実はこの話結構前に出来上がってたのですが、投稿前の見直しをしていて名前に違和感を感じてずっと投稿を迷ってました。
今回2000文字くらいです。
建物の中に入って最初に目に入ったのは、まるで家の玄関のような空間だった。とてもあの怪物、トリオン兵の事を知っている様な組織の基地だとは思えない。
「...家?」
第一印象はそれだった。
「言ったろ、生活してるって。ボーダーへようこそ」
靴を脱ごうとしたところで、自分の今の状態に気がついた。体全体に煤が付いていて、服は黒く焦げていて、破片が刺さった部分は破け、口から下が所々血で赤く染まっている。
(こりゃひどい)
「あー。風呂ってどこに...」
瞬間、迅の表情が少し動いた気がした。しかしその後の会話では特に何も怪しい部分は見られず、どこか嬉しそうにしているようにも感じた。
それでも目的はわからないが、その中に悪意は感じられなかったので従うことにした。
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(....ジン ユウイチ...)
あの迅という男は、少年が親を殺したいと思っている事を知っても何も顔色を変える事はなかった。初めから知っていたのではないかという気さえしてくる。
しかし、今まで会った事がないからそれではジンは少年の事を知っていて、放置していた事になる。なぜ今頃になって最も都合の悪い場面で現れたのだろう。悪意は感じないので敵だとは思っていない。しかしあまりにも不透明で、考えれば考えるほど不信感だけが募っていった。
(...直接聞くしかないか)
考えても仕方がないと諦め、風呂を出た。そこには迅が待ち構えていたかのように立っていた。
「ジンさん...」
目的は何かと、隠していることは何かと聞こうとした。
「眠いかもしれないけど、少し話があるんだ」
「...はい」
しかし、少年が質問をしようと口を開く前に、迅は話を始める。それはまるでこちらに話させないようにしているかの様で、少年には何かを隠そうとしているようにしか見えない。
連れて行かれたのはキッチンとリビングがある部屋だった。
「さて、と。名前捨てたんだったよね」
迅がそう言いながらキッチンからホットミルクの入ったコップを二つ持ってきて、向かい側に腰掛けた。
「はい。」
ホットミルクの片方を受け取って答えた。
「...今までの生活に、心残りとかない?」
迅は、少し様子を伺いながらその質問をした。少年にはそれがその自分を傷つけないようにしている行為に見えた。それが気に食わなかった。
「...そんな話をするために俺をここに連れてきたんですか?」
心残りがないわけではない。最後の頃の学校は楽しかったし、もう一度くらい雨取にも会いたいと思っている。しかし、今するべき事とは違う。
「おっと悪い、少し気になっただけだ。本題に入ろう」
迅はホットミルクを一口飲み、続けた。
「君がここで生活する事も考えると、新しい名前が必要だと思うんだ。」
「名前ですか」
「実はもう決めてあるんだ。流れるって字に、次。で、流次。苗字はこの組織の幹部の誰かから取ってくれ、養子って事にする予定だから」
迅は少年の目から目を離さずに言い切った。
(流次...流れるに、次)
「...覚えました。」
ホットミルクを飲みながら、与えられた名前と迅について考えを巡らせた。
直接質問をしたいが、やはり親切にしてくれた人にそうするのは気が引けて、少し回り道をして聞く事にした。
「俺はこれからどうしてればいいですか?」
「流次は、何がしたい?」
「特に何も———」
何もない。迅質問にそう答えようとした瞬間、見たことがない筈の男と若い女の顔が頭に浮かんだ。そして漠然とした何かが湧き上がってきた。
しかし何も無いと否定しようと口を開いても、声は出せなかった。思った事を言おうとしても、その目的を表す事のできる言葉は見つけられなかった。
だから流次は類似した目的を言った。
「——いや、そうですね、トリオン兵の事とか、もっとよく知りたいです」
動揺している流次をよそに、迅が主導権を握って話は進む。
「わかった。じゃあ早速明日から、トリガーとトリオンについて教えるよ」
(トリガー...トリオン...)
トリガーとトリオンという言葉は、とても懐かしい響きがした。
「ちなみに」
迅がポケットから林で出会った時に持っていたものを出した。
「これがトリガー。それで、君が普段操ってるのがトリオンだ」
トリオンは心臓の横の見えない内臓によって作り出されるもので、トリガーはそれを操るものだと迅は言った。
それから流次は話に夢中になっていたが、迅のペースに飲まれている事に気がついた。
(これじゃあずっと聞けないままだ)
流次は立ち上がって疑問を投げかけた。
「あの、俺に何を隠して——」
言い終わる前に唐突に視界が歪んで、体が横になった。意識も朦朧とし、ただ自分が眠りかけているということだけがわかった。
流次は意識を失う直前に先程頭に浮かんだ光景の事を考えた。実際あの光景を見たのは初めてでは無かった。トリオン兵を初めて見た時や、死にかけの時など何度も頭に浮かんだ光景だった。毎回何か口を動かしているが、それを聞き取ることは出来ない。流次は何年かぶりに安らかな気持ちで眠りに落ちた。
迅 悠一という青年は、目の前で寝ている少年を見て安堵の息を吐いた。目の前の人間の数多くあるifの未来を見る事のできる
まず、チヒロが人を本気で殺そうとした事がある事。次に人を殺していない事が最低条件だった。前者がなければ、チヒロは決断力を持たなくて、ボーダーに入るのを迷った。後者がなければ、チヒロはどんな形であれ人を殺してしまった事による罪悪感でボーダーから去る未来があった。
考慮はしていなかったが、仲のいい人がいるという事もいい方向に働いた。
(これからは少し楽になりそうだな....)
迅には流次がこれからボーダーに協力する未来が見えていた。
名前はspecの主題歌の波の行く先をイメージしました。