戦後の鎮守府   作:トマト味

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初イベで調子乗ってました

時間がなかったのでpartで分けることにしまかぜ


提督さんとドライブ 1

時刻は1115

晴れ渡る青空に心地よい風が頬を撫でる。天津風がいれば大喜びしたであろうこの日、普段なら鬱陶しく感じる日差しを物ともせず一台の車が海沿いの道を走り抜けた

 

一人の提督と艦娘を乗せて―――

 

「アトミラールさんアトミラールさん!見て下さい、海がキラキラですよ!」

「おいおいプリンツ、今は運転中だから勘弁してくれ。あと危ないから顔は出すなよ」

 

開いた窓から風が入り込み、Admiral Hipper級重巡洋艦3番艦 プリンツ・オイゲンは若干目を細めながらも興奮気味に目の前の光景を眺める

 

―――最初に言っておくが、別にハイエースしてダンケダンケする訳ではない。加えてこの車はハイエースではない

 

昨日、鎮守府で洗車してる所をプリンツが手伝ってくれたお礼として彼がドライブに誘ったのだ。

艦娘自体、大本営から来たり陸で遠出する時以外は滅多に車に乗らない為、彼なりの彼女にしてあげられる息抜きのつもりだった。

 

因みに何故彼女だけなのかというと、他にもドイツ組を誘ってみるかと彼が尋ねたところ彼女が珍しくも

 

『二人きりが良いです!あ、そういう意味じゃなくて!…初めてのドライブ?はその…アトミラールさんと一緒がいいなって…って私は何を言ってるんでしょうか!?』

 

と喰い気味に頼んだこともあり、こうして二人でドライブを楽しんでいる

 

「そういえばアトミラールさん、ドライブって具体的に何をするんですか?」

 

どうやら彼女はドライブをするのが初めてなようで、頭に疑問符を浮かべながら尋ねる。

彼はぽりぽりと頬を掻くと少し考えてから説明を始めた

 

「車走らせながら景色眺めたり風を感じたり、運転に疲れたら途中で寄り道して買い物したり…俺もよく分かってないが、大体こんな感じじゃないか?」

「結構アバウトな感じなんですね」

「そういうもんだよ、多分。それと途中でPAに入ったりもするから、案外退屈しないと思うぞ」

「PAって?」

「あぁ、パーキング(Parking)エリア(Area)の略だ」

「駐車場、ですか?」

「ザックリ言っちゃうとな。実際は場所にもよるが、色々と便利な施設がある休憩場だと思ってくれ」

「ふーん…?」

「まぁ行けば分かるさ。まだ先だけどな」

 

そう言って彼は車を走らせる。

未だに疑問が消えないプリンツは不思議そうな顔をしながらも、すぐに景色へと視線を戻した

 

―――――――――――――

――――――――

 

『現在、2kmの渋滞です』

 

カーナビが感情のない声で無常な宣告をする。

知ってるわ、んなもん

 

「アトミラールさん…」

「言うなプリンツ、言いたいことは分かってる」

 

暫く走った彼らは途中で高速道路に乗ったのだが、これが間違いだったと後悔した。

始めはぐんぐんスピードを上げる車に興奮していたプリンツも、今は渋滞に当てられ疲れた顔をしている

 

「我慢我慢。これもドライブの醍醐味だよ、日本のWABISABIだ」

「適当なことを言ってるようにしか聞こえませんよー」

 

実際に適当なことを言っているので返す言葉が出ない。

ハハッと乾いた声で笑う彼に対してプリンツはプクーっと頬を膨らます

 

―――しかしまぁ、如何せんやることが無い

 

彼は退屈そうに窓の外を眺めるプリンツを見る。

あまりじっくりと彼女の顔を眺めることの無かった彼は、良い機会だと言わんばかりに彼女を眺める。

すれば、彼女と視線が合いつい呟いた

 

「綺麗だなー…」

「へ…?へぇ!?」

 

下心なく、ただ純粋に思った言葉を無意識のうちに言い放つ。

そしてそれはプリンツの耳にも届いたようで、目を回して動揺していた

 

「あ、あの!アトミラールさん…それってプロポー」

「ん、いやいやちゃうちゃう。ただ何と無しに綺麗だなーっと思っただけだ」

 

彼女が言い切る前に出掛かった言葉を遮る。

プリンツが言わんとした行動を取ろうものならビスマルクが黙っちゃいないだろう。主に生活面で

 

 

「むぅー…」

「んな拗ねることでもないだろうに…」

 

先程よりも更に機嫌を悪くしたプリンツはムスッとした表情で窓を眺める

 

「もー、アトミラールさんが紛らわしいこと言ったから…」

「そんな怒るなよ。ほら、渋滞ももうじき終わりだ」

 

見れば徐々に先のほうが見えてきた。

彼はふぅっと息を吐くとご機嫌斜めの彼女に提案する

 

「なぁ、プリンツ。この先にパーキングエリアがあるけど、どうする?」

「…行きます」

「了解ですよっと」

 

こちらに視線を向けず返事だけ返すプリンツ。

だが、その口元が僅かに綻んだ

 

―――――――――――――

――――――――

 

「このウドン美味しいです!」

「それはよかった」

 

時刻は1225

お昼を回り、パーキングエリアに多くの人が訪れ皆が運転の疲れを癒していた。

そしてドライブに来ていた彼らもその一人であり、今はパーキングエリアの食堂で一息ついている

 

「それにしても、日本のParking areaは凄いんですね!」

「まあな、軽いお土産とかも売ってるからドイツ組にも買っていってやったらどうだ?」

「本当に色々あるんですね…!そうします」

 

彼女は嬉々とした表情で満足げに答える。

それを見る提督の顔もまた嬉しそうな顔になる。

そんなとき

 

「おや、提督じゃないか?」

「ん?失礼…、どちらさまですか?」

 

朗らかな雰囲気を出している二人に声が掛けられた。

声を掛けた人物はフルフェイスのヘルメットを被っており、誰なのかは分からない。

プリンツも提督との会話を中断され、訝しげにその人物を見る。

だが、その人物がヘルメットを脱ぐと二人はアッとした表情をした

 

「「日向(さん)!?」」

 

伊勢型戦艦2番艦 日向がヘルメットの下から顔を出した

 

「少し、驚きすぎではないだろうか」

「や、ここはこういう反応が正しいかなって」

(素で驚いちゃった…)

 

しかしまぁと、彼は普段とは違う日向の格好をマジマジと眺める。

しっかりと体幹が引き締まり、制服ではなく黒を基調としたライダースーツを着こなしていて…なんと言うかかっこいい

 

「提督、私は別に気にしないが、少しジロジロ見すぎじゃないか?」

「…アトミラールさん?」

「止めてプリンツ、そんな目で見ないで。かっこいいなと思っただけだよ、本当だよ」

 

それでも消えない疑いの目、本当のことを言っても信じて貰えない辛さに打ち拉がれながらも、彼は日向との会話に戻る

 

「それにしても日向もドライブするのか、意外だ」

「ドライブ、というかツーリングというか。まあどちらでもいいが。そういう提督はプリンツと二人でデートか?」

「デ、デート!?」

 

デートと言う言葉に反応したのだろう。プリンツは顔を真っ赤にしながら手をブンブンと全力で横に振る。

―――こちらもそのつもりではないのだが、アトミラールさん的にその反応はちょっと辛いぞ

 

「違う違う、昨日洗車の手伝いをしてくれてな。そのお礼だよ」

「ふーん、そうか。…そうか」

「あ、あうぅ…」

 

彼の言葉にプリンツはシュンと黙り込む

 

(そんなはっきり否定しなくても…)

 

そんな彼女の心象を知ってか知らずか、日向はこの話しを終らせ彼らの車を見つける

 

「それにしても、提督は車なのか」

「ああ。つっても中古の安いヤツだけどな。そっちは?」

「見ての通り、私はバイクだ。なかなか良いものだぞ」

 

そう言って彼女は駐車場に視線を送る。よく見れば、黒い大型のバイクが存在感を放っていた。

もしかしてアレかと、彼が指を指すと日向は頷く。

そして道行く人もチラチラとバイクに視線を送り、そのバイクがいかに凄いかを知らしめられる

 

「素人目で見てもかっこいいな、なんて名前だ?」

「あぁ、ZUI-UNだ」

「え?」

「だから、ZUI-UNだ」

「えーと…」

「ZUI-UNだ」

「ハイ」

 

車名を聞いているのだが、日向はZUI-UNで通す。どうやら彼女の中ではそうらしいのでこれ以上の詮索を止めることにした

 

「にしても、日向もどこかに向かってたのか?」

「まぁそんな所だ、とは言っても用事ももう済んだし鎮守府に戻るとするよ」

「そっか、またな」

 

そう言うと彼女はヘルメットを被りバイクに向かって歩いて行った。しかしながら、それがまるで映画のワンシーンのようで彼は心の中で師匠と呟く

 

「…」

 

彼女はスッと手を挙げると彼らに向かって手を振る。提督もそれに応え手を振り返す。

日向はそれを確認すると、黒バイクのエンジンを吹き鳴らし鎮守府へと帰っていった。

 

「こんなところでも、誰かと会うこともあるんだなぁ…ってプリンツ?」

 

そういえばプリンツが先ほどから大人しい、どうしたんだろうか。

そう思い彼女の方を見ると

 

「むぅ~」

「ど、どうした?」

「べっつに~、アトミラールさんは私を置いて日向さんと楽しげにお喋りしていたのを眺めていただけですよーだ」

 

再び拗ねるプリンツに彼は再び頭を掻いた




2に続く(といいな)

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