KAMEN RIDER IDEA ~ヘレシー戦役~   作:ブランドマーカー

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第7話:賢者の正体

 艦橋上部の大元帥のキャビンのゲート前に到着したスズキは一旦立ち止まり、心を落ち着かせるとともに気を引き締めると、さっと音もなく開いたゲートから室内に踏み込んだ。

 

「閣下……少々、よろしいでしょうか?」

「勿論いいぜ、艦長」

 

 スズキが入室早々そう言うと、部屋中央に設置されたプラネタリウムとともに並んでいる椅子から大元帥の声が聞こえた。

 

「まぁ入りんしゃい。ノイ・セクターに送り込んだ部隊から最新情報は入った?」

「いいえ。まだ昨日の情報以来、何も……」

 

 スズキはプラネタリウムの投影する星図を妨げないよう注意しつつ腰掛ける大元帥の傍に移動しながら答えた。

 

「よろしければ――」

「その心配はないと思うぜ、艦長」

 

 言い掛けたスズキの言葉を遮ると、大元帥は微笑んだ。

 

「アハト・セクターの件はほとんど片付けたっぽいからね。俺達はこれから最新情報を送ってくれるだろう部隊のひとつ――予想通りならリザードの隊かな――に指令を送ればいい。そうすれば、イデア皇国の友達は揃ってくれる」

「はい、閣下」

 

 スズキは小さく頷くと、頭の中に並べた次の言葉をしばし繰り返した後、意を決して、目前の大元帥に言った。

 

「閣下……不躾ですが、クレージと手を組むのはいささか危険と思うのですが。率直に申し上げますと、あの老人はとても正常には見えません」

「そうだね、艦長。君の意見は正しい……っていうか――」

 

 今度は大元帥が頷いた。

 そして、同時にスズキの意見を認めると、更にとんでもない真実を語り出した。

 

「ぶっちゃけ、あのじーちゃんはドライ・クレージ本人でもない」

「は?」

 

 スズキは大元帥の言葉の意味をやや理解できず、無意識にあんぐり開けた口から間の抜けた声を出した。

 

「なんですと? それは、どういう……?」

「ドライ・クレージはとっくの昔に死んでる。彼は一部のエクェス達とともに計画した『インサイダー・アドバンス』っていうプロジェクトの中心人物だったんだよ。まぁ、当時の旧イデア皇国で、君がそういう情報を見聞きできる地位にいたかどうか、俺は知らないけど」

「噂は聞いたことがあります」

 

 スズキはそう呟くと、眉を寄せつつ当時の記憶を巡らせた。

 

「確か『不干渉だった認知領域へ調査と進出を試みる』という大規模な計画で、一部のエクェスと急進派の評議員が推し進めたと聞いてますが、言われてみれば……詳しい進行状況や結果は一切聞いていません」

「そりゃそうさ、公言できるような事はなかったんだからね」

 

 大元帥は肩をすくめつつ言った。

 

「認知領域に到達して早々遭遇した管理組織の艦船によって撃沈され、次元の海の藻屑となった」

 

 平然と告げた大元帥をしばし見据えたまま唖然としていたスズキだったが、次第にひとつの疑問が脳裏を過り、背筋を震わせつつ恐る恐る尋ねた。

 

「なぜ……閣下はそれを御存知なのですか?」

「単純明快。撃沈したんは俺の指揮する艦船だったからだよ」

 

 すると大元帥はまた微笑を浮かべた。

 

「当時……認知領域に繁栄してた古代ベルカの崩壊後に台頭した時空管理局の提督だった俺はある人物に依頼されて、認知領域の侵略を企てる連中に対処した。だけど管理局の上層部の気に障ったっぽくて、おかげで一連の件は揉み消され、俺自身もクビになっちゃったわけよ。それから色々あって……帝国(ここ)に来た」

「しかし、だとすると……?」

 

 想像を絶する内容にスズキは乾いた喉から唾を飲み込んだ。

 

「俺達が《ヒメーレ》に招いた、あのじーちゃんはどちら様か……」

 

 そんな彼に代わり、大元帥はそのまま話を続ける。

 

「その答えも案外簡単……あのドライ・クレージは『クローン』だよ」

「クローン?」

 

 スズキのオウム返しの言葉に、大元帥は頷いた。

 

「そうさ。おそらく古代ベルカから流出した技術だ。どっかの誰かが、拾ったその技術――ちょっとアレンジを加えた可能性もあるな――を試そうと製作したんだろうよ」

「つまり、最初期の技術ですか……」

 

 何気なく呟いたものの直後に気付いたスズキは息を呑んだ。

 認知領域に非合法ながら普及している複製技術は容姿や記憶もほとんど再現可能らしいが、どちらにしても精神面などの問題から極力素体の身体年齢は低く調整される。しかし、もしも自分達の遭遇したクローンが欠陥した技術から規定以上に年齢調整された個体であり、あの著しく不安定な言動がその表れなら……。

 彼は大元帥を凝視しつつ尋ねた。

 

「なるほど……つまり、閣下。そんな危険極まりないプラーナ・ユーザーを、アナタはわざわざ私の艦に招き入れた、という事ですな?」

「正真正銘のレベリスの方が御好みだったかい?」

 

 大元帥は冷ややかに言い返した。

 

「それとも、地の底から這い上がってきた太古の消滅者か? 安心しゃい、艦長。少なくとも『あの』ドライ・クレージはどちらでもないよ」

「消滅者は兎も角……ただのレベリオ・エクェスなら、どうするか予想できます」

 

 スズキは間髪なく切り返した。

 

「クレージのする事だって十分予想できるさ。それに……そういう場合の『モルド』だし♪」

 

 請け合った大元帥はそう言いつつ懐から取り出した例の鉱物で、自身の腰掛けている椅子の肘掛を軽く叩いた。

 しかし対するスズキは顔をしかめた。

 

「ですが、それでも気に入りませんな……閣下、あの男に艦隊の連携調整を任せつつ彼自身からこの艦――我々自身の身を守ることは不可能では?」

「確かにその危険性はあるね」

 

 大元帥はあっさりと認めた。

 

「けど危険は戦時とは切っても切れない縁だよ。それでも今回の危険性は極めて低く、何より冒すだけの価値がある」

「……分かりました」

 

 そんな彼の言葉にスズキは渋々ながら頷いた。個人的には断固拒否したい件だったが、大元帥の意見と固い決意が覆せないのも事実だった。

 スズキは気を取り直すと、最初の話題に引き戻した。

 

「閣下……もうひとつ、よろしいでしょうか? 先程仰っていた部隊の連絡についてですが、私が送信しましょうか?」

「ありがとう、艦長。だけど心配いらないよ、そんくらい自分でやるって♪」

 

 大元帥はまた微笑むと、頬杖をしながら言った。

 

「こんくらいかな。他になんかあるかい?」

「いいえ、ありません。御用の時は艦橋にいますので」

 

 一礼したスズキは真横を向くと、そのまま入ってきたゲートへ歩み始める。

 

「俺達は勝てるよ、艦長」

 

 すると無言のまま遠退いていく彼の背中に大元帥は語りかけた。

 

「何も心配はいらない。今はただ目の前の……戦勝の事に専心してくれればいい」

「……分かりました」

 

 スズキは一言だけ返すと大元帥のキャビンから退室した。

 

 

 * * * * * * * * * *

 

 

 有史以来……イデアールには多種多様な次元艦船が建造されたもののラント・ラディーレン級ほど、高水準に仕上がった戦艦はほとんど存在しないだろう。

 この軍艦は次元帝国の総統ヤープ・リヒターが、自身中心の恐怖支配をより強固にすべく推し進めた軍事計画の一環だった。しかし、イデアール領域の治安強化という偽りの存在意義から生み出された、その楔型の巨体も、無数の武装も、潤沢な設備も、当然ながらイデアール全体の秩序をほとんど永久に変異させてしまったのだ。しかし……そんな邪悪な帝国の生み出した物騒な権威が、彼らに反旗を翻した者達の反撃と防衛――イデアールの秩序維持に転用されているという実態は、これまた皮肉とも奇妙ともいえる現状だった。

 シルトとアラベラは数年前にその歪んだ使命の手先から解放されたラント・ラディーレン《マーロン》の格納庫に向かっていた。イデア皇帝の代理として、先日奪還されたばかりのノイ・セクターを視察する為である。

 絶え間なく行き来する乗組員を避けつつ細長い通路を突き抜けると、たどり着いた格納庫の一角には、既に灰色の連絡艇がタラップを降ろしたまま待機しており、その機体付近にはメンバーの一騎とコウキがそれぞれ姿勢を取って、シルト達を待っていた。今回二人は《マーロン》に留守番なのだが、如何やら送り迎えしようと足を運んでくれたらしい。

 

「けどよー、どーして俺が留守番なんだよ?」

 

 しかし、出発間近の二人に寄せられた第一声は走り込んできたコウキの不貞腐れた言葉だった。この若者はどうも二人とともに行動できない――というより、自身が留守番側になったことが不満のようだ。

 

「せっかくシャバの空気が吸えるって思ったのによー」

「我慢してくれコウキ。そもそも、お前の期待してるようなイベントはないよ。今回はただの視察……それも御忍びのだ」

「第一、お前ははしゃぐから一緒だと逆に目立つ」

「姐御まで、そりゃないぜ!?」

 

 苦笑しつつシルトがたしなめ、そこにアラベラが悪戯っぽく付け加えると、コウキは不満だだ漏れのまま項垂れた。

 するとシルトは嘆くコウキと打って変わり、今度は黙ったまま自分達を眺めていた一騎へ視線を移す。

 

「留守は頼んだぜ」

「任せてくれ。それと、二人によろしく」

「おう」

「って一騎! テメェなに抜け駆けしてんだよっ!?」

 

 すると邪険にされた腹いせか、はたまた犬猿の仲故の習性か、項垂れていたはずのコウキは短いながら確実な意思疎通を遂げているシルトと一騎の間に割って入る。

 

「ああ……すまない。てっきり独り言と思っていた。君は小声でも騒音レベルだからな」

「あのな~っ!」

 

 しかし、一方の一騎もこれまた兆発同然の冷ややかな返答を送ると、毎度の如くコウキが歯軋りしつつ凄んでくる。

 

「あーあー、まただよ」

「ふふふ……仕方ない。行こう、ビャクヤ。私達はおじゃまらしい」

「同感だな」

 

 そんな恒例の口喧嘩を勃発された若者二人を眺めていると、一緒に微笑んでいたアラベラが軽く手を引きつつ出発を促した為、シルトは降りてきたタラップから連絡艇の内部へ乗り込んだ。

 

 

 * * * * * * * * * *

 

 

 認知領域……時空管理局の膝元といえる次元の海を一隻の美しい次元船(ディメンション・トループ)は漂うように航行していた。

 

「そしたら、森の中からニョロニョロ触手な魔物が出てきて、原住民達の連合軍にハレ――」

〈リョーマ……〉

 

 そんな小柄ながら優雅でもある船内の操縦室と後部ハッチの丁度中間に位置する居住空間で、専用の長椅子に腰掛けながら『リョーマ・クリークゼーア』が――自身の言葉を表現するように――両手の指をわらわら動かしつつ熱く語っていると、デスク上の通信装置に投影された青年のホログラムがやや呆れ気味に横槍を入れた。

 

〈連絡が遅れてしまった私も悪いが、そろそろ本題に入ってくれないか?〉

 

 胸元に『総督』の階級章と多数の勲章が見受けられる灰緑色の制服をきっちり着込んだ長身で、適度に切り揃った黄緑色の髪とほとんど皺のない顔は一応若々しいものの神妙な表情や沈着な声音が年齢以上に大人びた印象を与える。

 

「やーやーやー、分かってる。大丈夫……悪かったよ。中立宣言した君の連合が大忙しって事はよくね。実はちょっと聞きたい事があったんだ」

〈なんだ?〉

 

 そんな次元帝国の総督(グロス・バン)だった青年……王森由徳(おうもりよしとく)のホログラムに、クリークゼーアは飄々とした動作で一応謝罪すると、そのまま問い返した由徳へ語り出した。

 

「実は五日くらい前まで休暇を取ってたんだよ~、フロニャルドで。そしたら……空から《ラント・ラディーレン》が一隻やって来たんだ」

〈なんだと?〉

「どこの所属だが、心当たりあるかな?」

〈…………〉

 

 問い掛けるクリークゼーアから由徳のホログラムは一旦視線を外しつつ記憶を巡らすと、徐に呟いた。

 

〈それは……おそらく《ヒメーレ》だ〉

「どこの所属だったの?」

〈総統直属の艦隊で、副旗艦を務めたラント・ラディーレンだ。総統の戦死後は一部の艦船と潜伏したまま行方不明だったが、二年近く前から辺境領域やザンギャック帝国領で、突然行動を活発化させた〉

「ザンギャックのテリトリーで?」

 

 今度はクリークゼーアの方が由徳のホログラムから視線を外し、しばし顎に手を当てつつ思考する。そして閃いたように顔を上げると、また彼の方へ振り向いて、小さく口走った。

 

「何か入手した――いや、それだけじゃない、誰かが来たんだ」

〈流石だな〉

 

 由徳は頷いた。

 

〈実は最近……正確には目撃情報と軍事活動が活発化した時期から、あの艦に辺境方面から新しい指揮官が合流したらしいと噂が広まっててな〉

「君も知らない指揮官なのかい?」

〈ああ、噂程度なら聞いてたんだが、当時は信憑性もほとんどない文字通りの噂話だったからな。しかし……そうか、おかげで合点がいった〉

「何かあったようだね」

〈その噂と《ヒメーレ》の戦勝がイデア皇国に対する反攻作戦の狼煙と思っている例の中央委員会や他の残存勢力が団結し始めた。おかげで、毎日のように連中から呼びかけの連絡が入ってくる……〉

「それは御愁傷様ね」

 

 溜息交じりにそう答えた由徳へ、クリークゼーアは苦笑しつつ肩をすくめた。

 

「まっ、それはそうと……その《ヒメーレ》ってラント・ラディーレンの今現在どこ行ってるか、分かるかい?」

〈最新情報は入ってないが、お前の目撃した通りならフロニャルドに近い辺境領域だと思うが?〉

「あの付近の辺境世界……まさか」

〈どうかしたか?〉

 

 クリークゼーアは一瞬怪訝な表情を浮かべるものの気付いた由徳から呼び掛けられると、軽く首を振りつつはぐらかした。

 

「あっ、いや……何でもない。だけど、ちょっとだけ気になるね」

〈調べるつもりか?〉

「止めるかい、総督殿? フッフッフッ♪」

 

 どうやら戦友の思惑に気付いたらしく、由徳は鋭い警告を混ぜた視線を送るが、対するクリークゼーアは微塵も臆することなく長椅子へ寄りかかったまま無邪気な笑顔を浮かべる。

 しばし両者の間に沈黙が流れたが……。

 

〈……はぁ、仕方ない〉

 

 間もなく先に根負けした由徳が深い溜息とともに呟いた。

 当然勝者の方は笑顔そのままのガッツポーズを忘れず、その余韻に浸りつつ不満気な総督へ耳を傾ける。

 

「……わかった。お前に指図する権利はそもそも俺にはない、好きにしてくれ。だが極力素性は漏れないよう頼むぞ〉

「その点は理解してますともハッハッハッ! なーら善は急げだね。早速調査するとしましょう♪」

 

 歓喜の笑い声とともにクリークゼーアは勢いよく長椅子から立ち上がると、パープルカラーのレザージャケットを羽織り、同色のスラックスの上に穿いている黄色いスカートのシワをさっと伸ばした。

 

〈ともあれ必要な事があれば連絡してくれ、いつでも協力する〉

「有り難いけど、そこまで迷惑はかけないよ。それに……こっからでも分かるようなヒドイ顔だよ? 弟君にはちゃんと連絡してる?」

 

 自身の言葉から切り返された戦友の唐突な質問に、由徳はしばし躊躇ったものの諦めたような表情を浮かべつつ口を開いた。

 

〈いや……正直最近はあまりな。なるべく顔だけでも合わせようと思ってるんだが、中々会話が続かなくてな。本人も子供じゃないと気遣ってくれてるんだが……〉

「年齢なんて関係ないよ。触れ合える家族がいるなら大切にしないとね」

〈だが幸い、アイツは俺よりも明るく元気な子だ。きっと友人には恵まれてる。それでも……そうだな努力してみよう。悪いな〉

「気にしない友よ。じゃあね♪」

 

 最後にそんな短い言葉を交わすと、通信装置の上に投影された由徳のホログラムが溶け切った蝋燭の灯のように消失する。そして、薄闇に包まれた空間に残っていたクリークゼーアはそのまま操縦室に向かうと、特等席である副操縦席に腰掛けつつ操縦を一任している『ピロート=フレーム』という操縦専門の人型ドローネへ注文した。

 

「針路を変えて。イデアール領域へ行きたいの」

『ラジャー』

「なるべく急いで。私の失敗作が、関わるかもしれないから……」

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