目が覚めたらなんか別の場所にいた。
頭がおかしくなったのかと思われるかもしれないけど、実際そうなのだから仕方がない。ついさっきまで普通にデスクワークをしながら午後の営業のシミュレートを頭の中でしていたはずなのに、ふと気がついたらなんだか豪奢な部屋の中に立っていた。
「どこ、ここ……」
声に出してみて気がついたが、声も自分の声ではなくなっていた。自分の声はこんなに高くはない。見れば着ていたスーツも紫色のパジャマ?のようなものに変わり、肩越しに長い紫色の髪が見える。しかも目線を下に落とせばそこには立派な双子山が。どうやらこの体は女らしい。そもそもこの体とは、自分は一体誰になったのだろうか。近くにあった姿見で確認してみた。
「……同僚がなんか言ってたな」
会社の同僚がハマっていたゲームのキャラクターとまでは分かるが細かなところまでは分からないな。そのゲームの中のキャラクターだとか、使う技?みたいなものは耳にタコができるほど聞かされて若干うんざり気味だったのがまさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「ふぅ……今回の会議もまた一段と……、そこにいるのは誰だ?」
1人、この体に悶々としていると部屋の扉が開いて、青い髪の男が入ってきた。
「ここは余の部屋、お前は侵入者ということか?」
「えっ、いや……私は……」
私ってなんだよ、俺って言ったはずなのに私はって変換されていた。自動翻訳機能なんて聞いてないですよ。
「……賊にしてはなにやら冷静だ。もしかして余が忘れているだけで客人ということか?だがそれなら……ふむ」
「あの……いっても信じられないかもしれませんけど、私今ここにきて、何が何だかわからないんです」
「今ここに?どうやってこの部屋までたどり着いたと言うのだ」
「気がついたらこの部屋にいて、たどり着いたとかじゃなくて初めからここに出たと言うか……」
「うむ、いまいち要領をえない話だが言いたいことは分かった。だが仮にも王城に侵入されたとなれば無用な騒ぎが起こる。余とてそのようなことは面倒なのでな。悪いが拘束はさせてもらおう」
「……まあ、仕方ないですし」
その後、集まってきた衛兵のような人たちに捕まって地下牢に閉じ込められた。今更だけど出られるよね?まさかこのままとか言われたら理不尽すぎて泣けてきちゃうんだけど。
「……今は待つしかないかな、そういえばこのキャラ……もういいか、この体、確か魔法が使えたような」
同僚のゲームの設定など信じていいのか分からないが、なにもしないよりはほんの少しだけいいのかも知れない。結局意味なんてないのかも。
「えっと……手錠、壊れろ」
反応なし。
「手錠、裂けろ」
反応なし。
「手錠、自壊しろ」
反応なし。
ダメだこりゃ。反応なしばっかりで魔法を使った感覚なんてこれっぽっちもない。まあ魔法を使った感覚なんて分からないけど。もっと具体的な方がいいのか、なにかしらの呪文のようなものがあるのか。
「そういえば……なんだっけ、スペルカード?だかがあったっけ」
同僚曰く、カードを宣言して戦うと聞いたことがある。その時にカードゲームなのかと聞いて理不尽に怒られたのは別の話。
「えっと……『日符・ロイヤルフレア』」
瞬間、目の前の檻が小型の太陽のようなものに溶かされた。
「…………うわぁ」
予想外の威力に驚きを禁じ得ないんだが。しかも感覚的に魔法を使ったのが今の一瞬でわかった気がする。それになんとなくだが魔力のようなものがあるのだとしたら、ほとんどそれを消費せずに今の魔法を唱えられた気がする。だとしたら相当なのだろう。少なくとも鉄製の檻を難なく溶かすことのできる魔法がノーリスクだなんて現代科学に喧嘩ふっかけてるようなものだ。そもそも魔法の時点で喧嘩ふっかけてるけど。
「なにやら音がしたが気のせい……これはどういうことだ!」
しかもなんかさっきの男の人に見られた。これはもう面倒ごと確定だわ。
続く