外典にて原典   作:新宿のバカムスコ

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ジークフリートの幕間

 

––––––––––〝黒〟のランサー率いる三騎と〝金〟のバーサーカーの戦闘開始と同時刻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝黒〟のセイバーと〝黒〟のバーサーカーはイデアル森林を疾走していた。

セイバーはその足で、バーサーカーはどういう原理なのか戦鎚でのホバー移動に近いもので戦場へ向かっている。白いウェディングドレスを着飾った乙女(・・)がバージンロードでなく薄暗い森の中をセグウェイの如く駆け抜けるのは、〝赤〟のバーサーカー程ではないが異常な光景だった。

城へ帰還したり出撃したりと忙しなく扱われているこの二騎だったが、扱われることには慣れているのか、何の不満もなく黙々と従っている。

 

このような事態になったのは〝黒〟のランサーたちへの増援を要望した〝黒〟のアーチャーが発端である。『緊急を要する』『至急向われたし』と達しが来たのだ。

 

そこまでする必要があるのかと疑問はあった。〝金〟のサーヴァントが現れたといっても〝黒〟のランサーを含める三騎に加えての増援は過剰戦力になりミレニア城塞の守りが手薄になってしまうのは考えるまでもない。

それがわからないアーチャーのわけがないが、反論するという思考が無く、求められれば何でも応じるを自でいくセイバーは理由も聞かずに行動を起こした。〝黒〟のバーサーカーは高度な機械仕掛けの(・・・・・・)思考能力を持っているが為従ったが、指示したのがバーサーカーの言葉を理解できるアーチャーであったのも大きな理由であるだろう。

 

しかし、そんな二人でも口には出さなかったがどういう事なのか説明して欲しい気持ちがある。

〝黒〟のサーヴァントの中でもこの二騎はコミュニケーションが上手い方とはとても言えず……はっきり言ってしまえば誰かとまともな(・・・・)コミュニケーションが出来る〝黒〟のサーヴァントはアーチャーしかいない。

それを知ってかしらずか、否、彼なら把握しているだろう各サーヴァントの性質を考慮すれば、疑問(ことば)を発しないセイバーとバーサーカーにもきちんと説明した上で増援に向わせているはずだ。少しの心の痼が戦いでは大きな隙になるのは誰であっても起こりうるものなのだから。

 

だが、アーチャーがそれを言うことはなかった。疑問を解消する前にアーチャーからの念話が途絶えたからだ。

いや、この場合は途絶えさせられた(・・・・・・・・)というのが正しいか。

 

「……………………」

 

〝黒〟のセイバーはミレニア城塞に引き返すべきか判断に迷った。

九分九厘、いや確実にアーチャーは襲撃を受(・・・・・・・・・・)けている(・・・・)

念話を繋いでいる途中に糸が切れたように音信不通となり、いくら待っても言葉が返る事はなかった。最悪の状況が頭の中に過るも、それでもこうして〝黒〟のランサーの元へ向かっているのはアーチャーの声を聞いたが故にだ。

生前のセイバーは人の願いを聞き届ける人生を歩んできた。あらゆる願いを善悪関係無しに、人々の望むものを叶えてきた。英雄たる自分は乞われるのなら何事をも成さなくてはならないと決め、その果てに竜殺し(ドラゴンスレイヤー)という大層な称号と名誉を得たセイバー。そんな彼がアーチャーの乞われる声を見過ごすわけにはいかず、例え本人が深刻な状態でも引き返すわけにはいかなかった。

 

何故なら、アーチャーの声には〝必死〟が孕んでいた。

あらゆる者たちから願いを聞き届けたセイバーだから分かる声の性質、それが彼にアーチャーの願いを聞き届けるべきだと決断させたのだ。

バーサーカーも同じなのかはわからないが、念話を繋いでいる時のアーチャーの様子から只ならぬ事態なのは察したのだろう。

あの大賢者と敬われているケイローンが、幾ばくかの焦りを、切羽詰まる危機感を乗せてセイバーとバーサーカーに〝黒〟のランサーへの増援を願ったのだ。

そこまでアーチャーを思い詰める敵がランサー達の前に現れ、〝黒〟の陣営に迫って来ている。ならばセイバーのやるべきことは一刻も早く敵サーヴァントを倒し、ミレニア城塞に戻る、これしかない。アーチャーほどの実力者ならそうそうやられはしないという気持ちもあるが、〝黒〟の同盟者として、仲間として、彼の願いと同じように、彼自身も助けなければならない。

 

 

 

 

––––––––そうして奔走していくこと暫く、二人は脚を止めた。

 

セイバーは大剣を抜き構え、バーサーカーは唸り声を上げながら戦鎚を持ち上げる。

 

 

 

 

 

「……………………」

「ゥゥゥ」

 

 

だがセイバーとバーサーカーはまだランサーの元に辿り着いていない。

 

この先を通すわけにはいかないと現れた、前方に立ち塞がる敵を押し退けるために武器を手にしたのだ。

 

馴染みの無い格好をした男だ。

セイバーにとってその男が着ているものは知識でしか知らない陣羽織と呼ばれる極東島国の服だった。武器もまた同じ。剣と似て非なるもの、刀である。しかしその刀身は通常のものよりも長く、身の丈ほどもある。刀に詳しい訳ではなく英霊として聖杯に与えられたにわか知識でしか知らないが、あそこまで長いのはそうそうないと思うほどの長刀であった。

 

そんな長刀を持ってこちらを見据えている男もまた、不思議な(モノ)だった。

敵意が無い訳ではない。殺意が無い訳でもない。

なのに何故か、そこには〝静寂〟があった。寒気がするような冷たいものでもない、自然に、ありのまま(・・・・・)に穏やかな闘志が場に流れている。嘗て邪竜と相対した時のような緊張感はなく、〝赤〟のランサーと戦った時のような高揚感がある訳でもない。とても戦うような雰囲気ではない、緩やかで、嫋やかとすら言える気配を感じていた。

 

只者ではない。

今迄に出会ったことのない奇妙な雰囲気を漂わせるこの男に対し、警鐘の音を耳に響かさずにはいられなかった。

 

「––––––〝黒〟のサーヴァントだな?」

「……………………」

「ゥゥゥゥゥゥ」

 

問い掛けにセイバーとバーサーカーは頷くだけでこれといった反応を示さない。二人の性質以前に救援に向かう最中に邪魔が入っていい気分になる訳がない。問答無用に攻撃しないのは不用意に動くのは得策ではないと思う故にだ。

 

「此処は……」

 

男はその目を正面から上へと向けて––––––

 

「此処は、月がよく見えんな」

 

おもむろに発した男の言葉に鼻白んだ。

「此処は通さん」とでも言うかと思いきや、独り言を呟くように顔を上へと向ける。敵を前に目を反らすなんて舐めているとしか思えない行動にバーサーカーの唸り声が強くなるが、しかしセイバーには、それが〝隙あり〟のようには見えなかった。

 

「この森は些か以上に人の手入れが行き過ぎている。使い魔は飛ぶが鳥は飛ばず、戦乱の足音は聴こえるが鈴虫の音色は聞こえない。神秘の秘匿か何かは知らんが、結界など張り巡らせるとは魔術師も無粋な真似をする。其方の根城屋根にでも登らねば風流は楽しめんらしい。

––––––どうだ御両人、あの城からは月がよく見えるか? この街一番の高台から眺めれば、さぞ美しい景観であろう?」

「……………………………………………………」

「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ」

 

……真顔でまったく、まったくもって、なんの関係のない話をしてきた男に僅かな苛立ち(いかり)が募り、バーサーカーは今にも飛びかかってきそうになる。

それを見た男、いやサーヴァントは態度こそ変わらないでいたが、此方に目礼しながらすっと頭を下げた。

 

「いやすまなんだ。以前いた森……山に比べると気落するほど何もないゆえ愚痴をこぼしてしまった。これから死合おうというのに言葉など語るものではなかった。非礼を詫びよう」

 

謝罪の意を込めた姿は、軽薄な言葉遣いとは裏腹に誠心誠意を込めたものであった。普通に、何の気負いもない、あるがままに自分の非を認めて謝った。だが、素直に受け止められない。傲慢な振舞いではないが、誠実というには些かこの男、掴み所がなさすぎる。

あまり見ない人種だけにそう思っているだけなのかもしれないが––––––

 

「その代わり、という訳ではないが名乗らせてもらおうか。

私は〝金〟のサーヴァント、佐々木小次郎。此度の戦ではアサシンのクラスで現界した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

……………………。

 

 

………………………………。

 

 

…………………………………………………。

 

 

…………………………………………………………………………………………沈黙が、場を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒間が空き、禁じられていた口を思わず開けそうになったセイバー。

 

––––––––いまこのサーヴァントはとんでもないことを言わなかったか?

 

「ん? 聞こえなかったか? ではもう一度名乗ろう。

〝金〟のアサシン、佐々木小次郎。

それが今の(・・)私の名。其方(そなた)らと果たし合う男の名だ〝黒〟のセイバー、そして〝黒〟の姫君よ」

「ゥ、ァ–––––––ゥゥゥゥィィッ」

 

呆気にとられた〝黒〟のバーサーカーの唸りが警戒に変わった。セイバーも同じ反応だ。

聞き違いはしても言い違いなどする筈もない真名を軽々しくも確かな敬意が見て取れる名乗りに、感服より警戒が勝るのは当然と言える。

英霊の真名は秘匿されて然るべきだ。聖杯戦争において真名を知られるのは不利益しか生まないのは周知の事実。その人物の伝説、逸話が調べられれば宝具がなんであるか、そして弱点がなんであるかが簡単に分かってしまう。不死身の肉体を持つ英雄も〝ただし例外がある〟というのは英雄ならではの有名どころ(ポイント)、特に顕著な例が〝黒〟のセイバーだ。他のサーヴァント達に比べても絶対的不利に陥ってしまう。無論、たとえ知られても問題のない、知られても対処しようのない英霊もいるだろうが、わざわざ不安要素を拡散する必要はなく、そもマスターに仕えるサーヴァントなら真名を隠し通すのは当然の責務だ。

 

この〝金〟のアサシン、佐々木小次郎はそれを破った。

生前ならいざしらず、死後に使役される存在に当て嵌められたサーヴァントがそんな事をするのは––––––余程の大うつけか、大物か。

そんな些事は露ほど知らぬと、本人はただ、涼やかに笑みを浮かべるだけだった。

 

「そう睨むな〝黒〟の姫君。なにも化かし合いをしようというわけでもなし、立ち合う相手に名を名乗るのは国を問わぬ礼義。令嬢であられる身では理解し難いかもしれぬが、武士(もののふ)とはそういうものなのだ。

だろう? 〝黒〟のセイバー。 西洋の騎士とてこの作法は……っと、いかんな、もう語り合うのはよそうと言ったそばから…………。どうも私は思った以上にお喋りだったようだ。重ねて詫びよう」

 

 

––––––我らが交えるは言でなく(けん)にするべきだ。

 

 

〝金〟のアサシン(佐々木小次郎)の長刀が〝黒〟の二騎に向けられる。鋒を突き付けるだけで構えなどと呼べない自然体に近い静止状態でいる。

 

「…………、」

 

バーサーカーは既に臨戦態勢へ。

セイバーは––––––心なしか顔を顰めているように見える。

 

セイバーの心は佐々木小次郎の礼義に揺れていた。

「戦う相手には名乗る」…………その通りだ。それは敵に対して最低限といえる義理、最期とも言える礼義だ。

王族として、勇者としての自分が呼び起こされる。〝金〟のアサシンのやったことはサーヴァントとしては失格かもしれないが、一戦士としてその潔さと不敵さは認めざるを得なかった。そして、それに応えることのない自分は、どうしようもないほどの敗北感に打ち拉がれている。

マスターに喋ることを禁じられている以上、名乗ることはおろか名乗れない旨を謝罪することもできない。尤も〝金〟のアサシンはそれについて思う所はないらしく、セイバー、バーサーカー、ともに名乗り返すことを求めずに戦いを始めようとする。本当に自分の流儀を通しただけのようだ。彼が求めているのは言葉ではなく、自身と斬り結ぶ剣のみなのだろう。

 

だが、ここままでされて何もしないのはあまりに〝金〟のアサシン(佐々木小次郎)に失礼だ。

 

「…………バーサーカー」

 

逡巡を捨て、セイバーは隣にいるバーサーカーに言葉を掛ける。今の今まで口も開けなかったセイバーが自分に語りかけた事に驚いた風で振り向いたバーサーカーに、自らの考えを伝える。

 

「俺から仕掛けて初撃を受ける。その後の攻撃は全て捌く。その隙にランサー達の元へ向かってくれ。俺も後から追う」

 

名乗れないならせめて、相手の望む剣戟を、真剣なる勝負をもって迎い入れる。

枷られた自分にできる精一杯の敬意で、だがアーチャーの要望も果たさせてもらう為に、セイバーは一人で〝金〟のアサシンと戦おうとする。

 

「ゥゥゥ……」

 

唸り声しか上げられないバーサーカーが了承したのか否かはセイバーには正直分からない。ただ意思は伝わったという手応えがあった。それだけで十分。

 

「–––––––––ッ!!」

 

一歩足を蹴るだけで莫大な推進力を得る。大剣を大きく掲げ〝金〟のアサシンに威嚇を込めた攻撃を振り下ろす。これを無視すればお前は死ぬと、敢えて見せつけている一閃。人は当然の如く真っ二つに、魔獣だろうと幻獣だろうと一刀のもとに斬り伏せる威力なのが明らかの一閃。

自らに大剣が迫ってきても変わらず〝金〟のアサシンは自然体、至って冷静そのものだった。確かに当たれば一溜まりもない大振りをかましているが、その分隙も多い。振り下ろすよりも早く刀の間合いに近づく。鋒は既にセイバーに向かって伸びていき、首を斬らんと一線を走らせる。

 

「むっ!?」

 

完全に入った。刀はセイバーの首に宛てがり、動脈は断ち斬られるしかなかった筈なのに、斬撃は首で防がれた(・・・・・・)

あり得ない事態に〝金〟のアサシンも驚愕に目を張る。サーヴァントならば鋼鉄を斬るのは珍しくもない。たとえ英霊の装備している鎧や盾にしても宝具として昇華されず、余程頑丈な造りを施されていない限り斬るのは容易い。それを首で受けきるなど、〝黒〟のセイバーが如何に図抜けた頑丈さを誇るのかを物語っている。少なくとも、鋼鉄が斬れる程度ではセイバーは斬れないのだといま証明された。

 

「ゥィィィァァッ!!」

 

続行されたままの振り下ろしを避ける〝金〟のアサシンをセイバーはそのまま斬り掛かり、それに乗じて〝黒〟のバーサーカーは道を突破した。

セイバーの思いが通じたのか、アーチャーの指示を優先したのかは未だ判明しないが、思い通りにいったことに満足してセイバーは〝金〟のアサシンと向かい合う。

 

〝金〟のアサシンはバーサーカーを追う素振りは見せず、寧ろこうなる事を望んでいたかのように薄く微笑む。刀が通らない、鋼鉄以上の硬さの首に物怖じせず、撤退もしないで、そうでなければ面白くないと言わんばかりに〝黒〟のセイバーと戦うつもりのようだ。

果たしてそれは無謀か。

宝具も何も判明していない以上何とも言えないが……不利を覆そうとする不屈(むぼう)は、セイバーの好むものだ。

 

 

「ふっ……」

「………………」

 

 

––––––––ここまで来て、言葉は不要。

 

 

「はっ!」

「…………ッ!!」

 

 

大剣と長刀、二つの得物が担い手(てき)を討ち取らんと鈍く光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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