あれからどれくらい経っただろうか。途中から倒すのも面倒になり、戻ってきたクトゥルフに戦闘の大部分は任せてしまった。後方から賢者の石を併用して固定砲台に専念していたが、それすら必要ないほどにクトゥルフが頑張っていた。いや、単に肉が食べたかっただけなのだろう。今回だけはバレないようにするならと条件付きで解放した。プラス親玉らしき人物とその側近も食べないようにと注意しておいたので、気付いた時にはもう首謀者は腹の中、なんて事にはならないはずだ。クトゥルフが自制の効く性分ならば。
「それにあんなのあまり見たくないしね……」
クトゥルフの食事シーンを見ているとグロテスクとか、そういった物を抜きにしてもなんだか嫌な気分になってくる。まあ既に慣れが始まってるからだいぶ悪影響は受けているのだろう。かといってこのまま邪神の愉快な仲間たちになるのはごめんだが。するとクトゥルフがこちらに戻ってきた。
「何かあったのかしら?」
『会敵者、謁見を申請、これを受理』
どうやら親玉のお出ましらしかった。しばらくすると聖職者のような格好をした男と、確かキュルケが言ってた姫殿下の近くにいた貴族と、なんとフーケがいた。
「貴方、逃げられたのね」
「あの餓鬼たちに手下をぶつけただけさ、その隙に逃げ果せたよ」
「ふーん……」
「話はそこまでだ、閣下からお前に話がある」
「初めまして。私はレコン・キスタ総司令官を務めている者だ。名前までは教えられないがね」
「そのレコン・キスタ総司令官様が何の用かしら?」
「いや、なに。重要な作戦の指揮を取っていたらいきなり巨大な魔物が現れるではないか。しかもそいつは使い魔で主人から私のような者は攻撃するなとまで教えられている。非常にできた使いまだと思わないかね?」
「仰る通りです、閣下」
「だからこそ、そのような使い魔を従えるメイジに合わせて欲しいと言ったら道案内までするとは!私は非常に感心したのだよ」
「……で、用件は何かしら?」
「私、いや私達の仲間にならないかね?君の力は私達の夢を現実へと押し上げてくれるだけの力がある」
「生憎だけど、勧誘の類はお断りよ」
「これは勧誘などではない、ちょっとしたお願いだ」
「お願い……ねぇ。レコン・キスタでは武器を向けながらお願いをするのかしら?」
「なに、お願いを聞いてもらえればすぐに下げるさ。それで答えを聞かせてくれないかな?」
「……悪いけど、さっきと答えは変わらないわ」
「そうかね、ならばお願いはやめよう。私達の仲間にな「くどいわ、しつこいって言ったほうがいいかしら?」……ワルド君、後は任せた。私は先に戻るとする」
そう言って総司令官は言ってしまった。なんだか要求が通らなかった子供みたいだと思ってしまった。
「土くれから話は聞いていたが……キレる奴だと思っていたが、存外自分の置かれている立場すらわからないような者だったとはな」
「私の置かれている立場?」
「俺たちは国境を越えて集まった貴族の連盟。それに狙われたお前に逃げ場などない」
「ひとつ勘違いをしてるわ」
「……言ってみろ」
「私がいつ、貴方達をここから逃すだなんて言ったかしら?」
男が眉を顰めたが関係ない。既に向こうが話しかけてきていた時点で
「クトゥルフ、良いわよ」
『贄、狭間にて鹵獲、糧となり、我に宿す』
突然、男とフーケ以外の足元に穴が空いた。といってもただの穴ではない。底なしの、先すら見えない仄暗い穴だった。突然空いた穴になすすべもなく落ちる者、必死に何かに掴まろうとしたがそれすら無視して穴に引きずり込まれる者、冷静に魔法を打ち込むがなんの成果も得られなかった者。大小違いはあれどあっという間にこの場には三人を除いて人一人いなくなった。
「貴様、一体なにをした!?」
「私が何をしたか、貴方に説明する義務なんてないのだけど」
「……私達は攻撃しないのかい?」
「勘違いして貰いたくないのは、無差別に殺しても面倒ごとになるから選んでるだけよ。貴方達が他の奴らより少し位が高かったから残した。それだけね」
「狂ってる……」
「心外ね、狂ってるのはクトゥルフだけよ。私は至って正常だわ。それじゃあもう用はないわけだし帰らせて貰うわ」
結局、キュルケに引っ張り出された挙句フーケと二度再会して、クトゥルフのガス抜きと贄補充(何に使ってるのかは知らないが)で終わってしまった。もう少しまともな旅行でもしたいと思うがあの学校にいる間は当分無理だろう。なんてったってトラブルメーカーの巣窟だからね。
続く