魔法使いが魔法の世界に行ったのに何かおかしい   作:粉プリン

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第10話

賭博場でひと騒動あった後、自室に帰ってきて夜遅くまで研究を進めていたのだが、何やら外が騒がしい。窓を開けてみるが場所の関係上、騒ぎの中心と思われる場所はここからでは見えなかった。なので

 

「クトゥルフ、少し見てきて頂戴」

 

『魔の者、視野を連結、同調』

 

しばらくしてクトゥルフの視界が頭の中に送られてきた。送られてきた映像を見る限り学校の壁に向かって拳を振り抜くゴーレムが見えた。ゴーレムはそこそこの大きさを保っているため、低くてもトライアングルクラスのメイジのようだ。それくらいならクトゥルフにどうにかしてもらおうかと思ったが、よく見るとタバサやキュルケ、ルイズ達までいるため、ここで手を出すのはまずいと思い監視するだけに止めさせる。

 

『魔の者、対象に彩度減少を確認、闇に紛れる』

 

「彩度減少……何かを羽織って逃げた?」

 

もし仮にこの暗闇の中で黒いマントでもつけられたらもう追うことはできないだろう。一旦クトゥルフを引き揚げさせる。おそらくこれだけ大事になったから、明日の朝にでも何か学校側としても動きがあるはずだ。今はそれに沿って動くしかあるまい。

 

 

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次の日の朝、予想通りというかなんというか案の定騒ぎになっていた。どうやら土くれのフーケという盗賊が宝物庫にある『破壊の杖』という貴重品を盗み出したらしい。正直ここの貴重品がいくら盗まれようと自分には関係ないのだが、学校中が騒がしく落ち着いて研究を進めることさえ出来ない状況のためさっさと解決することにした。

 

「では、捜索隊を編成する。我と思う者は杖を掲げよ」

 

誰も上げないのでさっさと杖を掲げる。

 

「ミス・ノーレッジ。君は生徒だ。ましてや二年生に土くれのフーケを捉える実力があるというのか?」

 

「そうですね、少なくとも生徒より先に手を挙げない先生よりかは強いんじゃないですか?」

 

「落ち着きなさいミスタ。ふむ、ミス・ノーレッジ、勝算はあるのかね?」

 

「あるにはありますが、そこのミス・ロングビルに協力してもらわないと無理です」

 

「わ、私ですか?」

 

「道案内してもらわなければたどり着けませんし」

 

「ミス・ロングビル。頼めるかね?」

 

「分かりました」

 

その後、何故かタバサにキュルケにルイズとお供が増えていき、最終的に6人でフーケ捜索隊を編成することになった。まあフーケ捜索隊にフーケがいる(・・・・・・)というなんともおかしな状況ではあるが。

 

「まだ着かないのかしら?」

 

「もう少しかかると思われます。今はフーケに備えて体を休めていてください。いざという時に動けないでは困りますから」

 

そう言われると返す言葉がないのかキュルケも髪をいじり始めた。タバサは元から本を読みっぱなしだし、ルイズとサイトも外の景色を眺めている。故に聞くなら今だろう。

 

「ミス・ロングビル。確か、フーケはここから馬で四時間。徒歩なら半日の場所の森の中でしたよね」

 

「ええ、それであっています」

 

「……はぁ、もう演技はやめたらどうかしら?フーケさん」

 

「……何をおっしゃるのですか?」

 

「最短で片道四時間かかる道を朝見つけたとしても帰ってくるのはお昼頃。貴方はどうやって極短時間で森まで行き、住民に聞き込みをして、帰ってきたのかしら?」

 

「…………厄介な奴がいたもんだね」

 

「どう見てもおかしな話よ。むしろなんで他の教師は気づいてないのかしら?」

 

「さてね、でもあの狸ジジイなら知ってて泳がせてんじゃないのかい?」

 

「そうかもしれないわね」

 

「……何かないのかい?」

 

「何かって何よ?」

 

「仮にも宝物庫から盗みをした盗賊を前にまさか話で終わりなのかい?キレる奴だと思ってたけど案外馬鹿なのか?」

 

「いや、私一応ガリア国籍だからここで盗みを働こうが正直どうでもいいのよね。自分の国に被害が行くわけでもないし」

 

「ならガリアで盗みをしたらどうだい?」

 

「別に良いわよ。好きなだけ盗んでいって。ただ彼処は色々な物を置いておいたから良くて廃人、悪ければ生きたまま素材行きよ?」

 

「……とんでもない国になったんだな」

 

フーケとしばらく話をしているとようやく森に着いた。

 

「……私は諦めないよ」

 

「どうぞ、別に私は貴方に確認がしたかっただけだから。もう手は出すつもりはないわ」

 

「どこまでもわからない奴だね」

 

「それが私だから」

 

 

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フーケの破壊の杖の盗み事件は意外にもサイトの手で決着がついた。どうやら破壊の杖を使ったようだが、明らかにあれは自分が元いた世界のロケットランチャーだった。映画などでしか見たことがなかったが確かにそうだった。ということはもしかしたら向こうとこっちを繋ぐ何かがあるのかもしれない。まだ憶測の域だし、ロケットランチャーに似た物を作成した人がこっちにいたのかもしれない。まあこれについてはおいおい調べていくことにする。

 

「それよりも、あの子どうにかならない訳?」

 

キュルケが指す方向にはボリボリと美味しそうに骨を咀嚼するクトゥルフ。どうやら破壊の杖を取り戻したことで中止にする予定だった舞踏会を予定通り執り行うことになった。そこで出された料理だが偶然にも骨つき肉など、骨のある物が多く結果としてクトゥルフが嬉々として骨を貪っていた。見た目、着飾った小さな少女に見えないこともないあたり、それが骨を貪っているのはなんとも形容しがたい絵面だった。まあ節度を持って食べるように言ってあるのでそろそろ戻ってくるだろう。それまでに自分も少し豪華な食事を済ませなければ。

 

 

続く




はい、駆け足でしたが第1巻を終了しました。次はワルドさんが出てきますが……まあ十中八九被害者になります。

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