境界線上のホライゾン・シャッフルズ!(マスチモ版) 作:ボストーク
皆様、おはようございます。
今回のエピソードからいよいよ作者イチオシのあの娘が登場します。
ある意味、これ以上ないほど明確な原作との分岐点なのかもしれません。
えっ?
なぜ、居るはずのないきみが今ここに……?
<配点:違う名の文豪>
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「やあ、トーリ、ギン。朝から元気に盛ってたみたいだね? まったくもって羨ましいやら嫉ましいやらだよ。なんたってボクは、発情期になったって相手がいないんだから……あくまで”今は”だけど」
さてさてトーリと誾が流線型を基調とした航空艦の艦橋(ブリッジ)に入るなり、実に爽やかな笑顔で辛辣な毒を吐いてきたのは、眼鏡でひんぬーな長寿種のちみっこい、ある意味において属性の塊の少女だった。
ついでになぜか妙に肢体にぴったりとした赤いインナーの上に白衣を羽織っている。
いや、エスパニアン・カラー的には合ってるのだが……
「うぉう! 開口一番の苛烈な言葉責めとは、絶好調そうでなによりだぜ~♪ 原稿ははかどってるか? ”トマス”」
そう、二人より一足先に航空艦のブリッジ来ていたの少女の名は、【トマス・デ・ラ・セルバンテス】。
トーリ達と同じく三征西班牙教導院”アルカラ・デ・エナレス”の一員だ。
本来の役職は総長連合ではなく生徒会書記補佐だが、本業は三征西班牙(トレス・エスパニア)きっての今をときめく赤丸急上昇の売れっ子アイドル作家という変り種だ。
まあ上司であるディエゴ・ベラスケスも画家……いや、格好つけるのはよそう。
エロゲ会社のトップ兼絵師で、それが『部族の品位を著しく貶める』として部族から叩き出された過去を持つ更に輪をかけた変り種というか変わり者なので、彼女も知名度はともかく特に飛びぬけて目立つというわけではないだろう。
名前からわかるようにトマスは、スペインの作家【ミゲル・デ・セルバンテス】の”二代目”襲名者だった。
ちなみに初代は襲名者から引退した後、前出のベラスケスが率いるエロゲ会社”チーム・ベラスケス”でシナリオを担当しているという噂が……
それはともかく……もはや説明の必要はないかもしれないが、平行世界における彼女の同位体は同じく文豪ながらまったく国籍の違う人物の名を名乗っていた。
そう、【トマス・シェークスピア】という名を襲名していたのだった。
無論、そうなるにはそれなりのドラマがあったようだ。
もっとも変わったのは襲名する文豪や国籍だけではないようだ。
インナーに白衣というスタイルは基本的に一緒だが、ただでさえ幼く小さなボディラインにピタッと張り付くような真紅を基調としたインナースーツは平行世界のそれより艶かしく、更にシェイクスピアさん家のトマスさんのロングコート風に羽織る白衣はなんとなくボロボロだったのに、こっちのセルバンテスなトマスさんの白衣はまるで新品のようにピシッとアイロンが入ってる上に胸ポケットにはしっかり校章の刺繍が入っていたりする。
髪もフワフワくせっ毛のロングなのは同じでもしっかり櫛を通していて後ろで纏めるリボンはいかにも高そうなレースのそれ。
無論、無粋な紙袋などは持っておらず、メガネは同じく三征西班牙のイメージカラーである真紅のアンダーリムのそれ(具体的には”けいおん!”の真鍋和嬢のメガネをイメージしていただけるとありがたい)だったりする。
全体的に同位体より身奇麗というか身だしなみに気を使ってるのは明らかで、可愛らしいという風にも言えるのだが、今のように白衣のポケットの中に手を入れて背筋を伸ばしてる姿を見ると、不思議としなやかさの中に精悍さも垣間見えるという娘だった。
***
「おかげさまでね。今回だってトーリの臨時軍師を引き受けたのだって、従軍記者って旨味があったからさ。これで筆が進まなかったら態々三河くんだりにまで来た甲斐がないじゃないか?」
するとトーリはトマスの猫っ毛気味の淡い色合いの金髪を撫でながら、
「んで、本音は?」
「……本音ってなにさ?」
しかし、トマスはツン気味の台詞回しとは裏腹に、自分の頭を撫でるトーリの手を追い払おうとはしない。
いや、むしろトーリに撫でられるままむしろ気持ちよさそうに目を細めている。
どうやらトマス、髪の毛の質だけじゃなくて中身もまた猫属性っぽい娘らしい。
さっきからトーリの後ろで誾が可愛らしいヤキモチを隠そうともしない『打突から展開する零距離砲撃』をかますような視線をトーリの背中に投射しているが、反応から察するにトーリは気付いてないし、気付いるとしても特に反応する気も無いのだろう。
どうやらトマスは……なんか確信犯のような気が……
というかさっきから口元に薄っすら笑みを浮かべてるし。
あれ?
これもしかしてデレ……?
というかトーリ、とんでもない地雷原のど真ん中にフラグ立ててね?
「”トゥーサン・ネシンバラ”」
”びくっ”
不意にトーリが呟いた名前に、トマスの小さな肢体(からだ)が小刻みに震えた。
「今度こそ【テレセー(=スペイン語で”13”の意味)】だといいな」
「……うん。今までの中では一番信頼できる情報だと思う。多分、彼に会わないとボクは何も終わらせられない。そして何もはじめられないから……」
そう。
トマスはどうしてももう一度かつての友に、いや『大好きだった人』に会おうと心に決めていた。
そして、ずっと探していた。ずっとずっと探し続けていた。
(だって悪魔憑きとして処分された”同胞(はらから)”の中に、テレセーの姿も名もなかったから……)
あのGENESIS世界の超人機関のような【第十三無津乞令教導院(だいじゅうさんむつごいれいきょうどういん)】で同じ境遇で育ち、トマスと”あの子”といつも一緒だった男の子……
そうあの頃は何の不安もなく”三人”はずっと一緒に居られると思っていた。
でもそれは子供じみた哀しい思い込みだった。
(年月は流れて、”あの子”も消えてしまった……だから生き延びた自分は”あの子”の分まで思いを願いを伝えなくちゃいけない)
遺された者として、託された者として……
(それがボクが先に逝ってしまった”あの子”にできる唯一の手向けだ)
だから死体が見つかってないという拙い根拠を頼りに、生きてると信じて今もその後姿をトマスはさがしていた。
決意の瞳で青い空を見る彼女……トーリは『妹のように愛してる少女』の頭をくしゃくしゃとかき回し、
「安心しろ。他の誰でもねぇ……こ・の・俺・が、ネシンバラだろうが天照大神だろうが必ず会わせてやるぜ!」
「……うん!」
***
(そうだ。伝えて終わらせてあげないと……だれよりも彼が大好きだった、時間が止まってしまった”あの子”の遺言なんだから)
トマスとトーリ……
またこの二人にも物語はある。
二人の出会いはこんな言葉から始まった。
『アイツもいなくなって、もう一人の”わたし”もいなくなっちゃった……ボクは本当に一人になちゃったんだよ……』
『そっか。一人はイヤか?』
『……うん。一人じゃボクは、自分が誰だかわからなくなるから』
『じゃあ、一緒に来いよ』
『えっ……?』
『”今、大切な誰かと別れるのは、次の大事な誰かとの出会うために神様が用意してくれた機会”らしいぞ?』
『えっと……』
『俺はバカだから、お前が誰と別れて何を悲しんでるのかは本当にはわからねえ。だけどさ……』
きゅっと当時は今ほど大きさの変わらなかった少年は、その少しだけ自分より幼く見えたその子を優しく抱きしめ、
『だけど、今だけでもお前が一人じゃないって思わせるくらいはできるんじゃね?』
『今だけ……なのかな?』
『お前がずっとがいいなら、ずっとでもいいぞ?』
『じゃあ、ずっとがいい……! 一人ぼっちはさびしいから。さびしいよ』
『そっか。なら俺は……』
それはとある年の秋の山地、一人の年端も行かない少年が山篭りの最中に一人の行き倒れの少女と出会った小さなおとぎ話……
トーリがはじめて小太刀一振りでツキノワグマを倒したときのエピソード。
***
(あれから12年かぁ……思えばあっという間だったなぁ……)
トーリに山で拾われてから、トマスは色々なことがあった。
例えば、すぐに葵夫人が山から降りた自分に保護手続きをとってくれ、何も詮索せずに暖かく迎えてくれたこと……
それどころか、養子の手続きまでしてくれ『ただの14(トマス)』だった自分に、葵の姓をくれた。
そう、セルバンテスを襲名するまで、自分は【葵・トマス】だった。
初めてトーリの姉、喜美に会った時はその突拍子も無いキャラクターや存在感に圧倒された。
そして『可愛い妹ができた』と猫っ可愛がりされると同時に、トーリとセットで散々着せ替え人形にもされた。
でも、いつもトーリとお揃いなのがかなり嬉しかった。
誾と初めて会った時も別の意味で圧倒された。
まだ幼いのに研ぎ澄まされた武に、心底驚いた。
トーリだけが規格外じゃないんだと素直に感じた。
ちなみに彼女も同じく喜美に着せ替え人形にされた同志だ。
他にも色々な出会いがあった。
自分が囲われていた【第十三無津乞令教導院】がいかにちっぽけな世界だったか、いつもいつも思い知らされた。
趣味で書いてた小説を投稿してみたら文才が認められ気が付いたら文壇デビューを果たしていて、先代(初代)が『エロゲのシナリオに集中したい』ために作家を引退して対象候補になっていた”ミゲル・デ・セルバンテス”の名を襲名することになった。
恐れ多いのと、エロゲのシナリオライターと思われるのが少し嫌だったので、襲名しても姓だけを名乗るようにした。
ついでに女の子とわかるように公式には”デ・ラ・セルバンテス”にして。
襲名に伴って”葵”姓がなくなるのはさびしかったけど、
『バカねぇ。誰を襲名しようと、トマスが私と愚弟の妹だってことには変わらないでしょう? それに葵姓をまた名乗りたいなら、他にも色々方法はあるじゃない?』
チラッとトーリを見て意味深に微笑む喜美に背中を押された。
(本当にいろいろあったんだなぁ……)
自然に笑みが浮かんでくる。
それは自分でもわかるくらい……トーリに出会う前なら出来なかった、花がほころぶような柔らかい微笑だった。
「どうしたトマス? 嬉しそうな顔をして、何かいいことでもあったか?」
不思議そうに聞いてくる誰よりも強くて誰よりも優しい、自分の運命を変えてくれた”兄のような存在”に、
「もし、アイツに会えたら”ボクは”何から話そうかなって、ね? だって、楽しくて嬉しい思い出がいっぱいありすぎて♪」
それはとても柔らかで眩しい微笑だったという。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
第01話から出張っていたトーリ嫁に続き、今度は曲者(あるいはストーカー)として定評のある義理妹が登場です(^^
シェイ子改めセバ子となったトマスですが、記録者として作家としてあるいは時には戦士(えっ?)として活躍してゆくと思うので、楽しみにしてもらえれば嬉しいです♪