ソードアート・オンライン Daydreamers ー牢獄に咲く花ー   作:夢の中の夢

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一ヶ月ぶりの更新です。でもやっぱりアレな内容。

一応、キャラ崩壊の危険ありと言っておきます。


懇願

 再会の機会は思ったよりも早く訪れた。前回から四日後、ディアベルからまた会いたいというメールが来たのだ。

 

 大事な頼みがあるという一文に嫌な予感を感じつつ、私と友人は現在の攻略の最前線であり、一層最北の町トールバーナに向かう。

 そこで私達を待っていたのは、ほとんど土下座に近いディアベルの懇願であった。

 

「頼むっ! 前線の攻略に手を、貸してくれ。筋違いとも、恥知らずとも分かっている。だけど、頼む! もう、これ以上攻略を遅くするわけにはいかないんだ!!」

 

 到着早々に彼の仲間達に案内された宿の一室。その床に幾度となく頭をこすり着け、すり減らした心から絞りだすような悲痛な声でかつてのマスターは嘆願を向けてきた。

 予想もしなかったその事態に私も友人もしばらくはただ立ちすくむことしか出来ない。

 

 その場には彼の仲間も何人か同席しているが、誰もその行動を止めようとはせず、ただ黙ってその光景を見ていた。

 

 おそらくディアベルに止められているのだろう。しかしその表情は崩れ、固く握られた手は細かく震えている。

 それは恥も外聞も捨てた自分達のリーダーに対するそれぞれの内心を表しているかのようだった。

 

 しかし今まで率いてきた仲間達に情けない姿を見せることも躊躇わず、ディアベルは必死の懇願を続ける。

 

 もはやそこにはベータテストの時に穏やかな顔で笑い皆を支えていた元マスターの姿も、デスゲーム開始から必死で仲間を鼓舞しその先頭に立って攻略を進めていた勇士の姿もなかった。

 

 いたのは焦りと絶望に心を蝕まれ、崖っぷちまで追い詰められた哀れなプレイヤーがただ1人。

 

 こんな彼を見たくはなかった。だがかつての仲間を、今のこの状況を切り抜ける力の一因を担ってくれた恩人をここまで追い詰めた原因の一端は間違いなく私にもある。その事実から目をそらすわけにはいかない。

 

 誰もが言葉を捜して見つからない静寂の中で、唯一行動を起こしたのは友人だ。その静かな、しかし確固たる足取りでディアベルに近づくと、膝を突いて顔を上げた彼へ目線を合わせる。

 

 そしてそのまま手を回し、無言で抱きしめた。

 

 その抱擁は普段の凛々しさとも屹然さともちがう、優しさと労わりを感じさせるものだった。しばらくそのままの体勢で腕の中のディアベルを落ち着かせた友人は、ややあってまわしていた手を離した。

 

 再びディアベルに向き直った時にはすでに友人の顔にはいつもの笑みが戻っている。まるで先ほど見せたものが幻かとおもうほどに、彼女は普段どおりの気取った口調でディアベルの頼みを受けてみせた。

 

「分かった。協力させてもらおう」

 

「っ?! あ、ああああ!?……あ、ありがとう。ありがとう」

 

 その言葉にディアベルはただ感謝の言葉を繰り返し、歪んだ顔を手で覆う。

 

 その様子から目をそらすようにこちらを見た友人に対し、私も覚悟を決める。一つのうなずきを返してそれを伝えた後でディアベルへと向かって言った。

 

「私も協力しましょう」

 

「本当かい? 本当に、本当にいいのかい……」

 

「ええ。あなたにはこれまで随分と助けられているし、前線の情報提供や危険度の高い調査も引き受けてもらいました。どれだけ力になれるかは分かりませんが、私でよければ……」

 

 半ば言い訳じみたその言葉はかつての選択を曲げた自分に言い聞かせるためでも、共に命を預けあって戦うことになるであろう彼の仲間に向けたものでもない。

 ただ目の前の男の後悔を軽くするためだけのものだ。

 

 ディアベルの感謝の嵐から逃れるようにその場を辞した私と友人は早々に宿を出る。見送りに出てきたのだろうか。仲間と連れたディアベルが何度も頭を下げているのがちらりと後ろに見えた。

 だが私も友人も、振り返ろうとはしなかった。

 

 そのまま足早に町から出た私と友人は無言の行軍を続けて本拠に戻った。町に入ると、普段とは違う雰囲気を感じたのか何人ものメンバーが幾度となく気遣いの声をかけてくる。

 だが今の私に返事をする余裕はなく、なんとか短い言葉を置き去りにするので精一杯であった。

 

 一方の友人はずっと黙ったままで、ようやく口を開いたのは借りていた部屋に飛び込むように入り、鍵をかけたその後だ。

 しかもそこからもれたのは明瞭な言葉ではなく奇怪な呻き声だった。とはいえそれが一体何に由来するものかという疑問を問い詰める余裕も気力も、今の私には残っていない。

 

 それからしばらくの間、部屋には奇妙な時間が流れた。ようやくそれが終わったのは友人が何とか自分を取り戻してからだ。

 

「……いいのか?」

 

 備え付けのベットに身を投げ出すようにして苦悶の唸りを上げていた友人がふと言葉を向けてくる。

 

 うつぶせのまま表情が見えない友人の問いかけに対し、頑丈な椅子の上にへたり込んでいた私は、なんとか肩をすくめて答えてみせた。

 

「他に認められた『お人好し』としてはあそこまでされたら断れない。それにウチのメンバーは巻き込まない。あくまでも私達だけの協力だ」

 

 そこで一息きると、今度は私が問いかける。

 

「そっちこそいいのか? 分かっているんだろう」

 

「……何を?」

 

 返ってきた友人の声は固かった。問いに対する答えではないが、それだけで友人が承知の上でディアベルの誘いに乗った事を知る。

 

 それ以上の会話を止めてため息をついた。

 

 例え偽者に囲まれていようと、本物たる私達は変化せずには居られない。それが良くとも悪くとも生きるとはそういうことなのだろう。

 

 積極的に状況に染まることを選んだもの、かつての自分を保ち変質しないままに現実にもどろうとするもの。大小の差異はあれどそれぞれの在り方も、心も同じである。それはかつてマスターと読んでいた人でも例外ではない。

 

 暗い思考を断ち切るように首を振ると、勢い良く立ち上がる。椅子が倒れた音を景気づけに利用して私はのろのろと顔を向けてきた友人へと声をかける。

 

「……とりあえず、カインに報告だ。あとはウチの班員達とも。こうなったら悩む時間も惜しい。何とか説得して認めてもらう。……それで、いいな?」

 

 私の言葉に友人はようやく少しの笑みを浮かべ、うなずいた。

 

 

 

 紆余曲折の後、ディアベルへの協力は許可された。私と友人の粘り強い説得の効果もあったが、それ以上に大きかったのはやはりこれまでのディアベルによるサーチライトへの貢献度だろう。

 

 未だ前線にまで手を回す余裕のないサーチライトにとって最前線付近の情報はディアベルを含む十数名の協力者とその間を飛び回る数人の情報屋によるものがほとんどだ。そしてその中でも最も情報量が多く、積極的に協力してきたディアベルの要請である。

 

 彼としては二日目にした約束を律儀に守ってきただけなのだろうが、それが今回の要請を受ける大きな力となっていた。

 

 私と友人という戦力の貸し出しはともかくとして、装備などを含む生産品の一部供出や迷宮攻略の補助といった過剰とも思えるほどの協力は彼の名でなければ引き出せなかっただろう。 

 

 ここまでは私と友人の読みどおりだったのだが、しかし想定外のこともあった。

 

「フロアボス攻略戦に参加したい? 本気か」

 

「何か、問題でもあるか? フツノ班長」

 

 じらりと睨んだ私に対し、臆することもなくクガネは肩をすくめて言った。その後ろでは同じ要望を持ってきたコイヌールとドーラのコンビが含み笑いでこっちを見ており、気圧コンビは並々ならぬ気迫で詰め寄ってくる。

 

「私達が、ディアベルさんを助けようとするのが、おかしいと?」

 

「あの人には初日に助けてもらいました。その人が助けを必要としているなら僕達としても見過ごしたくはないんです。いけませんか?」

 

「いや、それはそうだろうが。しかし……」

 

「取り込み中悪いが、こっちに手を貸してくれないか?」

 

 二人に詰め寄られ、その倍の視線に押されて頭を抱える私に近くにいた友人が助けを求めてくる。見れば彼女も今の私と同じような状況に陥っていた。

 

 積極的に絡んでいるのは彼女の率いるPTに所属する盾剣士と爪装備の戦士だ。しかもその後ろには残りの班員の他にパイルを始めとした見知ったメンバーの顔がいくつも見える分、こちらよりも状況はさらに悪い。

 

「そっちは自分でどうにかしろ。こっちも手一杯だ!」

 

「親友としてはどうなんだ! 友の危機を見過ごすのか!?」

 

 とりあえずは自分の方の問題を片付けるため、友人には頑張れとエールを送るだけに留める。当然友人は抗議してくるが、それに答える余裕はこちらにもない。

 

 それに今回の件の責任者は友人である。自分で引き受けた責なのだから、むしろこっちの説得に力を貸してほしいぐらいなのだ。せめて自分の班員達や他のメンバーへの説明は友人本人でどうにかしてもらおう。

 

「二人だけの内緒話はそれぐらいにしてこっちを向けや! まだ話は終わってないぜ」

 

「何勝手に危険に飛び込もうとしてるんですか、姉御。お供しますぜ!!」

 

「それが終わったら次は俺達の番だから、早めに済ませてくれよ」

 

 取り巻いていた残りの班員達やパイルを含む他のメンバーまでもが友人の包囲に加わったのを機に私は自分の問題に向き合うことにした。

 

 カインからは許可の条件として班員達への説得は自分達でやるようにと言われている。当然だが、その場しのぎの言い訳などで収めることは出来ない。

 フロアボス攻略戦に参加するのは今回限りだが、サーチライトでの活動は今後も続いていくのだ。そこで共に戦っていくであろうメンバーに不信や疑念の種を残すわけにはいかない。

 

 それに結局のところサーチライトによる後方支援はともかくボス攻略戦への参加は私や友人の我が侭なのだ。出来れば他の仲間を巻き込みたくはなかった。

 

 まずは今詰め寄ってきている気圧コンビの説得にかかる。ディアベルとの付き合いのあった彼らの参加を諦めさせられれば、他の班員達も無理にはいえないはずだった。

 

「気持ちは分かった。だが私は反対だ。攻略戦は今までの調査や探索とは違う。参加するのは見知った仲間だけじゃない。ほとんど顔を合わせたことのないプレイヤーと共に戦うことになる。この状況で馬鹿なことをする奴はまず居ないと思うが、万が一という事もある。わざわざ危険に巻き込みたくないと思っているのは私もディアベルも同じだ。」

 

 とりあえずはボス攻略戦について起こりうる懸念と二人の恩人の心情を盾に訴えてみる。ボス攻略戦自体の危険度を主張するのは効果が薄いだろうと判断したためだ。

 

 そもそも今まで行ってきた調査や探索も同じ危険はあったのだ。バックアップ体制や実力にあった割り振りなどでそのリスクは低減できでも決してゼロにすることは出来ない。

 それを承知の上で手を貸しているのが今のサーチライトのメンバーであり、それはこの二人も例外ではない。

 

 無論一層最後に控えるモンスターの打倒に比べれば今までの調査にあった危険度は低いかもしれない。しかしそれに参加する危険自体はこれまでの延長線上にあるものでしかないのだ。フロアボス攻略戦の危険を説いたところで参加の意思を覆すことは出来ないだろう。

 故にその方面からの説得は諦め、別に起こるかもしれない問題を挙げる。

 

 フロアボス攻略戦は最大で六人パーティーを八組束ねて挑戦することになる。今は班員に割り振っている役割をパーティー単位に拡大して、協力してこの階層における最強のモンスターを打倒するのだ。 

 しかし最大で四十八人ものプレイヤーが参加する攻略戦には、ボスにやられて退場するという危険とは別の問題が起こる可能性がある。

 

 これまでの調査や探索はサーチライトのメンバーや気心の知れた協力者たちを組んで行ってきた。しかし今回のボス攻略戦は今までとは面識のほとんどないプレイヤーと共に戦うことになる。その中に自分勝手な思惑で動くプレイヤーがいないとは限らない。

 

 実際ベータテストの時は一部のプレイヤーがボーナス狙いで強引にラストアタックを取りにいってパーティー全体を混乱に陥れたことが何度かあった。これがゲームならばただの笑い話で済むかもしれないが、現状でそんな事をされれば、たまったものではない。

 

 状況を考えればそのような真似をするプレイヤーなど居るはずもないだろう。しかし参加の有力候補であろう、現在最前線付近で攻略しているプレイヤーの大半に対しては残念ながらそう言い切れない事情がある。

 

 最もそういう問題がありそうなプレイヤーは事前にディアベルの方ではねてくれるだろうし、参加してくるのも彼の仲間や知り合いが中心だろうからそう酷い顔ぶれにならないと思いたい。

 

 しかし私や友人にまで声をかけてきたところを見れば、ディアベルの仲間集めは相当に苦戦していると見ていいだろう。となればその質や信頼性については多少の妥協があるかもしれない。

 そういう条件で集められたまだ見ぬ共闘者たちに全面的な信を置けるほど私も友人も馬鹿ではない。

 

 私とて相手がディアベルでなければ、他の誰に同じように頼まれたところで断っていた。

 

 私も友人もディアベルの必死の頼みだったために参加を決めたのだ。当然、それに付きまとう危険も充分承知の上である。しかし明らかな危険が見えている場所にほかならぬ恩人から預かったこの二人を放り込むのは絶対に嫌だった。

 

 私の言葉の意味が伝わったのだろう。目の前の二人はとりあえず詰め寄ることはやめたらしい。しかし諦めてはいなかった。その証拠に短い思考を挟んで、バールが私に疑問をぶつけてくる。

 

「班長が考えていることは分かりました。僕達のことを案じていてくれることも。では逆に聞きますがそこまで分かっていて何故参加するんですか?」

 

 その問いに対し、うかつな返答は出来ない。ここで押し切られれば、彼らの参加を許すことになる。それで万が一にでも彼らが退場するようなことがあれば、私はたぶん立ち直れないだろう。

 

「ディアベルに私は色々と世話になっている。その彼が頭を下げて頼んできたことだ。無下にできる訳がない」

 

「でも、僕達もディアベルさんには世話になっています。一週間に一度は様子を尋ねるメールは来ましたし、スキル構成などのアドバイスも何度かもらいました。それにクリスさんやフツノ班長にも助けてもらってます。ディアベルさんだけではなく、班長達も危険に飛び込むという事態を見過ごせるわけがないでしょう」

 

「…それを言われるとつらいが、こっちは大丈夫だ。心配はない。私もクリスも生き残るだけなら問題はないからな。それに危なくなったらさっさと離脱することはディアベルも承知している。危険はあるかもしれないが、あくまでも主力は彼と彼の仲間たちで、私もクリスもその補助だけだ。」

 

「本当ですか? 正直、フツノ班長があの人を見捨てるとは思えないんですが? 口ではなんと言ってもイザとなったら助けに入る気がします」

 

 色々と語ってみるが二人から参加の意思が消えることはなく、それどころかますます強固になっていくように感じた。それでもなんとか説得しようとあの手この手を使って続けたのだが、そのどれもが失敗に終わる。

 

 それどころか気がつくとこちらが説得されかけていた。ディアベルだけではなく、友人や私の危険を見過ごしたくはないといわれてしまえば反撃の言葉も弱くなる。

 

 どうやら私や友人のところに来る前に事前に打ち合わせがなされていたらしい。こちらの思惑が先読みされ、積み上げていたはずの説得があっさりと対処されていくのは気のせいではないのだろう。

 

 この二人が囮を担い、後ろで時折口を出してくるクガネ達がサポート。さらにパイルや他の面々が友人に詰め寄るふりをして私と分断し連携をとられないようにする。

 それがこの場の全員が共謀して私と友人に対して用意した布陣だとようやく思い当たった時にはすでに状況は挽回できないところまできていた。

 

「……やられた」

 

 押し切られた友人が後悔の呟きをもらす。ディアベルのことで一杯だったせいだろうか。普段だったら気がついたかもしれない。

 余裕を忘れてはいけないと常日頃からカインの言っていたことをふと思い出す。それをないがしろにすると今のように足元をすくわれるのだろう。

 

 相手の情報を調べ、観察し、対策を練った上での目的の攻略。本来はモンスターやエリアに対しておこなわれるはずのそれを、今回は私と友人に向けてきたのか。探索と調査の危険を減らすためにこの数週間教えてきたことを、まさかやり返されるとは思わなかった。

 

 考えてみれば他のプレイヤーに降りかかる危険を見過ごせず、支援という行動に出たのが今のサーチライトの面々なのだ。ならばフロアボス攻略戦という危険に飛び込もうとする仲間を放っておけるわけなどないではないか。向こうの立場なら私もそうするだろう。

 

 駄目だ。相手に全く引く気はなく、反対するはずのこちらのほうが揺らいでいる。ここに来て私は説得を諦めた。

 

「……仕方ないか」

 

 ため息を一つついて気持ちを切り替える。目の前の仲間が引かないとなれば仕方がない。強引に拒否したところで今度は直接ディアベルのところに押しかけ、認められるまで攻勢をかけ続けるということも考えられる。

 

 もうすでに限界まで追い詰められている彼に、私達のことでさらに負担をかけさせたくはなかった。

 

 こうなったら私と友人の攻略戦への参加を諦めるか、それとも彼らの参加を認めるかの二つに一つだ。しかしそれを選ぶ前に済ませておかなければならないことがある。

 

 決意を胸に私は、肩を落とす友人に向かって言った。

 

「おい、責任者。もう一度ディアベルに会いに行くぞ。 ここまできたら。もう見て見ぬ振りはできないだろう?」

 

 

 

 

 

 あって話したいことがあるというメールを送るとその日の内に面会が適った。その迅速さからどうやらこちらの協力がかなり重く見られている事が分かる。

 

 軽く見られるよりはいいかもしれない。しかしそれが何を示しているかを考えれば私も友人も苦い顔になることは避けられなかった。

 

 やってきた彼に提供できる協力の内容と他に参加に意欲を示すメンバーがいることを伝えると大きく喜んだ。

 喜びによって警戒が緩くなった隙を突き、私は彼に言った。

 

「……ところでディアベル。いくつか質問があるんですが?」

 

「うん、なんだい?」

 

 笑顔のまま彼は答えた。しかしその瞳に警戒の二文字が浮かんだのを私も友人も見逃さない。だがその事はおくびにも出さずに私は何気ない風を装って言葉を続けた。

 

「色々聞きたいことはありますが、まずはこれだけ答えてください。……何を隠している?」

 

 途中で冷たく変わった私の口調と消された笑みの意味に気がついたのだろう。彼はその喜びを凍りつかせた。

 

 

 

 そもそもディアベルが私や友人に協力を持ちかけてくること事態がおかしかった。

 

 私も友人も厄介事を優先にまわされてきたため、初日の快進撃もあわせてレベルは10を超えており、また装備も充実している。だがそれでも最前線付近のプレイヤーと比べると格別強いというわけではないだろう。

 

 少なくとも私達よりも強いプレイヤーは二桁はいてもおかしくはない。常日頃から仲間を増やし、コネ作りに奮闘していたディアベルならばわざわざ私達に声をかけてくる必要はないはずだ。

 

 私や友人も、彼が何かを隠しているのは分かっていた。それを承知で彼に協力することを決めたのだ。

 

 それは、ディアベルというかつてのマスターであった人を信じたからだ。

 

 例えその隠していた事情によって何らかの不利益を被ることになるとしても、私も友人もそれを恨みに思うことはなかっただろう。

 他人を信頼するというのは、そういうことなのだ。

 

 いくらデスゲームという状況に悲鳴をあげ、心をすり減らしても彼は仲間を、友人を悪く扱うようなことはしない。それを信じるのに、根拠など必要ない。

 

 しかしそれはあくまでも私と友人のことであって、いうなればただの我が侭に過ぎない。そしてその事情にサーチライトの仲間が絡んでくるとなれば、話は別になる。

 

 彼らはディアベルではなく、私達の事を案じ、一緒に危険に飛び込もうといってくれたのだ。

 そんな彼らをこちらの勝手な都合に合わせるわけにはいかない。それこそ彼らに対する信頼の裏切りとなってしまう。

 

 故に私と友人は、こうしてディアベルに会い、何を隠しているのかを問い詰めている。その答えによっては、協力を取り下げることも決意してだ。

 

 例えその事で後に後ろ指を指されることになろうと、彼や彼の仲間達に恨まれることになろうと、活動を共にする仲間達の信頼を失うことに比べればたいしたことではない。

 

 デスゲームという状況下で、背を預けあうというのはそういう意味を持っている。

 

 その事をぶつけると、彼は観念したかのように隠していたその事情を話し出した。

 

「ああ、うん。そうだね。そう思うだろう。……だけど、そう上手くはいかないんだ」

 

 疲れた笑みのまま、ぽつりぽつりと語っていくディアベルの言葉を聞く。そして彼が抱えていた事情を一通り聞いた後に、友人は静かな怒りと共に言葉を吐き出した。

 

「つまり、なにか? 今前線付近にいる連中の大半はゲーム攻略よりも自分達の安全にしか興味がない、と」

 

 話を聞けばこういうことだった。どうやら今最前線にいるプレイヤーの多くは当初はともかく今はフロアボス攻略戦には消極的らしい。

 ディアベルも仲間と共に説得して回っているようだが、このままだとボス戦に挑める最大人員48人を埋めることすら厳しいという。

 

 おまけにその協力を取り付けたプレイヤー達の中にも参加の見返りやボスのドロップアイテムが目当てらしく、迷宮の攻略にはあまり参加してくれない。

 また得た情報も秘匿し、主に自分達のためだけに利用しているため、攻略済みのマップデータの共有すらままならないそうだ。

 何人もの情報屋がそのために走り回っているが、成果は上がっていないという。

 

「……なるほど。前線の攻略がやたら遅いのはそういうわけか」

 

 どうやら前線の連中は予想以上に利己的で自分勝手のプレイヤーが多いらしい。まあそうでもなければ今現在、最前線に立っていることはないかもしれない。

 

 もう好きに言ってくれとばかりに投げやりな顔になったディアベルを見て、ため息をつく。

 

 非協力的なプレイヤー達と顔つなぎをし、利己的な連中に頭を下げて隠している情報をもらい受け、バラバラで場当たり的な探索をまとめて指導する。なるほど聞くだけで嫌になる話だ。

 

 正直、この話はなかったことにしたいという言葉が口元まででかかったが、頼まれた時のことを思い返せばそれも出来ない。もう今の彼にそれに耐えるだけの気力は残っていないだろう。

 かくなる上はこちらでその負担を少し引き受けるしかなかった。

 

「……分かりました。とりあえず迷宮区の探索は私達に任せてください。他の協力PTにも呼びかけて効率的な探索計画を立ち上げます。ディアベルはもう一度フロアボス戦の参加の呼びかけを。最低でも半数以上の、まともな参加メンバーはほしいです」

 

「そうだな。それにその様子だといざボス攻略戦になったときに、まともな統制はとれないだろう。今の状況でベータテストの末期のボス攻略戦の再現でもされたら、全滅間違いなしだ」

 

 加えられた友人の言葉に三人揃って遠い目をする。ベータテストの時は使用上ボスドロップの取得者が分からず、得たアイテムの持ち逃げが可能だったために揉めに揉めたのだ。

 

 ドロップ取得率にボーナスのかかるラストアタックを狙ってアタッカー連中が群がったり、回復薬などの経費がかかる割には報酬を含めて見返りが少ない壁役の参加率が極端に悪くなったりと、思い出せば切りがない。

 

 さらにテスト後期にもなると前回の報酬の分配やアイテムを持ち逃げした連中への不満が募り、フロアボス攻略会議のはずがいつの間にか決闘大会になっていたという騒ぎまであった。

 

 私がフロアボス戦に参加しだしたのは5階層からだが、それもドロップ問題に頭を抱えていた目の前の二人他が私につけられた「幸運の星」という藁にすがった結果である。

 

 一応効果があったのかボーナス抜きでもアタッカー連中を差し置いて結構な回数でレアドロップの取得に成功した。

 最もその事で少し揉めたこともあったが、まさか運にケチをつける物言いが通る訳もない。取得したアイテムもメンバーのススメでその場でオークションに供出するようにしていたこともあってか、さほど気にすることはなかった。

 

 それでもベータテストの時ならば、苦笑とともに語られる笑い話ですんだ。しかし、今はもう違うのだ。

 

「だ、大丈夫さ! いくらなんでも、この状況でレアドロップに固執する奴なんているわけないだろう」

 

 頭に浮かんだ暗い未来予想図を吹き飛ばすかのように、明るい声でディアベルは言った。だがそのわざとらしいほどの明るさが、かえってその不安を煽り立てる。

 それは友人も同じなのか、ディアベルに対し、手を合わせて頼み込んだ。

 

「ディアベル。君の事情は分かった上で無茶を言わせてくれ。今回の攻略戦、君の目から見て信用できない奴は絶対に参加を拒否してほしい。メンバー集めに苦労していることは分かっている。それでも、馬鹿を入れたらベータの時よりも悲惨になる。」

 

「難しいけど、頑張ってみよう。とはいっても今後の事を考えれば、飛び入りとかを完全に弾くわけにはいかない。その分の枠を1PT分ぐらいは空けておかなきゃいけないけれど、決して彼らに邪魔させることはないようにする。……ただ、君達の協力をあわせても、今の時点で40人にいかないんだ……」

 

「もう少しだけ、頑張ってください。私達の方も頑張って早めに迷宮区のマッピングと攻略を終わらせますので」

 

 友人の頼みを、難しい顔をしながらもディアベルは受け入れた。また苦悩の顔に戻った彼の肩を軽く叩いて労わり、私は友人と目を合わせて彼の抱える問題の一つの解決を任せろと宣言する。

 

「すまない。時間は気にしなくていいから、安全第一で進めてくれないか? 今回の攻略戦は絶対に死人を出したくないんだ」

 

「そこはありがとうでいいです。それに危険と安全の境界を見極める目はこの一ヶ月で随分と鍛えたので、安心してください」

 

 申し訳なさそうに頭を深く下げるディアベルを慰め、私と友人は早速迷宮探索に向けて動き出した。

 

 

 

 

 




ディアベル大爆発の回、終了。

原作だと描写がありませんが、ゲームだろうと会議を開くまでには、当然それなりの苦労があります。それがデスゲーム下ならば言うに及ばず。

この作品では、そこらへんも重視して進めて行きます。



そんなわけでフロアボス攻略戦に参加することになったフツノたちですが、実は初期のプロットだと、協力の要請はされても断ることになってました。

しかし、ふと別の展開を思いついてしまいました。かなりロクでもない展開なのですが、どうせならトコトン突っ走ってみようかと思い、本編のようになります。

ファンの人にとってはかなりきつい展開となる予定なので、気をつけてください。
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