『市民の皆様、準バハムート級航空都市艦・武蔵が、武蔵アリアダストイン教導院の鐘で朝八時半をお知らせします――――』
いつもの定時放送、いつもの声、いつもの喧騒、いつもの友人
そんな当たり前がこの日に崩れるとは誰が予想していただろう。
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いつも道理のもの
当たり前のもの
かけがえのないもの
配点(日常)
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前述した武蔵アリアダスト教導院の前には一本の橋が架かっている。この橋は校庭をまたぐようにして校門と校舎の二階をつなげている。
「よぅ――し」
その橋の上には現在学生服を着た(一部例外有り)生徒達とそれに向かい合うように一人の女性がいる。
「三年梅組集合――。いい?」
今話しているのは女性の方。彼女は一本の長剣を抱えたまま笑顔で生徒に対して言い放った。
「では、――これより体育の授業をはじめまーす」
彼女は、わざとらしい口調で続ける。
「さて、ルールは簡単です。いい?――先生これから品川の先にあるヤクザの事務所までちょっとヤクザ殴りに全速力で走っていくから、全員ついてくるように。そっから先は実技ね。」
戸惑う声が生徒の中から上がるが、彼女―――真喜子・オリオライト(アリアダスト院教師)は構わず続ける。
「休んでるの、誰かいる?ミリアム・ポークウは仕方ないとして、あと、東は今日の午後に帰ってくるって話だけど、他には――」
「ナイちゃんが見る限り、セージュンとソーチョーがいないかなあ」
そう答えたのは黒い三角帽をかぶっている金の六枚翼の生えた少女―――マルゴット・ナイト(アリアダスト院第三特務)。
その横で彼女の腕に抱き着いている黒翼の少女―――マルガ・ナイゼ(アリアダスト院第四特務)が続けて話す。
「正純は今日一日居ないことは分かっているけど、総長……トーリは知らないわ」
「喜美なら知ってるんじゃねぇか?」
そう言ったのは大きい腕輪を付けた背が高めの少年―――
その言葉を受けて皆は茶色いウェーブヘアの少女―――葵・喜美(アリアダスト院生徒)の方を向く。
彼女は目を向けられると、腕を組み、口を弓の形にしながら、
「フフ、皆、うちの愚弟のトーリのことがそんなに聞きたい?聞きたいわよね?だって武蔵の総長兼生徒会長の動向だものね。フフ。でも――教えないわ!」
その言葉に皆が疑問の声を上げるのを聞きながら少女は続ける。
「だって朝八時過ぎに私が起きたらもういなかったから」
「お前いつもハイテンションなくせに起きるのおせぇよ!」
「はいは、そこまで。つまりトーリは遅刻ね、――生徒会長がこれでいいのかしら?」
騒ぎ始めた梅組を止めたオリオライトは出席簿に記帳しながら苦笑する。
そんなオリオライトの態度や言葉に生徒は力ない笑みを浮かべた。
「まぁ、うちの生徒会長は訳ありだから仕方ないのよねぇ。――なんせ、監視された平和なんだから。」
オリオライトの様々な意味を含めたその言葉に皆は程度の差こそあれ浮かない表情を浮かべた。
「そんな国だけど皆はどうしたいか分かってる?」
その言葉に生徒たちは今度こそ沈黙した。そんな様子にオリオライトは
「まぁ、それは今すぐ決めなくてもいいのよ。――さぁ、顔を上げて」
生徒たちの注目が自分に集まったことを確認しながらオリオライトはわずかに身を低くした。
そのわずかな動きに反応した者たちを見ながら、
「いいねぇ、戦闘系技能を持っているのなら今ので”来”ないとね。
さて、ルール説明よ。といってもただ一つ。事務所にたどり着くまでに私に攻撃を当てること。それが出来たら――」
告げる。
「出席点を5点プラス。つまり、――5回サボれるの」
その言葉ににわかに沸き立つ一同。その中で手を挙げたのはマフラーで口元を隠し帽子を目深にかぶっている少年―――点蔵・クロスユナイト(アリアダスト院第一特務)と、航空系半竜の少年―――キヨナリ・ウルキアガ(アリアダスト院第二特務)だ。
「先生、攻撃を”通す”のではなく”当てる”でいいので御座るな?」
「まぁ別にそれでも構わないわ?」
「つまりどこに
「あはは、授業始まる前に死にたいのはお前か?」
「なるほど、つまりあのオパーイに当たってもいいので御座るか!」
「いや、お前ら二人か」
半目でさらりと死刑宣告もどきをしたオリオライトは舌を出し
「――んじゃ」
え?とみんなが反応するより早く、オリオライトは跳んだ。
「そうはいくかよ」
いや、一人だけ反応できたものがいた。宗谷だ。
「ヤマ張っていて正解だったよ!」
そういいながら宗谷は一歩先を行くオリオライトを追いかける。
二人は後悔通りと呼ばれる道を突き進む。
後ろでは出遅れてしまった残りの生徒が悔しそうな表情を浮かべて飛び出した。
「やるわねぇ、でもあんたのその
そういいながら手にした長剣で牽制している。するとそれに合わせてよけつつ何かのタイミングを図っている。
そして、宗谷が僅かに足を早く踏み込むタイミングで仕掛けた。
「震脚!?」
宗谷の震脚によって引き起こされた振動によりオリオライトは思わず体勢を崩す。
その瞬間を狙って長剣に手を伸ばして奪い取ろうとする。
「だけど、――甘いわ」
しかしオリオライトは、崩れた体制から長剣を地面にさしてそれを支えにし、体を一回転させ持ち直した。
それと同時に宗谷を蹴り飛ばし、自分の安全も確保した。
「今回のリタイア一人目は宗谷ね、もう少し余裕を持って動くように」
「Ju――Jud.」
そういいつつ宗谷は皆の背中を見ていた。
品川に梅組の出席者とその教師が集合した時まともに立っていたのは三人だけだった。
「はいはい、コラコラ遅れてきて勝手に寝ない。で、生きているのは鈴と荒垣だけ?」
「わ、私、その、運んで、もらって、いた、いただけですので……」
「俺は真っ先におちて、最短距離を突っ切って来ただけだから……」
「まぁ、あんたら二人がそういう動きで来たってのは別にチームとしても悪くないと思うわ。ただ、荒垣はリタイアの救助に回ってもよかったのかもね」
「Jud.」
「ま、そこら辺は時と場合に依るわね。――生存二名、けど皆ちゃんとここに来れてるみたいだね。二年の時よりはるかにいいわ。」
そういってオリオライトが一人納得していると背後の扉が開き、身長三メートルの角を持った四本腕の男が出てきた。
彼との距離とは優に二十メートルあったがその威圧感に鈴は思わず目を伏せた。
一方、オリオライトと宗谷はそんな鈴の様子とは反対に怪訝そうな顔をしてその男を見た。
「あらあら、魔神族も地に墜ちたものね」
「この場所は空に浮いているがな」
そういう二人やそのそばで狼狽えてる少女、近くで倒れている子供を達見た男は思わず声を荒げる。
「誰だてめぇらは!」
その声を聴き、倒れていたものは皆身を起こす。
そして思わず教師に尋ねる。
「先生、――本当にするんですか?」
背後からこっちにやってくる魔神に背中を見せつつ教師は話す。
「それじゃ皆、これから実技ね。
今回は内燃廃棄の獲得がハンパじゃなく、体も頑丈で、力の強い、魔神族の倒し方ね。」
その言葉にイライラした魔神族は怒鳴る。
「一体何の用だ!ガキの遠足か!?」
「ん。あぁ、実はちょっと、自警団にも頼まれてんよね。――ちょっとシメてくれないかって。」
その言葉に魔神は駆け出す。四本腕を振り上げ、女教師に振り下ろそうと来る。
その男相手に女教師は普段通りの態度で
「すぐ警戒するのはいい判断ね。さて、――これから先生が見本を見せます。」
「生物を倒す方法の一つに、脳を揺らすこと、があるわ。そしてそれを行うときには、脳と密着しているものを叩く、これが一番いいわね。」
そういいつつ、オリオライトは右足を前に踏み込み、体を入れ替える。
「そして叩く位置として、一番良いとされているところは、人間なら顎の先、魔神なら――」
そのままの勢いで魔神の突進をよけた後自身の長刀を鞘ごと滑らせ、
「ここね」
打つ。勢いは対して大きいものでは無かったが
「頭部ホーンの先端部」
宣言した場所の左側に見事に当てられた魔神は不意に膝から崩れ落ちた。
その巨体は甲板を砕き、構造材を抉ることで急制動を得た。
魔神は立ち上がろうとするが、どうにも力が入らずうまく立ち上がれていない。立っては転んでの繰り返しだ。
「ただ、魔神族や大型生物はこの状態からの復帰も早いの。だからそうなる前に――」
オリオライトは魔神族の前に立ち、
「落ち着いて対角線上の位置を強く打つ」
長剣で右あごを強く打ち抜く。すると魔神は目を回して気絶した。
「打つ部位は硬ければ硬いほどいいわ。但し、上からや真正面からのような、勢いが抜けやすい方向はダメ。」
そう言っている間に魔神が完全に倒れその後ろの事務所の扉もしまった。
「あ、しまったわね。」
ようやく体を起こした生徒たちに対し、オリオライトはこう告げた。
「これじゃあ、皆で殴り込みが難しいじゃない」
「――あんな芸当できるか!」
「大丈夫、大丈夫。――死ぬ気でやれば大抵できるようになるから。」
そんな平然とした態度とともに出された言葉にみんなが顔を青くしたときに
「――あれ?おいおいおいおい、皆、何やってんの?」
横から声がした。その声の発信源になったのは
「トーリ”
小脇に二つの紙袋を抱え、そのうちの一つから取り出したパンを食べていた少年―――葵・トーリ(アリアダスト院総長兼生徒会長)がいた。
トーリはパンを食べきると
「――んと、うん、俺俺。って何だよ皆、俺、葵・トーリはここにいるぜ?」
彼は倒れている魔神も気にせず、満面の笑みを浮かべて、みんなの前に来る。
「……さて、君が授業をさぼってまでここにいた理由を、先生に教えなさい?」
するとトーリは紙袋から絵の描かれた箱を取り出した。
「これだよ、先生、これこれ!今日発売されたR元服のエロゲ”ぬるはちっ!”。これ発売前から評判よくてさ、発売日に買わなきゃ、と思ったのよ。
あ、そういえば点蔵は?あいつのおやじ、店舗別特典求めて走り回ってたんだけど、あいつもそっちにいんのか?どう思う先生?」
答える代わりに、半目のオリオライトが、無言でトーリの肩に手を置いた。
「……君、先生が、何言いたいか分かる?」
「え、そのオッパイ揉ませてくれるってこと?」
「……おいこら、君、人の話聞いてる?表情見えてる?ちゃんと、状況見えてる?」
「うん、今はこれだな!」
と、トーリは、オリオライトの両胸を左右下側から両の五指で包んで押し上げた。
皆が、あ、という形に口を開けたままになる中、そのうちの少女―――ハイディ・オーゲザヴァラー(アリアダスト院会計補佐)が首をかしげる。
「あれ?……これって攻撃を当てたことに……」
しかしルールを知らぬトーリは、オリオライトの胸をこねながら眉をひそめて、
「あっれ、もっと硬い見立てだったんだけどなぁ……まぁ、いいか」
と、トーリは手を離し、皆の方を向くとこう切り出した。
「あのさ、皆、聞いてくれ。前々からちょっと話してたと思うんだけど、――明日、俺、コクろうと思うわ」
いきなりの告白予告に、一人を除き、皆は同じ反応をした。皆、一様に首を前に落とし、
「……えっ?」
だがその反応はすぐに、あぁ、と納得の色を持ったものに変わる。
そして皆の中、ウェーブのかかった髪を持った少女、喜美が眉をひそめて立ち上がった。
「フフフ愚弟、一体誰が相手なのよ、賢姉に相手が誰なのかを教えなさい!」
「馬っ鹿、知ってるだろ?皆だって前に、”そうじゃないか”って言ったじゃねぇかよ」
そしてトーリは皆の顔を見渡すと、こういった。
「――ホライゾンだよ」
人の名、しかしそれは、
「馬鹿ね、十年前に亡くなったのよあの子は。」
喜美は肩を落としながら続ける。
「あの、あんたの嫌いな”後悔通り”で。……墓碑だって、父さんたちが作ったじゃない」
「分かってるよ。ただ、そのことから、もう逃げねぇよ。」
トーリは、笑みのまま、もう一度皆を見渡し、
「あのな?いいか、コクった後、きっと皆に迷惑掛ける。俺、何もできねぇしな。それに、何しろ、その後にやろうとしていることは、俺の尻拭いってか――」
一息
「世界に喧嘩売るような話だもんな、どう考えても」
告げた言葉に、しかしだれも異論や疑問を挟まなかった。ただみんなは、トーリを見て、表情を硬くしているだけだ。
そんな皆に、トーリは言った。
「明日で十年目なんだ、ホライゾンがいなくなってから。皆、覚えてねぇかもしんねぇけど。
だから、
明日、コクって来る。彼女は違うのかもしれねぇけど、この一年、いろいろ考えてさ、それとは別で好きだと解ったから、――もう逃げねぇ」
「じゃあ愚弟、今日はいろいろ準備の日よね。そして、……今日が最後の普通の日?」
すると、トーリは笑顔で言った。
「安心しなよ姉ちゃん。俺は何もできねぇけど、――高望みは忘れねぇから。」
と、その時だった。彼の肩を、後ろから叩く姿があった。
トーリが不思議そうに振り返ると、そこには据わった目つきで右足を軽くステップさせてるオリオライトがいた。
「怒りが頂点に達すると、何も聞こえなくなるんだよねぇ。それについてどう思う?」
「ん?もしかして、先生、俺の恥ずかしい話、聞いてなかったのか?おい、おい、それはないぜ。仕方ないからもう一度言ってやるよ。
……今日が終わって無事明日になったら、俺、コクりに行くんだ。覚えといてくれよ!」
「よっしゃ死亡フラグゲット――!」
次の瞬間。オリオライトの回し蹴りとそれの犠牲者によって事務所に穴が開いた。
今日の極東は晴れ。
相も変わらず三年梅組は賑やかで。
殴り込みという名の授業を行っている。
それをきっかけの一つとして町が賑やかになっていく。
オリキャラ紹介
荒垣・宗谷【あらがき・そうま】
アリアダスト院三年副会長補佐。
中等部の時に三河から武蔵に移った。
そのため十年前の出来事はよく知らない。
一方で、正純の秘密のことは知っている。
右腕についている腕輪にはとある術式を組み込んである(独自設定)。
名前の由来はGEシリーズよりソーマ(そうま)とその中の人繋がりで荒垣から。
但し、性格は二人に似てないものになっている。