ポケットモンスター Reversed 作:アダス・セッシャー
リンネに突き飛ばされたローバイは、そのまま愚直にリンネを走って追いかけるということはしなかった。
ここで暮らしていたと思しき少女と比べると、自分は絶望的に地の利で劣っている。少女に路地に逃げ込まれた時点でももはや追いつくことは出来ないだろう、とローバイは思案したのだ。
そこでローバイは一旦少女の事は置いておいて、再びフライゴンに乗って空からピカチュウを探す方針に切り替えた。この過程でついでに少女も見つける事が出来ればめっけものだ、などという考えだ。そのためにローバイは近くの黒ずんだビルに入る。当然と言ってはなんだが、そこに人はいなかった。何故ビルに入るのかと言えば、屋上に出て、フライゴンが"空を飛ぶ"をしやすい環境に移動するためだ。建設計画の甘かった旧ガラチャ市街は細い道が多いので、"空を飛ぶ"を用いて移動するときには、降りるときはある程度の高さから飛び降り、飛ぶときはある程度の高さまで
無事に屋上にたどり着くと、すぐさまフライゴンが駆け付けた。ふわり、とスピードを緩めて屋上に降りる。溜まっていた砂埃や落ち葉が舞い上がった。
フライゴンはローバイが飛び乗ると、すいっと羽ばたいて急上昇する。本来フライゴンの羽ばたきは、砂埃や小石を巻き込んで周りに砂嵐を形成するために、あまり人を乗せるのに適したポケモンでは無い。しかしローバイはナックラーの頃からトレーナーとしてフライゴンの育成を助けていたことで、そうならないような飛行法を躾けることに成功していた。今ではむしろ歌うような羽ばたきの音が心地よい程だ。
さて、上空からピカチュウを探し始めたローバイだったが、ふと目に止まった物があった。
それは郊外をぐるりと取り囲む、老朽化の進んだバリケードだった。
それは強めの野生ポケモンが現住している地に築かれた街には必須と言えるものだ。特に、チャンピオンロードに面したこの地域は、エンレイ地方の中でも野生のポケモンのレベルが軒並み高い。安全度を考えれば、バリケードの強度に関しては重要視されるべき大きな問題であった。
しかし、学園都市化してからのガラチャの再開発にあたって、新たな最新鋭の技術を搭載したバリケードがガラチャ中心部を護る形で新設され、より広くガラチャを取り囲んでいた旧バリケードの補強はその長大さ故のコスト問題を指摘され、放棄に近い形で保留されることとなった。
普段ローバイはお忍びで闇市に訪れるだけで、ゴーストタウンと化した旧ガラチャ市街を詳しく見まわしたことはなかった。改めて見てみると、旧バリケードのコンクリート製の壁は全体的にひび割れが入り、一部では何が起こったのか墨でも塗られたかのように黒く焦げ付いた箇所も見受けられた。一部を見ただけでこれだ、全体を見れば一体どれほど老朽化しているのか分かった物では無い。
最近野生のポケモンに襲われるという事案が増加している……ローバイはその原因を知ったような気がした。
例え捨てられた地区とてガラチャはガラチャ。ゴーストタウンに住まう難民を如何にしていつ迫りくるかも分からない野生ポケモンから救うべきか、ガラチャジムリーダーとしてローバイが思案していると、不意に視界の隅に目立つ黄色が通り過ぎたような気がした。
「む?」
考え事を中断してそれを眼で追う。しかしそれは一瞬で路地を曲がり、ローバイの眼の届かない場所へと行ってしまった。だが、その素早さと黄色を貴重とした体色に黒のアクセントをそれはおそらくピカチュウであったとローバイは断定した。無論ローバイはそれを追跡しようと試みる。
しかし、ピカチュウが逃げてきた方向に三人の人影もまた見えた。
(そういえば、あのコイキング屋が三人の人間もまた追っていた、などと言っていたな。ゲンゲは見逃したのか?)
見ると、一人の少年が二人の青年によってポケモンバトルを挑まれている様子だった。一方少年の方は一向にポケモンを出す様子が見えない。何か問題が起こっているのだろうか? とローバイは訝しむ。
(……? あの少年……)
少年の方にローバイは何処か見覚えがあるように感じたが、とりあえず今はそれは置いておく。ピカチュウの確保と少年の救出、ローバイの頭の中でその二つが天秤に乗せられた。
「……まあ、考えるまでも無いな!」
フライゴンはローバイの意を読み取り、旋回して三人の上空へと飛び行く。そして――現在に至る。
【●】
メギは突然の奇襲と演説に面食らいながらも、よろよろと立ち上がった。そして眼前の男が言った提案に対し、毅然とした態度で言い放つ。
「いや……あんたは勘違いしてるようだが……こいつらが喧嘩を売って来たわけじゃない、俺がこいつらに喧嘩を売ったんだ。だからあんたが俺に味方する必要は無い」
メギは自分が相手を転ばし、そして相手の正体を看破せしめたからこそ、自分は二人組に復讐及び口封じのために攻撃を受けている、と理解していた。この男達はあからさまに一般のトレーナーではない、ポケモンで平気で人を攻撃できるような連中だ。故に、メギは自分の行動の結果、この男を危険に晒すことを忍びなく思っていた。
だが、助力を断った理由はそれだけではない。
この男の出現で逃げるタイミングを逸した事には頭を抱えざるを得ないが、それでもメギは自力でこの状況を何とか出来るという自負を持っていたからこそ、この提案を突っぱねたのだ。
ガラチャ郊外――中でもチャンピオンロードに近いバリケード沿いの一角に、"湧き場"と呼ばれるスポットがある。そこには自然に出来たのか、故意に開けられたのか、それを知っている者は誰もいなかったが、ともかく大柄なポケモンも入れるだけの大きな穴が開いているのだ。"利用者"はそこの近くにエサや香などを置いて野生のポケモンを呼び寄せる。そしてポケモンがそれに掛かったら、捕えて金に変えるのだ。
メギもその"利用者"の一人だった。メギはこの"湧き場"を利用してポケモンとの接触を重ねる中で、母から教わったポケモンの習性、父から教わった戦いの方法、それら全てを手繰り寄せながら、ポケモン捕獲のための技術を磨いていった。
そのような生活の中で、今のような多対一という状況もメギは何度か経験していた。その場合の対処はもちろん逃げの一手なのだが、闘争心を煽りやすい体質の身を持って野生ポケモンの捕獲、という難業で食い扶持を繋いでいたメギの回避・逃走スキルは、もはや野生のポケモンに近い状態まで研ぎ澄まされていた。
故に、一人にさえなれればこの場から脱出することは比較的難しくは無い――メギはそう思っていた。
そんなメギの態度に対して、ローバイは――それを一旦無視した。
「フライゴン、ストーンエッジだ!」
その言葉を受けて、上空から凄まじい突風が巻き起こった。近くの屋根の上や路上に落ちていた小石などが念力でも受けたかのように浮き上がり、フライゴンの羽ばたきを中心として渦を巻いて引き寄せられる。
その風の流れを受け、
上空から迫りくるピジョンの陰に気づいたメギは身を躱してピジョンの"つつく"を回避する。もともと身体ではなく四肢を狙っていたようで、風に流されていたこともあって簡単に避けることができた。
フライゴンの周りで、旋風のように浮かされた石や礫が渦を巻く。それらが互いにぶつかり砕け、大きな塊から細かな片へと変化していく。そして、次の瞬間にはそれらが上空からベロリンガとピジョンの下に降り注いだ。ベロリンガにとってそれは大したダメージでは無かったが、ピジョンにとってはなかなか厳しい攻撃だったようで、敢え無くピジョンは地へと落ちた。
「ぐっ……!」
「何だこいつ……」
突然現れた男の出現に対して、機であると見たのは男達もまた同じであった。メギの意識が男に行っている間に、先にメギの方から片づけてしまおうとしたのだが――ローバイの対応によってそれは防がれてしまった。
男達はローバイに対して警戒を強める。
それを見て、男たちが次の攻撃に移るまでにまだ間があると判断したローバイは、ようやく先ほどのメギの発言に答えを返した。
「ふむ……。まあ、だがしかし、少年の売った喧嘩を二人がかりで買う大人など、私にボコボコにされて然るべきだとおもうのだが……。少年がそう言うのなら仕方がない、ならば私が君たちの喧嘩を買うと言ったのは取りやめよう……。だが! ならば売ろう! この少年だけでなく! この私もまた、改めて君たちに喧嘩を売ってやろう!! そもそもポケモンを人間に直接差し向けるなど、トレーナーとして愚の骨頂! 悪質極まる! そんな愚行、この少年が許しても、このローバイが許しても、決して法が貴様らを許しはしない! いや! 大体それ以前に、決して私が許しなどしない!! さあ、ポケモンに次の命令を下すがいい! 三流トレーナーの貴様らに、この私が直々に! ポケモンリーグ公認、ガラチャジムリーダーの名において、トレーナーの神髄というものを叩きこもう!」
「お呼びじゃねえよ! ベロリンガ! その舌を"叩きつけて"やれ!」
男の命令に従い、ベロリンガの舌の鞭が唸りを上げてフライゴンに叩きつけられる。上から下へ、先程のピジョンがそうなったように、フライゴンを地面に落とすべく成された攻撃だ。
しかしフライゴンは、その攻撃をひょいといとも簡単に避けた。空を切るベロリンガの舌はそのまま地面に叩きつけられ、地面に軽い振動が怒りと砂埃が舞う。
尚も空をひゅんひゅんと泳ぐフライゴンを見て、ベロリンガの男は
「は、早え……当たる気がしねえ……」
そんな仲間の様子を見て、もうひとりの男が叱責する。
「バカか、まともなポケモンバトルで勝てるかよ! ヤツはジムリーダーだぞ! ここは上品なスタジアムなんかじゃねえんだ。あいつを直接狙え! フライゴンは俺が何とか牽制する!」
男はピジョンを再び飛ばせ、フライゴンの周りを遠巻きに飛ばせる。攻撃が来れば対応でき、ローバイの護衛は邪魔できる絶妙な位置だ。
それに対してローバイは、フライゴンに一つの命令を出した。
「ふむ……フライゴン、ならばひとまず砂嵐を起こして少し時間を稼いでいてくれ」
その言葉に呼応するように、フライゴンから地上のトレーナーやベロリンガに向けて砂塵混じりの風が吹き付けられる。
これは攻撃力を持たない代わりに広範囲にわたって効力を発揮する攻撃で、こればかりはピジョンも防ぐことが出来ない。最低限護るべく割って入ったピジョンごと、砂嵐は敵全体を飲み込んだ。
「ぐおっ……!」
「くそっ姑息な手を……!」
男たちは砂が目や器官に入ったようで眼を瞑ったり咳込んだりしている。ポケモンにダメージは無いに等しいが、足止めの効果は十分にあった。
そのような時間を作ってローバイがしたかったことは――メギと話すことだった。
「……少年はもしかしてポケモンを持っていないのか?」
敵がポケモンを出せば、敵の真意はどうあれ自分もまたポケモンを出すのがトレーナーとしての鉄則だ。戦うにしろ、逃げるにしろ、身一つでポケモンを相手取るにはリスクが高すぎる。
ローバイはメギが男達にポケモンを持って詰め寄られても尚、ポケモンを出すそぶりさえ見せなかったことが引っかかっていた。
「持っていないというより……持つ気が無いんだ。どうせ俺には使えないからな」
メギはそのことについて敢えて曖昧な言葉で言葉を濁す。自分の特質のことを、今目の前の男に話すつもりはなかった。話したところでどうともならないし、今はそんな場合でも無いからだ。
それを聞いたローバイは、いくらか疑問も持ったが、とりあえずそれを喉の奥に飲み下してメギに忠言する。
「そうか……ならば今のうちに逃げるがいい! 如何に少年が優れていても、人の身でポケモンを相手取るのは危険も危険だ! ここは私に任せて
確かに敵の視界が奪われている今は、メギにとって先程以上の絶好のチャンスと言える。しかし、その結果割り込んで来たこの男を残して自分が逃げる、という行為には後ろ髪が引かれる思いだった。釈然としない思いが独り言となって口から洩れる。
「あんたがいきなり割り込んできた所為で逃げにくくなったんだよ……」
愚痴が口から零れたことにメギははっとするが、どうやらローバイには聞こえてなかったようで、そのことにメギは少しだけ安心した。
「というか……あんたも逃げればいいだろ。見た感じ、奴らは人間を攻撃するような危険なトレーナーだ。無理にバトルに付き合う必要も無い」
その後に心の中で、それなら俺も心置きなく逃げられる、と付け足した。
しかし、それに対してローバイは――
「ならん」
――と、きっぱりとその提案を拒絶した。
「……何故だ?」
「言うまでもない。私はジムリーダー! 道を違えたトレーナーを導くことこそがジムリーダーの責務だからだ!」
結局――ポケモンに対して戦闘能力の無い自分がここに残ってもこの男の邪魔にしかならないことを承知していたメギは、渋々ながらこの場から離れることを決断した。
素早く傍らの建物の窓へと音を立てないように走り、窓枠を蹴って中に飛び込む。メギは暮らしの中でここは無人の建物ということを知っていた。
だが、やはり完全に逃げるということはできない。当初は二階の窓から裏路地に飛び降りて逃げる算段だったが、それを取りやめて二階の窓から戦いの様子を伺う。万が一あの男に何か有った時に、飛び出して何とかして助け出すためだ。
背を壁に付け、横目に既に戦闘が再開された地上を見下ろす。
メギの頭の中では、今も先程のローバイとの会話が反響していた。
メギがかつて、両親に望まれ、そして自分もまたならんとした理想のトレーナーの像。それが今のローバイと少しだけ重なった気がした。
「あれが……トレーナー、か……」
【●】
砂嵐が晴れていく。いかに整備の成されていないゴーストタウンといえど、舗装されたフィールドで長続きするような技では無い。メギが窓に飛び込んだ時には、既に周辺は掃除されたように綺麗さっぱり砂が無くなっていた。
男達が目を開くと、メギが居なくなっていることに気づく。当然ながら男達の意識は残ったローバイに向けられた。
「てめえ……舐めた真似を……! 余計な事しやがって」
「ハッハッハ。なかなか面白い事を言うな!
「ふざけたこと言ってんじゃねえ!」
未だ目をこする男たちはぶっきらぼうにポケモンたちに攻撃の指示を送る。それを受けて舌や砂が飛んできたが、曖昧できちんと定まっていない指令を受けた攻撃は単純なもので、ローバイは軽いステップでそれを避けた。
そのポケモンたちの様子を見たローバイは、少しだけ冷たい表情になって男達に語り掛ける。
「……ふむ、なるほど。よく分かった。ポケモンたちが自分の意志で動かない――ただただ、貴様らの命令の通りに動くように
「あぁ?」
「貴様らの指示が曖昧だったからポケモンの攻撃も曖昧になった。つまりはそういうことだろう。指示が曖昧だろうと、きちんとしたトレーナーとポケモンの関係ならばポケモンは的確に動くはずなのだ。――やはり貴様らはトレーナー失格だ! 私が貴様らを叩き直してやろう! 見るがいい――これがポケモントレーナーの神髄だ」
ばばっとローバイがジェスチャーでフライゴンに指示を送る。するとフライゴンが唐突に空中で星のように輝きだした。
「な……なんだ?」
「くそ、何か知らんがヤバそうだ! やめさせろ、ピジョン! あいつに"体当たり"だ!」
ピジョンがローバイの身体に飛び込む。それをローバイは
何故避けなかったかと言えば――自身もまた、
フライゴンを覆う光が最高に達する、そして――
「フライゴン、"破壊光線"」
そうして、フライゴンの口から膨大な光の束が放たれた。
それが向かう先はピジョンでも無く、ベロリンガでも無く――男のうちの、ピジョンを操るトレーナーそのもの。
「な、は――!? バっ……ああぁぁぁあーーっっ!!」
避ける間もなく男はその光に巻き込まれる。側にいた男は閃光を浴びてまたも眼を覆う。
数秒後、男が目を開けた時には、先程まで男が立っていた場所には誰も残されていなかった。残された男は死の恐怖に腰が砕けて尻もちを付く。そしてローバイに向かって叫んだ。
「て、てめえ――。な、何がトレーナーの神髄だ! この人殺しめ! ち……近づくな!」
ピジョンの攻撃を受けて倒れていたローバイは、既に壁に手を突いて立ち上がっていた。そして男の言いつけを無視し、足を引きずりながら男の方へ近づいてくる。
「ふふ、散々ポケモンを使って人を攻撃してきたのだ。される覚悟は無かったというのか? それに勘違いして貰っては困るな。私は正義の味方だ! 人殺しなど犯す訳がない! ほら、ちゃんと見てみろ」
そう言ってローバイは男の立っているさらに奥を指さした。おそるおそる振り返ると、そこにはバラバラになって骨も残さず消え失せたと思っていた男が――五体満足の姿で倒れていた。
男が慌てて近寄ると、男はきちんと息をしており、気絶しているだけだった。外傷もほとんど見受けられず、服が少しボロボロになったぐらいで火傷も確認できない。
「優れたトレーナーならば、ポケモンが持つ攻撃の中で最大に近い威力を持つ破壊光線すら
倒れた男の側で座り込んでいた男がひっ、と声を詰まらせた。もはや戦意を喪失した男に対し、ローバイは男の前に立ち止まり、尚も言葉を続ける。
「ポケモンをバトルさせるのがトレーナーなのではない、ポケモンをコントロールする者こそがトレーナーなのだ! ポケモンに善悪を教え、導き、時に叱り、暮らし、心身を鍛え上げ、そこに協調と信頼が生まれる! それがポケモンとトレーナーの正しい関係だ! だが、貴様らはどうだ? モンスターボールに定められた仮初の主従関係に縋って、人知を超えた力を自身の暴力の代用として使う! 貴様らのポケモンの使い方に、凶器との違いが何処にある! 自らの手を汚さぬ分、こちらの方が悪辣だ! 貴様らを私はトレーナーとして認められん! 故に! これより貴様らに私がガラチャジムに招き入れ教育的指導を実行してやろう!」
言いたいことを言い切った後、吐き切った息を取り戻すべく思い切り吸う。満足したような顔を浮かべた後、ローバイは懐から手錠を取り出して男の腕にはめた。
「連行の必要があるな……。ポケギアでジムトレーナー達を呼ぶか……ん?」
物音が起きた方向をローバイが見ると、先ほど逃げたはずの少年――メギが建物から出て来るのが見えた。
「なんだ、逃げた訳では無かったのか。なかなか見上げた少年だな!」
ローバイはメギに対して笑いかける。遠慮ないピジョンの体当たりが直撃したのを見た時は肝を冷やしたが、案外大丈夫そうな様子のローバイを見てメギは少し安心した。
「いや、そういえばまだ礼を言ってなかったしな……助かった。ありがとう」
「なんの、私にとっては当然のことをしたまでだ! しかしその礼はありがたく受け取っておこう!」
……そこは礼などいらないじゃないのか? などと思いながら、メギは健闘を称えようかと窓から見ていた先ほどの戦いを思い返した。
「そういえば……さっきポケモンを人間に向けるなんて愚の骨頂とか、悪質とか言ってた気がするんだが……人間に破壊光線を直撃させるのはあんた的には大丈夫なのか?」
「このローバイ、悪人を更生させるためならば自身が愚の極みに落ちようが厭わない! まあ、威力は最低に落としたので精々スタン・グレネードを間近で喰らった程度で済んだだろう! この程度ならば私の正義も私を許すだろう! だから少年も私を許すといい!」
無茶苦茶な理論を吐きながらメギと話していると、ふとローバイは思い出したようにメギに問いを投げかける。その問いはつい最近、別の人間にした問いによく似たものだった。
「ああ、ところで少年……君の名は、もしやメギというのではないか?」
その問いに、メギは少し驚く。ガラチャの有名人の一人であるこの男の顔は知っていたが、自分がこの男に知られている謂れは無いはずだ、とメギは思った。
「……その通りだが、どうして俺の名前なんて知ってるんだ?」
「ふむ……濃い赤の瞳、黒髪……以前写真で見た時より伸びている。そうだな、少年。私は君の顔に写真で見覚えがある! 私はあの、ええと……そう、趣味でガラチャで起きた事件・事故を全て記憶しているのだが……」
「確か君は……二年前に起きた