『こちらバイパーゼロ、追撃艦隊らしい連中が見えてきたよ。腰に刀を差した戦艦がふたりに、重巡洋艦ってやつの四姉妹、それに雲龍たちとはちょっと違う空母が6隻に、軽巡洋艦が……14もいるよ!!』
「おいおい、随分と大御所帯じゃねぇか。とりあえず、その追撃艦隊の画像撮れるだけ撮って、転送したらただちに離脱。絶対交戦なんかするなよ」
『しないよ、ってか、できない。ボクは散歩のつもりで飛んでたし、単騎で艦隊に突撃とかバカらしくてやってられないよ。一応、映像も一緒に撮ったし、一緒に送っとくね』
「無事に帰ってこいよ」と言って無線を切り、再び送られてきた艦隊の画像を見る。伊勢型の姉妹を筆頭に、妙高型の姉妹と南雲機動部隊、長良型と球磨型──うち北上、大井、木曾が改二──と川内型が周囲をぐるっと警戒している姿が見える。連れ戻しにきたのか、あるいは
「三笠提督、俺忙しいんですけど……」
「あなたの任務は、駆逐艦たちを迎えて安全圏まで護衛することよ。どうも、こういったことはあなたに任せたほうがいい気がするのよ」
「そうなると、追撃艦隊の相手は誰がするんです?これだけの大艦隊、うちの連中は戦闘経験はないですよ。
「そのための
さすが三笠提督、俺のやりたいことをわかっている。艦隊指揮は三笠提督にお任せするとして、俺は白旗を掲げた艦隊を迎えて安全圏まで護衛することとしよう。必要最低限の装備を整えて、駆逐艦たちをお迎えに行く準備をしつつ、どうやって安心させようかと悩む。脱走艦なら、帰りたくない理由があるだろうし、離反艦なら、裏切るに至った経緯があるはずだ。まずは、話を聞いてみよう。
白旗を掲げた艦隊と接触してさらにわかったのだが、駆逐艦たちと共に逃げてきた海防艦が8人もいるということだ。択捉、松輪、佐渡、対馬、平戸、福江、御蔵、屋代と、皆一様に怯えた表情を隠さず涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でこちらを見ているのがわかる。ただ、海防艦にしがみつかれている白露と時雨はいい加減休みたいのか、こちらは助けてオーラ全開で期待の眼差しを向けている。あー、はいはい。ふたりまでなら手伝うぞ。
とりあえず、白露から対馬を、時雨から平戸を受け取り、風雲と巻雲がそれぞれ択捉と御蔵、佐渡と屋代を引き受けたためか、少し気が楽になったのだろう、少し安心した表情を見せる。とりあえず、駆逐艦たちと海防艦たちがなんとか安心したので、藤永基地へお迎え。話を聞いていてわかったのだが、どうやら俺が大本営に赴いたあの日以降、妖精さんや水雷戦隊──特に駆逐艦──が次々にボイコットを始めてしまい、今やかつての大本営上層部に媚を売っていた鎮守府や外洋泊地は基地としての機能を完全に失い、艦隊の統率すらままならないという。
出撃や遠征任務を拒否したり、頻繁に朝寝坊を繰り返すくらいならまだかわいいほうで、重症化するといつの間にかいなくなっていたり、無警告で味方を砲撃したりするため、かつてのブラック鎮守府に運悪く赴任してしまった提督にとっては胃が痛い話だろう。もっとも、逃げてきた海防艦たちと駆逐艦たちの場合、その赴任してきた提督が
「大本営上層部の首が入れ替わったと聞いて、提督の首も一緒に飛んでくれたので最初は喜んでいたんですが、その次に赴任してきた提督がどっこいどっこいなレベルでひどい提督で、私たち水雷戦隊をいつも見下していたんです。特に海防艦は容姿の幼さも手伝ってもっとひどい扱いで、最低以下の待遇でした」
そう言って自分たちの境遇をぽつぽつと話し出したのは、先頭で白旗を掲げて航行していた岸波。彼女は長姉の夕雲曰く『よくも悪くも手を抜く朝寝坊の常習犯』らしく、任務のない日は終日パジャマ姿で自室にこもっていたようだ。だが、これでハッキリとこの駆逐艦たちと海防艦たちが脱走艦であることが判明した。それなら話は早い、
【速報】藤永基地に海防艦が仲間入りしました。