赤い弓兵と戦姫( リメイク)   作:無機物

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どうもお久しぶりです。
Fate/grand order をイライラしながらやっている無機物です。何故あそこまで強化しても上がらないのか……

夏休み中が目標でしたができませんでした。では、続きをどうぞ!


その名は戦姫

騎兵が馬上から落ちたのを確認するとエミヤは前へかざしていた腕を下げる。その手に握られていた筈の弓はその時にはもう無かった。

殺してはいない。しかしやってしまったと、後味の悪さを実感しながらエミヤは溜め息を吐く。此方へ馬を走らせる貴族と思わしい少女の姿が嫌でも目に映る。

 

 

「どうしたものか……」

 

 

面倒な展開になってしまった。こうして立ち通している間にも少女は此方へ迫ってきている。彼女の乗る馬の脚は異常なまでに早い。エミヤの元までならまでなら数秒程度しか必要としないだろう。

距離はあるが森林がある。そこまで行けば身を隠すことくらい可能だ。

だが、森林までの距離が遠すぎた。考えを実行へ移そうとする時間が無かった。

 

 

「ライトメリッツの戦姫が一人、エレオノーラ・ヴィルターリアが問う!」

 

 

一体それはどこから出てくるのだろうか。少女の華奢な体格と不釣り合いな大音声が障壁の無い広野で響く。

少女は既に彼の元まで来ていた。やはり数秒程度の時間しか掛からなかった様だ。彼女は腰に吊るした剣を引き抜き赤い外套の男へ突きつける。

 

 

「貴様の名を申せ!」

 

 

全く以て、これの何処に助ける必要があったと言うのか……その身構えは軟弱者の構えとは程遠い。胸を張り威風堂々と振る舞うその行為は人の前に立ち導く者の品格そのものだった。

 

 

「どうした。舌でも抜かれたか?」

 

 

エレオノーラと名乗った少女の問いにエミヤが直ぐ答ることはなかった。二呼吸分、何かを考えていたかの様に間を空けると両手を挙げ、閉じていた口をゆっくり開けた。

 

 

「私も突然な出来事に少々困惑していてね。幾つか聞きたい事があるのだが」

 

 

「聞こえなかったか? 私が聞いているのは貴様の名だ。それ以外は受け付けない」

 

 

どうやら自分が知りたいこと以外に聞く耳を持たないらしい。彼女は突きつけている剣へ力を入れ威嚇した。

エミヤへ突きつける得物は銀色の長剣。鍔の中心には紅石が埋め込まれ、形状は拡げた翼を連想させる。切っ先が太陽に照らされ銀の輝きが更に増している。その輝き、その装飾。まるで宝具の様な錯覚を感じた。

銀髪の少女と銀の剣。違和感などは微塵も無かった。その姿を見れば感嘆したくなる人間は少なくないだろう。

 

 

「名はエミヤ。渾名……と言うか慣れ親しんだ呼び名はアーチャー。呼びやすい方を使うといい」

 

 

偽名を出そうともせず簡単にエミヤは真名を口にした。これが聖杯戦争であったら自殺行為に等しく、また、それそのものと言っても過言ではないだろう。だが、これは聖杯戦争ではない。更に言えらばエミヤは過去ではなく未来の英霊。例え真名がバレたとしても何の支障も来さないのだ。

ここにきて、分かることはここが戦場なのと少女の使う言語が日本語でも英語でもないこと。にも関わらず自然と聞こえるのは何らかの援助があってからなのか。

 

 

「随分上からの物言いだな」

 

 

「性格からなるものだ。こればかりはどうしようもない。それに私は君の身分を知らない。敬意を示して欲しいのならそこも説明願がいたいものだ」

 

 

「……ほぅ」

 

 

眉間にしわが寄る。その返事はエレオノーラにとって疑わしいものだった。自分を知らないことに疑念を抱くほど彼女の存在は大きいものだった。

聖杯による援助など、何かしらの方法で知識を与えられていたならエミヤの返答も変わっていただろう。しかし、今の彼にそういった類いのものは与えられていない。ましてや、戦姫の意味など知る訳がなかった。

彼女が抱く疑念はエミヤが自身のこと、戦姫のことを知らないこと。戦姫の名を口に出しても彼の反応は無に等しかった為、嘘を言っているとも限らない。少女は考える。山奥といった人里から離れた村の住民ならばあり得なくもないのではないか。だがそんな集落があるとは聞いたことがない。少なくともこの辺りにはまず無い。ならば離れたところから遠出してきたのか。いや……それは考えにくい。

得体の知れないやつ。しかし、それと同時に面白いやつとも思えてきた。眉間に寄ったしわが徐々に薄くなり、表情が和らいだ。

 

 

「面白いやつだな。ではエミヤと呼ぶとしよう」

 

 

やや上からの物言いはこの際聞き流そう。分からないことが多いが、それは後で聞こう。

剣を下ろすとエレオノーラは馬上から降りた。

このときの彼女にはエミヤに対する警戒心、敵対心の類いは無い。いや、そういった類いのものは初めから無かったのかもしれない。底から止めどなく沸いてくる好奇心に気づいたのはいつからか。ふと、気づいた時には目の前の男の事を知りたがっていた。

 

 

 

知りたい。どうやって?

 

対等な立場での対話? 否――

 

身柄を抑えて洗い上げるか? 否――

 

ならばどうするか? そんなこと決まっている。ならば――

 

 

 

「さっきのは見事だったな。丁度いい物も転がっている。どうだ、今ここで見せてはくれないか?」

 

 

赤い外套の男へ一歩。歩み寄る。

さっきとは騎兵を射倒した時のこと。丁度いい物とは所有者の知れない地に転がる武器のこと。

ここは戦場。この場に居合わせる者は全て戦う兵士や騎士。例外はいない。そして、目の前の男もそれと同じ。直感で解り、確信する。ならば相手を知るに当たって簡単で効率の良いものがある。

 

 

「ジスタートの方でもなさそうだな。どこの出身だ? ここまでどうやって来た?」

 

 

「……」

 

 

返答に困った。ここが何処だか分かっていれば出任せで誤魔化すことも出来ただろうが分からない以上適当なことも言えない。下手な嘘で相手を刺激しかねない。

手詰まりエミヤは沈黙する。答えを待っているのか少女も沈黙する。無言の空間。静けさの漂う荒野で風と遠くから聞こえる馬蹄の音が聞こえる。

 

 

「まぁ、いい。……やっぱり後にしよう」

 

 

こういった雰囲気を好まないのかエレオノーラがあっと言う間に沈黙を破った。独り言を呟くと片手で頭の後ろを数回荒く掻いた。そして体勢を戻すとエミヤの方へ向き直った。

 

 

「さっきの話し」

 

 

「……む?」

 

 

「さっきの話だ。あの時騎兵を倒した技のこと。見せてくれないのか?」

 

 

何かと思えばその事か。確かにそんな質問をされていたとエミヤは思い出す。決して聞き流していた訳ではない。彼女が先に話を進めていった為、返事の機会を逃してしまっただけだ。

無論、ありのままを話す気はなかったが。それもそうだろう。弓で剣を飛ばしたと言って誰が信じるか。ましてやキロ単位で離れた場所からだ。弓を極めた者でも数一〇〇メートルが関の山。完全に人の枠を越えている。ならば、初めから信じてもらえないと分かりきっている事をわざわざ言う必要もまた無いだろう。

 

 

「はて、何のことだか理解しかねる。先にも言っただろう。私は今置かれている立場を理解していない」

 

 

知らないの一言は便利なものだ。それを言ってしまえば話はそれまでなのだから。

幸い、エミヤが弓を使った一部始終をエレオノーラは見ていない。それは後方にいた彼が一番理解している。効果があるかは知れないが、この手段は無意味ではない。

 

 

「……全く、自分の立場も理解していない内に身に覚えの無い話を吹き込まれてしまっては混乱してしまう」

 

 

前者の方。嘘は言っていない。事実エミヤは突然この地に召喚され何の情報も補助も聖杯から与えられていない。おまけに身体は受肉しているときた。今までにない出来事に理解が出来ていないのは本音である。

だが、やはりと言うべきか、そんな発言は目の前の少女には無意味だったらしい。見れば、半ば呆れた様子で少女はこちらを見ていた。

 

 

「しらを切るか……まぁ、お前が何を言おうと私に変わりはなのだがな」

 

 

再びエレオノーラがエミヤへ剣の切っ先を向けた。敵意の無い眼差しが彼を捉える。彼に向けられた視線にあったものは子供が見せる様な生粋の好奇心。その振る舞いは自身を演じての作為なのか、それともただ素の本性が出ているだけなのか。もし後者であるのならなんとも癇に障る話だ。一度でも互いの得物を向け合えばそれは殺し合い。そこに好奇心を引き立てるものなんて何一つ無いのだから。

 

 

「待て。……此方は丸腰なのだぞ。君の騎士道では無防備なものにまで斬りかかる程野蛮なのかね?」

 

 

無防備なことを訴えながらエレオノーラを制止させようとするが彼女は耳に聞き入れようとしない。納得も理解も出来ぬまま勝手に物事が進んでいく。

彼女は目線を一度エミヤから外すと彼の周りへ向けた。

 

 

「お前の目は飾りか? 周りに武器なら余るくらいあるだろぅ」

 

 

彼女の言う通りエミヤの周囲には大小様々の武器が無造作に転がっている。そしてその全てが刃欠けをしていたり血に染められていた。はたして、それらは一体誰の物だったのだろうか。決まっている。武器と同じく地に無造作に転がる兵士達の物だ。この荒野でそれは考えるまでもない。少女は死者を悼む姿勢を見せない。その様子からきっと死体は敵陣の方の兵士だったのだろう。頭を覆う甲冑で顔は見えないが安らかな顔をしているのはきっと一つもない。

 

 

「私にその気は無い。残念だが諦めることだ」

 

 

「そうかそれは残念だな。だが、お前になくとも私にはあるぞ?」

 

 

彼女に引く気は微塵も無い。そこはエミヤも十分に分かっている。この少女はやると決めたら実行するまで気がすまない人間なのだろう。実に欲望に忠実なものだ。そしてそういった人間の多くに幼さがあることをエミヤは知っていた。ましてや相手は年増も行かぬ少女。幼心を持ち合わせていても何等不思議もない。

エレオノーラが何かを面白い思い付いたかの様に悪戯気のある笑みを口元に浮かばせた。

 

 

「残念だ。ほんとうに残念だ。お前にことをかまえる気が無いのは。だったら――出させるしかないじゃないか」

 

 

刹那、エレオノーラが消えた。

違う。消えたの出はなく距離を詰められただけだ。しかし、それでも消えたと錯覚するには十分すぎる俊敏さだった。

数メートルあった筈の間合いは瞬く間に無くなっている。エレオノーラは横から斜め上へ長剣を振るった。

身長の低い彼女が最も確実に首を狙える一閃。目で追うこともままならない避けようの無いものだった。

 

 

だだし、それが常人であればの話だが。

 

 

「全く、せっかちなお姫様だ」

 

 

ギンッ――と短い金属音が響きわたる。手応えはあった。だが相手を討ち取った時の生々しさとは程遠くい。掌にくる痺れる痛みが少女に警告を伝えてく来た。

それも当然か。なざなら彼女の振るった剣はエミヤの首をとらえていない。更に言えば彼の身体にさえ届いていなかった。エレオノーラが振るった一閃は人が見れば消えたと錯覚する程のもの。それ程の一撃が不発に終わっていた。果たして、そんな一撃を防ぐなどと誰が予想できただろうか。

 

 

「……ほぅ」

 

 

その一単語にもならない言葉が今の彼女の限界だった。一瞬何が起きたか分からないと素直に思う。額から微量たが冷や汗でにじみ出て、唖然としながら生唾を飲んだ。ゴクリ、と喉が鳴る。

エミヤの首もとにある銀の剣。そこにあるだけで捉えるべきものを捉えていない剣。

振るった剣に割って入ってきた何か。

それは何時の間に握られてあったのか。男の手の中にあったそれが彼女の俊敏な一撃を阻んでいた。

『黒塗りの短剣』だった。

口元を引きつりながら苦笑する。黒塗りの短剣(それ)を見て、この時、自分の中で五分の恐怖と五分の好奇心が体内で混在していることに気づけた。いつからこんな感情が混在していたのか。だが、そんなことはどうでも良い。目の前で平然としている男の顔を見て苛立たしさを覚えた。が、それもどうでも良かった。

 

 

「君の騎士道精神が野蛮なのはよく分かった。いや、そもそも騎士道なんてものは持ち合わせていなかったか。」

 

 

エレオノーラと対照的にエミヤは余裕のある素振りであしらう。顔が呆れていた。彼に焦りの類いのものは無く、全くの余裕な様子だった。

受け止めた剣を押し返し、方を竦めて。

 

 

「これは済まない。誤解していた。どうやら私にはその知識が定着してしまっているらしい。」

 

 

余裕なのはそのまま。呆れた視線を向けながら話を続ける。挑発でもしているのか、男の口は止まらない。

 

 

「さて、もう良いかね? 君に私とことを交える理由があっても私には無い。ここは剣を納めるべきではないのかね?」

 

 

「……チッ!」

 

 

言われるままに剣を納めることはあり得なかった。

決して不意を突いた訳ではなかった。それは仕掛けた本人が一番分かっている。しかし、余裕を見せるその態度を挑発的だと受け取れた。込み上がってくる苛立ちを抑える。

一度止められ死んだ勢いを再び蘇らせ剣を振るう。

 

 

「ハァッ――!」

 

 

気合いを声に出して活力を上げる。

剣を振るう。突く。切り上げ、切り下げて横に払う。彼女が剣を振るう度に銀の線が描かれ、その都度不自然な流れかたをする風がそよいだ。

結果を言えば、銀色の切っ先がエミヤに届くことは叶わなかった。反撃すらままならい程に振るわれた筈の剣劇の全ては見切られていたかの様にことごとく防がれた。赤い外套を羽織った男は避けることを一度もしようとすらしなかった。

本気でやっている訳ではない。だが、こうも通用しないとなると悔しくなった。

凄いと思った。感嘆したいとさえ思った。

 

 

「ふぅ―――」

 

 

知らぬ間に貯まっていた余分な力を抜く。鼓動が若干早くなっていて、額には汗が滲んでいた。

防戦一方で一度も反撃がこない。はたして、ここまでやられてやり合う気が出てこないのはあり得るのか。その気がないとしてもここまで何もしてこないのはあり得ることなのか。

エレオノーラは考える。ならばその余裕が無いのか……いや、その割には目の前にいる男の顔に苦の色は見られない。顔色はそれの逆だ。

 

 

(演じている? ……いや)

 

 

考えれば考えれる程分からなくなっていく。得体の知れない相手だった。しかしそれ故に興味が湧き、同時にあの男を知りたいと欲が出てきた。

何となしにエミヤの手にある物へと目を向けた。自身の剣とそれとを比べる。

 

 

(あれは……)

 

 

黒塗りの短剣。幅は太く縦に短い刃。黒い刃には赤い線の模様が引かれていて、そこからは血管が想像できた。鍔には白黒の勾玉の装飾があり、自身の剣の鍔にある紅玉の装飾品と比べると不思議な感じがある。

得物の知れない武器だった。だからなのか。それと男はよく似合っていると思った。エミヤと言う男もその剣と同じ不思議な存在だったから。

自身の得物と比べてると華が無いように感じられるが決して無い訳ではない。黒塗りの剣にもそれ独特なものが確かにあった。

だからこそ疑問に思った。一体そんな代物が何処にあったのだろうかと。

 

 

「何処から拾ってきた? そんな奇妙なものを私は見たことがない。」

 

 

「奇妙か、確かにそうではあるな。しかしそう言われても困る。都合良く足元にあったのがこれだったのだからな」

 

 

否。それは嘘だ。エミヤは物を拾い上げるそれだけの動作すら一度もやっていないのだ。彼の正面にいながら彼女がその動きを見逃す筈がない。それが戯れ言であることなど考えるまでもない。なら、その剣を男はどうやって……。考えるが分からない。分かる筈がなかった。

当然だ。魔術、術者の創造理念から真作を再現したなどと誰が予想できるだろうだろうか。魔術の存在を知らぬ者には気づくことも予想することも叶わない。

それ、黒塗りの剣の名前は干将。エミヤが投影する数多くの模造品の一つである夫婦剣の傍ら。

生涯から愛用し続けてきたそれはエミヤの手に良く馴染む。投影のために消費する魔力は数多くの投影品の中で最も少ない。効率の良いのは言うまでもない。

 

 

「口が減らない奴め……だが、正直驚かされたぞ」

 

 

だからと付け加えて話を続ける。

彼女にはまだ続ける意思がある。この時、いよいよ上段抜きで面倒になるとエミヤは直感で感じとる。

 

 

「その礼だ。特別に私も面白いものを見せてやろう――」

 

 

その後、エレオノーラは口を小さく動かした。独り言だったのだろうか。何かを唱えた様にも見えたが声が小さかちどたために風に掻き消され聞き取ることができなかった。だが、それには何かしらの意味があるように思えた。例えば、何かをしようとする彼女の前兆のようなものとか。

剣をエミヤへ差し向けたした刹那、大気が畝り少女が笑った。

 

 

「!」

 

 

剣が横一線に振るわれていた。剣の速度が格段に上がっていた。目を見開き、エミヤは初めて驚いた表情を見せた。速度が違うのなら威力もまた違うのは明白。干将を握り直し守りの姿勢をとった。

銀の一閃と黒が衝突した。金属音が鳴り響き、そこを中心に不自然な風が巻き起こる。

手応えが違った。干将を通して衝撃が彼の手へ伝わる。痺れはしない。だが、衝撃は強かった。彼女の細い体の何処にこんな力があるのか。

 

 

(何とも奇怪な業を……)

 

 

攻撃の回転が早い。干将で受け止めても弾いても次には別の剣劇が振りかかる。勢いが止まらない。エレオノーラが剣を振る度に風が吹き荒れ、エミヤの髪を荒らした。まるで風を相手にしているような。そんな神妙な感覚を覚えた。

ただの人間が成せるものとはかけ離れている。自分の目の前にいる相手が人間だと言うことを忘れてしまうことはなかったが。

連続する黒と銀の衝突。剣と剣の攻防。エミヤはそこに打ち止めをかける様に干将で受け止めた剣を打ち払うと後方へ退いた。

 

 

「正に人並みから外れた剣技。なるほど、戦姫が何を意味するのか今ようやっと理解できた」

 

 

「突っかかる言いかただな……まぁ、――ほめ言葉として受け取っておこう」

 

 

白銀の少女は満更でもないと笑みを見せた。たが、当然声には出さずとも心中では疑問を抱えていた。いつまでも反撃の兆しを見せないエミヤへの疑念を今も消せずにいた。

彼女は姿勢を低く構えた。銀の長剣を両手で握り締めると刀身を横にして刃先を男へ向けた。その構えは先程と明らかに違っていた。

ならば次に放たれる彼女の剣技が意味するものもまた違う。

渾身とも呼べる一撃が来ることは考えるまでもない。

短剣を握るエミヤの手に自然と力が入った。

 

 

(――また風か)

 

 

逆風が吹きまたもエミヤの白い髪が靡いた。生前からの経験が神経を通して全身に伝わり、顔がやや強張る。

エレオノーラが動きを見せたのはそれと同じ時機だった。利き脚を前へ踏み込んだ刹那、小規模の爆発音にも似た音が足元で生じた。踏み込んだ利き脚の裏を中心に砂塵が巻き上がる。何かに押されたように彼女が前へ出た。それは常人にまず成し得ないだろう突撃だった。

失速することなく一直線にエミヤへ迫る。その過程で前進する度、周囲で砂塵が巻き上がりその勢いを物語る。

 

 

「……ほぅ、芸達者なものだな」

 

 

だが、それを見せられてもエミヤは動じない。彼は迫り来るエレオノーラただ一点だけを見据え、片手に握った黒塗りの短剣を構えた。

互いの間合いは数える間もなく無くなり、先に動いたエレオノーラは透かさず剣を突き立てエミヤはそれに応じて剣を振るう。

風が大きく吹き荒れ男と少女の髪が後ろに煽られる。砂塵が高く、広く、舞い上がった。

搗ち合う剣と混じり合う黒と銀。

風が激しく畝り、剣同士の搗ち合った音が虚空に響く。

互いの剣はじりじりと噛み合う。治まることのない風が吹き荒れ、未だにエミヤの白い髪と赤い外套をエレオノーラの銀の長髪をそれぞれ掻きむしるか様に煽り続けた。

 

 

「―――ッ!」

 

 

張った声と共にエミヤが突き立てるエレオノーラの長剣を搗ち上げた。自然と彼女の身体が仰け反る。体勢を崩したと思った。しかし、違った。

彼女の身体が仰け反った際に覗けた顔には「してやった」とニヤりと笑う悪戯気な笑みがあった。

吹き続ける風が更に強く畝り、生き物の様に唸る。

仰け反った様に見えた動きはエレオノーラの作為だった。地面を踏み締め身体を捩ると剣を構え直し振るい、同時に旋回した。風は彼女の身体、剣全てに纏わり付き動きの速度を底上げしている。

取り巻く風の大部分が剣にあった。刀身に纏わり付く風は剣が放つ銀の煌めきで輝く。可視状態になるまでに輝いた風は刀身を隠した。

 

 

――こんな剣を何処かで見たような気が……

 

 

「あ――……」

 

 

刹那、その刹那の一瞬にそれが何かと重なった。

記憶を駆け巡りその何かを探した。頭が痛くなった。それでも続けた。知っている何かだから。忘れてはいけない何かだから。

そして脳裏で映ったそれがエミヤの反応を判断を送らせてしませてしまった。

 

 

「ハァ――ッ!」

 

 

エレオノーラの気合いの入った声が風に乗って遮る物の無い荒野で響いた。

防ぐために振るった干将に何かが触れる感覚を知ってようやっとエミヤは現実に戻った。

作為を打って放った一撃に相手を討った時に感じる手応えはない。だが、それでも彼女に萎える姿は見られなかった。

得意気な表情を作り胸を張ると再び銀色の剣をエミヤへ突き突けた。

 

 

「今日からお前は私の捕虜(もの)だ!」

 

 

この荒れた地で初めて無邪気な笑顔を見せた。エレオノーラがこの時見たものは、刀身の半分が砕け散った黒塗りの短剣をただただ見つめ茫然とする赤い外套の男だった。

次々に展開していく流れについて行けず途方に暮れる取り残された護衛達が自分の後ろにいることを今の彼女は知らない。

 

これが戦姫と弓兵との出会いだった。

 

 




前作でよくコメントに戦闘の描写がないとあったので無理矢理感があるかもしれませんがやってみました。
ここ変だな。と思ったらお手数ですが感想で書いてくださると嬉しいです。
誤字、意見、感想などお待ちしております。
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