「皆さん、これより私フィール・ラ・クロン・アインズフォールが決闘を行いますわ」
その瞬間、ヴェストリの広場に観客の歓声が響き渡った。タバサとキュルケの誤解を解いた次の日の朝、朝食を済ませて部屋に戻ろうとした時にこの上級生に捕まり、あれよあれよという間になぜかこうして決闘が始まっていた。自分には全く理由が思いつかない。
「ミス・ノーレッジ、準備はよろしくて?」
「その前に一つ、私は貴方に決闘を申し込まれる理由が思い浮かばないのだけれど」
「……ビル様の申し込みをあれだけ断っておきながら理由が思いつかないと?」
「そのビルって人を私は知らないし、向こうから勝手に申し出てきたことをこっちが断ったら恨むだなんて逆恨みも良いところね」
「貴方、このフィール家の家名に泥を塗るつもりかしら?それ以上の物言いは国が黙ってませんわよ?」
それに、と前置きをして
「貴方のような何処の出かも分からないような田舎者に、真に貴族たる私がマナーを教えてあげるのよ?感謝こそすれ逆恨みだなんて決め付けられるのは心外だわ」
もう話しても通じないのだろう。面倒だがこれは戦って向こうに納得させないとダメなようだ。
「私の水魔法は相手を絶対に倒す。いくら新入生とは言え手加減などしませんから、怪我をしたくなければ自分で守りなさいな」
そう言って呪文を唱え始めるフィールとやら。正直もうこっちは魔法を撃てるのだが、それだといろいろ面倒なことになるので向こうが終わるまで待つことにする。そうして詠唱が終わったのか杖をこちらに向けて何かを言うと水色の球体が四つほど現れたかと思ったら勢いよくこちらに撃ち出してきた。
「これが我がフィール家に伝わるウォーター・カノン!熟練者であれば岩すら貫くと言われる魔法。貴方に防ぐことができるかしら?」
なにやら向こうが演説を始めていたがこちらとしてはようやく出したかとしか思えないのでちゃっちゃと正面に小型の太陽もどきを作り出し、レーザーを蒸発させる。レーザーと言っても細い上に勢いもほとんどないため精々当たっても服が破ける程度だろう。もちろん当たってやるほど優しくもないし、公衆の面前に裸を晒すような変態でもない。
「……え?」
「なにを驚いているのかしら?防げと言われたから防いだというのに、何かおかしなことでも?」
「……そ、そんな馬鹿なことが、我がフィール家の魔法がそう簡単に敗れる訳……」
「それと、一つ言っておくけれど」
先ほど撃たれて蒸発した水分を再び水として前方に集め、更に魔法で作り出した水をも足して半径2mはあるかという巨大な水の球体を作り上げ、放つ。
「レーザーはこうやって撃つのよ」
放たれた水は直ぐに高速で標的まで進み、女子生徒の直ぐ脇を地面を抉りながら突き進んでいく。レーザーは地面に爪痕を残しながら進んでいき、やがて球体が無くなると同時にレーザーも途絶えた。後に残ったのは果てまで続いている長い地面を抉ったような跡だけだった。女子生徒は地面にへたり込んでいるし、周りの観客としてきた生徒たちもお通夜みたいな空気になっていたので何も言わずにその場から抜け出して来た。あれ以上あの場にいて変なやっかみを貰う方が面倒だと判断しての行動だったのだが
「ミス・ノーレッジ。紅茶のおかわりは如何かしら?」
何故だかあの日から女子生徒が色々してくるようになった。
「……ミス・アインズフォール。何か言いたいことでもあるのかしら?」
「フィールで宜しいですわ、ミス・ノーレッジ。私はただ感服しましたのよ。貴方の魔法に」
「……はぁ」
「だからこそ、私を貴方の弟子にして」
「却下」
どうしてですのぉ!と叫んでいるが、弟子だなんて面倒ごとになるものを私が取るわけがないだろうに。一人とって二人三人と増えていくに決まっている。そんなことにならないためにも断固拒否だ。幸い、そこまでしつこく絡んできているわけでもないし、やってることは紅茶が飲みたかった時にお代わりをくれたりとまあ多少は助かったりしているので放っておいている。何時もこちらの用事も聞かずに出掛けるだなんだと言ってきたり、本を読めだと押し付けてくる生徒に比べたらまだいい方なのだろう。それでも常に付きまとわれると邪魔だと思ってしまうこともあり、結局評価は変わっていない。
続く