KAMEN RIDER IDEA ~ヘレシー戦役~   作:ブランドマーカー

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第6話:歪んだ同盟

「エクェス・ロード?」

 

 溢れんばかりの自信とともに老人『ドライ・クレージ』が名乗ると、意外にも逸早く反応したのは大元帥の背後に立っていたスズキだった。

エクェス……次元帝国の前身である旧イデア皇国の黎明期からイデア皇帝とその国家に無比の忠誠を誓った、心身とも厳選された戦士達であり、神秘的な能力――プラーナを駆使しながらイデアール領域全体の平和と秩序維持に貢献した。

 しかし、主君である皇帝本人が皇国しいてはイデアール領域の秩序維持を妨げる脅威となった際はその更生もしくは皇位からの追放という使命も帯びた『生ける抑止力』ともいえる特殊な立場から彼らに畏怖や怪奇を抱く者も少なくなかった。そして、数十年前……当時の皇帝暗殺を実行した反逆者として粛清され、間もなくヤープ・リヒターにより旧イデア皇国は次元帝国となったのだ。

 それでも反乱分子――特に皇帝とともにエクェスを信奉する者達の中には、皇帝暗殺は彼らの仕業だったのか? 彼らの追放は陰謀だったのではないか? そもそも総統こそ陰謀を企てた張本人だったのではないか? などという者も存在したが、当然ながら真相は定かではない。

 

「いや、しかし――」

 

 そんな過去の記憶を巡らしたスズキだったが、反射的に言葉を切った。

 クレージの鋭い眼光が、言い掛けた自身を睨み据えていることに気付いたためだ。

 

「……来るのだ」

 

 クレージはスズキに重責を強いるような視線を送っていたもののしばらくすると一応気が済んだらしく、また大元帥の方を振り向きつつ繰り返した。

 間もなく老人とともに歩み出した大元帥に続いたスズキだったが、その最中に何気なく背後を振り返ると、広場の付近にはいつの間にか、先程まで一切気配のなかった原住民が小規模な群れとなって、宮殿前の自分達と待機中の連絡艇をそれぞれ見交わしながら好奇と不安の入り混じった表情を浮かべつつコソコソ話し合っていた。

――宮殿に足を踏み入れた三人はクレージを先頭にそのまま真っ直ぐ一番奥の一室に通された。

 やはり外見と同じく内部も豪奢で、加えて廊下や室内に点在していた美術品なども厳重に展示してある様子から持ち主の趣味趣向も多少混じっている可能性もあるが、歴史的にも文化的にも高価な代物のようだ。

 

「ここなら問題なく話せるだろう」

 

 そして、入室したクレージはそう言いつつ中央に置かれた二台のソファーを指差すと、一足先にその一方へ腰掛けた。

 

「そうだね」

 

 大元帥も同意すると、周囲をぐるりと見回しながら反対側のソファーにゆっくり腰掛ける。

 如何やら大元帥は展望関連の展示品に興味を抱いている様子だと、彼の後方に直立しつつスズキは思った。

 

「なら早速――」

「ワシの質問が先だ」

 

 クレージは大元帥の切り出しかけた言葉を遮ると、そのまま問い質した。

 

「さぁ聞かせてくれ。どうやってワシの攻撃を防いだのだ?」

 

 それでも大元帥は不快感を抱いた様子はなく、むしろ興味津々なクレージの姿勢に満足気な微笑を浮かべると、要望通りその話題から答え始める。

 

「いいぜ。その答えは『コイツ』だ」

 

 大元帥はそう言うと、自身とクレージの間に置かれたテーブルの上に、クレージが例の真っ黒い閃光を放出した直前から握っていた『深緑色の鉱物』をゆっくりと置いた。

 

「それは『モルド』つって、イデアールにも認知領域にも含まれない外領域の世界……フロニャルドに存在する鉱物だ。コイツにはちょっと面白い特質があってね、『プラーナを無効化するんだ』」

「プラーナを無効化するだと?」

 

 クレージはテーブルの上の鉱物を凝視しながらオウム返しに聞き返した。

 

「それは、どういう事だ?」

「プラーナとそれが干渉する対象のパワーバランスをほぼ調和させる」

 

 大元帥はそのまま説明を続ける。

 

「妨害電波が通信を妨げるように、通常は視認し難い周波のようなエネルギーを発するんだ。ちなみに原産地のフロニャルドでは、また一味違う現象が発生している。あの世界には『フロニャ力』っていう一種のオーラのようなもんがあってね、そのオーラに包まれた結界とこのエネルギーの範囲がちょうど重なることで、原住民も認識していない天然のジャマーのような状態を形成してる。おかげで、あの世界は記録してる限り、外領域の脅威に狙われたことはないし、旧イデア皇国も特段干渉しようとしなかった」

「そんな事は聞いたこともなかったぞ……」

 

 クレージは先程の怪訝な表情から一転子供のように熱心な視線をモルドへ送ったまま呟いた。

 

「なぜ、このような鉱物が生まれたのだ?」

「ぶっちゃけ、全くわからん」

 

 大元帥は両手を広げつつ答えた。

 

「今も言ったけど、そもそもフロニャルドには他の次元世界とほとんど接触がないし、当然ながらプラーナ・ユーザーは存在しない。故にこの鉱物がどんな経由からプラーナに一種の抗体を得たのか……納得できる解答はできない」

 

 彼はテーブルの上に置いたままだったモルドをそっと掴むと、謎めいた微笑を浮かべた。

 

「とは言え、俺は他所の世界の生態系なんて興味ない。今はただこの鉱物の耐性が、俺にとって都合のいいもんだってだけよ」

「……つまり、ワシの攻撃を妨げられる事か?」

 

 クレージは片眉を上げつつ脅迫的な声音でそう問い掛けたが、対する大元帥は微笑を浮かべたまま肩をすくめただけだった。

 

「俺達は総統から館の番人に任命されただろうプラーナ・ユーザーと接触するつもりだったんだ。俺達の素性諸々を説明して、理解してもらう必要があったからね」

 

 そう言いながら手の平に乗せたモルドをやや掲げた。

 

「だけど、さっきみたくプラーナ・ユーザーから身を守るってのはついで……ただの副産物だよ。俺はあれ以上にこのコレクションをより有効活用できる計画を考えてる。もっと面白おかしい計画をね♪」

「有効活用できる計画だと?」

 

 首を傾げるクレージに対し、大元帥はまた微笑みながら言った。

 

「直ぐに分かるって、クレージ先生。まぁ、その為には館の地下に存在する『ガイアメモリ』の製造施設を調査する必要があるけどね」

「ほぉ」

 

 クレージは好奇の混じった声を漏らした。

 

「なるほど。お前の目的は『地下の施設』だったか」

「ああ、如何にも。俺の目当ては館地下の製造施設……もっと正確に言えば、その施設内にあるかもしれない品物だけど」

「つまり?」

 

 大元帥はしばしクレージを見据えた後、徐に頷いた。

 

「総統が亡くなる直前、ガイアメモリ使用時に体内へ混入してしまう毒素を軽減できるツールが少数生産されたと聞いたんだ。そいつが欲しい。それと……」

 

 すると一旦間を置いてから――やや勿体ぶるように――付け加える。

 

「ちょっとした『研究成果』も、探して見つかれば」

「そのツールの類が、あの館の地下施設にあると確信しておるようだな?」

「俺の読み通りなら、必要な製造器材か、最低でも設計図は残ってると思ってる」

 

 大元帥はまた語り出した。

 

「総統が極一部の領土世界にそういう製造施設を設けた理由は、まだ実戦投入できない新技術の実験もあったからだろうな」

「それと証拠隠蔽か」

 

 途中から割って入ったクレージは鼻を鳴らした。

 

「実験台にされた連中のホルマリン漬けも、ずらりと並んでおったわ」

「地下施設に入ったことがあるのか?」

 

 すると大元帥の背後に直立していたスズキが問い掛けた。

 彼は何となくクレージがただ単純に本来の所有者を殺害したトロフィーとして、あの館の所有権を主張してるだけで、館自体には興味などないと思い込んでいた。

 

「無論だ。あの館もワシの物だと言っただろうが」

 

 スズキに対して、クレージは蔑むような視線とともに答えると、今度はそのまま大元帥を見据えた。

 

「ヘレシー大元帥。お前達は館の地下にある総統の玩具が欲しいのだろう? 館の中に出入できることはわかったはずだ」

「ああ、そうだな」

「なら何故、ワシの前にまだ座っておる。他に用があるのか?」

「御名答♪」

 

 大元帥は軽く指を鳴らした。

 

「地下施設は目的の一部だ。俺の計画実行にはアンタのような『エクェス・ロード』の協力も欲しいんだよね」

「ふん。やっと本題に入ったか」

 

 するとクレージは髭に隠れた口元をニヤッと動かし、意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「それで、エクェス・ロードであるワシに何の用だ?」

「なら本題に入ろう、クレージ先生。ちょっと聞きたいんだけど、アンタは数年前の次元帝国軍と反乱分子の最終決戦について、どれくらい把握してる?」

「だいたいの事は聞いておる」

 

 クレージは両手を組んだままソファーに身を沈めつつ答えた。

 

「三ヶ月ほど前にも、お前達のような外界からやってきた連中が、自分の事のように自慢気に語っておったからな」

 

 そう言いつつ窓から見える宮殿前の鉄扉を眺めるクレージの様子に、先程体験した危機が脳裏を過ったスズキは唾を飲み込んだ。この老人の言っている『来訪者』の末路はあまり考えたくなかった。

 

「そんなら、どうして戦力的に圧倒していた我が帝国軍が、寄せ集まりも同然だった反乱分子に大敗したと思う?」

「簡単なことだ」

 

 クレージは素っ気なく返した。

 

「お前達……総統の軍勢より、反乱分子の連中の方が優れていた。それだけだ」

「確かに。それは一理ある」

 

 大元帥は頷きつつ同意した。

 

「それに噂の仮面ライダーや名立たる戦士達の集結もあっただろうが、実は勝敗を決した理由はそこじゃない。我が軍が所謂劣勢に陥ったのは『総統が戦死した直後からだった』」

 

 大元帥は一旦言葉を切ると、後方に控えていたスズキの方を振り返った。

 

「艦長、君はあの戦場にいたんだよな? なら気付いただろ。艦隊全体に浸透していた秩序の崩壊……簡単に言うと『戦意の喪失』ってもんを」

「確かに、多少混乱は生じました」

 

 スズキは彼自身が思ったより険しい声音で答えた。

 大元帥が言いつつある意図を察したもののその内容自体が不愉快だったからだ。

 

「ですが、ただ単純に戦意の一言で説明できる事ではありません」

「そいつはどうかな?」

 

 大元帥は片眉を上げた。

 

総旗艦(ディメンション・フューラー)の墜没も。参加していた十隻のラント・ラディーレンの敗走も。全壊したスカラーシステムのコントロールを離れた――ただのガラクタとなった――ゲレート・ドローネの無力の証明も。その戦意の問題だったんじゃないか?」

「総統は戦闘指揮を執っていませんでした!」

 

 スズキは喉の奥から熱意を放出するような反論を飛ばした。

 

「直接指揮は一切です! 私はあの戦場にいたんです、大元帥!」

「分かってるぜ、スズキ艦長……だからこそだ」

 

 しかし、大元帥の赤銅色の瞳はスズキへ鋭利な視線を向けたまま語り続ける。

 その声音は幾分普段より厳しいものだった。

 

「気の毒だけど、はっきり言わせてもらう。今こそ誤魔化していた真実……目を背けていた『敗因』を真っ正面から見据える時がやって来たんだよ。君は根っ子から戦意を喪失していた。いいや、君だけじゃない、あの戦場に立っていた次元帝国軍の全員がさ。総統の意志が、君達を駆り立てていた。総統の心が、君達に秩序と能力を与えていた。総統の『プラーナ』が、君達の精神を支配してたんだ」

「それは違います!」

 

 スズキはまた強く言い返した。

 

「そんな事は有り得ません! 我々は戦い続けました、総統が亡くなった後もです!」

「ああ、そうだろよ」

 

 大元帥はゆっくりと片手を上げつつ言った。

 

「君達は戦い続けた。模範通りに実行した挙句、予想外の事態に直面して狼狽する、士官候補生のようにね」

「ふん」

 

 不意に、二人の激論を冷ややかな視線で見物していたクレージが鼻を鳴らした。

 

「それで? そいつの再現にワシを加担させたいって訳か、ヘレシー大元帥?」

 

 クレージはその冷ややかな視線に軽蔑も混ぜながら問い掛ける。

 

「ドローネのように、お前達の艦隊をより思うがまま操りたいと?」

「いいや、クレージ先生。そいつは惜しいけど、ちと違うぜ」

 

 大元帥はまた正面に座っているクレージの方へ向き直ると、軽く手を振りながら答える。

 

「俺達の艦隊はほとんど完成している。ただ総統のやったミスは『自分一人が常日頃から可能な限り帝国全体の存在と行動を支配していた点だ』。だけど、俺がアンタにやってもらいたい事は、艦隊の各艦と部隊の連携強化だけだ。それも万が一、戦局が危機的な状況に陥った時だけね。つまり、アンタは助っ人……切り札ってわけよ」

「その目的は?」

 

 クレージは大元帥とスズキをしばし交互に見据えた。

 

「単純に言えば『対策』だ」

「なんの?」

「イデアール領域の再統一。反乱分子を根絶し、間もなく訪れる『未知なる脅威』――理由のない悪意を迎え撃つ体制を整える支配かな」

「くだらん」

 

 クレージは間髪なく一蹴した。

 

「お前は支配というものを理解していないようだな、ヘレシー大元帥。一生来訪しない世界や対面した事もない連中を従えることは真の支配ではない。それこそ直接影響にならない連中を葬ることもな」

 

 そう言って一旦言葉を切ると、クレージは不意にさっと片手を振り出した。

 

「いいか? ヘレシー大元帥……これが、これこそが真の支配だ。この宮殿、この都市、この生物、この世界。ここに存在する何もかも全部が、ワシの支配するものだ」

 

 クレージの両眼にまた不気味な光が浮かんできた。

 

「ワシが指導し、ワシに逆らえば罰する。あらゆる生死がワシの支配下にある」

「俺の依頼内容もだいたい同じだよ、先生」

 

 徐に大元帥は言った。

 

「この世界だけじゃない。イデアール領域全体、更に上手くいけば次元世界の全てを、アンタの意のままにできる」

「いいや、全く違うのだ。ヘレシー大元帥」

 

 クレージは力強く首を振りながら否定した。

 

「ワシは言ったはずだ。影響にならない存在を従える事に興味はない」

「だったら興味のある範囲でやってくれればいい」

 

 大元帥は食い下がった。

 

「好きな世界で、好きな時に、好きな連中を、アンタの思うまま支配すればいい」

「言われずとも、既にやっておる」

「なら他には?」

 

 真っ正面からクレージを見据えつつ大元帥は尋ねた。

 

「他に望みはないんかい? なんだっていい。遠慮はいらないぜ?」

「望みだと?」

 

 クレージは嘲笑した。

 

「つまり、ワシが協力する条件――見返りか?」

「そうだ」

「ふん。ワシはエクェス・ロードだぞ、ヘレシー大元帥」

 

 大元帥が頷くと、一方のクレージは鼻で笑いつつ彼を睨み据えた。

 

「ワシの力は、プラーナは自分自身の為だけに使う。そして、ワシは欲しいもの、必要なもの、望んだものは一切手に入れている。分かるな? さっさとこの世界から出て行くのだ!」

 

 クレージは脅迫的な声音とともに大きく片腕を振り上げるが、それでも大元帥は座ったまま動かない。

 

「アンタの協力が必要なんだよ、クレージ先生。何が何でも……」

 

 大元帥はまた繰り返した。

 

「絶対に協力してもらう」

「さもなければ、どうするつもりだ?」

 

 クレージは両手を組みつつ嘲る。

 

「その右腕で、ワシの首を圧し折るか?」

 

 そのまま彼はスズキへ視線を移した。

 

「それとも、そこの勇敢な艦長に命じて、ワシの世界に砲撃でも行うか? お前達の欲しがっている館も巻き添えになるだろうが」

「我々の砲撃手は館など巻き込むことなく、この宮殿だけにピンポイントで砲撃可能だ。その光景を拝みたいなら――」

「まぁまぁ落着きんしゃい、艦長」

 

 片眉を上げつつ切り返したスズキに対し、大元帥はやんわりと窘めた。

 

「ウェイ……つまるところ、アンタはもう現状に満足しちまってるわけだ、クレージ先生。だけど言われれば無理もないかな。偉大なエクェスでも所詮は人間……時が過ぎれば、老いぼれて、ただ朽ち果てるだけ――」

「言葉は選んだ方がいいぞ、ヘレシー大元帥!」

 

 大元帥がやや挑発的な視線とともに口走ると、クレージは突然大声で遮りつつ凄んできた。

 

「場合によっては、お前の命だけ無駄遣いされることとなるぞ?」

「そいつは御免被るが、そもそも実行したところが、アンタにメリットはない。それこそ時間の無駄だろうベ」

 

 大元帥は素早く両手を広げた。

 

「しかし……あれだね。アンタみたく偉大なエクェス・ロードなら、さぞかし『教え子』も立派なんだろうな~?」

「なに?」

 

 クレージはしばし沈黙した。

 その様子は唐突に切り替わった話題の変化と内容にやや困惑しているようだった。

 

「教え子だと?」

「ああ、そうとも」

 

 やや慎重に聞き返すと、そんな彼の様子から心境を把握したらしい大元帥は頷きつつ微笑んだ。

 

「俺だってエクェスにはほとんど対面したことなかったけど、予備知識くらいは持ってるぜ。エクェスは高位の者が直接厳選したプラーナ・ユーザーに自身の生徒として、あらゆる教義と技術を伝授させながら旧イデア皇国に貢献してきた。当然その一員であるアンタにだっているんだろ? 正統な教義を伝授し、時には先導し、誤れば罰する生徒(プラーナ・ユーザー)が」

「ぬぅ……」

 

 しばらくするとクレージは苦々しい表情そのままに呟いた。

 

「ワシ以外のエクェスはもういない……総統が、お前達を利用し、抹殺してしまったからな」

「だ・か・ら・世界は広いんだよ、先生♪」

 

 大元帥は嬉々そうに告げた。

 

「アンタがこの世界でのんびり過ごしている間に、イデアールには新しいプラーナ・ユーザーが次々確認された。まぁ大半が俺達と敵対している反乱分子……つまりイデア皇国の連中なんだけど」

 

 そう言いつつ大元帥は肩をすくめる。

 

「特に反乱分子を一致団結させて、総統の戦死に直接関わったとも言われてる『ビャクヤ・シルト』という男は一際強力なプラーナ・ユーザーだ。仮面ライダーであるとともに、現在確認されているプラーナ・ユーザーの中じゃあ『完成したエクェスに最も近い』って噂されてる。大したもんだよ」

「……」

 

 そんな彼の話を、クレージは怪訝な表情で伺っていた。

 

「しかも、彼一人だけじゃない。その妻であるアラベラ・シュリュッセル・シルト、腹違いの妹であるシズク・フォン・モントドルフも、イデア皇国のプラーナ・ユーザーだ」

「それが、ワシとなんの関係があるのだ?」

 

 大元帥の赤銅色の瞳が煌めいた。

 

「俺が、アンタの所にそのプラーナ・ユーザー達を連れて来る」

「なんだと?」

 

 片眉を上げたクレージへ、大元帥はやや詰め寄ると囁くように言った。

 

「よーく考えてくれ、クレージ先生……アンタのような偉大なエクェス・ロードが、若いプラーナ・ユーザーを指導できるんだぜ? アンタの思いのまま、その知識と技術と教義をまんま受け継がせる後継者の誕生だ。しかも、シズク・フォン・モントドルフは訓練途中ながら兄のシルトに勝るとも劣らない潜在能力がある。また彼女の護衛を務めてるフィーリプっていう少年も俺の仕入れた情報だと、これまた優れた素質のプラーナ・ユーザーらしいぜ」

 

 次の瞬間、クレージははっと息をのむように呟いた。

 

「若いプラーナ・ユーザーが二人……?」

「最低でも一人は連れて来よう。まぁ最終的に連中をどうするかって決めるんはアンタだよ? クレージ先生。それに……」

 

 大元帥はやや溜めてから付け足した。

 

「その条件が御望みってんなら、俺達に協力する事はアンタにとってもメリットになる」

「どういう意味だ?」

「さっきも言ったように、シズク・フォン・モントドルフはシルトの妹だ。人間ってのは多かれ少なかれ感情を優先するもんだぜ? アンタは正統な教義を貫いてるエクェス・ロードだが、どんだけ呼び掛けても、おそらく彼女は周囲に認められた、何より自分も直接活躍を見知っている兄であるシルトの言葉に耳を傾けるだろう。だけどシルトも俺達にとっては標的の一人だ、当然ながら葬りたいんだが……もしも、それが成功したら?」

 

 しばし間を置きつつ続けた。

 

「イデア皇国に大打撃を与えられるだけじゃない、彼女達にとっても心身ともダメージだ。そんな時にエクェス・ロードであるアンタの存在が耳に入ったら? 彼女達はきっと藁をもすがる思いで、アンタを捜して来るだろうよ」

「…………」

 

 クレージは正面の大元帥とその奥に立っているスズキをまた交互に見据える。その髭に隠れた浅黒い顔には、不信と欲望が色濃く争っている心中の様子がしっかり表れていた。そして……。

 

「いいだろう」

 

 そう呟くと、クレージは徐に立ち上がった。如何やら欲望が勝ち残ったらしい。

 

「ヘレシー大元帥……そのプラーナ・ユーザーの身柄確保を条件に、お前達の艦隊に協力してやろう。さぁ、お前達の戦艦へ連れて行ってくれ」

「まぁ慌てなさんなって、クレージ先生」

 

 大元帥も立ち上がりながら言った。

 

「物事には順序がある。まず最初に、館の地下にあるガイアメモリ製造施設の探検だ。そこに俺の欲しい品物があるかどうか……同盟記念の熱い握手はその後に交わしても間に合うって♪」

「それもそうだな。では願うとしよう」

 

 頷いたクレージの目がぎらりと光る。

 

「互いの為にな?」

「おうよ♪」

 

 即答した大元帥は赤銅色の瞳を細めた。

 程なくして艦隊の調査部隊は館の地下――ガイアメモリ製造施設の探索に乗り出した。地下施設は予想した以上に広大で、内部の全貌把握には約六時間ほど要したが、その結果……彼らはついに大元帥の求めていた『研究成果』を見つけ出した。

 第一に試作品のガイアドライバー、第二に大量生産されたガイアメモリ、第三にそのメモリを模した『疑似装置』を……。

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