ソードアート・オンライン Daydreamers ー牢獄に咲く花ー   作:夢の中の夢

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来週中にあげる?気がつくと半年が過ぎてました。


旅立ち

 サーチライトの活動は日々を得るごとに拡大していったが、他にも支援や互助を目的とした組織が次々とはじまりの街に現れた。

 

 あるものはアイテムやゲーム内通貨であるコルの収集と再分配を行い、またあるものは大パーティーを組んでフィールドに繰り出し、リスクを分散して安定した稼ぎを得ることを考える。さらにはプレイヤーの悩みを聞く相談所のような活動を始めるものもいた。

 

 だがそうした組織の増加にも関わらず、犠牲者の数は増え続けた。一日に出る数こそ徐々に減少していったが、それでもまだ二桁に上る数の名前が石碑より消されていく。

 

 その原因のほとんどはモンスターとの戦闘によるものだったが、しかし少しづつそれ以外の死因が石碑に記されるようになっていった。

 

 二度目の「高所落下」の文字が石碑に刻まれたのはゲーム開始より8日の夜の事だ。知らせを受けて広間へと駆け込んできたカインは、その文字とその横に刻まれたプレイヤーの名前を前に動きを止めた。

 

 凍り付いたように固定されたその表情には何も浮かんではいない。だがその内心が後悔の念で荒れ狂っているであろうことは初日の顛末を知っているもの全員が理解していた。

 

 それからカインは情報公開担当者全員を使って再度初日の飛び降り事件についての顛末と後に続かないようにとの警告を念入りに広めさせるとともに、自らも積極的に外周部の見回りを率先して行うようになる。

 

 それはこれ以上友と同じ末路を辿るものを出したくないという彼の強い願いによるものからだろう。だがその後も死因として「高所落下」の文字は石碑に刻まれ続けた。そしてその度にカインはその前でただ一人、心の中で後悔の涙を流し続けていた。

 

 その姿に私や友人を始め、皆やりきれない思いを抱いていたが、しかし彼を救う言葉を持つ者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 日々確実に増える犠牲者の他にも頭を悩ませる問題は多かった。例えば急激に大きくなった組織のゆがみや、メンバー同士の衝突に、生産のためのアイテムの収集量の不足。次々に積み上げられていく情報の山と、それを検証し確認する調査班の被害など。

 

 はじまりの街周辺のフィールドはゲーム開始一週間以内には一通り調べつくしたため、その後は徐々に調査の手を外へと広げていった。だが街から遠くなるほどにモンスターは強くなり、往復のための時間もかかるようになる。

 探索時間に比例するように危険は大きくなり、メンバーや協力者の中には帰って来ないものも出始めた。

 

「今回も無事に帰って来れたか。」

 

「ああ。そっちも無事で何よりだよ。」

 

 ある日の事、数日ぶりに私は友人といつもの酒場で話していた。サーチライト活動初期は共にパーティーを組んで行動することが多かったが、参加メンバーの数が増えたことで今はお互い別のPTを率いているようになっている。

 

 私や友人の班はサーチライトでも戦闘力に長けているものが多いため、必然遠方の調査を頼まれることが多い。事実、昨日も街に帰還したのはもう日付も変わるころだった。

 起きたときにはもう午前も半分は過ぎていたが、空腹感を避けようと向かった酒場で偶然食事中の友人と会ったのだ。

 

「ところで聞いたかい、クローネのPTの話。」

 

「ああ、ここに来る前に寄った本部で聞いた。二人帰って来れなかったらしいな。」

 

 だが会話は自然と仲間や知り合いの死についての話に行きついてしまう。現状を考えれば仕方ないとはいえ、それでも慣れることはなかった。

 それを振り切ろうと明るい話題や、馬鹿話に興じてみようとしてもやがてはそこに戻ってしまうのだからなおやりきれない。

 

 積極的に情報をかき集めようとするサーチライトの面々は必然として「ゲームオーバー(この世界での死)」に触れる機会が多い。

 

 この仮想世界についての話題の大半が暗く陰鬱の方向に引きすられてしまうのは当然だった。

 

 以前はそういった話題から逃げるために支障にならない程度に現実についての話題を転換することが多かった。それも趣味だったり流行の音楽だったり、テレビや漫画などについての軽いものが大半だ。

 

 しかしすでにゲーム開始から二週間近くが経過している。現実から切り離される時間が長くなるにつれ、その方法にも無理が出始めてきた。

 

「ああくそ、期末まであと三週間を切ったか。そろそろ試験勉強に入っておきたいんだが、ここじゃそれもできない。どうにかできないものか。」

 

「ああ、君は高校生だったな。外部から隔離されているから参考書も何も無しだと厳しいだろう。というか勉強が出来たとしても試験は受けられないのでは。」

 

「いや、それまでに助けが来ればあるいは。いやそれでも事情聴取やらで無理か。あれ、だとすると試験はどのみち受けられないから、まさか留年決定か。ゲームやってて留年しましたとか笑い話にもならないんだが。いや中間は良かったからそれでなんとか……いや無理か。おのれ茅場ぁ……。」

 

「まあ、私はもう今年の進級は諦めたよ。今更やつをつるし上げたところで時間は戻らないし。……ああでも駄目だ、やっぱり奴は許せん。せめて無駄にした学費分ぐらいは払わせてやらないと。」

 

 

 今度は現実への不安の話で盛り下がっていると、不意に店先が騒がしくなる。やがて姿を現したその原因は今ここにいるはずのない仲間達の姿だ。

 殺気立って入ってきた様子にただならないものを感じたのだろう。一団の先頭に立って歩いてくるプレイヤーに友人が駆け寄って話しかけた。

 

「どうした、パイル。まだこの時間は初心者向け訓練の最中だろう。何かあったのか。」

 

 その問いに対する答えは短かった。

 

「……中止になった。」

 

「中止だと。なんでまた。」

 

 その答えに驚いた私も尋ねると、彼は他の教導メンバーを解散させて近くの席につく。そして私と友人を向かいへと誘った。

 

 私たちが席に座ると、パイルは注文した水を怒りを奥に押し込めるかのように一息に飲み干した。それからようやく彼の怒りの原因について話し出す。

 

「さっき、俺たちがいつものように参加者をつれてフィールドに出ていたときのことだ。いきなり十人ばかりのプレイヤーがやってきて追い出そうとしやがった。当然、険悪な雰囲気になったんだが、こっちは参加者を危険にさらすわけにはいかない。結局早めに切り上げてくるしかなかった。おまけにその連中は今もそこに居座り続けてな。カインと相談して午後からのは取りやめになったんだ。」

 

 そこまで一気に話すとパイルは疲れたとばかりに肩を落として見せた。その様子から今の話以上にもめたのだと想像がつく。

 

「どこの馬鹿だい。そいつらは。」

 

 友人がそうパイルに尋ねた。笑ってはいるがその内心は明らかに怒っている。答えによっては直接乗り込んで叩きのめしに行きそうだ。

 だがパイルは思案しながら答えを返した。

 

「多分、シンカーのところの連中だろう。資源の分配が云々って言ってたし、何人かの顔にも見覚えがあった。さっき話を聞いたカインが数人を連れて直接連中の本拠に乗り込んでいったところだ。その決着がつくまでは待機してろと言われたんでここに来たんだが……。」

 

 そう言ってパイルはため息をついた。

 

 二日目以降は順調にその参加人数を増やしていった彼発案の訓練であったが、ここ数日は問題続きだったらしい。長くフィールドを占領する形になるため、他の組織の連中とのイザコザも起きるようになったと聞いている。だが今回ばかりは少しばかり不味いかもしれない。

 

「シンカーというと確か攻略サイトの管理人をやっていたって噂のやつか。組織名も同じ<トゥデイ>だったかな。」

 

「確かそうだ。結構大きいところだが、だとするとカインは大丈夫か。」

 

 一応様子を見に行ったほうがいいかと友人と話していると、パイルがポツリと残念そうな声をもらした。

 

「潮時かもなあ……。」

 

「「……」」

 

 その言葉に込められた感情を感じ、私も友人も沈黙でしか答えを返せなかった。

 

 はじまりの街は既知の部分ではこのSAOで最大の規模を持つ。直径数キロの半円状のこの街は今もその内部に6千人以上のプレイヤーをその内側へと収めている。しかし街近郊のフィールドやダンジョンから得られるアイテムだけではその全員を養うには到底足りない。

 

 サーチライトや他のいくつかの組織によって初心者向けの訓練が行われ、それによって街の外に出てコルを稼ごうとするプレイヤーが増えたのは喜ばしいことなのだが、街周辺から得られるアイテムやコルの量には限りがある。

 需要に対し供給量が不足しているためにアイテムやフィールドを巡って些細とはいえいさかいが起こっているという情報も聞いていた。

 

 なお悪いことにこのSAOは街とは違ってフィールドには安全圏が設定されておらず、相応のペナルティがあるとはいえ他のプレイヤーを攻撃することもできるのだ。

 今のところはそのような事態には陥ってはいないが、将来的にどうなるかはわからない。

 

「面倒な事になりそうだな。」

 

 憂鬱そうな友人のつぶやきに私もパイルもただ沈黙するのみであった。

 

 

 

 翌日、事態は大きく動いた。

 

「はじまりの街における支援組織の再編の呼びかけ?何だそれは。」

 

 事の顛末を聞きにきた私達三人はカインのその言葉を聞き、そろって声を上げる。どうやら仕掛け人は件のシンカー氏のようで、昨日直談判に言った際に持ちかけられたそうだった。

 

「そんな事より、昨日の一件はどう始末をつけんたんだ。まさか泣き寝入りした訳じゃないよな。」

 

 昨晩の集会で初心者訓練の休止を宣告されたパイルが詰問する。今まで力を入れていた活動が停止されたためか、その口調はきつく、苛立ちが見えた。

 それを知っているカインもすぐに強いの否定の言葉で答える。

 

「そんな訳ないでしょう。話を聞いたシンカー氏は問題の連中をその場に呼びつけて補佐の人ともども謝罪してきましたよ。まあ彼らは不満そうでしたが。」

 

「おい、まさかそれだけで終わらせたのか。」

 

「いいえ。こちらで迷惑を被ったのはパイルさんだけじゃありません。訓練に参加していた人たちも迷惑したんです。その補償としてかなりの量のコルやアイテムを請求した上で、今回の一件の一部始終もすべて公開することを約束させました。」

 

 パイルの問いにカインはひやりとするような返事を返す。顔に微笑を浮かべていても、目は全く笑っていない。パイル以上に支援活動にずべてを注いでいる彼にとって今回の一件は相当に許しがたかったのだろう。むしろこの程度ですんで良かったのかも知れない。

 

 とりあえず昨日の件についての決着はついたようなので話題は初めに戻った。

 

「それで、支援組織の再編だったかな。そっちはどうするつもりなんだい。」

 

 友人の問いかけにカインは少し難しい顔をして腕を組んだ。

 

 呼びかけをしてきた相手に多少思うことはあるだろうが、その内容自体は納得のいくものだ。少なくとも感情的に蹴っていいものではないだろう。

 

 向こうがこちらの要求をほとんど飲んだのも、これが原因でこじれることを嫌ったのかもしれない。もしそうならば相手はかなり本気だろうということが伺える。

 

 それを察した私達はとりあえず自分達のリーダーの見解を先に聞くことにした。考えを出すのはその後でいいだろう。

 

 そもそもこの活動を始めたのはカインであり、最も精力的に活動しているのも彼だ。だからこそ目の前のプレイヤーの一言はサーチライトの方針に大きな影響を与える。そしてそのことを重々承知しているカインは慎重な答えを言った。

 

「少し考えさせてください。とりあえず明後日にある第一回の話し合いを聞いてから決めます。その日の夜の集会で最終的な決定をしましょう。」

 

 彼の答えに私たちは黙って引き下がった。

 

 

 

 翌日私はまだ朝早くから宿を出た。向かう先は黒鉄宮、その石碑の間だ。初めて訪れたあの夜以降も何度か私はこの場所に足を運んでいた。

 

 早朝ともあってか、その空間はあの時と同じ冷たい静寂を保っている。その中で時間の経過を示しているのは石碑より横線で消された名前の数とその前におかれた粗末な献花台だけだった。

 

 少ないながらも色の絶やされないその台上に私はオブジェクト化した白い花を足す。植物系モンスターからドロップするこのありふれた小さな花。特に使い道もないこのアイテムをストレージを圧迫すると知りつつ常備するようになったのはいつだっただろう。

 

「捧げる名前もそのための花も何もかもが偽者の世界じゃ、ただの現実の真似事でしかないんだろうけどな。」

 

 そんな疑念も抱えつつ、しかし私はそれでもそうせずにはいられなかった。特に仲間や知り合いがこの冷たい名簿より消された日ならば尚更だ。

 

 まだ日も昇らないうちとあってか、小さな篝火がいくつか焚かれているだけの石碑の間は薄暗く、私の他には誰もいない。その揺れる明かりに照らされた表面に私は新たに横線で消された名前を見つけた。

 

 その名前を持つプレイヤーがこのSAOより退場したのは昨日の夕方ごろのことだ。前線近くのダンジョン内で疲弊したところで仲間をかばってやられたらしい。

 

 サーチライトのメンバーではなかったものの、活動初期から情報の検証などを手伝ってくれた協力者であり、幾度か共にパーティーを組んでフィールドやダンジョンを調査した事もあった。

 このような状況下でもよく笑い、出来のよくない冗談で持って皆を笑わせようとしていた気持ちのいい青年だった。

 

 もはや過去形でしか語られない彼の思い出にしばしふけったのち、外に出る。その足で行き着けの酒場に行くと奥の席に友人がいた。1人でコーヒーらしきものを飲んでいる。

 

「ここ座らせてもらうぞ。」

 

 一言断ってその前に座った私に、友人は視線を合わせず、静かな声で聞いてきた。

 

「お参りか。」

 

「ああ。所詮はただの自己満足なんだろうが、どうしてもやめる気にはなれない。」

 

 そのやり取りだけで会話は終わり、後は互いに無言で過ごした。私は注文した朝食を口の中に入れ、友人は黙って苦手なコーヒーを飲んでいる。

 

 人が今はいないものに想いをかける時の行為は様々だ。私のように花を捧げるものもいれば、目の前の友人のように一杯で意を示すものもいる。

 

 何もかもが偽者の世界では外見や形にこだわることに意味はない。ただ私達を動かす意思と内より湧き上がる感情、そしてそれが引き起こす行動のみが本物で、今はそれだけが信じられた。

 

 

 

 

 

 それから数日後のこと。黒鉄宮の一室でシンカーの呼びかけによるはじまりの街の支援組織の集まりが開かれた。サーチライトからはカインの他、私や友人など数名が参加した。

 他にも街で支援活動をしている組織の主なところは出席したようだ。

 

 集会が始まり、シンカーが自ら台上に立って各組織の合流と活動規模の拡大を訴えた。彼が言及したとおり他の組織とのイザコザやプレイヤーとの確執が生まれてきており、今一度現在の活動を見直す必要を感じていたのか、その演説に対する拍手は小さくなかった。

 

 しかし中にはその言葉に感銘を受けないものもいた。カインもその1人だ。

 

「だめですね。あれでは。」

 

 集まりの解散後に開かれたサーチライトへの集会にてカインは自ら感じたことを述べた。

 

「組織の合流によってより効率的な運営と活動範囲の拡大をうたってはいますが、結局はシンカーや他の協力組織への吸収を呼びかけているに過ぎません。アイテムやコルの収集や公平な分配を掲げている彼らですが、今のままでは活動の規模も人員にも限界が見えてきているのでしょう。」

 

 そこでカインは一度ため息をついた。

 

「今後、街の外にでるプレイヤーが増加すればますます活動が難しくなります。その前に再編によって一大組織を築き、それを背景にフィールドの占有やそこで得られるアイテムの独占というのが彼らの目的でしょう。担がれているシンカー氏やその副官のユリエールさんの思惑はともかくとして他の推進派はその勢力をいいようにしたいとしか思っていないでしょうね。」

 

 そしてシンカーにそれを抑える力はない。小組織の長としては優秀でも、大組織の指導者としては足りない。カインはどうやらそう見たらしい。

 

「それじゃあ、どうするんだ。問題は解決しない。それどころか今後の活動はますますやりにくくなるとしか思えないんだが。」

 

 パイルの言葉にしばし考えた後、カインは決意を秘めた顔で話し出した。

 

「皆さんに一つ提案があります。」

 

 この場に集った面々の顔を一通り見回して最後の躊躇と振り切ったカインは強い口調で宣言した。

 

「この街から出ます。サーチライトは今後、活動の拠点を別の街に移しましょう。」

 

 

 

 驚愕の空気の中、カインは話を続ける。

 

「今までの活動によってここ、はじまりの街周辺の調査はあらかた終了し、また戦闘方法などの基本的な情報類も大分広まりました。それと同時に街を出る人も増え、攻略の前線もまた北上して距離が開きつつあります。」

 

  移動のための時間や危険を減らそうというカインはさらにこの街に留まる事の問題について言及した。

 

「シンカーさんが作ろうとしている組織はまず間違いなくアイテムやコルの収集と分配を主活動に据えてくるでしょう。それでもしばらくは彼の言う通り多方面の活動も継続されるとは思います。ですが収集活動に充てられる人員と街周辺から供給されるアイテム類の量を考えれば、いずれ手が足りなくなるのは明白です。そうなれば彼らは他の活動を取りやめて、自分たちの活動に協力するように強いてくるのが容易に予想が尽きます。結果として私たちは今の活動を中止して、彼らの良いように使われるだけの存在になってしまうでしょう。」

 

 私たちの今までの活動は主に情報の収集と公開に目的を絞っていた。生産や初心者訓練にも手を出してはいたが、あくまでもそれは主とする活動の補助として余力を当てていただけで、大抵は他の組織との協力によって当たっていたのだ。それは活動の規模を拡大により、支援組織を混乱させ、かえって本来の目的を損ねてしまう危険をカインが考慮したからだった。

 

「私には大勢の人を纏め上げて、言うことを聞かせ、組織の暴走を制御する自信が無かったので。あくまで自分の目の届く範囲での活動に専念することにして、それ以外は他の人や組織の手を借りることにしたんです。」

 

 とは以前彼が語った言葉だが、実際彼はサーチライトの活動以外の分野にも無関心ではなかった。

 忙しい中でも時間を見つけては、他の活動を行う組織などとも積極的に交流し、互いの状況を確かめながら立ちはだかった問題に当たっていたのをメンバーの誰もが知っている。

 

 この集会の前にカインの考えを聞かされていた1人である私は彼が何を懸念しているのかが分かっていた。

 

「シンカーがやろうとしている支援組織の統合による活動の効率化と活動規模の拡大にはメリットは多々ある。しかしそれ以上にカインが危惧したのは再編後の組織の暴走だろうな。」

 

「確かに。表面上は大分治まったとはいえ、混乱は続いている。状況にヤケクソになっている連中も徐々に増えていると聞いているしな。下手に一大組織を作ってもこれでは相当上手くやらないと良くて空中分解、悪ければ暴走を制御できずにかえって被害を大きくするだけ、か。」

 

 友人が指摘した問題を防ぐには力のあるリーダーの存在が不可欠だが、シンカーやそれを支える陣営にはそれは出来ないだろうというのがカインの最終見解で、それには私も友人も同意見だった。

 

 もともとカインは初日に起きた友人の飛び降り事件を契機にサーチライトを立ち上げたのだ。そして混乱と自暴自棄を土壌にして引き起こされる暴走を防ぐために今まで奔走していた。そんな彼にとって危険の大きいシンカーの唱える組織の再編に乗ることは出来ないのは当然だった。

 

 そしてその手を取らないかわりに彼が選んだのが、拠点の移動とそれに付随する街の過密状態の解消だった。もしこの集会でその承認が得られれば、付き合いのある協力組織や協力者達にも同じ話を持ちかけるのだと聞いている。

 

 

「現在のはじまりの街の問題の多くは人口密集と安全地帯から得られるアイテム類の供給力不足が原因です。ならばまず私たちが先に外に出て、後に続く人たちの助けになるべきでしょう。」

 

 そう言ってカインは一層の地図をテーブルの上に広げるとその中央に近い町を指さして言った。

 

「移動先の拠点はここ、湖のほとりの町メダイがいいと思っています。他の村や町とも距離は等しく、この第一層の町村の中でも二番目に大きいのが理由です。また少しですが生産系の設備もあり、平原や湖のフィールドから得られるアイテムも多いです。規模や場所の問題から生産系や一部の部門は当面、はじまりの街に留まってもらいますが、他の部門は再編と同時に拠点をこちらに移すのはどうでしょうか。」

 

  街の過密化が解消されない理由が他の町や村への移動を危険だと感じるプレイヤーが多いからということをサーチライトはすでに掴んでいた。しかし大規模な移動ならばそういった人達も時期を合わせて行動しやすくなる。

 

 幸いといっていいのか、このSAOの一層は倒したモンスターが復活するリポップ量はあまり多くなく、アイテムなどの供給量の不足の原因にもなっている。そのシステム上の制約を利用すれば比較的安全に移動することが出来るだろうとの目算もあった。

 

 突然のカインの提案だが、メンバーは戸惑いながらも最終的にはその提案を支持する。この街での活動に限界を感じるものも多く、またシンカーの唱える組織再編に参加してもいいように使い潰されるだけだとメンバーの多くは判断したのだ。

 

 生産系などの一部の部門はまだ当面ははじまりの街を中心に活動していくだろうが、それもいずれは街の外へ移転することになる。

 

 

 

 翌日、メンバーが慌しく拠点移動のための準備を始める中、カインは数人の供を連れてシンカーの元へと向かった。

 

 街を出るという話を知ったシンカーは引きとめようとしたが、それで方針が覆るわけもない。それから数日の内にはサーチライトに続いていくつかの組織も街を出ることを表明し、彼らの考えていた再編計画も中途半端に終わることになった。

 

 最も統合する組織が減った分、管理や制御もしやすくなるはずなので、実はシンカーにとってもよかったかもしれないと後にカインは言っていた。

 

 街での情報の収集と公開や生産スキル取得者による活動は続いていくが、今後は新たに本拠となるメダイ以外にも支部や出張所のような小さい拠点が置かれ、そこを中心に活動をおこなっていこうという方針になっている。

 

 

 

「さて、行こうか。」

 

 慌しく日が過ぎた数日後。朝早くから私と友人は街の門の近くにいた。周囲にはざっと三百人近い人が集っている。この全員が街を出て、新たな場所を目指す者たちだ。この後にもカインやパイルが率いる本隊が続き、また同行する他の組織やプレイヤーも紛れている。

 

 今回の移動で少なくとも合計千人以上がこのはじまりの街から他の村や町に移動する予定だった。そうした人々よりも先に私や友人は見送りにきた残留組や、シンカー達に手を振って門を抜ける。

 いくつかのPTは先行して集団の先導と露払いを行うことになっており、私や友人もその一員に数えられていた。

 

 街から少し離れた場所で最後にもう一度、振り返った。石造りの外壁に囲まれたこの街で私達は二週間近くを過ごし、そして6千人近いプレイヤーが今後も生活していく。

 

 これまで多くの絶望と後悔があり、それに比べて数少なくとも希望や喜びがあった日々が一瞬脳裏に駆け巡った。それも今日で終わりだと思うと不思議な感慨が沸いてくる。

 よくもまあここまでのりこえてきたものだ、とかああこれから一層きつい日々がやってくるんだろうなといったとりとめない思考や感情に僅かの間、私は浸る。

 

「今後はこの街に『来る』ことはあっても『帰る』ことは無いんだろうな。」

 

 隣で同じように街を見ていた友人がポツリと呟く。同じ事を考えていたのだろうかその口調にはどこか寂しさが感じられた。

 

「行こう。」

 

「ああ。」

 

 その短い言葉を別れとして私と友人は街に背を向けた。多くの後悔と些細な喜びに彩られた道のりはまだまだ続くだろうが、それでも私達は新たな一歩を刻んで前に進もうとしていた。




今回の投稿に合わせて、過去の分もちょっと修正。次はいつになるやら。
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