赤い弓兵と戦姫( リメイク)   作:無機物

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何とか月一投稿は叶いました。
特別忙しかった訳ではないのですが、趣味と両立させようとしたらここまで引きずってしまいました。申し訳ありません。
今回はやってみたかったことを取り入れた話となっており、また違和感を覚えさてしまうと思いますが生温かい目で見て頂けると幸いです。


乱入と困惑

 

「それはどういう事ですか!」

 

 

扉を開けたのはリムだった。怒りを露にした彼女の顔にはちゃんと表情があり、仏頂面の人でも感情が表に出るのかとエミヤは感心した。

だがそんな感心も束の間。こちらへ真っ先に向かってくるリムが腰にある物へ手を伸ばした。

 

 

「待て。私は何もやってないぞ?」

 

 

長物の剣だ。その剣が向けられる対象は考えるまでもない。自分へ迫ってくるリムへ制止を呼び掛けるが足を止めることはない。

 

 

「……減らず口を」

 

 

どうやら聞く耳を持たないらしい。一体何が彼女を怒らしているのかなどエミヤには検討もつかない。彼が何を言おうと無駄に終わるに違いない。

 

 

「待てリム」

 

 

どうするべきか悩んでいるとエミヤとリムの間にエレオノーラが割って入った。流石に主の言葉を無視することは出来なかったのだろう。ここでリムは足を止めた。

 

 

「リム、これは何の冗談だ?」

 

 

「……何故止めるのですエレオノーラ様」

 

 

「答えになってないな。答えろ」

 

 

エレオノーラはリムへ鋭い視線を送る。リムもだが彼女は不機嫌だ。顔を見れば直ぐに察することができる。エミヤと会話をしていた時とは大違いだ。それもそうか。楽しい思いをしている時に邪魔が入れば誰でも不機嫌になるものだろう。

 

 

「この者の態度は問題です。ため口だけに終わらず暴言までも……我慢の限界です」

 

 

「それはお前が決めることじゃない。リム、どうしてそこまでこいつを嫌う?」

 

 

今度はリムへ問いを投げかける。邪魔が入ったことで怒りを覚えてしまったかとエミヤは思ったが違ったらしい。不機嫌であることに変わりはないが、エレオノーラは彼女ことを気にもかけている様だ。

 

 

「良く思わないのは私だけではありません。何故素性もろくに分からない輩を迎え入れようとするのです? もっと相応しい人材だっています」

 

 

「私が欲しいのはエミヤ(こいつ)だ。それ以外は欲しいと思わない。それに素性が分からないからこうして部屋に呼んで調べているのだろ」

 

 

そんなことは一度もやっていないのでは。そう思うが口にはしない。言う必要のないことは言うべきではないだろう。

二人が口論を進めていく中、エレオノーラが取り残されていたエミヤの胸ぐらを掴んで強引に引き寄せた。

 

 

「お前も何か言ってやれ。リムに切り捨てられてもいいのか?」

 

 

それは困る。もっとも、そのような最悪な事態には間違ってもならないが。

しかし、エミヤにリムを宥めるようなことが出来るだろうか。エレオノーラも言ったが、彼女はエミヤを毛嫌いしている。それが当然と言えば当然のことなのだが、このままの状況が続いてしまうのは良くない。

 

 

「君は命令を受けて部屋へ立ち入らなかったのだろう。ならば弁えるべきではないか? 自分の立場を忘れるほど、君は愚かではあるまい」

 

 

「エレオノーラ様。危険ですのでお下がりください」

 

 

リムは今度こそ剣に手をかけ、鞘から刃を覗かせた。明らかな殺意の現れだった。

それを見かねたエレオノーラは呆れた視線をエミヤへ向けながら押し退けリムと距離をとらせた。

 

 

「……まったく。もっとろくな事は言えなかったのかお前は」

 

 

どうするべきかと、エレオノーラは困り果てながら額に手を当てた。彼女もエミヤがあんなことを言うとは思わなかったのだろう。言い方を変える等の手段だってあった筈だ。

大きなため息を一つはいた。

 

 

「もぅいい……。エミヤ、お前も部屋に戻れ。あと、リムは残れ。話がある」

 

 

銀色の髪をわしゃわしゃと掻きながらエレオノーラはそう二人へ命じた。これ以上は無駄だと悟ったのだ。名残惜しそうにエミヤを見る彼女は本当に残念そうだ。

 

 

「それは承知するが、誰を私の側に置く? リム(彼女)はここに残るのだろ」

 

 

「道は覚えているだろ? お前一人で戻れ。お前に直接文句を言ってくるやるはいないから安心しろ」

 

 

安心の言葉を使う対象を彼女は間違えているのではないか。それに見張りの一人も付けずに戻らせるというのは如何なものなのか。少女の発言で幾つかの疑問が浮かんでくるが、今は聞くべきではない。

 

 

「了解した。ならば、早々に退出させて頂くとしよう」

 

 

他二人の視線に見送られながらエミヤは部屋を退出する。リムの隣を通りすぎる間際、彼女が小言で何かを呟いた。

 

 

「……」

 

 

それはリムが言った小言への返答だったのか、それともただの独り言か。その後は後ろを振り返ることなく、彼は真っ直ぐ部屋から出ていった。

 

 

「エレオノーラ様……」

 

 

エミヤが部屋から出ていった後、リムは改まって彼女の方を向いた。

 

 

「……申し訳ありません。お見苦しいところを見せてしまいました」

 

 

「それなりに盛り上がっていたのに、まったくだ。」

 

 

エミヤがいなくなったことで熱が下がったのか、リムは最初の無愛想な仏頂面にもどっていた。

 

 

「あれは本気なのですか?」

 

 

前置きを入れず、リムは主へ単刀直入に尋ねた。

 

 

「ん、エミヤのことか? 私は冗談でそんなことを言わない。本気さ」

 

 

それを聞いて彼女の眉間にしわが寄った。

 

 

「先程も申しましたがそれでは兵達の不満を招きます。素性の知れた者ならともかく……ましてやこんな時期になど」

 

 

リムはエミヤがこの公国に住み着くようにことに懸念を抱いていた。だがらあの時、命令に背いてまで部屋に入りやめさせようとしたのだ。

 

 

「こんな時期も何もあるか。私は今、あいつが欲しくてこの部屋に読んだんだぞ」

 

 

「それは勝手です。そのようなことを続けて仕舞えばいずれ信頼が失われてしまいます」

 

 

確かにそうだ。いくら信頼の強い人材でもそれに反する結果を出してしまえば信頼は損なわれてしまう。そうなならない為にも人の前に立ち導くものにはその理に適った示しが必要なのだ。

だが、そんなことはエレオノーラも重々理解している。

 

 

「確かにな。だが、私がそんなことをいつやった? 今までに一度でもそんなことがあったか?」

 

 

「それは……」

 

 

言葉を詰まらせた。彼女が仕える主は常に人の前に立って先導して国の為に尽くしてきた。それは戦場でも変わらない。自分よりも若い少女が意見を無視して私情を優先しようとしたことが一度でもあっただろうか。否、一度もない。

 

 

「まぁ、だからと言うわけではないが私も自分の願いを叶えたいんだ」

 

 

「……仮に彼を招き入れたとしましょう。そこから先はどうするのです?」

 

 

そうだな、と言って腕を組むと考え始めた。そして少し間を開けた後、エレオノーラは口を開けた。

 

 

「適当な役職を与えよう。そして、戦が始まればやつの意見を無視してでも戦場へ連れていく」

 

 

「どうして戦場へ?」

 

 

そうリムが聞くとよくぞ聞いてくれたとでも言いたげな顔を作って得意気に話し出した。

 

 

「昨日の一部始終くらいは見たろ? あいつの技量はたいしたものだ。だから陣の先頭に立たせて先行させる。そして、手柄を取らせるのさ」

 

 

なるほど、とリムは理解したように頷いて主が言った昨日の一部始終を思い浮かべる。反撃は一度も出来ていなかったが、エレオノーラの攻撃を全て防いでいたところを見ると確かに腕はたいしたものである。

が、しかしだ。

 

 

「確かに出来ないことではありません。しかし、彼はよそ者です。そんな輩を先頭に立たせては他の兵に不満を持たせます」

 

 

「そうかも知れんが戦が始まってしまえば私情を抱く暇すから無くなるだろ。んで、そこから先はさっき話した通りに事が進む」

 

 

リムにはまだ言い分があるというのに何故かエレオノーラは勝ち誇る。そもそも何かの勝負でもないのにどうしてそうなるのか。これを目の前で見せられてしまったリムは流石に内心で呆れてしまった。

 

 

「……そのまま逃げられるとはお考えにならないのですか?」

 

 

「ならないな」

 

 

即答。まさかそんなに早く即答されとはリムも思わなかったろう。その根拠と自信は何処から沸いてくるのか。エレオノーラはやけに自信満々だ。

 

 

「そうならない手段があるということですか?」

 

 

「そのとうりだ」

 

 

これまた自信満々に強く頷いたエレオノーラ。その自信の根源はどこから沸いて出るのか是非とも知りたいものだ。

彼女は何を思ったのか最初にいた窓辺の近くに置かれた机へ向かった。すると、引き出しを開け中から一枚の紙を取り出した。

 

 

「エミヤ(あいつ)が部屋に来るより少し前に届いたやつだ」

 

 

それを机の上へ出すとリムが読みやすいように文字が書かれている方を逆さにした。早速それを彼女が読むと、驚いて目を見開いた。特徴的な仏頂面な表情が崩れて顔に驚愕が表情が浮かび上がった。

 

 

「まあ、驚くのも当然か」

 

 

その反応を見たエレオノーラは面白そうに口許を緩ませた。まるでリムがそうなることを予想していたかのようだった。

 

 

「……まさかとは思いますが」

 

 

聞かなくても分かる。その次に言われることなんて誰でも創造できるし察すれる。それでもリムは聞かずにはいなれなかった。淡い期待を抱いてしまっている自身に気づき、情けなく思った。

 

 

「そうさ。明日の夜、決行する!」

 

 

リムは額を押さえた。

 

 

「伝達はもうしばらくしてからだ。リム、その時は補佐を頼む」

 

 

「はい……」

 

 

しぶしぶと、リムは首を縦に振った。

エレオノーラが机に出した紙に書かれていた内容は、隣国ブリューヌ国からの宣戦布告だった。

 

 

 

 

二人が部屋で口論をしていた一方で、エミヤは公宮の廊下を歩いていた。左右に壁はなく、心地好い風と日の光が廊下へ絶えず入ってくる。しかし風景は寂しいもので外を見てもすぐそこに石で組まれた壁があるだけだった。

 

 

「よく出来ている。それに、手入れも行き届いているようだ」

 

 

初めて見る城とその作りに軽く感嘆しながら歩いていると何だか新鮮な気持ちになった。自分には捕虜の自覚がないとエミヤは思った。そして彼は今までに幾つもの死闘をその身を持って経験している。だからこれしきの事では危機感を抱けないのだ。

 

 

「造りもそうだが、こうしてみるとやはり広い」

 

 

エミヤが廊下を渡り初めてからそれほど長く経っていない。にも関わらず、彼は自分が囚われている場所の概ねを簡単にではあるが把握していた。

 

 

(ここまま進めば上と繋がる階段が、この広場を利用すると城門への近道か……)

 

 

それもその筈だ。彼はもと来た道を辿っていなかったのだから。

迷った訳ではない。あの時、部屋から出た最初は元の道を歩いていた。しかし、廊下に分かれ道が現れた途端、彼はそちらの方へ足を踏み入れたのだ。

 

 

「……ここまでにするべきか」

 

 

これ以上の追求をすればどうなるかは言うまでもない。独断行動はここまでにして、エミヤは今度こそ自分が戻るべき部屋へ帰る。その道中に数人の人間に目撃されたが、エレオノーラが言ったとおり誰も彼へ突っかかってくる者はいなかった。

 

 

 

 

自分以外誰もいない部屋でエレオノーラはまた窓辺に座り一人、難題でもかかいでるように眉間にしわを寄せていた。

 

 

「頑ななやつめ……」

 

 

あの話しの後、エレオノーラとリムはまた似たような件で口論をしていた。エミヤを戦場へ出すことにリムが反対したのだ。彼が敵対する何者かの差し金かもしれないと言うのが彼女の言い分だった。

 

 

「確かにそうかもしれないが……だったらどうすれば納得してくれるんだリムは」

 

 

腕を組んで難しそうに唸る。

確かに、リムの言い分は間違っていない。しかし、だからと言って引き下がるほどエレオノーラは弱くなかった。そこから両者一歩も引かない口論が始まった。終わった頃の空は少しだけ夕に染まっていた。今は完全に夕方だ。

 

 

「はぁ……」

 

 

ちらっと夕焼けの空を見てため息をついた。リムとの和解法が分からず若干憂鬱な気分になる。今思えば、昼飯を食べていなかった。それを意識してしまったせいで余計に腹がすき、鳴ってしまった。

 

 

「う……」

 

 

彼女は予想以上にお腹を空かしていたらしい。見事に大きな音が鳴ってしまった。少し頬が赤くなった。これを誰かに聞かれたらと思うと更に恥ずかしさが増す。

ぽりぽりと頭を掻いた後、もう一度ため息をついた。

 

 

「……夕飯まで待ちきらんな」

 

 

さっきまであった難しい悩み事は知らないうちに消え、今では襲いくる空腹をどうしようかと考えていた。ここだけを見れば彼女が夕飯を待ちきれずにいる少女に見えてしまうに違いない。

 

 

「しかたな……ん?」

 

 

外に出て時間を潰そうと考えたとき、不意に後ろの窓が叩かれた。この部屋は城の中でもかなり上の方に設けられている。手はまず届かない距離だ。石を投げたとしても届くか分からない。では一体誰が。

 

 

「なんだ? お前も腹を空かせているのか」

 

 

しかし、エレオノーラは後ろを振り返らずともその正体が何なのか分かっていた。彼女は後ろを振り向いてそれに穏やかな視線を送ると、窓を開けて優しく抱き抱えてやった。

 

 

「そうだ……いいことを思いついた!」

 

 

何を思いついたのか、彼女はそれを抱き抱えたまま急ぎ足で部屋から出ていく。その時の彼女は無邪気なこども宛らだった。

 

 

 

 

簡単な探索を終え監禁部屋へ帰ってきたエミヤは、部屋と同様に狭い窓に背を向けベッドに腰かけていた。

日の入りの悪いこの部屋は夕方になると夜なみに暗くなってしまう。灯す物が部屋に無いためこらは回避出来ようもない。その筈なのに、暗い部屋の片隅が弱く鈍い光で照らされていた。

その光は数を数えられる内に直ぐ消えた。

 

 

「これで良い筈なのだが……」

 

 

僅かに光が入ってくるくらいの暗がりの部屋で、エミヤは一人難しそうな顔つきで手のひらにある物を見つめていた。

 

 

(本物に劣るのは当然だとしても……)

 

 

手に持ったそれを上に掲げて、窓に溢れ落ちる僅かな光に当てる。

光に当てられて姿を見せたそれには、柄があり、片翼の形をした鍔があり、両刃造りの長い刃があった。そして、僅かな光でも輝けるくらい光沢のある銀がある。

それは、エレオノーラがあの時戦場で使っていた剣だった。その特徴的な構造を見れば正しくそれだ。しかし。

 

 

「これは、腑に落ちんな……」

 

 

掲げていた剣を膝の辺りまで下ろして、残念そうにため息をついた。

手元にある剣を眺める。何処となく、出来ないような気はしてした。しかし、それでも納得いかなかった。

 

 

「これは、一体何で出来ている?」

 

 

投影。銀の剣を具現化するに用いたもの。創造の理念を鑑定、基本となる骨子を想定、構成された材質を複製、製作に及ぶ技術を模倣、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現することで可能となる技術。想像から出来上がったそれは当然本物と比べ劣る。だが、状況によって使い分け、真名解放を用いることで強力な戦法へ変わる。

そんな技術で現れた剣を残念そうに見るのは何故なのか。

 

 

「私の知らない未知の材質、か……あるいは」

 

 

投影しきれなかったからだ。鍔の中心にある装飾品の紅石がそれを照明してくれた。本物の剣にあったそれは深紅な紅石だ。しかし、エミヤが投影した剣の紅石は死んだように光を失った黒だった。形こそ瓜二つなのにそこだけが違っていた。

 

 

「どちらにせよ、私にそれが出来ない以上考えても無駄か」

 

 

無駄な余力を使ってしまった。することもないので、ベッドに横たわろうとした時だった。

 

 

「……む?」

 

 

後ろの窓辺の方から音が聞こえた。物が当たったときの音とは少し違う気がした。何かを投げ入れられたかと思いながら後ろを振り向くと。

 

 

「……なんだあれは」

 

 

剣を置き、ベッドから立ち上がる。見たことの無い生物が窓辺からこちらを見ていた。

 

 

(トカゲ、か?)

 

 

確かにそれには似ている。しかし、大きさが普通の比ではない。狭い窓の枠をなんとか通れるくらいの大きさだ。そしてトカゲとは決定的に違うものがその生き物にある。

角と翼だ。どちらも未熟なように見えるが変わりはない。そんな生物は存在しない筈だ。だが、幻想種であるのならその生物は存在する。

 

 

(竜なのか?)

 

 

頭に角があって、背中に翼を持った幻想種、竜。それがエミヤの脳裏に一番に浮かび上がった。実際、爬虫類系の姿で角と翼のある存在は竜くらいしかない。

しかし、それはそれで可笑しい。仮に目の前の生物が竜だとして、そんな神秘の塊のような存在がこんな人気の多い場所に現れるだろうか。

 

 

「この生物が竜だとしたら些か迫力に欠けてしまうな」

 

 

馬鹿にしたような言いかただが率直な感想だ。神話を探して、小さな竜はいても未熟でどこか可愛げのある竜はいないのではないだろうか。

エミヤがそんなことを思っていた頃、じっとしていた竜が動いた。気になったものでも見つけたのか、一点だけを見つめてベッドへ跳んだ。

 

 

「む?」

 

 

エミヤの方へ近づいていくが、目はそちらを向いていない。目でその方向を追うと先には剣があった。彼が投影した代物だ。竜は不思議そうにそれを見ている。

 

 

「どうした。まさか欲しいのか?」

 

 

そんな訳ない。ただ興味に引かれたくらいだろう。

いつにない呑気なことを考えていると。竜がを口でくわえて持ち上げた。そして気づけば竜は窓の外の方を見ているではないか。

 

 

「いかん!?」

 

 

慌ててエミヤが動いた。上から押さえつけるように手を出す。まさかこうなるとは予想もしなかった。あの小竜が剣をくわえたまま外に出てしまったらどうなるかなんて考えるまでもない。

竜は上から襲いくる手を跳ぶことで回避した。そしてそのままの勢いで窓の外へ向かう。

 

 

「外には――」

 

 

逃がす訳にはいかない。何としてでも取り押さえなくては。

エミヤは利き脚でベッドを踏みしめた。

 

 

「行かせんッ!」

 

 

踏み込んだ足のばねを利かせて前へ手を伸ばす。つき出した手が竜の尾に触れようとした、その時だった。

パキャッ――と乾いた音が足元から響き、利き脚がベッドに沈む。勢いが死んだ。だが、止まる訳にはいかない。

 

 

「届け……!」

 

 

この際、ベッドの断末魔なんて気にしない。形振り構わず手を伸ばす。

尾に手が届いた。透かさずそれを握りしめる。急に尻尾を捕まれて驚いたのだろう。竜が短い悲鳴を上げた。あとは剣を取り上げるだけ。だが、それより先に鈍い衝撃が頭に走った。

 

 

「ぬッ!?」

 

 

勢い余って窓の縁に頭をぶつけてしまったのだ。思いがけない出来事に出くわしてつい、尻尾を握っていた手を緩めてしまう。その隙を逃さなかった竜はエミヤの手から逃げてしまった。

 

 

「ぬぅ……」

 

 

縁に激突した額を押さえる。今すぐ追うことなど狭い部屋では叶わないが、エミヤは逃げられた小竜を追おうとはしなかった。

視線を下ろせば、そこには竜がくわえていた筈の剣が落ちていた。きっと、悲鳴を上げた時に落としたのだろう。

 

 

「何だったんだ今のは……」

 

 

竜を追うつもりはないが窓から顔を出して外を見た。そして、ため息をついた。この城の主エレオノーラと彼女に抱かれている大きなトカゲが視界に入ってしまったから。

 

 




こんな感じで次回に続きます。
「エミヤはこんなんじゃない!」と思われる方も多いと思いますが、許してください。
こらからも、ふとやりたいと思ったことを取り入れてしまったりするかと思いますが、その時「そこは変じゃないか?」「こうした方が良いのでは?」と感じられた場合にはご指摘お願いします。

それではまた次回まで。
誤字、脱字、知ったかの指摘などお待ちしております。
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