九人の女神+αとイチャイチャしたいだけの人生だった 作:なんちゃって提督
ピリリリリ……
規則正しい電子音が朝を告げる
「んー…」
私はまだ眠気の残っている体を引きずるように起き上がり、机の上に置いてあった目覚まし時計を止めた
何故枕元に置いていないのかと問われれば、手の届く範囲に時計があると二度寝の危険があるからである。私は朝に強い方ではない上に、両親と離れて一人暮らしをしている身なので二度寝は割と本気で洒落にならない
加えて今日から新学期。高校生活最後の一年が始まる日だというのに、いきなり寝坊をかましていては生真面目な黒髪ロングの幼馴染に「たるんでいます!」と怒鳴られるのは目に見えている。新学期早々怒られていては堪らないので、ベッドから迸る二度寝の誘惑を断ち切り顔を洗うべく洗面所へと向かう
顔を洗い終わったら朝食の支度を始める。予定より少し遅れているので食パンを一枚トースターに突っ込み、冷蔵庫の中からコンビニで仕入れてきたカット野菜の袋を取り出して器に盛り付けた
野菜を切らなくていいだなんて便利な時代になったもんだ、なんて年寄り臭い事を考えている間にパンが焼き上がった
「あっつ」
マーガリンを適度に塗り、食器に乗せる。後はコップに野菜ジュースを注いだら朝食の完成だ
野菜が多いのは健康志向とかそんなのではなくて純粋に私が野菜が好きだからである。肉も当然好きだが、朝から食べるには私にはちと重すぎる
「いただきます」
誰もいないが、これは私が必ず言う事。小さい頃に母親に躾けられた影響だ。言わないと食事に当時嫌いだったものが追加されていくので、強制されるように言っているうちに癖になったらしい
手を合わせ終わったらパンを口に運ぶ
……うん、今日もパンが美味い
時間も時間なので少し急いで朝食を終えて、食器も片づけて歯を磨く。それから制服に着替えて家を出た。うん、何とか予定通りに出発できた
今日も良い天気
しかし春らしい、とはまだ呼べそうにない。今年の始業式はまだ少し肌寒い。カーディガンでも持ってくるべきだった
そして幼馴染と待ち合わせをしているいつもの通りに到着。そこにはもう既に三人のうち二人が立っていた
二人の幼馴染は私に気がつくと素敵な笑顔を向けてくれた。二人とも今日も相変わらず見目麗しい
早朝からかつてスクールアイドルに頂点に立った女神の笑顔が見られるなんて、私は幸せ者だろう。これは密かに私の朝の楽しみとなっている。本人達には内緒であるが
「おはようございます」
「おはよう咲来ちゃん」
「ことちゃんに海未ちゃん、おはよっす。二人は相変わらず早いねー」
ああ、そういえば自己紹介していなかったけ。咲来というのは当然だが私の名前である。ちなみにフルネームは一之瀬咲来
そして私なんぞに挨拶してくれた二人の女神の名前は『ことちゃん』というのが南ことり。『海未ちゃん』というのは園田海未という
この二人は私と小学校からずっと同じクラスで親友と呼んでも良いくらいに仲が良い
そしてもう一人小学校から一緒の女の子がいる
「ほのっちは……相変わらずかな?」
「はい。先程少し遅れるかもしれないと連絡がありました」
「あ、でもちょうど来たみたいだよ」
ことちゃんが向いている方向へと目を向けると、私達と同じ制服を着た女の子が恐らく全力で走ってくるのが見えた
仮にも華の女子校生が朝から全力疾走するというのは如何なものだろうか。現に私の隣にいる海未ちゃんは呆れたように頭を横に振っている
「お、おはよーっ!!」
全力疾走してきた人物は私達の前で急ブレーキをかけて止まると同時に朝の挨拶をしてきた。本当に全力で走ってきたらしく、大きく肩を上下させて息を整えている
「穂乃果、遅いですよ」
「おはようほのっち。今日も元気一杯だねぇ」
「えへへ…」
私の最後の幼馴染、『ほのっち』こと、高坂穂乃果。彼女はこの学校の現生徒会長にして少し前まで存在したアイドルグループ、u’sのリーダー的存在だった少女だった
リーダー的存在、というのは正確に言えばu’sに決められたリーダーは存在しなかったからである
そうは言ってもこのグループのリーダーは、彼女以外には務まらなかっただろう。ほのっち本人にその自覚はなかったようだけど
「ふふ、ほのっちてば凄い汗。よっぽど急いで走ってきたんだねぇ」
私は鞄からハンカチを取り出すと彼女の額から流れる汗を拭ってあげた。割と肌寒いというのにここまで汗をかくなんて本当に急いできたのだろう
「えへへ、ありがと」
疲れながらも笑顔でお礼を言ってくれるほのっちはまさに天使。私は昔からこの笑顔に弱いのだ。何と言っても可愛すぎる
小学校時代から数々の男子を勘違いさせてきた小悪魔(無自覚)の笑顔は伊達では無い
「穂乃果ちゃんも来たしそろそろ行こう? このままだと遅刻しちゃうよ~」
「そうですね。穂乃果、生徒会長である貴女が新学期早々遅刻などしていては、他の生徒に示しがつきませんよ」
「わ、分かってるよ~…」
「まぁまぁ海未ちゃん、ほのっちらしくて良いじゃない。今ならまだ十分に間に合う時間だしさー」
「そうやって咲来が甘やかすからいつまで経っても穂乃果の寝坊が直らないんです」
「え、私のせい?」
「はい」
海未ちゃん、なんと理不尽。まぁ、冗談で言ってるのだろうけど
しかし私もその冗談に乗っかる事にしよう
「それだったら仕方ない。私が今まで甘やかしてきたというその責任を取ってほのっちをもらおうじゃないか」
「へ?」
「そうすればほのっちを毎朝しっかりと起こしてあげられるしね。良い話でしょ?」
ずいっ、と私に近寄るほのっち。うん、汗をかいているはずなのにとても良い匂いがするのは何故だろう
や、汗の匂いに興奮するとか決して変態的な意味では無いよ? 世界にはそういった性癖の人間もいるだろうが、生憎と私にはそういう趣味はない
「咲来ちゃんが毎日起こしてくれるんだったら最高だね! 寝坊しないし美味しい朝ご飯も食べられるし咲来ちゃんと一緒にいられるし、良い事づくめだよ!!」
冗談を言ったつもりだったのだが、ほのっちは予想以上に食い付いてきた。目を輝かせて私を見つめる彼女の頭には犬の耳が見えるような気がした。ついでに全力で尻尾を振っている気がする
「咲来が穂乃果の世話をしていたら益々駄目人間になってしまう未来しか想像できませんね」
「今日の海未ちゃん厳しい!! 穂乃果なんか悪い事したっけ!?」
ギャーギャーと騒ぐように言い合いというかじゃれ合いというか。言ってしまえばいつものやり取りを繰り返しながら学校へと向かう
未だに海未ちゃんとほのっちが言い合っている時、不意にことちゃんが私の袖を引いた。どうしたの? と私が聞けば、ことちゃんは意味深な笑みを浮かべる
「さっきの咲来ちゃんの言葉だけどね」
「さっき?」
「うん。『ほのっちは私が~』ってやつ」
ああ、さっきの冗談か。それがどうしたんだろう、と尋ねるより早く
「穂乃果ちゃんはことりのおやつなんだから独り占めはいけないと思うんだよね♪」
「へ?」
ことちゃんの瞳がキラキラと光っている
「そ れ に、咲来ちゃんもことりのおやつなんだよ?」
「ええ!? それってどういう…」
訂正。キラキラではなく、彼女の瞳は妖しく光っていました
「…なんて、ね♪」
呆気に取られる私を置いて、少し先を歩いていた二人に並んで何事もなかったかのように歩きだすことちゃん
…また別の機会に話すが、今年に入ってからことちゃんが少しだけ怖い。上手く言葉にできないが、油断すると食べられてしまうのではないかという錯覚に陥る事がある
天使だと思っていたことちゃんが実は悪魔でした、なんてのは洒落にならない。私の勘違いだと信じたい
とにかく、かなり学校に近づいた所で見慣れた三人組が前方を歩いているのが目に入った。その姿を捉えた私とほのっちはダッシュ
「真姫ちゃん凛ちゃん花陽ちゃん、おっすー!!」
「三人ともおはよーっ!」
いきなり背後から大きな声をかけられたので、三人ともビクッ と小さく肩を震わせていた。その様子が小動物みたいで少し可愛かったです
「誰かと思えば穂乃果ちゃんに咲来ちゃんか~」
「び、びっくりした…」
「全く、朝からそんなに大きな声出さないでよね」
上から星空凛ちゃん、小泉花陽ちゃん、西木野真姫ちゃん。三人とも音乃木坂学院に通う二年生で私の可愛い可愛い後輩になる
「ごめんごめん、久しぶりだから何だか嬉しくなっちゃって」
ほのっちの言葉には私も同意。昨日まで春休みだったので中々会う機会がなかったのだ
「たかが何日か会わなかっただけでしょ。二人とも大袈裟なんだから」
「そう言ってる真姫ちゃんが皆に会えなくて寂しそうにしてたけどにゃー」
「なっ!?///」
凛ちゃんがニヤニヤしながら告げ口。真姫ちゃんは慌てて否定しようとするが、時すでに遅し。私とほのっちが両サイドからがっしりと腕をホールドする
「へー、真姫ちゃんったら穂乃果達に会えなくて寂しかったんだ―」
「ちがっ、そんなんじゃ」
「良いではないか良いではないか。私も真姫ちゃんに会えなくて寂しかったよーん」
「だから違うって言ってるじゃない! 咲来も穂乃果もとにかく歩きづらいんだから離れなさいよ!」
顔真っ赤にして叫んでも何の説得力もない。私とほのっちは目配せしてからニヤリと笑い合うと、より一層体を密着させた
「寂しがり屋の真姫ちゃんにはこうしてあげよう♪」
「こうすれば寂しくないでしょー?」
「-っ/// もう勝手にすれば!」
典型的なツンデレ少女である真姫ちゃんはついついからかいたくなってしまう。あまりやると怒られてしまうが、今日はセーフのようだ
「真姫ちゃんモテモテだにゃ」
「うるさい! 元はと言えば貴女が余計な事を言ったせいでしょ!」
「でも真姫ちゃんだって満更でもなさそうだよ?」
「ちょっと! 花陽まで余計な事言わないで!」
私達どころか他の二年生にまでからかわれている真姫ちゃんは、やはり弄られやすいのだろう。こうして見ると彼女も入学当初から比べればかなり変わったものだ
じゃれ合っているうちに後ろを歩いていた海未ちゃんとことっちも追いついてきた。どうやら真姫ちゃんと腕を組んでいるせいで歩くスピードが少し遅くなっていたらしい
「凛、真姫、花陽。おはようございます」
海未ちゃんの挨拶に二年生の三人もそれぞれ挨拶を返した
「二人とも、真姫が困っているではありませんか。そろそろ離してあげたらどうです?」
「これは嫌がってるんじゃなくて喜んでるんだよー。ね、真姫ちゃん?」
「嫌がってるに決まってるじゃないの! 意味分かんない事言わないでよね!」
私の言葉を一蹴。これ以上は流石に怒られてしまうと考えた私は、仕方がなく彼女の腕から離れた
「むー、温かったのにぃ」
不満気な声を出すと、頬を赤く染めたままの真姫ちゃんに睨まれてしまった。照れと怒りを両方同時に表現できるなんて器用な人だ
いやいや、むしろ不器用な人かもしれないな。感情表現的な意味で
「穂乃果ちゃんも咲来ちゃんも朝から元気だね」
「うん! もちろん♪ 今日から何があるのか考えただけでワクワクしてきちゃうよ!」
「元気は私の数多くある取り柄の一つだからねー、それも当然さ!」
「二人とも相変わらず言う事がそっくりにゃ」
「同じ種族なんでしょ。頭の構造が単純なのよ、この二人は」
ふん、と鼻を鳴らして言い捨てた真姫ちゃんはすっかり機嫌を悪くしてしまったらしい。からかったのは悪いと思ってはいる、少しだけだが
しかしそんなに怒ることだっただろうか。去年もこういう感じの絡みは何回もあったはずなのに
まぁ、そのうち機嫌も直るだろうと、深く考えなかったのも仕方がない事だろう
「……はぁ」
真姫ちゃんの溜め息がどういう意味だったのか、この時の私に分かるはずもなかったのだが、それはまた別の話だ
とにかく今は全員の目的地である学校に向かって歩いている。これだけの人数の女の子がいるわけだから、当然お喋りにも花が咲く
「そう言えば絵里ちゃん達も今日が入学式なんだってね」
「そうにゃ。まさか勉強苦手なにこちゃんが大学行けるだなんて、凛びっくりしちゃったよ」
凛ちゃんは相変わらずにこちゃんに毒を吐いている。ちなみに本人に悪気はないそうだ
「希も同じ大学ですから、あの三人はこれから四年また同じ学校に通うわけですね」
「あの三人は本当に仲良しだよねー」
「そうね、三人揃って同じ大学に進学するぐらいだもの。進路とかはどうするつもりなのかしら…?」
特に、にこちゃん。なんて言う真姫ちゃんの横顔を見ると心配そうにしていて。グループ内で特に仲の良かった彼女の事は今での気にかかるようだ
『にこちゃん』というのは去年の三年生。つまり私の一つ上の人でフルネームは矢澤にこ
先程話題に上がっていた『希』と『絵里ちゃん』も私達の先輩で、それぞれ東条希、綾瀬絵里という
この三人も去年まで音乃木坂に通い、共にスクールアイドルとして活動してきた仲間だ
「でも、本当に今日から絵里ちゃん達はいないんだよね…」
花陽ちゃんが小さく呟いたその言葉
それを聞いた全員は黙ってしまった
彼女達の卒業式を行い、お別れ会も真姫ちゃんの家で盛大に行ったというのに
頭では理解していたつもりだったが、その現実は私達にとっては重すぎた
しかし
「花陽ちゃん…」
「え、咲来ちゃんなに…って、ぴゃあ!?」
「なんでそんな悲しい気分になっちゃう事言うのさー! そういう悪い子には希ちゃん直伝のワシワシMAX改の刑じゃーっ!!」
「ひゃ!? だ、誰か助け…ひゃう!?///」
私が花陽ちゃんに何をしているのかは、残念ながら詳しく説明することはできない
ただ、凄く、大きいです。何がとは言わないけども
それだけの感想は伝えておきたい
「あれ、花陽ちゃんひょっとしてまた大きく」
「いい加減にしなさい!!」
「かよちんをいじめるなんて咲来ちゃんといえど許せないにゃー!!」
花陽ちゃんを蹂躙していた私は、海未ちゃんの容赦ない拳骨と凛ちゃんの羽交い絞めによって引き剥がされてしまった
「いったぁー!! ちょっと海未ちゃん今本気で殴ったでしょ!?」
「咲来が調子に乗りすぎるからいけないんです!」
「てか凛ちゃん、割と本気で、絞まってるから…ね? いつの間にか、羽交い絞めじゃなくてヘッドロックに…」
「かよちんのおっぱいを揉んでいいのは凛だけなんだよ! 駄目な変態さんな咲来ちゃんにはお仕置きだにゃー!」
「ふえぇ!? り、凛ちゃん何言ってるの!!//」
「そんな事を大真面目に言っている凛も充分に変態だと思うのだけど…」
真姫ちゃんがぐう正な事を言ってくれているが、今の私にはそれに同意する為に首を縦に振る余力など残されていなかった
「ちょ、凛ちゃ、マジで、ギブ…」
「咲来ちゃんが泡吹いてるよ!?」
「り、凛ちゃん落ち着いて~!!」
ほのっちやことちゃんが取りなしてくれたおかげで私は命拾いした。新学期早々季節外れの彼岸を渡りかける事になるとは思わなかった
「…咲来ちゃん、反省したかにゃ?」
「はい、反省しました」
しかし後悔はしていない。花陽ちゃんの『あれ』を思う存分蹂躙して私が死にかけた程度で済んだのだから充分にお釣りがくるくらい得をしたというものだ
「…反省してないみたいだね」
「ソ、ソンナコトナイヨ!?」
凛ちゃん鋭いな。今にも飛びかかってきそうな彼女からさり気無く間合いを取る
普段は私に懐いてくれる可愛い猫みたいな凛ちゃんなのに、花陽ちゃんが絡むと私を捕食しようとする雌豹になる
そのギャップがまた良いと感じてしまう私はひょっとすると変態かもしれない
「はぁ、三年生になったっていうのに去年までと何も変わって無いわね。咲来は」
「ちっちっち、甘いよ真姫ちゃん。私は常に変わり続ける女であるから」
「あ、学校に着いたよ」
「最後まで喋らせてよ花陽ちゃん! ひょっとしてというかやっぱり怒ってる!?」
「え~、怒ってなんかないよ?」
ニッコリと天使のように微笑む花陽ちゃんの背後に黒いものが見えた気がしたのは私の気のせいだろう…うん、流石にさっきのはやりすぎたかな
何はともあれ、私達に広がりそうになっていた暗い雰囲気は一掃できたようで良かった。新学期早々、あんな空気になるのは嫌だからね
「それじゃあまたね」
そう言って後輩ちゃん達と別れて私達は自分の教室に向かう
今日から新しい学校生活
私も希ちゃんや絵里ちゃん、にこちゃんがいなくて寂しいけれど
もっと良い学校にしていってくれとあの人達から頼まれた以上は半端な真似はしたくないのだ
それでも
「…やっぱり、寂しいなぁ」
「え、何か言った?」
「いんや、何でもないよーん」
イチャイチャさせたかっただけなのにどうしてこうなった…ま、まぁ最初だし多少はね?
主人公の名前、読めると思いますが一応
彼女の名前は いちのせ さくら です
あ、次回も顔合わせ回です