フーケの事件からしばらくした日。いつものように授業のある教室に入るとサイトがルイズに鞭でしばかれていた。あれは意味でもあるのか、と思っていたがどうやら特に重要な意味はなさそうだった。なのでいつも座っている席に着き、昨日のまとめたノートを読み返していた。しばらくして教室に先生が入ってきた。
「授業を始める。知っての通り、私が扱うのは風だ。ミス・ツェルプストー、それとミス・ノーレッジ。最強の属性はなんだと思うかね?」
「虚無ではないんですか?」
「伝説の話をしているのではないのだよ、現実的に見たまえ」
「……なら火ですね」
「ミス・ノーレッジはどうかね?」
「……一概にどれが最強というのはないと思います」
「それは優柔不断なだけだ。もっと判断力をつけたまえ」
……ほーん、そういうことをおっしゃるか。
「では試しに、二人とも自分の好きな魔法を私にぶつけたまえ」
「冗談ですよね?火傷なんかじゃすみませんよ?」
「やってみるが良い。君のその赤髪が飾りでないことを証明したまえ」
その一言で起こったのか、キュルケが魔法を唱え炎弾を先生に撃ち込む。しかし先生の唱えた風魔法で炎弾は掻き消され、キュルケも壁際に吹き飛ばされた。
「随分と容赦ないんですね」
「怖がらせてしまったかね?」
「いえいえ、現状を確認しただけですよ。……平気かしら?」
「なんとかね。パチュリーやってやりなさい。あんな威張ってる先生一発入れたほうがいいわ」
キュルケを見送って先生の前に立つ。向こうは何もしてこないことからこちらが仕掛けた後に撃ってくるのだろう。
「……まあ、キュルケにも言われちゃったし。少し真面目にやりましょうか」
意識を深く沈める。想像するのはお互いに反発している七つの石。それに自分が持っている属性をそれぞれ注ぎ込む。限界まで溜め込んだそれをさらに圧縮して固める。そうして出来上がった物を
「賢者の石」
瞬間、自分の周りに白、赤、青、緑、黄色、橙、黒色の石が現れた。それは自分の周りをぐるぐると回りながらも明滅する。
「な、なんだねそれは!」
「私が言った、一概にどれが最強の属性というのはない、の答えですよ。先生」
石に込められているのは七属性それぞれの魔力だ。自分が放った魔法に反応して、まるでガトリングのように追加攻撃するので主に相手に反撃をさせたくない場面で使用することになると思う。まあ今回はテストも兼ねて少し使ってみたかっただけなのでフル稼働させなくてもいい「大変ですぞ!」……誰だよ。
「授業中ですが?」
「本日の授業は全て中止です!恐れ多くも我らがトリステインが誇るアンリエッタ姫殿下が、本日この学院に行幸なされます」
姫殿下が来ると言われ、教室中がざわめき出した。
「従って粗相があってはいけません。諸君らが立派に成長したことを姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!しっかりと準備を整えておきなさい、よろしいですかな!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー!」
あの後、各生徒に部屋に戻って姫殿下を迎え入れる支度をするように言われ準備をしているのだが、正直必要な物が思い浮かばない。まあ何か必要なわけでもあるまいし、単に心の準備をしておけということだろう。
「姫殿下って言ってるけど、私のほうが綺麗じゃない」
「真に美たる人間は自画自賛しないわよ」
「賛成」
「二人して酷いわね」
まあ確かにキュルケも大概美人なほうではあるが、アンリエッタ姫殿下も王女な訳であって。決して顔で選んでるわけではないだろうがそれでも整った綺麗な顔をしている。
「そろそろ戻るわ、特に何かあるわけでもないし」
「いいのかしら?仮にも姫殿下よ?」
「いいのよ、私はゲルマニアだから。トリステイン王国王女様を見れただけで十分」
そのままキュルケは場内に戻って行ってしまった。まあ自由人であり女王気質のキュルケなら仕方ないだろう。それに確かに姫殿下の謁見ではあるがいても特にやることはないわけだし、暇なことは否定できない。自分もそろそろ部屋に戻りたくなってきた頃でもある。そろそろ戻るとするか。タバサも本を取り出したことだし。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
次の日の朝、まだ眠っている時間である。それにもかかわらず扉を蹴破る勢いで開いて誰かが入ってきた。咄嗟に杖を振り侵入者の喉元に鋼で作り上げたエッジを突きつける。それも一つではなく首を囲むように。万が一にも逃げられないように、とそこまでしてようやく入ってきたのがキュルケだと気付いた。
「い、いきなりすぎるわよ……」
「それはこっちの台詞よ。まだ太陽が顔を出し始めた頃なのにいったい何の用かしら?」
「そう、それなのよ!朝窓から外を見たらルイズ達がどこかに行くのを見つけたのよ。しかも昨日姫殿下の側にいた貴族様も一緒よ。絶対何かあるはずよ!」
「……それで?私が起こされた理由は?」
「この前と同じよ、あの貴族様ったらグリフォンに乗って行くものだからあっさり見失っちゃったのよ。でも貴方の使い魔なら見つけられるでしょう?」
「私の使い魔を失せ物探しに使うのをやめてもらいたいんだけど」
「失せ物じゃないわ、人探しよ」
「……言い争う方が時間の無駄ね。さっさと行くわよ」
「流石、パチュリーは話が通じやすくて助かるわ。この子なんか引っ張り出すまでに20分もかかったのよ」
そりゃ寝てるところを引っ張り出されたら誰だってそうだわ。自分の部屋から外に出て行くキュルケ。下を見ると既にタバサの使い魔が待機していた。その背に乗って空を掛ける。
「クトゥルフ、この前みたいに探して」
『遙か東、掛ける肉が三つ、視野より外れる』
「東よ、急がないと見失うかもしれないわ」
「ならさっさと行くわよ。タバサ、お願い」
続く