日浦の口調があっているのかが不安です。
スピーチが始まる前特有の静けさの中、石原が目を泳がせ、手を震わせながらスピーチを始めた。
「えーと。ぼ、僕は通学路でこの、カメラを見つけ..見つけました。それで、電源が付いていたので中身を見たら...その、凄く怖いものが写ってました。えっと....。」
「.......」
石原は怪物の事をどう説明すればいいのかわからないらしく、困った顔をしてチヒロを見ていた。
チヒロはそれを見て、石原のフォローを始めた。
「あ、もしかしてそれ見た事あるかも。見して。」
その言葉でクラスの注目が一気にチヒロに集まった。
そして石原からカメラを受け取った後、しばらくカメラの中の写真を見るふりをして、口を開く。
「うん、これ見たことある。」
チヒロはその言葉でクラスの写真への関心が高まった事を確認した後、「気のせいかもしれない」といってからカメラを近くの席の人に渡した。
カメラの周りには多くの生徒が集まり、教師が席に戻るように言うがほぼ全員が写真を見て興奮していて誰も聞いていないようだった。
それを見ていたチヒロに隣の席の日浦が話しかけてきた。
「林の中にあんなのがいるって怖いね...」
「そうだね。」
特に感情を込めず答える。このスピーチの目的は知名度を上げること、だから、
(ただ噂として、恐怖心を煽るだけでいい。)
「もし見つかったらどうなるのかな...」
そんな事を言う日浦に、
「死ぬよ。」
容赦なく、その言葉を投げつけた。
「え...」
やはり「死ぬ」という言葉はまだ小学生の日浦には刺激が大きかったらしく少しの間口を開けて固まった。
そしてさらに追い討ちをかけようと次の言葉を探し、口を開く。
しかし言葉を発する前に教師が騒ぎを中断させてしまい、そうはならなかった。
教師は怪物が存在するならもっとニュースになっているはずだ。だからそんな物はいない。と言っていたが、それだけでその噂を抑えられるはずもなかった。
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朝の会が終わった後、石原は大勢の男子に囲まれて質問攻めにあっていた。しかし石原はもう怪物の事は話したくないと言って何処かへいってしまった。
(まあこれでもいいんだけどね...)
写真が入ったカメラはどこか別のクラスへ移動した。
「さっきの、し、しぬって...ほ、本当?」
クラス全体が落ち着かない雰囲気の中、先ほどのチヒロの言葉で固まっていた日浦が冷や汗を浮かべながら小声で聞いてきた。
「そうだよ。ホントは行方不明なだけなんだけど。でもさ、ねえ?」
目が笑っていない笑顔でそう答えた。
「え、あ、」
日浦は言葉を濁らせた。
(うまくいってる。話が町中に広がれば。雨取が襲われることもなくなる。)
もし、自分が怪物を倒す事ができる力を持たなかったのならば、ああなっていたのではないかと、出会った時に思った。だから守る。自然と笑みが浮かんだ。
しかし、
「あ!ね、ねえ、あのカメラってチヒロくんが石原くんに渡したやつだよね?」
「え?」
日浦は露骨に話を変えた。これは予想外だった。
しかもチヒロが石原にカメラを渡すところを見ていたらしく、それについて聞いてきた。
だが幸い周りには聞こえていなかったらしく、誰もそれに反応しなかった。
(見られてたのか...)
チヒロは見られていた事に動揺し、話を逸らされた事で落胆したが、それらをを悟られないように、一呼吸おいてから口を開く。
「そうだよ。遠くからカメラで撮った。誰にも言うなよ。」
(写真を仕組んだ事がバレたら、怪物の存在を疑われるかも、いや、絶対に疑われる。)チヒロに焦りが広がる。
いつだったか、何を思って誰かに怪物の存在を教えた事があった。母親であったような気もする。そいつは、怪物の事を信じず、逆に自分の頭がおかしいのではないかと疑われた。だから証拠が必要なのだ。
「でも、近いところで撮ってなかった?」
(....?)
チヒロは日浦の質問の意図がわからなかった。てっきりスピーチをした理由などを問いただされるかと思ったのだが違った。
だが証拠が疑われる心配が無くなったので、日浦が納得するようその質問に答えた。
「...カメラの機能で何秒後とかにシャッターを切るやつあるでしょ。」
「あー!そうだね!うん。」
(....ここまで混乱する必要あるのか?)
「死ぬ」という言葉だけで。普通は。
チヒロは自分の特殊さを感じて憂鬱な気分になった。
(ああでも、少しやり過ぎたかな...)
それと同時に、日浦に少し申し訳なく思った。
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中休み、チヒロは小学生らしく、他の生徒と校庭で遊ぶ。正確には同学年複数人と6年生一人。
いくら死ぬ直前の経験をしたことがあっても、やはり小学生である。
「遅れてごめん。」
「鋼さん遅ーい!」
遅いとチヒロの同級生に文句を言われている6年生の名前は、村上 鋼。眠ればどんな事でも覚える事が出来るという人物。あれの量もなかなか多い。
「6年は一番上の階だし仕方ないだろ。ゴールとボール取っときました。早く始めましょう。」
「だな。今日はどっちに入ればいい?」
「あっちチームです。」
チヒロは村上には心を開き、普段の無表情を崩して子供らしい表情で会話する。
遊ぶのはサッカーで、いつもジャンケンでどっちのチームに村上が入るかを決めている。村上が入ったチームはハンデとして人数が少し減るが、いつも勝率は五分五分となっている。
今回、チヒロは村上と同じチームで、5人対9人となった。
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そして10分ほどして予鈴が鳴り、サッカーを終了した。今回は村上がいるチームが勝った。
チヒロがボールを片付た後、校舎に向かって歩きながら雨取の事を考えていたら、村上に話しかけられた。
「なあ、廊下で林に怪物?がいるとかいう噂を聞いたんだが、チヒロは何か知ってるか?」
「...知ってますよ。」
予想以上の噂の広がり具合に自然と笑みが浮かんだ。そして村上にはやはり死んでほしくないので忠告をするために言葉を続ける。
「俺のクラスであったスピーチでその話題が出たんです。あ、もしその怪物にあったらすぐに逃げたほうがいいですよ?死んじゃいますから。」
「?やけに詳しいな。」
疑問を浮かべる村上にチヒロは笑みを浮かべて答える。
「秘密です。」
そう言った後すぐ、教室へと向かった。村上が何か言っていた気がしたが、それは聞かなかった。
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それからしばらくすると、怪物の写真と同時に噂もそれなりに広がったのか林に近づく者は少なくなった。
それでも一部の人間が肝試しや、カツアゲをするために林に入ったりして少しずつ被害を出していた。そしてそれが原因で噂も増えていった。
そして、児童の保護者達は、通学路をパトロールするようになった。
ここまでは予定通り、うまくいっている。
学校の方では何故か日浦と仲が良くなった。石原のスピーチの時の会話が原因だろうか。
日浦を見ていると楽しいし、自然と笑みが浮かぶが、少し胸が苦しくなる。幸せそうで羨ましいから、いや、妬んでいるからかもしれない。
最近石原に何故だか心配されている気もする。正直鬱陶しい。
雨取の事はあれ以降もう林で見ていない。稀に林の方を見つめているところを見るが、林には入っていないはずだ。
それに年上に男、おそらく兄と一緒にいるところも見た。万が一の場合あいつが身代わりになるはずだ。
その次の日の深夜、林に面した道路で、自動車の爆発事故が発生した。
読んでくださりありがとうございました。
次回、シリアス(の予定)です。
次回の話が詰まったらおまけに日浦との会話や、石原との会話の話を書くかもしれないです。