KAMEN RIDER IDEA ~ヘレシー戦役~   作:ブランドマーカー

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第5話:辺境世界のエクェス・ロード

 報告会の会場だったキャビンから当てられた自分達の部屋に戻ってきたシルトは、そのまま直行したシャワールームから出てくると、傾れるようにベッドの上へ腰掛けた。

 

「よし……」

「じゃないだろ」

 

 そんな一息ついた彼の頭上から不意にやや無愛想ながら張りのある女の声が聞こえた。

 徐に顔を上げたシルトだったが、間もなくふわっと一枚のタオルがその頭に覆い被さり、更にその上から細い手が重なると、まだ濡れている彼の真っ白い髪を優しく拭き始めた。

 

「うぉっ」

「ちゃんと拭かないと、風邪ひくぞ」

 

 しばらくすると、乾いたシルトの頭から湿っぽくなったタオルが取り払われ、同時に頭上から終了を告げる満足気な声が聞こえた。

 

「よし。おわりだ」

「わるい、アラ」

 

 シルトはやや朦朧としかけた意識を引っ張り込むように軽く頭を振りながら礼を言うと、そんなベッドに腰掛ける彼の隣へ移動してきた、愛妻である『アラベラ・シュリュッセル・シルト』は細い両足をさっと組みつつ母親のような口調で告げた。

 

「全く……しっかり乾かせって、いつも言ってるだろ? 風邪もそうだが髪だって痛む」

「アラはやってんの?」

 

 すると注意を受けたシルト本人ははぐらかすような質問を呟きつつ隣の妻の髪に手を伸ばし、そのまま何気なくその長い橙色の髪を優しくすいた。

 

「人の事はいいんだ」

「はーい」

 

 しかし、受け流されることなくアラベラが逆にあしらうと、シルトはおどけた口調ながら空いている片手をぱっと上げて一応反省の意思を示した。

 そんな夫の調子のいい言動に、そっぽを向いたまま厳しい視線を向けていたアラベラだったが、しばらくすると呆れ半分諦め半分という風に溜息を吐きつつシルトに向き直ると、小さく微笑んだ。

 

「それで? 報告会はどうだったんだ?」

「それでもあれでもないさ」

 

 それから両手を組み直しながらアラベラは先程終了だろう報告会の様子を尋ねると、今度はシルトの方が――彼女の髪からそっと指を離して――大きく溜息を吐いた。

 

「いつも通りだよ。フィッシャーとラルフの意見違いが、毎度恒例の行儀のいい口喧嘩に発展しかけて……」

「また、あの二人か……」

 

 アラベラも溜息交じりに呟いた。

 再興間もないイデア帝国の二大派閥の代表格であるフィッシャーとラルフの犬猿の仲は皇国の上層部では最早有名で、アラベラも見聞きしていた。そして、両者の能力と掲げる主張が相容れないながら真っ当である事も当然理解しているが、故に畏まるどころか――まるで機会をうかがうように――口論を展開していく両者の姿勢には正直……呆れ果てていた。そんな出口の見えない迷宮同然の難題にしばし思考すると、不意にまた別の話題を思い出したらしく、直ぐに隣のシルトへ問い質した。

 

「その様子だと『あの件』は伝え損ねたのか?」

「……君はプラーナを介する時よりも、俺の事に関してはずっと鋭いよね」

「貴方に惚れて何年目と思ってるんだ?」

 

 やや冗談交じりにシルトが返すと、アラベラも微笑みつつ言い返した。

 

「御見通しだよ」

「嬉しいね」

 

 夫婦はしばし笑い合ったが、そのまま一旦静寂が横切ると、どちらかが促すわけでもなく、神妙な面持ちになった。

 

「ここ最近……辺境方面で活発化している次元帝国の艦隊。その指揮を執っているって噂の新指導者……『プラーナ』が俺達に警告している件は間違いなく、その残存艦隊に関係してる」

「シズク達の方は?」

「きっと感じ取ってるはずだ。だからこそ、なるべく対策を整えたかったんだけど……」

 

 言い掛ける間に苦々しい表情を浮かべる。

 

「無理矢理でも割って入れば言えただろうけど、あの状況じゃな」

「プラーナの警告だけじゃ……まだ足りないか。結局は物的証拠がないと、国家には信用されない訳だな」

「そういうこと。心許ないけど、目の届く範囲で気を配っていくしかないだろね……あーあーっと」

 

 シルトは額に手を当てつつ深々と溜息を吐くと、そのまま座っていたベッドの上に真横から倒れた。

 すると隣に座っていたアラベラの膝へ、ちょうどいい具合に頭がおさまる。

 

「ふぅ……」

「お疲れだな」

 

 微笑みつつそう呟いたアラベラの細い手がそっとその彼の頭におかれる。

 柔らかい感触と心地のいい温もりが、真っ白い髪から染み込んでいくようだった。

 

「そのまま寝ろ。少ししたら起こしてやる」

「ああ……うん……」

 

 それでも律儀に――最早寝言ともいえる動作だったが――返答すると、膝に頭を乗せたまま横へ向きつつ身を丸める。

 

「……お休み、ビャクヤ」

 

 そんな愛妻の囁くような言葉に見送られて、シルトはそのまま夢の世界へ歩み出した。

 

 

 * * * * * * * * * *

 

 

――数日前にフロニャルドからイデアールの辺境領域に舞い戻った《ヒメーレ》の格納庫の一角で、ホウチュウ・スズキは先程整備を終えたばかりの連絡艇をじっと見据えていた。

 

「…………」

「そんなおっかない顔しなさんなって、艦長」

 

 そんな険しい表情を浮かべるスズキに対し、ヘレシー大元帥はフロニャルドで遭遇した原住民から貰った物らしい奇妙な果実をかじりつつ語りかける。

 

「正直……まだ納得しかねます」

 

 すると移動前に手渡されたフロニャルドの土産である『深緑色の鉱物』を擬視したまま不満気に呟く。

 

「我々がこれから向かう辺境世界にそのプラーナ・ユーザーを手配したのが、総統御自身だったというなら、何も対策など必要ないと思いますが?」

「その件はさっきも言っただろ? ただの保険だよ」

 

 大元帥は前方のスズキを追い抜くと、そのまま乗り込んだ連絡艇の副操縦席へ腰掛けつつ答える。

 

「なんたって、あっちは何十年も片田舎みたいな世界に引きこもってるんだ。俺達が何者か……ソイツに納得させる時に一悶着あるだろう。それに、今回の為だけにわざわざフロニャルドからコイツを取ってきたわけじゃない。あくまでも『テスト』だよ……準備できたな? 出してくれ」

 

 搭乗者が全員ベルトを固定し、同時にパイロットから発進準備の報告が入ると、頷いた大元帥は果実を平らげつつ言った。

 ――間もなく、くぐもった金属音と衝撃が響くと、彼らの搭乗した連絡艇は《ヒメーレ》のドッキング・ベイから離れ、そのまま次元の海へ飛び出した。

 

「一個小隊だけでも連れてくれば、もっと効率よくできるだろうに……」

 

 自身の席から舷窓の向こうの殺風景な景色を眺めながらスズキはごちる。

 

「それこそ、先日の未開世界も――」

「フロニャルドのことか? そりゃあアカンって、艦長」

 

 すると突然、副操縦席から大元帥がスズキの言葉をきっぱり否定しつつ言った。

 

「もう、止めたんだよ……ああいう物語の世界を、無理やり踏み荒らすのは」

「……そうですか」

 

 スズキはなるべく素っ気なく返答したものの大元帥は拗ねる子供でも相手するように微笑むと、そのまま話題を進める。

 

「それに君の提案通りやっても効率よく進むとは限らないぜ? そのプラーナ・ユーザーが一癖も二癖もある奴だったら手間取るどころか、場合によっては失敗して俺・達・全・滅! ……ってことも有り得る」

「まるで、そのプラーナ・ユーザーを見知っているような言い方ですね?」

「さぁーてね。まぁ、これから行くんだ。すぐに答えは出るベ」

「…………」

 

 自身の意見をおどけた言動とともに尽く切り返した大元帥に、スズキは片眉を上げたものの残念ながら反論に値する名案が閃くことはなく、止む無く沈黙した。

 

「これより『ジョウント・カートン』へ入ります」

 

 操縦席のパイロットが告げた『ジョウント・カートン』とはイデアールに普及している独自の移転技術だ。

 動力源の転移装置と座標の記録及び位置算出できるコンピューターが搭載された次元艦船ならイデアール領域だけでなく次元の海のあらゆる世界へ瞬間的に航行できる。

 彼らの連絡艇はそのまま前方に発生した灰色の壁(オーロラカーテン)に突入する。そして、煙のような灰色の空間を潜り抜けると、舷窓の外には淡い次元空間から一変――まばゆい太陽と深緑色の森林に上下二分された大自然が広がった。

 

「到着しました、座標地点です」

「なるほど……悪くない世界だ。なんか異常ある?」

「ありません」

 

 大元帥の言葉にパイロットは操縦したまま素早く確認した。

 

「間もなく都市が見えてくるはずです」

 

 しばらくすると、日の光に照らされた森林の中に一際目立つ古城のような建造物と隣接する中規模の都市が見え始めた。

 

「ああ……あれだ」

 

 大元帥は手元の末端器と操縦席前のモニターを交互に見据えながら言った。

 

「『ミュージアム』……降りるぜ」

「了解」

 

 程なくして、二度旋回した連絡艇は隣の孤立した洋館より小柄なものの豪奢自体は圧倒している宮殿に面した都市中央の広場へゆっくりと着陸した。

 

「こいつは興味深い」

 

 着陸時の振動が一応納まった連絡艇の中で、真っ先に副操縦席を立った大元帥はしばし舷窓から外の風景を眺めつつ語り始める。

 

「少なくとも、三種類の時代の異なる技術が介入した跡がある。最初はおそらくスペース・マフィア、次に全盛期のベルカ、最後は旧イデア皇国……辺境とはいえ、イデアールにこれだけ多種多様な文化と共存している世界があるってのは珍しいし、面白いよ」

「そうですな」

 

 スズキは大元帥の解説にうわの空で同意しつつ腿付近のホルスターに収まっているピストル型の光線銃(レイガン)を握りながら位置調整した。

 大元帥は持ち前の論理や調達した品物に自信満々だが、スズキ個人はまだ兵数と火力が不十分であり、逆にいえばその点だけ解消されれば問題ないと思っていた。

 

「この世界の原住民は我々……外界の者を敵視するでしょうか?」

「断言しないけど、そっちの可能性が高いな」

 

 背後から聞こえたスズキの質問に、大元帥は連絡艇のゲートの方へ向かいながら答える。

 

「大抵の生物はそうだしね。まぁ行ってみればええよ」

 

 開いたゲートの下部から気体の放出音とともに降りてきたタラップで、大元帥を先頭とした一行は連絡艇の外に向かった。しかし……地面に降り立ち、そのまま連絡艇から数歩離れても一行に危害を加えるものはなかった。それどころか、騒ぎ立てるものも、姿を見せるものも、生活音すらうかがえない。

 

「……思ったよりも、無関心なんですね」

「そだね……よし、ちょっと試してみよう。歓迎の下準備に集中してて気付かれてないって可能性もある」

 

 ホルスターのレイガンを握ったまま呟いたスズキに対し、数歩先に立っていた大元帥は同意すると、更に冗談っぽく言いながら、どこからともなく真っ赤なメガホンを取り出した。

 

『あ~、テステス……辛味噌♪』

「……」

 

 そして――スズキの冷ややかな視線には触れることなく――諸々の調整を済ませ、口元に持っていくと早速応答を試みる。

 

『あの館の所有者に面通し願いたい』

 

 広場中央から大元帥のメガホンに拡張された声が響き渡った。

 

『どなたか、案内してくれる心優しい方はいらっしゃる?』

 

 彼はメガホンを下げて一旦言葉を区切ると、最後の音節が付近の建物に反響しそのまま静寂が戻るまで、周囲の反応を窺った。しかし二分近く経過しても特段進展はない。

 

「…………」

「こちらの言語が理解できないのでしょうか?」

「そいつはどうかな。全く通じないなんて、逆に不自然だぜ? ……仕方ない。もっと積極的にやってみるベ」

 

 やや小声気味にスズキが言うと、大元帥はほとんど無関心に呟くと、再びメガホンを持ち上げた。

 

『あの館の所有者に面通し願いたい』

 

 そして、また先程の応答を繰り返したが……。

 

『シカト決め込んでるなら、近くの家から殴り込んで、一人ずつ順番に質問していくけど――』

 

 何気なく脅迫同然の言葉を発した途端、前方右側から一本の矢が飛んできた。

 当然といえば当然だが。

 

「おっと! ……危ねぇ」

「閣下……っ!?」

「ちょい待ち」

 

 間もなく矢先は大元帥がさっと掲げた革手袋に覆われた右手の甲へ命中した。しかし当の大元帥は苦痛の表情を浮かべることも、慌てふためくこともなく、その自身の手に突き刺さった原始的な武器に対し、むしろ賞賛と好奇の視線を向けつつ引き抜くと、同時にホルスターから取り出したレイガンを構えつつ隣に飛んできたスズキ達を制止した。

 

「もうそっちにはいない」

「はい?」

 

 スズキ達は当惑するが、大元帥はまた左手のメガホンを持ち上げた。

 

『たった今、君達の仲間から物騒な歓迎を頂いた。これは御礼だ……受け取ってくれ』

 

 大元帥は冷ややかな微笑とともにそう告げると、軍服の懐に入れた右手から愛用のレイガンを引き抜いて、そのまま右側真横の茂みへ、容赦なく三発撃ち込んだ。

 すると一瞬呻き声と荒い動作音が聞こえて、茂みの隙間から痩せ細った人間の手と流れてくる赤い液体が見えた。

 

『……もう一回だけ聞く。あの館の所有者と面通し願いたい。案内してくれる方はいらっしゃる?』

 

 あまりにも唐突だった展開にスズキ達はしばし呆然としていたが、当事者である大元帥は一切気に留めることなく、持ち直したメガホンから、これまた一際大きな声で問い掛けた。

 その時……。

 

「ワシが案内しよう」

 

 不意に左側――ちょうど例の豪奢な宮殿に続く一本道の方から、しゃがれ声が聞こえた。

 一行が反射的に振り向くと、そこには一人の老人が立っていた。

 皺の刻まれた顔と浅黒い肌。手入れの息届いていない灰色の髪と胸元まで伸びた髭。古びた道着のような黒と灰色の上下を着込んだ長身痩躯。

 やがて、その尊大な仙人とも不気味な浮浪者とも形容できる風貌の老人は、好奇と威嚇の入り混じった表情で言った。

 

「お前達がやってくる事は分かっていた」

「分かっていた?」

 

 徐にそう呟いた老人に、スズキは怪訝な表情を浮かべるものの老人本人は気に留めることなく、そのまま一行からその背後に待機している連絡艇へ一旦視線を移した。

 

「お前達はイデアールからやって来たな」

「ああ、大正解だ。んで……じーちゃんは?」

 

 大元帥は同意すると、今度は自分の方から老人へ問い掛けた。

 すると老人は黙ったまま大元帥が先程発砲した茂み……その奥に見え隠れする細い手と広がり続ける赤黒い液体を見据えた。

 

「お前達はあの男を撃った」

「正当防衛だ。まぁ……無理もないけど」

「分かっておる、だが罰する必要はなかった。その権利は主人であるワシだけにある」

「つまり、じーちゃんはこの世界の統治者ってことかな?」

 

 大元帥がそう質問すると、老人は両眼に不穏な光を放ちつつ髭に隠れた口元をニヤッと動かした。

 

「ああ、そうだ。ワシが支配しておる」

「へぇ……」

 

 断言する老人に大元帥は一応納得した様子を見せると、謎めいた微笑を浮かべながら語りかけた。

 

「俺は次元帝国のディルク・ヘレシー大元帥。ちょっと用事があって、あの館の所有者を捜している」

「ワシが案内しよう」

 

 老人は最初の台詞をまた繰り返すと、さっと一行に背を向けて、宮殿の方へ進み始めた。

 

「どうします?」

「言う通りにするさ。その為に来たんだ」

 

 肩越しに尋ねるスズキに大元帥は言った。

 

「俺と艦長だけで行く、他はこのまま待機しててくれ。今更だけど一応警戒してな?」

 

 更に背後の士官二人にちらっと付け足すと、スズキとともに前方の老人へ続いた。

――しかし、連絡艇の着陸した広場を出て、細長い一本道を上ると、彫刻の施された鉄扉……例の宮殿前に到着した。

 その間に先程のような危害が降りかかる事はなかったが、そのまま館に行くと思っていたスズキの予想は大きくはずれた。

 

「俺はてっきり、所有者は館に居座ってると思ったんだけどな……じーちゃん?」

「以前はそうだった」

 

 周囲を見渡しつつ大元帥が何気なく言うと、老人ははたりと立ち止まった。

 

「ワシがこの世界の支配者となる前は、あそこに住んでおった」

「……そうかい」

 

 大元帥はしばし考え込んだ後、背を向けたままの老人へ問い掛ける。

 

「つまり、あの館の持ち主は、もう御臨終してるわけだ」

「そうだ」

 

 老人は認めると振り返った。

 

「ワシが殺した」

「どうやって?」

 

 また何気なく大元帥が尋ねると、一方の老人もまたニヤッと口元を動かす。

 

「言うよりも……」

 

 そして、徐に痩せ細った両手を突き上げる。

 

「実際に体験した方がよかろう」

 

 老人がそう呟いた、次の瞬間――彼の両手から真っ黒い稲妻状の閃光が放出された。

 しかし、その得体の知れない閃光は、スズキがホルスターからレイガンを引き抜くよりも、彼らに到達するよりも早く、さっと左手を掲げた大元帥の目前で、液体が蒸発するように跡形もなく消え去った。

 

「……なるほど。よく分かったぜ」

 

 大元帥は軍服に飛び散った火花の黒灰を払いのけつつ答えた。

 

「あの館も。この世界も。アンタが総統から譲ってもらった――」

「総統など知るものかッ!」

 

 老人は当惑した様子を見せたものの直ぐに我に返ると、大元帥が言い終える前に、大声とともにまた両手から閃光を放出させる。

 

「ワシが殺したのはこの世界の支配者だッ! そして、この世界は勝ち取ったワシのものだッ! 総統のものなど何一つないわッ!!」

「……」

 

 老人は閃光から響き渡る轟音に負けないほどの大声でまくし立てるが、またしても真っ黒な閃光は左手を掲げる大元帥の目前で消え去った。

 しばらくすると、老人は閃光の放出を途絶えるとともに両手を引き戻し、その強烈な膠着状態を終了させ、代わりに苛立った表情を浮かべたまま対峙する大元帥をじっと睨み据える。

 

「……何故だ?」

 

 やがて……否定するように首を振ると、困惑した声音で呟いた。

 

「お前にプラーナはない。しかし、それなら……今のはどうやったのだ?」

「世界は広いんだよ、じーちゃん」

 

 根負けした老人の問い掛けに、大元帥は奇妙な微笑を浮かべつつ語りかける。

 

「アンタの頭の中にこの豆知識を加えたいなら、俺達の話を聞いてくれ。時間の無駄かもしれないけど、暇潰しにはなるぜ?」

「………」

 

 老人はまた大元帥を見据えると、更に好奇と困惑の表情を交差させつつ黙り込んだ。

 

「分かった」

 

 そして、とうとう外界の来訪者を受け入れた。

 

「ついて来るといい。話を聞こう」

「そう来なくっちゃ♪」

 

 大元帥は軽く指を弾きつつ笑顔を浮かべるが、直ぐにまた思い出したように言った。

 

「ああ、そういえば。よかったら名前を教えてもらえるかな? 『先生』」

「……よかろう」

 

 老人は最初の頃のような自信に満ち溢れた姿勢を取り戻すと、その爬虫類のような目に自惚れた光をぎらつかせた。

 

「『エクェス・ロード』……ドライ・クレージだ」

 

 仄暗い洞窟から囁くように老人――『ドライ・クレージ』のしゃがれ声が響いた。

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