赤い弓兵と戦姫( リメイク)   作:無機物

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お久しぶりです。約一ヶ月の音信不通、申し訳ありませんでした。
今回は事情があり、五話六話を続けて投稿させていただきます。
申し訳ありませんが、暫くこちらのサイトへ入ることが出来なくなるのでまた音信不通になります。


五話

城の全体が夕焼けに染まっている頃、裏方の庭園にエレオノーラはいた。壁面を見上げながら、何かを探すように歩いている。そして彼女は何かを抱き抱えて、一人楽しそうに笑っていた。

 

 

「たしか、この辺りのはずなのだがぁ……」

 

 

やはり何かを探していた。しかし、城の壁面を見ながら何を探しているのか。

 

 

「お、あったあった!」

 

 

目当てのものを見つけたらしい。それの真下まで来ると間もなく足を止めた。彼女が見る目線の先には四角く掘られた穴があった。きっと窓なのだろう。

 

 

「あいつは三階にいるのか……よし」

 

 

なにやら一人相槌を打つと抱き抱えていたものをその窓に向け両手で掲げた。

 

 

「いいか、ルーニエ? あそこの窓に入るんだぞ」

 

 

誰かに語りかけるように言うが、彼女以外に人は誰もいない。

腰を曲げて、一度掲げたそれを膝辺りまで下げる。すると勢いをつけて下から上へと放り投げた。

 

 

「さぁ、行ってこい!」

 

 

 

 

エミヤはため息をついた。窓から顔を出すとエレオノーラの姿が見えた。しかもその側には部屋で悪戯をしてれた竜までいるではないか。

エミヤの姿を見つけた彼女は手を大きく振って。

 

 

「下に降りてこーい!」

 

 

監禁中だというのに、まったく彼女の考えは理解に苦しむ。仮にも城の当主なのだから、それに添った振る舞いが必要だ。

 

 

「さて……」

 

 

どうするべきか少し考える。言われた通りエレオノーラの元へ行くのも良いが、面倒事は御免だ。どうせ彼女のことだ。これも勝手気儘な行動なのだろう。しかし、彼女の誘いを無視すると言うのも問題が無い訳ではない。

 

 

「早く降りてこーい!」

 

 

エミヤを呼ぶ少女の声が今もこうして聞こえる。これを無視し続ければ、彼女が乗り込んで来てしまうかもしれない。そうなってしまうのなら、此方から向かった方が良いだろう。

 

 

「仕方なし、か」

 

 

横目で隣を見る。すると、くの字に折れたベッドが目に入った。

 

 

 

 

「……遅い」

 

 

腕を組んで、エレオノーラは不服そうにしていた。エミヤを呼んでから、まだ時間と呼べる程時は過ぎていない。だが、彼女は待ちきれなかった。

 

 

「まったく、窓から飛び降りればそれで済むだろうが」

 

 

無論、それは願望ではかるが叶わないことくらい分かっている。エミヤの体型と窓の大きさは、比べるまでもなく彼の方が大きいのだ。出来るわけがない。

 

 

「早く降りてこーい!」

 

 

今はこうして呼ぶことしか出来ない。直接部屋に向かいたいのも山々なのだが、そこまで立場を弁えていない彼女ではない。リムも言っていたがエミヤに対して良く思っていない人間も少なくない。変な噂が出回れば面倒になる。

 

 

「遅い……」

 

 

城の壁に寄りかかる。壁のひんやりとした冷たさが肌に伝わって心地良い。空を見れば先程よりも夕焼けが濃くなっている。ここまで染まれば後は暗くなるなっていくだけだ。

そうしていると、エミヤがやって来た。

 

 

「遅い!」

 

 

彼の姿を見るや不満をぶつけた。

 

 

「急に呼び出してその言い種か。やれやれ。少しは大目に見てほしいものだな」

 

 

エミヤに反省の色はない。いきなり呼び出して、反省しろと言うのも無理なはなしだ。そもそも怒鳴られただけで反省しろとは言われていない。というのが今の彼の言い分だ。

 

 

「それで、監禁中の私をわざわざ呼んだのだ。大した用があるのだろ?」

 

 

「それよりも先にだ。あいつに謝れ!」

 

 

彼女は左の方を指差した。その指差す先には花壇があった。それは広く作られた花壇で回りを煉瓦に取り囲まれている。この広場の中心にあってよく目立つ。

 

 

(花壇……?)

 

 

彼女が指差した花壇を見る。まさか花壇に謝れと言っているのではあるまい。すると花壇の中で何かが動いた。

 

 

(あぁ、そう言うことか)

 

 

エレオノーラの方へ向き直る。

 

 

「そう言えばあのトカゲは君の――」

 

 

「ルーニエだ! 竜の子供の」

 

 

やはり竜であった。彼女の発言でやっとその生物が竜だと納得した。そして、分かったことがもう一つある。ここで竜は幻獣の枠に当てはまらないことだ。そうでないなら合点がいかない。ということはつまり……。

 

 

「成る程。確かに危害を与える様な真似はした。だか、君の事だ。その竜を私の部屋に入るよう誘導したのではないか?」

 

 

「ぅ、それは……」

 

 

図星の様だ。彼女は引きつった苦笑いを作って誤魔化そうとするが無理だ。それで誤魔化せる筈がない。

 

 

「なら、私以前に事態の元凶を作ったのは君なのだ。非があるとするのなら、そちらではないのか?」

 

 

「だとしても……あぁ、もういい!」

 

 

反論しようとするが諦めた様だ。そっぽを向いて、悔しそうにエミヤを一瞥する。その顔は不機嫌そうで、何か言いたそうな仕草にも見えた。

 

 

「何か言いたいのであるなら言うといい。遠慮する必要は無い」

 

 

「なら、少し付き合え」

 

 

そっぽを向いたまま、エレオノーラは彼にそう言うと一人歩き始めた。教えてもらったところで分からないが、何処へ向かおうと言うのか。黙ってついてこいと言わんばかりに歩みを進める彼女の背中をエミヤは追った。

何故かは分からない。だが、彼女は真剣だった。

 

 

 

 

人気の無い道の角を曲がると小道に入った。すぐ側には小道と同じくらいの水路がある。とても浅い。足をいれても脛の辺りまでしか沈まないだろう。

 

 

「何処へ向かっているのかね?」

 

 

ここまで黙ってついてきたエミヤだが、流石に何処に向かっているのかや目的を知りたかった。

問われたエレオノーラは振り向かずに言った。

 

 

「……もう少し先だ。二人きりで話がしたいからな」

 

 

もう少し先に何かあるのだろうか。

すると、先の方で少し開けた場所が見えてきた。更に足を進めると井戸と背丈の低い木があって、その下には木製の長椅子があった。

 

 

「この場所か?」

 

 

「そうだ」

 

 

中へ入って分かったが整備はされている。

エレオノーラが長椅子の方を指差した。

 

 

「そこで話そう。お前の反応によるが、すぐ終わる」

 

 

言われるままにエミヤは長椅子へ腰を下ろした。空は夕焼けだが、ここも日の光が入らず暗い。先までいた監禁部屋はもう真っ暗になっているだろう。

ここも人気が無い。水路を流れる水の音と木の葉の掠れる音が聞こえるだけだ。

 

 

「――それで、どうしてこうなる?」

 

 

説明を求めると意味を込めて、エミヤは横を一瞥する。

 

 

「うん? 何がだ」

 

 

彼の横には不思議そうにこちらを見てくるエレオノーラがいた。長椅子に二人、横に並んで座っていた。

 

 

「会話というのは互いに向き合ってする筈、なのだが……ここでは違うのだな」

 

 

「座れる物がこれしかないんだ。仕方がないだろ?」

 

 

「成る程。なら、私が立てば住む話しか」

 

 

長椅子から立とうとする。が、エレオノーラに外套の裾を掴まれた。

 

 

「まぁ別にいいじゃないか。それに私を見下ろしながら聞く気か?」

 

 

笑ってそう言われた。なら地べたに座れば良いだろうに。だが、彼女に今さら何を言っても無駄な気がした。

 

 

「……それで話しとは何だ?」

 

 

すでに面倒に思えてきているが、彼女との対応が嫌になる前に終わらせるべきか。エミヤは彼女へ問いを投げ掛けた。言われることに予想はついているがその事に口出しはしない。彼女にも言い分というものがあるだろう。

 

 

「率直に言う」

 

 

笑いが無くなった。真面目な雰囲気がエレオノーラから滲み出る。

 

 

「明日、戦をする。そこにお前を連れて行く」

 

 

それは、予想外の誘いだった。昨日今日捕まえた捕虜を戰場に連れていった者が歴史を降りかって見ているだろうか。少なくとも彼は知らない。エレオノーラはそれをしようとしている。

 

 

「何のつもりだ。魂胆が無い筈ないだろう?」

 

 

「簡単な話さ。お前に私達が戦っている相手を見てもらうんだ。そして知ってもらいたい……」

 

 

エミヤの方を見て、真っ直ぐに彼の目を直視する。

エレオノーラからこんな真剣な眼差しを受けたのは初めてだった。エミヤには何が彼女をここまでさせるのか理解分からなかった。

エレオノーラは手を伸ばすと彼の片手を掴んで自分へ寄せた。

 

 

「私はお前が欲しい。だから知ってもらいたい。私がどんな人間なのかを……!」

 

 

「……」

 

 

そこまでして何故自分を欲するのか。エミヤは得体の知れない存在であり、それは初めて彼女と会った時から変わっていない筈だ。何も分からないニンゲンをどうして恐れないのか、どうして手を差し伸べるのか。

今までにこんなことは無い。いや――

 

 

「あった……か?」

 

 

機械的で全てが偽物。偽物の感情。空っぽの存在。そんな物に本心から向き合ってくれる人。本当にいなかったのか?

 

 

「……ッ!?」

 

 

刹那、頭痛が生じた。エレオノーラに握られていた手を振り解き、とっさに額を抑えた。

 

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 

驚いた彼女は長椅子から立ち上がり声を上げる。真面目な話をしているときに相手が苦しみだしたのだ。驚くのも無理はない。

 

 

「いや、心配ない……大丈夫だ」

 

 

頭痛は治まった。傷みはない。

 

 

「そ、そうか……ならいいんたが」

 

 

傷みは一瞬だった。脳天から杭を打たれた様な傷み。前にもあった。そう、エレオノーラと初めて会って交戦したときだ。あの時と同じ。何かを思い出そうとしたら頭痛が生じた。

 

 

「先程、部屋で誤って頭をぶつけてしまってね。恐らくその時のが響いたのだろう」

 

 

「どじだなぁ。気をつけろよ?」

 

 

適当に誤魔化したが信じてくれた様だ。どうやら本当に心配していたらしく、エレオノーラは安堵して彼へ笑顔を向けた。優しい少女の笑みだった。

 

 

「話を戻そう。エミヤ、明日私達についてきてくれるか?」

 

 

真剣な眼差しが再びエミヤへ向けられる。

彼女は真剣だ。なら、それ相応の態度をとらねばなるまい。

 

 

「いいだろう……だがいいのか? 私を外へ出せば逃げるかもしれんぞ」

 

 

「そう言うやつに限ってそんなことはしない。この話は終わりだ」

 

 

エレオノーラは長椅子から立ち上がるとエミヤを残して一人、歩き出した。そして、数歩歩いたところで後ろを振り向き手を振った。

 

 

「じゃぁ、明日また会おう」

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
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