再会早々に尋ねてくる。

 

「一体何事かな、これ。運営の仕業とか。もしかして例のログアウト関連?」

 

「多分そうだろう。しかし予告もなしとか変な感じがするな」

 

 私の返事に友人もすぐさま同意を返してくる。

 

「そうだよね。そもそもわざわざ集める必要なんてないし。全域にアナウンスを一つでも入れたほうがいいはずだよね。予告もなしに転移とかかなり乱暴だなあ」

 

 確かに友人の言うとおりである。見たところすでに広場にはかなりのプレイヤーが転移してきていた。

 

 おそらくは全プレイヤーをこの場に集めて何らかの釈明をしようというのだろう。だがそんな手間をかけるぐらいならば、現在発生中の問題の通達を発信すれば充分である。戦闘中だったり、外に遠征していたりしていたプレイヤーからはかえって反発を受けるとしか思えない。

 

 正式サービス初日だから誠意を見せたのかもしれないが、それにしたってこの対応は妙だ。もしかしたらかなり重大な問題が発生したのかもしれない。

 

 友人とそんな会話をしている間に転移の波は終わり、広場はプレイヤーで埋めつくされた。おそらくSAOにログインしていたプレイヤーを全員この場に集めたのだろう。ならばその数はおよそ万にちかいはずで、相当に息苦しく感じる。

 おまけに突然の転移とログアウト不能の問題についてか、かなり殺気立っているようだ。

 

 広場のあちこちで運営に対する不満の声が上がり、苛立ちで満たされているのを感じた私は友人に提案した。

 

「ちょっと人が多くて気が散るから、隅のほうに行かないか?」

 

「賛成。なんか危なそうだしね。いつ爆発してもおかしくはなさそう」

 

 即座に提案を受け入れた友人は外を目指そうとしているが、人の壁に阻まれてなかなか前進できないようだ。一方私は慣れているため、そのわずかな隙間を見つけては、すいすいと抜けていく。

 

「なかなか便利な特技を持っているね」

 

 後に続いた友人が感心するように言った。

 

「自慢できるほどのものじゃないけどな。便利ではあるけど」

 

 異変が起きたのはあと少しで広場の外周というところだった。突然空を赤の市松模様が埋め尽くし、耳障りなサイレン音と共に彼処で文字が現れて点滅しだしたのだ。

 警告と告知の二文字が躍る中、広場の頭上の空が歪む。その歪みからたれ落ちるように真紅のコートが現れた。

 

「なにこの趣味の悪い演出は。それにあのロープはGM用アバターのものだろうけど、何で中身が無いの?」

 

「とりあえずアバターを出しておいたって感じじゃないよな。全員転送するぐらいの余裕はあるんだろうし。イベントか何かにしてはふざけているとは思うが、まあ見てれば何なのかは分かるんじゃないか」

 

 気味悪げに言う友人には賛成だが、とりあえず様子を見ておくことにする。不気味だろうがなんだろうが爆発しそうな状況を変えてくれるのならば悪くは無い。最も良いとも思えないが。

 

 万の視線を受け止めた紅のロープは無機質な声で語り始めた。

 

「プレイヤーの諸君。ようこそ、私の世界へ」

 

 アバターが最初に語ったのは突然の転移に対する侘びでも、起きている問題についてでもなかった。予想だにしなかった言葉に一瞬広場が静まり返る。

 だが紅のロープは気に留めず淡々と言葉を続けた。

 

「私の名前は茅場 晶彦。今やこのゲームをコントロールできる唯一の存在だ。」

 

 その言葉に友人が私のほうを向いて小声で聞いてきた。

 

「誰? 茅場何とかって?」

 

「知らん。どっかで聞いたことがある気がするが」

 

 小声で会話している間にも茅場と名乗ったアバターは説明を続けていく。ログアウト不能が本来の使用であること。外部から無理に解除しようとすればナーブギアに搭載された機能で脳を焼かれる事。脱出するにはこのゲームをクリアする事などが語られるたび、広場のあちこちから悲鳴が上がる。

 

 私も友人も小声で会話を続けながら、その一語一句に集中していた。だがしだいにこみ上げてくる感情を抑えるのに多大な労力を割くようになっていく。

 

「……なにこれ? ふざけてんの」

 

「落ち着け。いかれた狂人の言う事だが、とりあえず話を聞いておこう」

 

 HPが0になった瞬間にこのゲームからも現実からも退場すると聞かされた友人は押し殺せない怒りと共にその言葉を吐き出した。全くもって同感だったが、今は奴の話を聞き逃さないように意識を集中する。

 怒りに身を任せるのは全て聞き終えてからでもいい。

 

(開放の条件は百層クリアか。前提として一度も死亡出来ないとなるとこれは……)

 

 得た情報に重要度を付けて、まだなんとか冷静さを保っている頭の中で整理しながら考えをまとめる。しかしどう考えてもロクでもないことにしかなりそうになかった。

 

 やがてゲームの説明を終えた奴は最後にプレゼントがあると言ってアイテムストレージの中を見るように言った。

 

「どうする?」

 

 はっきりと不信感を露にした友人に対し、少し考えてから答える。

 

「見てみよう。今のところ悲鳴も上がってないし、それほど危険は無いはず」

 

 だが警戒を持って呼び出したのは何の変哲も無い手鏡であった。少々拍子抜けしながらそれを見ていたが、突然、辺りを光が包む。

 

「おのれ、茅場何とか! やっぱり罠か。時間差とは卑怯な」

 

 などと知った声が聞こえたがそれを確かめるよりも早く変化は完了していた。

 

 一瞬にして視界が低くなり、前にいたプレイヤーのつむじを見下ろす光景が一転して肩を見上げる高さになった。

 

 変化に慌てて覗き込んだ手鏡に写っているのは長身の男性ではなく、平均よりも背が低い世界で一番見慣れた男子の姿。すなわち現実でナーブギアを装着して布団に寝ているはずの自分の顔であった。

 

「ネットで顔バレとか、やる事がえげつなさ過ぎるだろう!」

 

 混乱のあまりどこかずれた感想を声に出しながらも、周囲を見回す。先程までとは男女比もイケメン率も大幅に変化した広場は、今では別の混乱が渦巻いている。

 

「……、これは参った」

 

 聞いた事のない低く透明感のある声が隣から聞こえてきた。友人がいるはずの隣を見るが顔が見えない。視線を上に向けると見覚えの無い女性がいた。

 

 短く切りそろえられた髪を長く伸びた指でいじりながら、困った表情で辺りを見回している彼女は可愛いというよりもかっこいいという形容が似合う美女である。

 無骨な皮装備と合わせてまさに男装の麗人といった感じだった。

 

 その彼女は視線を下にずらし、私の姿を認めると何故か軽い笑いを浮かべてきた。その苦笑とも微笑とも取れる笑いは紛れも無く友人のものである。

 

(あれ、女性? しかもカッコイイ系の。コイツ、男性じゃなかったのか。……いや、深く考えるのはよそう)

 

 とりあえず苦笑を返しながらもそのことについては触れるべきではないと即座に決意する。色々過去に幾度と無くかわした馬鹿話(女性には聞かせたくないものも多数)をした事実もついでに封印しておく。

 

 何か言いたげな友人を自己保身も兼ねて手で制すると、ひとまず上空を示して赤フードに意識を集中するように提案した。友人もそのことに異論は無かったのか特に何も言わずに切れ長の目を上へと向ける。

 

 その間にも淡々とした口調で赤フードは言葉を続けた。この状況こそが望みと言った彼は最後にチュートリアルの終了と哀れなプレイヤー達の健闘を白々しく述べて姿を消す。

 

 それが長く続く事になるゲームの始まりであった。

 

 

 

 

 

 チュートリアルの終了と死を賭けさせられたゲームの開始を宣言した赤フード、茅場が姿を消した後、広場を埋め尽くしたのは混沌だった。

 

 悲嘆にくれ、地面を見つめて動かない者。感情のままに泣き、叫ぶ者。まだ事態を信じられないのか愛想笑いで周囲に見当違いの質問をして回る者。覚悟を決めた顔で広場を出て行く者。そして……。

 

「ふざけんな! こんなクソゲームになんぞ付き合ってられるか。とっととここから出しやがれ!」

 

「何が、私のゲームだ! 夢は寝てみるだけにしろや!」

 

「そうだ、そうだ! ちゃんと面出してもう一遍ほざいてみやがれ! このビビリが!」

 

 そして、アバターが消えた上空を睨んで拳を上げ、怒りのままに叫ぶ者達である。

 

 

 

 思いつく限りの罵倒を心の底から湧き出す怒りの衝動に乗せて空へと解き放つ。それはこの事態を引き起こした茅場何某への否定であり、奴が宣言したデスゲームの否定であり、そして奴が作ったこの世界への否定でもあった。

 

 しかししばらくするとその怒りの声も少なくなっていく。相変わらず怒りは心の中で渦巻いているのだが、それを乗せる罵りの言葉が尽きてきたのだ。

 空転する怒りが冷やされれば、己の語彙の少なさを嘆くべきか、それとも他人を罵倒する言葉の貧弱さを喜ぶべきかと言ったことを考える冷静さも戻ってくる。

 

 隣の友人はと見るとこちらはまだ元気に怒りと罵倒の言葉を投げかけていた。その豊富なバリエーションと人を射殺せそうなきつい視線でもって長身の美人が本気で相手を罵るその姿は、まるで鬼のようだ。

 心なし距離を取ったが、友人はそれに気が付かず怒りの声を上げている。

 

 もし言霊とやらがあれば数百回は呪い殺して地獄に叩き込んでもおつりが来そうなほどの叫びが放たれているが、現実ならばいざ知らずそもそも0と1で構成されたこの仮想世界にそんなオカルトめいた物があるはずが無い。

 

 先程アバターが言ったようにこの状況をも観察しているならこの光景と声によって気分を悪くするぐらいは出来るかもしれないが、奴が見ているという期待はできないだろう。

 

 そう考えるならばこの怒りも叫びも無意味なものかもしれない。だが思いっきり衝動に任せて沸き起こる感情を解き放ったおかげか、ある程度は落ち着いて思考する程度の余裕は戻ってきた。

 

 他人を罵倒して精神の安定をはかる行為は決して褒められたものではないが、まあ相手も相手だしかまわないかと自分を納得させる。

 それに多少なりとも嫌がらせにはなったはずだと信じることは決して無駄ではない。

 

 とはいえ、いつまでもここでこうして怒りの声を叫び続けているわけにもいかなかった。すでに日は落ちてきているし、刻一刻と闇が強まっている。今夜のねぐらを確保するためにもそろそろ次の行動をしたほうがいいだろう。

 

 まだ語彙の尽きない友人を促し、混乱に満ちた広場を後にする。まずは落ち着いて今後のことを考えられる場所に行こうと、先程強制退去させられた酒場に向かった。

 

 

 

 

 

「さて、どうしようか?」

 

 怒りで熱せられた心と頭を何杯もの水を飲み干すという行為でようやく冷やした友人は言った。私に対する問いかけと言うよりも、自分の思考が思わず口から漏れた感じだ。

 だが先程打って変わって静かな店内にはその声は思いのほか大きく響く。

 

 半数ほどのテーブルが埋まっているため、酒場の人口密度は決して低くは無い。しかしその誰もが顔を突き合わせて小声で話している。

 まるで盗み聞きされるのを嫌うかのようなその雰囲気は重く、この先に待ち受けているであろう困難と悲嘆を象徴しているかのようだった。

 

 だが目の前の友人はその雰囲気には待ったく毒されずに、普通に話しかけてきた。

 

「なあ、フツノ。君の考えはあるか。ああ、茅場が憎いとかは別で」

 

 ここに来るまでに互いの容姿の変化については関わらないという暗黙の了解がなされたためか、友人が接してくる態度も先程までと変わりなかった。

 代名詞が君に変わった事を除けば、ベータテストでイケメン兄貴と呼ばれていた頃の言葉遣いに近く、どうもこれが友人にとってのこの状況での在り方らしい。

 

「それは、今後どう動くってことか?」

 

 それに習って私も同じ対応をすることにした。現実の私に比べればぶっきらぼうな物言いだが、現実の容姿に強制変換させられてしまったこの状況でも、せめてもの抵抗としてキャラ作り(ロールプレイ)を崩したくは無かったのだ。

 

「ああ、そうだ。奴の言ったゲームクリアを目指すのか、それとも助けが来るのを待つのかってことさ。」

 

 先程まで罵声を吐いていたとは思えないほどの落ち着き振りを友人は見せた。切れ長の目にかかったしっとりとした前髪を払い、物憂げに飲み物を口にするその姿はなかなかに様になっている。 だが容姿はどうであれ、中身はあの友人である。見た目には騙されない。

 

「はっきり言わせて貰えばゲームに乗るつもりはない。それに救援を待つ以外に方法はない、と考えている」

 

 そんな感想は口には出さず、代わりに私は先程出した思考の結論を告げた。その言葉に友人は訝しげに反応を返す。

 

「へえ、随分と結論が早いな。それに奴の話では救援はこないと言っていたが?」

 

 当然の言葉だが、首を振ってその言を否定した。

 

「それはない。内部からだったら奴の言ったとおりのクリア方法しか脱出する術は無いだろうが、外部からだったら解決方法は無数だ。いくら奴がこの仮想世界で神を名乗ったところで現実ではただのイカレた一人の狂人にすぎない。まさか一人一人実際に見て回るわけでもないし、監視用のプログラム相手ならいくらでも誤魔化しはきく」

 

 SAOもナーブギアも市販品のため解析は可能だろうし、こんな事件を起こしておいて社外秘もなにもないだろう。それこそコードに一つに至るまで徹底的に解析されるはずだ。

 奴自身は分解も手を加えることもできないと言っていたが、所詮は融通の利かないプログラムのすることである。偽信号やダミーデータなど騙す方法は容易に思いつく。他にも茅場本人をとっつかまえて吐かせるなり方法は色々とありそうだ。

 

 人命がかかっている以上は慎重第一になるだろうから流石にすぐとはいかないだろうが、それでも放置されるほど小さい事件でもない。時間はかかるが脱出は可能だと私は見ていた。

 

 まあ最低でも数ヶ月はここに閉じ込められるだろうから苦労して入った高校も入学一年目にして留年決定だろうし、悪くすれば退学である。放任主義気味の両親にも心労をかける事になるだろうし、最近体調の良くない祖父の事も気になった

 

 来月に予定していた彼女とのデートも中止だろうし、その埋め合わせにかかる労力は考えたくない。そういえば今日あったはずの友人の告白の顛末も気になる。他の連中と共に色々とアドバイスをしたのだが上手くいったのだろうか。

 

 ずれ始めた思考を戻そうと飲み物に口を付ける。やっぱりまだ平静ではないようだ。仮想の世界ではあくまで気持ちだけだが、精神を静める動作に変わりは無い。

 杯の中身を飲み干した友人が新たな飲み物を注文してから私に向き直って言った。

 

「成程、まあ一理あるな。でもクリアのための手段は多いほうがいいんじゃないか?」

 

 黙って待つのは性に合わないのだろう。友人はそう言ってゲームの参加については考慮するように言ってきたが、あいにくその答えもすでに出ていた。

 

「それは止めたほうがいいだろう。はっきり言ってその選択は、死にに行くのと大差ないと思う」

 

「どう言う事だい? まあ薄々は分かるような気もするけど」

 

 思い当たる事があったのか友人もその意見については否定はしなかった。それを確固たるものにするために私は言葉を続ける。

 

「そもそもさっきの現実世界の対応のように、奴の言う事すべてが信じるに足るとは思えない。だまし討ち同然に死を賭けたゲームに強制参加させるような輩だ。いざクリア条件を達成しても反故にされるかもしれない」

 

 思わず強くなった語気を和らげるように飲み物を呷りつつ、自身の見解を話し出す。

 

「仮にクリアしたところで与えられるのはこのゲームからの解放だけだ。命がかかったゲームにしては奪ったチップと返すだけ。随分とお粗末な報酬じゃないか。」

 

「確かに。これだけの事をしておいて報酬もナシというのは気になるかな。」

 

「それにゲームに不参加でもペナルティについては話していなかった。これだけでもあのゲームは私達を上手く踊らすためのエサに過ぎないとしか思えない。ただ観察したいだけとのたまっていた開催者のあの言葉にいったいどれだけの信憑性があると思う?」

 

 先程の奴の話を思い出しながらの言葉だ。

 

 あのアバターはこの状況こそが自身の望みであると言った。つまり奴の言葉通りならばこの世界は実験動物(自分達)を閉じ込めて観察するための牢獄(ケージ)でしかない。

 奴にとってはその程度の価値しか持たないであろうプレイヤー相手にわざわざ褒美をくれたりなぞするだろうか。

 

「結局奴にとっては私達は代えの聞く存在でしかない。だからこそ万に近い数を集めたんだろう。そいつらが上手く踊ってくれたから開放しようなんていうやさしい奴なら、そもそもこんな事件なんて起こすわけがない」

 

 そこまで聞いていた友人は少し考えると聞いてきた。

 

「つまりあれか。君は茅場が全く信用出来ないと?」

 

「全くじゃない。命がかかっていると言った事は流石に嘘じゃないだろう。だからこそこうしてまだ解放されていないのだろうし。だが全てが奴の言ったとおりとも思えない。今のところは奴の話だけが唯一の情報となっているが、だからこそ迂闊に全て正しいと信じるのは危険だ」

 

 否定はして見せたものの、友人の言葉は本心を射ていた。結局のところ、私はこのSAOも茅場も何一つ信用していないのだ。

 

 未だ完全にバランス調整もされてないであろうゲームにだまし討ち同然に生を賭したゲームに参加させるゲームマスター。これで一体何を信じろというのか。

 

「第一、このゲームが本当にクリアできるかも疑わしい」

 

 私の言葉に友人は目つきを鋭くしてその続きを促した。

 

「正式サービスを開始したばかりでバランス調整も不十分とか、そもそも死に覚えなしのMMOなんて正気の沙汰じゃないって点は置いておく。だが仮に攻略を進めるとしても死というペナルティがかかっている以上その攻略には時間がかかる安全第一のチキンプレイに徹するしかない。」

 

「まあ、そうだろうね。本当のデスペナルティとくれば、いくらなんでも普通のゲームようなプレイは出来ないよ。君のいうとおり、石橋を叩いて、叩いて、叩きつくしてから渡るような攻略になるだろうね。」

 

「だけどそんな方法じゃ序盤、中盤はともかく終盤には絶対詰まるのは明白だ。当面の指針になりそうなベータの情報も昼間の事を考えれば何処まで当てにできるのか。ロクに情報も無い上にやり直しができず、ペナルティも重い。こんなんで本当にクリア出来ると思うか?」

 

 そこまで述べて改めて結論を告げる。

 

「高いリスクばかり目が付く割にリターンはイマイチ信用できない。乗る、乗らないが自由ならこんなゲームに命をかける気は、全く無い」

 

 ついでに言えば強制されたゲームなんぞ願い下げである。それが原因で命を落とすにしても、納得できないクソゲーに命を散らすよりは数倍マシだ。

 いくらゲームが好きだからといはいえ、まだ始まったばかりのこのSAOに命を賭けたいとは到底思えなかった。

 

 知らず知らずの内に語気が荒くなっていた私の話を聞き終えた友人は静かに言った。

 

「成程、一理ある。だがゲームに乗らず、救援が来るまで待つなら、その間は一体どう過ごすつもりだい?」

 

 友人のその言葉に水を一杯飲んでから答えた。

 

「死なない事を第一に考えて、とりあえず当初の予定通り生産でもして暇でも潰すか。最近ご無沙汰だった釣りに興じるのも悪くないな。ただその前にまず情報収集だろう。昼間のようなことがあるし、何処に落とし穴が潜んでいるのを知らずにいるのも危ない」

 

 とりあえず今後の私の方針は決まった。しかし目の前の友人はどうするのか、尋ねてみた。

 

「そうだな……」

 

 少し考えてから友人は答えた。

 

「私も奴のゲームに乗るのは止めておこう。他人に踊らされるのは好きじゃないし、つまらない事で命を落としたくも無い。せっかくだから協力しようか。情報も素材収集も人手は多いほうがいいだろう?」

 

 私と同じような行動の指針を決めた友人は善は急げと言って私を急かして店を出た。すでに今夜の宿は確保済みなので、とりあえず日が変わるまでの間に街中の情報を拾ってみよう、と言う事になったのだ。

 

 時刻は午後七時。混迷の夜はまだ始まったばかりであった。

 

 

 




まだ続きます
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