結局、ルイズ達が向かったとされるラ・ロシェールに着いたのは夜中だった。そのままルイズ達の元へ飛んでいくと、何やら山賊に襲われているようだった。上から見ると両脇を小高い崖に囲まれた道を進んでいる最中に挟まれたようだ。
「左をやるわ、タバサは右を」
「わかった」
左側にいる山賊めがけて空気の塊を圧縮して弾丸のように放つ。無色無音で飛んでいく弾丸は的確に相手を捉え、森の向こう側へと弾き飛ばして行く。反対側を見ればタバサが風魔法で小型の竜巻を起こし、山賊を崖下に落としている。とりあえずはこれで安心のようだ。
「クトゥルフ、辺りにまだ反応はあるかしら?」
『魔の者、背後数十m、闇にて潜む肉塊』
「タバサ、先に行ってて」
それだけ伝えるとフライでクトゥルフの言っていた場所に向かう。すると遠くに逃亡していく黒い姿を見つけた。魔法を唱え、逃走者の進行方向に巨大なドーム状の土の壁を作り出す。逃亡者も逃げきれないと察したのか、こちらに向き直った。黒いマントに白い仮面。それ以外に特徴はなかった。
「……さっき、ルイズ達が襲われてるところを見ていたようだけど貴方が犯人かしら?」
「……もしそうだと言ったら?」
「悪いけど、捉えさせてもらうわ」
「そうか……残念だ!私はまだやるべきことがあるのでね!」
そう言って男は逃げるように土の壁に向かって走り出した。見ると杖の先から細く光る物が突き出ていた。前に習得したエア・ニードルだろう。どうやらあれで壁を切り裂いて外に出るようだ。だが
「もし本気でそこから出ようとしているなら、先に謝っておくわ」
「うぐっ!?」
「その壁、一応大砲でも壊れないような造りなの。私の最大出力にも耐えられるように造ったから、多分貴方じゃ破壊することは不可能よ」
逃亡者は壁に向かって振った杖が弾かれ、予想外の展開に動揺していた。だがすぐに冷静になると壁に向かって魔法を放った。『ウィンド・ブレイク』、風二つの呪文だ。しかし
「これでもか!?」
残念ながらその壁はただ土で作っただけの壁ではない。中身は錬金で作った鋼鉄を敷き詰め、さらに表面は耐熱性を最大限まで高めたコーティングを施してある。それを三重にしてなおかつ隙間には衝撃の緩和のために砂が敷き詰められている。私の全力に1分以上耐え、あのロイヤルフレアも二発まで耐えることの出来る文字通りの鉄壁だ。そう簡単に超えられると思ったら大間違いだ。焦っている男に向かって魔法を唱える。土から作り出した鎖が男をがんじがらめに縛り上げた。
「それじゃあ、白状してもらおうかしら?」
「……残念だ、そろそろ時間のようだ」
「なにが……消えた?」
突如、男が空気に霞むように消えていった。壁は壊された形跡はないし、何処かへ高速で移動したとしてもクトゥルフの探知範囲からそう簡単に抜け出せるはずはない。ならば本当に消えたのか……いや、一つだけこの状況を作り出せる魔法があった。
「
いわゆる意思を持った分身を作り出す魔法だ。先程までの相手が偏在で作り出した分身ならば魔法を解除したことになる。そうなれば確かに先程までの現象は理解できる。
「と言うことは相手はそれなりの風の使い手と考えるべきかしらね」
まあ今考えたところで答えは出るはずもなく、一旦タバサ達の元へと戻ることにした。
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クトゥルフの案内でタバサ達の元に戻るとまたもや襲われていた。今度は宿らしき建物の入り口を傭兵達が囲み、さらにその後ろには巨大なゴーレムが佇んでいる。
「まさか……フーケ?」
よく見るとゴーレムの肩に先程の逃亡者とフーケが立っていた。どうやら先程のは偏在だったようだ。しかもフーケとなにかしらの協力関係にあるとみて間違いないだろう。男の方はマントを翻し何処かへ行ってしまった。男の後を追っていきたいが、目先のフーケもどうにかしなくてはならないだろう。今、店の中に見えた赤髪はキュルケの物だろう。だとしたらまだあの中に何人か残っているはずだ。賢いタバサもいるだろうし、おそらく半分を囮にして、もう半分を目的地に向かわせたと予想する。そこでゴーレムが拳を振り上げ入り口に向かって叩きつけようとしていた。流石にマズイと思い拳の進行方向に魔法を放った。
「『日符・ロイヤルフレア』」
突如現れた小型の太陽に対応することもかなわず、ゴーレムは拳をそこに突き入れ実に肩辺りまでを喪失させた。
「今の魔法……パチュリーかしら!?」
「またあの娘か………」
「久しぶりね、フーケ。また盗賊でもしてるのかしら?」
「残念だけど、今は盗みをしてるわけじゃないのよ。話してる暇もないのよね。だからここでやられて頂戴」
「……何でもいいけど、早くそこから離れた方がいいわよ」
「はっ?」
フーケが下に目を向けるとゴーレムを捉えてなお余る大きさの魔法陣が真下に展開されていた。咄嗟に近くの家の屋根伝いにその場から離れる。その瞬間、魔法陣から火柱が立ち上がりゴーレムを跡形もなく消し去った。後に残るのは所々あまりの高温でマグマのように溶けた地面と、熱の余波によって焦げたり溶けたりしている民家だけだった。
「な、なんてもん使ってるんだい!」
「安心しなさい、あなたが離れるのを確認した上で発動したわ。誰かを巻き込むこともないように監視してたから平気よ」
「そうじゃない!……相変わらずぶっ飛んだやつね」
「心外ね、あの時は切れ者だって言ってたのに。今度はぶっ飛んだだなんて失礼だわ」
「まあいいわ、どれだけ壊されようが素材は土。いくらでも直すこもはできるのよ!」
だが予想に反してフーケの真下の地面が少し盛り上がっただけで止まってしまった。何事かと思いフーケを見てみたら
「……こんな時に精神力が尽きるだなんて」
「まあ運がなかったと諦めて頂戴」
「くっ……」
とりあえずフーケを鎖で縛って逃げられないようにしておく。後はルイズ達を追うだけだがフーケの監視役を誰にするかで揉めた。
「どうするんだね?このままではフーケに逃げられてしまうぞ」
「ならあなたが残りなさいよ。そうすれば逃げないでしょ?」
「僕は姫殿下の手助けできたんだ。盗人の監視役じゃない」
「でも、タバサはアルビオンに向かうためにここに残れない。パチュリーはこの中での一番の戦力なわけだしルイズ達のところに送った方がいいわ。結果的に余るのは私と貴方なのよ。おとなしく諦めなさい」
「嫌だー!僕は姫殿下の任務を遂行するんだー!」
「タバサ行って、ここは私たちに任せてくれればいいわ」
「分かった」
「パチュリー、タバサをお願い」
「言われなくとも守るわよ」
それが親バカとの約束だからね。
続く