牙狼《GARO》~Fate/kaleid liner~【翔】 作:ジュンチェ
……もし、たったひとつ何でも願いが叶うと言うのなら…
……たったひとつの過ちを消し去りたい。
………それが、駄目なら償いを…
………何千何万の幸せより、たったひとつの償いの機会が欲しい…
EP『~火~』
「!」
…闇の中、カッと見開いた碧の瞳。いけない、夢うつつになっていたと剛は顔をこすると辺りを見渡した。今は蝙蝠のように逆さ吊りになりながら、鉄骨剥き出しのビルに息を潜めている…。すでに時は深夜といってもクラスカードを狙って魔術師たちが追ってくるかもしれない…そうなれば厄介だ。闇夜の影は人目を曇らせ、影に生きる者たちが活発になる時間である。魔術師もそうだが、魔戒騎士や魔獣もそう…この世界には後者たちは存在しない『はず』であるが、わざわざ相手の動きやすい時間帯に自ら動くこともないだろう。
『…どうした?』
「いや……。ゼルヴァ、何かかわったところはないか?」
かといって、何も備えをしていないわけではない。ゼルヴァからは幾本もの糸が延ばされ、電柱や木の枝等々にひっかけてある。先端には目玉のような魔導具がギョロギョロと睨みをきかせ、コバエ一匹とも見落とすまいとしていた。また、これらの得られる視界の情報はゼルヴァが管理している。
『特には無……む?』
「どうした?」
『南……小娘がひとり。銀の髪…紅い瞳のまだ幼い乳飲み子より歳を少し重ねた程の……』
その中のひとつの眼が人気の無い道を駆けていく少女を映していた。どれ…と剛も念じて視界を共有すると確かに小学生くらいの少女が見える。だが、ゼルヴァはそこまで気を留めようしない…
『習い事か何かの帰りだろう。気にしすぎか……』
「いや、妙だ。それにしちゃあ、時間が遅すぎるし…何より身なりが軽すぎる。あと、なんか周りにいるように見えるんだが……」
一方、剛は少女の軽装の具合に疑問を抱く。習い事なら帰ってくるにしても、あまりにも遅すぎる時間帯で小綺麗な少女からは夜遊びを覚えているようにも見えない。ましてや、習い事ならそれなりになんであろうと導具や持ち物が重なるはず……
「…よし、追うぞゼルヴァ。どうも、じっとしているのも難だしな。」
ここで、自分の直感に従うことにした剛。糸を巻き取り、片付けると鉄骨から飛び降りて音もなく静かに去っていく…。
その様子を……
(なんで、アイツがこんなところに!?まさか……)
物陰から凛が見ていたとも気がつかずに……
☆★ ☆★
「やられましたわね…。あの男、またしても…!」
時を同じくしてルヴィアと美遊と行動を共にする流牙たち。ルヴィアは再び剛に出し抜かれたことに、苛立っていた………つまり、クラスカードを持っていかれたことに気がついたのである。自らの不甲斐なさと謎の男に対して歯噛みをする彼女の傍らで………流牙に歩み寄っていく美遊。
「あの………」
「ん?」
「…その、申し訳ありません。命の恩人なのに、疑うどころかあんな真似を………」
申し訳ないと頭を下げる少女は…流牙たちにホラーに襲われていたところを助けられていたことを思い出していた…。あの時、もし彼等が駆けつけなかったら手も足も出ず自分は喰い殺されていたろう。
本来なら、いくら感謝の言葉を述べても足らぬ恩人であるが…あまつさえ、自分は刃を向けてしまった。恩知らず…否、仇で返すと罵られても仕方ない。
そして、スゥ…と伸ばされた男の手に思わず、目を瞑り………
「大丈夫。俺達は気にしてないから…謝らないで。」
「!」
次の瞬間、ボフッとのせられた掌は優しくその頭をなでる…。思いがけない反応に美遊は戸惑うも流牙は笑って答えた。
「美遊ちゃん、俺達は俺達の使命を果たしただけだ。だから、気にすることは無いんだよ。」
「でも………」
「こっちこそ、ごめん。早く助けられなくて…痛かったでしょ?」
「…」
それどころか………逆に謝り返したのだ。まだあどけない少女には理解が追いつかない……。何故だ?何故に自分が謝られなくてはならない?落ち度は明らかに自分にあるというのに………
「凛からの連絡ですわ。あの赤騎士を見つけたようです。ミスター道外、ミスリアン…ご同行を御願いできますか?」
「!」
その時、ルヴィアが凛からの一報を告げる。流牙はリアンに視線をおくり、了解を得るとすぐに身を翻し…ルヴィアの後へと迷わず続く……
その背にずっと自分でもどう表現したら良いか解らない眼差しを美遊は自分が向けていたことを知らない。
(道外流牙……あなたは…)
☆★ ☆★ ☆★
Sideとある少女…
取り敢えず、今日は色々なことがあった…。
小学生5年で、それなりに楽しい毎日の日常が続いてて得に不満は無かったし……担任の藤村先生に廊下を走って怒鳴られたくらいしか今日は目立つことが無く、ただ『いつもどおり』に1日が終わるはずだった…。
でも、私の時間の歯車は…突然、自分でも驚くぐらいに狂いはじめた。
お兄ちゃんとの帰り道で出逢った聞いたことのない街の場所を訊いてきた変な黒いコートの人にはじまり……部屋におかしな『自称・魔法の杖』が入ってきて口車と勢いに乗せられて『魔法少女』とかアニメとか漫画でしか見るようなことがないものにされて……
そして、今…私は………
……絶賛、命の危機なのです。
・三人称Side
夜………学校の校庭。現代の怪談でもあるように、昼間の子供たちの弾ける明るさ溢れていたグラウンドは闇の静けさと深さに覆われて確かに不気味さを醸し出していた…。廊下だって、不自然に響くような気がするし無いはずの視線を感じるような気すらする。でも、そんなものなんて幻に過ぎない…存在なんてするはずがない。
……でも、今は違う。
少女は目の前から迫り来る『恐怖』に身を震わせていた……
確かに、地に足をつけ…妖艶なボディラインをまるで舌なめずりする蛇のように揺らしてゆっくりと歩いてくる…… 紫の長くしなやかな髪が揺れてアイマスクから覗く禍々しい瞳が自分を見据えている。
………嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
まだ死にたくない。
『おや、これはこれはよく見ると中々の好みな……。食べてしまうのは惜しいくらいですね。』
感情の起伏が少ない細波のような女性の声。そんな声をだす口が…今、自分の肉を…魂を…喰らわんとしている。
『イリヤさん、しっかり!!立たなくては本当に死んでしまいますよ!?』
右手の星の杖が必死に喚いているが………何を言う?こんなことになったのはお前のせいだ。それに、神経が凍りついたように頭から流れる『逃げろっ!』という命令を受け付けない。いや、恐ろしさが脚のコントロールを奪っている…自らが何のために存在するかを忘れたように………
『取り敢えず……肉体だけ石にして魂を頂くのも悪くない。さて、どうしましょうか?』
恐怖は笑わない…ただ、起伏なく楽しんでいる。肉の焼け具合をどうするか……そんな調子で。
少女は笑わない…ただ、抑えられない根源的なが身を揺さぶる。今日、自分は今…死ぬと悟った……そんな調子で。
「誰か………誰か………」
………助け…
斬ッ…
「え…」
『…?』
なんだ?不意に裂けた異形の右肩…。赤さなど混じっていないドス黒い血が滲み出し、邪気を放つ。 そして、傷口を撫でるより速く舞い上がるつむじ風のようにグイグイッ!!と細いナニカが魔の血肉を縛りあげていく…!
『…なっ!?』
「どうだい、ホラーサーヴァントさん?ソウルメタルの糸は効くだろう?」
『ガァッッ!?………ナサリシチ!!!』
いつのまにいたのだろう…赤い衣をなびかせて立ち、破邪の糸を手繰る剛。そして、本来はこの世界にいるはずの無い存在である彼に異形は驚きを隠せない。
「ゼルヴァ!コイツのクラスは…?」
『【騎乗兵ーRIDERー】だ。宝具を使われたら手に負えん…一気にカタをつけろ!』
「りょーかい。」
さて、敵の名前もわかったところでトドメといきますか。異形…ライダーも本気と強引に糸をすり抜けると空中に舞い上がり、肉体かは鬣のように無数の邪悪な蛇の触手を展開し剛に襲いかかる姿はメドゥーサさながらだ…でも、この程度で怯ませることなど出来るはずもない。
「あばよ。」
ズブッ!!次の瞬間、ライダーの眉間には刃が突き刺さり…後頭部から突き抜けていた。そこから、刃が降り下ろされ…肉体は真っ二つに捌かれて爆発。残った邪気が魔戒剣の刃へ吸い込まれていく………
それから、ヒラヒラと落ちてくる彼女が取り込んでいたカード………
「クラスカード…3枚目だな。」
絵柄は昔の戦車に載る騎士…つまり、ライダーというわけ。流牙たちのランサーを加えると剛の手持ちカードは『3枚』になる。
さてと…まず、それは良いとして。
「………で?お前さんは魔術師か…お嬢ちゃん?」
「!」
さっきの美遊と同様と思われる少女…色もピンクに白と違っているが持つ杖も明らかに先のサファイアと同型。言うなれば魔法少女…というやつなのだろうが、あえて彼は『魔術師』なのか?と問う…
「………あ……ぁ…」
「…まあ、真っ当な魔術師だったらこんなへっぽこなわけ無いか。立てるか?」
取り敢えず、怯える彼女に手を貸して立ち上がらせ顔をまじまじと眺める…。
銀の髪に透き通るような白い肌…紅い瞳………凛々しくも可愛らしい顔立ちは人形のよう。思わず目を奪われ…………
…いや、この顔立ちと面影は前に何処かで…………
「…」
「あの……」
「あ、いや…何でもない。で、名前は?」
「い、イリヤです。イリヤスフィール・フォン・アインツヴェルン……」
長い名前だな……取り敢えず、イリヤで良いだろう。こっちはさして脅威になるようには見受けられない…問題は………
「おい、いつまで玩具のふりしてやがる?」
『ギグッ!?』
この少女の手におさまってるステッキ……では無いモノ。これは先のサファイアと同型だ…恐らくは魔術の意味合いを持つアイテム、文字どおりの魔法の杖といったところか。星のパーツ部分を握りしめれば、生きているように悲鳴をあげる……うむ、間違いない。
「こ、これはルビーだよ!!別に、悪い魔法の杖じゃな…いか……ら…………多分。」
『イリヤさん、何で疑問系で語尾が弱くなるんですか!?この清くて正しい人畜無害の優秀でパーフェクトなルビーちゃん…ッて、痛いいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだい痛いっっ!?!?割りと、本気で痛い!?』
イリヤが主かどうかは謎だがこの様子ならもう少しシメあげながら話しても大丈夫だろう。直感的にコイツは下手に動かさないで話を進めていくべきだろう。
「さて、このお喋り杖はまあ良い……取り敢えず、あれだ…」
まず、この場からして気になったこと… 最も剛が異様に思ったことを問う。
「お前ら、なんで『サーヴァントホラー』と戦っていたんだ?」
「『は?』」
「…はい?」
…アンサー、戸惑い。いやいや、何故に戸惑うことがある?少女も杖もキョトンとして…逆にこっちも気が抜けてしまいそうになった。すると、見かねたルビーが恐る恐る剛に問いを返す…
『あのミスター…貴方が言っているのは【黒化英霊】のことでしょうか?私たちはあれらのことをそう呼んでいます。』
「英霊?……やはり、か。だが、あれはそんな讃えられる存在じゃねぇぞ。魔界のバケモノが力と姿を借りてるに過ぎないぜ。だからたといって並大抵の魔術師がどうこうできる奴らじゃないが……」
ふむふむ、あまり当たって欲しくない方向なのは間違いないが予想通り。剛はふぅ……と呆れたように溜め息をつくと懐から魔導筆を取り出してイリヤを見据える。
「んじゃ、最後の質問だ。お嬢ちゃんは…魔術師でもなんでもない『一般人』だな?」
「……は、はい…」
「それなら、今夜のことは悪い夢だ。明日の朝になったら忘れる…んで、呆れるくらい平和な日常が待ってるんだ。だから、ちょっとじっとしてろ。」
彼が行おうとしていることはどのような経緯があれど自分たちのような人間のいる世界から退去させること……即ち、記憶の消去である。それがこの娘にとっては幸せなはず…故の剛の計らいであった。
しかし、ルビーは焦る…
(ま、まずいですよ…!これ、記憶を弄る能力なら私の努力がパーッ!?そして、ルビーちゃんはこのむさいオジサンの手に!?)
……違う、そんなの自分の描くマスコットライフじゃない!加えて、逸材であるイリヤを失うわけには…
「…」
……あれ?
急に動きが止まったのですが……
「やれやれ、まだ何か用があるのかい…黄金騎士サマ?」
剛の背後…そこに、いつの間にいたのか……風になびく戦旗のように立つ男。
真っ直ぐな瞳で、道外流牙が立っていた……。
To be continued……
こちらの更新ではいつ以来かぶりですね。ちょくちょくは書いていたんですが、他のを優先してしまいがちになってしまいましてね…(汗)
誤字修正しながら、次回の更新をしたいと思います。
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感想おまちしてます。