「……はぁ」
「ミス・ノーレッジ、よろしければ私とダンスを」
「悪いけど、今はそういう気分じゃないわ」
「ミス・ノーレッジ、食事を」
「いらないわ、欲しいなら自分で取りに行くから結構よ」
「ミス、本日のドレス、とても似合っています」
「ありがとう、もういいかしら?」
さっきからずっとこの調子だ。いや、発端としてはこの広間に入った瞬間からだろう。広間に一歩踏み入れた途端一斉にこっちを見られた時はとっさに杖に手が伸びかけたくらいだからどれだけ見られたか分かったものじゃない。現に今もチラチラどころかじっくり見られてる気がして落ち着けない。そして何よりも先ほどから上級生からのアプローチが止まることを知らないのか引っ切り無しに続いている。おかげでゆっくり本を読むことも、食事を楽しむこともできたものじゃない。はっきり言うなら近づくなと一声かければ人は寄り付かないと思うけどそれだと今後の学校生活に支障を来す恐れがあるし、何よりこの状況下で上級生相手の誘いを無下にでもしたらファン連中が黙ってはないんだろう。今も刺さるような視線後あちらこちらから飛んできているが、向こうのキュルケに比べれば数倍マシと思えるくらいだ。向こうはなんだか嫉妬の炎で焼き殺されそうなくらいヤバイ雰囲気だった。上級生だと思われる生徒にエスコートされながら更に何人もの生徒を侍らせている。あれじゃ女王とか呼ばれても不思議じゃないわ。と、その時広間のカーテンの陰になにやら怪しい陰を見つけた。というかこの前タバサにやられていた男子生徒だ。男子生徒はキュルケに向かって杖を向けている。なにやら魔法を唱えているらしいが、いったいこんな場所でなにをする気だ?と思ったらキュルケの方から悲鳴が上がったので見てみるとキュルケのドレスがボロボロになっていた。近くにいた上級生は鼻血を出して倒れている。しかも当の本人は気にした風もなくそのまま裸でソファーに座ってるんだから大した度胸だと思う。
「タバサ、今の見た?」
「風魔法、多分つむじ風を起こしてドレスを裂いた」
「カーテンの近くにこの前タバサに難癖つけてきた生徒がいたわ。おそらくその生徒の仕業ね。ここしばらくは注意しておいた方がいいわ」
念のためと思い、とっさにカメラで撮っておいたので証拠も抑えてある。まあカメラといっても水晶の板に魔法でその時の光景を保存するだけで何枚も取れるわけではないが、こういった時に役に立つことがわかっただけでも収穫だろう。実際に犯人らしき人物を取れたこともプラスだ。そして次の日の朝、いつものように教室で授業が始まるのを待っているとタバサの本が横から取られた。視線をそちらに向けるとキュルケがタバサの隣に座っていた。
「あなた、随分と粋な復讐をするのね」
どうやら向こうは昨日の件はタバサがやったと思っているようだ。まああの状況でカーテンの陰に隠れた生徒を見つけろという方が土台無理な話だ。だからそこ証拠を用意したわけだし。
「いいかしら?」
「あら、貴方は?」
「パチュリー・ノーレッジ。まあこの子の親友のようなものね。それと昨日の件だけど、犯人はこの子じゃないわ」
「キュルケよ。それで?犯人がその子じゃないって証拠はあるのかしら?こっちは証拠もあるから疑ってるのだけど」
証拠はあるのかと言われたので早速水晶板を渡す。
「……なにこれ?」
「簡単にいるなら、魔法でその時板に写っていた景色を一時的に保存する物といえば伝わるかしら?」
「……つまり、このカーテンの陰にいるのが」
「犯人ね。まああの状況で貴方がはっきり見たわけじゃないし、信じられないのは確かだけどこの子は貴方に陰湿な仕返しをするほど捻くれてはないわ」
「……ふーん、まあいいわ。それなりに高かったのは事実だけどこれを見る限り案外その子じゃないのかもね。まだ断定はできないけど」
「話が分かる相手でよかったわ。まあそれは要らないしあげるわ、これからもこの子と宜しく頼むわね。この子友達少ないから」
「余計」
「まあそうなの?なら特別に友達になってあげるわよ?」
「結構」
とまあキュルケの誤解に関しては解けたのだがこれで事件は終わらなかった、筈だった。筈だったというのはタバサの部屋の本が燃やされかけたようだ。まあ事前にタバサと自分の部屋には防衛魔法をかけさせてもらっていたのでそれが勝手に反応したのだろう。王族の娘を守るためにかけた防衛魔法がいじめの防止につながるとは思いもしなかったけど。まあこれで大体の事件のあらましは分かった。キュルケとタバサが恨みを買った生徒がお互いをぶつけて自滅させようと企んだのだろう。キュルケに聞いた話だと男子生徒はタバサの髪の毛を見せて証拠と言っていたようだし、タバサの部屋の中にはご丁寧にキュルケの髪の毛が落ちていた。だがもうすでにお互いの誤解は解けている訳だし、それを向こう側も知っているためもうこれ以上ことが大きくなることはないだろう。
「ミス・ノーレッジ。私は貴方に決闘を申し込むわ。宜しいですね?」
なのに何故こうなったのか……。
続く