予定されていた期末試験も終わり、幾分か晴れやかな気持ちで食堂で夕食を食べる。このまま過ごせば最後のテストをこなして無事に二年生に進級できる。まあここまで来て失敗するようなことは自分もタバサもしないだろう。最後のテストというのは二年生に進級する際に使い魔を召喚する試験がある。それに合格、要は使い魔を召喚すれば進級し、もし召喚できなかった場合はそこで進級が取り消されるという割とシビアな試験だ。と言っても召喚魔法自体はそこまで難しいものでは無くこの学校で一年間過ごしていれば誰にでも出来るようなものだ。
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「さてと……」
寒さがだいぶ収まり、花も咲いてきた春。ついに使い魔召喚の試験が始まったが試験と言っても皆成功しているため、むしろ何を召喚するかの予想を話し合う雑談と化していた。一応教師に注意されない程度の声音で話しているため特にお咎めなしだが今までのテストに比べれば十分緩い方だろう。まあ変に堅苦しくなるよりはリラックスして召喚に臨む方が自分も好ましい。万が一ここで失敗などしたら目も当てられない。既にタバサは竜を、キュルケはサラマンダーを召喚して試験を終わらせている。自分もさっさと終わらせて彼女たちの元に戻ろう。呪文を唱え始める。集中して、自分の中の魔力を束ねあげる感覚でそれを魔法陣のラインに流し込んでいく。そうして満タンになった魔力を一気に爆発させて魔法を動かす。
「……あれ?」
本来ならばここで銀色に輝く鏡のようなものが出来るはずだ。それが自分の使い魔となる者の前にゲートとして開き、使い魔がそれを潜ることによってここに来る。後は来た者を使い魔として契約を結べばいいのだが、困ったことにまずゲートが開かない。魔法は完璧だったはず。ならばどこかにゲートが開いているのか。そう思い、辺りを見回したところで気付いた。
空に銀色の巨大なゲートが開いていた。
なんだあれは。さっきのタバサの竜を召喚する際もそこそこ大きなゲートが開いていたが、これはそんなものじゃない。少なくとも直径が何mもあるゲートが開いた。ということはそれだけの体格のものが出てくるということだ。いったい何が出てくるのか、周りの生徒や先生も突然の事態に驚いているようだ。そしてソレが出てきた。最初に脚が見えた。ただし、触手のようなものが螺旋状に絡まったものが一本だけだったので脚と言っていいのかは不明だ。次に腰から長い手のようなものが無数に生えていた。そして体の側面に巨大な人間の頭蓋骨のようなものをつけ、その頭蓋骨の口からも触手がまるでスカートのようにゆらゆらと蠢きながら広がっていた。そして肩からは腕が片側だけで3本生えているという最早正しく生物の形をしていなかった。そして最もおかしかったのが本来頭があるべき場所に人型の少女が生えていた。いや、刺さっていたと言ってもいいかもしれない。どちらにしろ少女と下半身の化け物のような物体はひとつなぎになっているようだ。ということはあの少女のようなものがこの化け物の脳なのかもしれない。
「……聞こえるかしら?何かリアクションを取ってくれるとありがたいわ」
通じるかはともかく話しかけてみると、物凄く意外だったが返事を返してくれた。腰から生えている触手が手を振る形でだが。
「……これから、私は貴方を使い魔として契約をするのだけれど……それでもいいかしら?」
すると今まで動かなかった少女の口が開き、喋り始めた。
『我、形あり形なき地にて、永遠の時を生き、万物の構築を極め、今、彼の地に来りて、魔の者と、契約を交わす』
「…………つまり、良いってことね」
『我、契約の行使に際し、彼の地への停滞を、受理す』
その一言とともに空に開いていたゲートが閉じ、完全に消え去った。どうやら使い魔としての契約をしてくれるようだ。まあ嬉しいことは嬉しいが、贅沢を言うならもっと普通の使い魔は選べなかったのだろうか。明らか邪神とかの類らしき生物だ。もうこれを使い魔にした時から自分の人生に平穏とかそういったものは減っていくのかもしれない。まあここで呼んでしまったのも何かの運命だということにして諦めよう。今から返すことも出来ないわけだし。
「……まあ、ようこそ。こっちの世界へ」
この世界の住人ではない自分が迎え入れるというなんともおかしな状況だが分かるのは自分だけだ。
『我、クトゥルフ。魔の者に、付き従うことを、受諾す』
やっぱり邪神か!クーリングオフはどこで出来ますかね?
続く
パチュリーさんの使い魔がクトゥルフの理由は最近作者がクトゥルフTRPGにハマったからです。それ以上でもそれ以下でもないです。ようは趣味です(設定上の見た目も趣味)