境界線上のホライゾン・シャッフルズ!(マスチモ版) 作:ボストーク
皆様こんばんわ。
明日も朝から仕事なのに深夜アップをしてしまいましたボストークです(^^
さて今回のエピソード、原本(益荒男版)にくらべて実質的文章量で言うと倍近くボリュームアップしてます。
というのもトマスとトーリの出会い、その基点になった”12年前の出来事”を掘り下げてみたくなったから……という感じです。
加筆修正というより感覚的には書き直しに近い代物ですが、お楽しみいただければ幸いです。
出会い方が変われば人のつながり方も変わる。
例えば、敵として出会うか味方として出会うかで大きく運命が食い違うことなど珍しくもない。
歴史というのはいわばそんな事象の集合体だ。
<配点:12年前の出来事>
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かつて三征西班牙(トレス・エスパニア)には【第十三無津乞令教導院(だいじゅうさんむつごいれいきょうどういん)】という組織があった。
表向きは三征西班牙の前総長であるカルロス一世が作った孤児院施設で、主教導院であるアルカラ・デ・エナレスの特待部に繋がる教導院とされていた。
詳細を述べれば孤児を集めて英才教育を施す場所となていたが、それは所詮は世間を欺くカバーストーリーに過ぎない。
実際には事故や歴史再現にない不慮の戦死等で襲名者が欠けたときに、その穴を埋めるための”後釜”を作り出すことを目的としていた。
さらに噂のレベルではあるが聖譜越境部となる生徒を作るための組織だったという。
すでに衰退が宿命付けられていた三征西班牙にとって、歴史再現を半ば宗教化しそれを聖譜と呼び世界の根本原理として据えるこの世界において、”歴史再現の中核や基点となる力のある存在”である襲名者を常時確保しておくのは、半ば急務であった。
特に本来の歴史にはない【レパント海戦の敗北】において、特に人材的な側面において膨大な国家的損失を負ってからは更に襲名者の重要性は増していった。
例えば、この時期を境に三征西班牙ではただの襲名者だけに留まらず、二重あるいは三重もしくはそれ以上の襲名を重ねた”多重襲名者”が急速にその存在を増やしていったのだった。
そんな事情もあらばこそ、【第十三無津乞令教導院】に対する要求もそれに総じて過酷になっていった。
そう多重襲名化を国策として進め、三河から人材の供給を受け、更にはレパント海戦において死んだ者……弘中・隆包やその妻である江良・房栄を幽霊として現世に留まらせてもまだ足りないと判断された。
それほどまでにレパント海戦で受けたダメージは深刻だったのだ。
だが、その穴埋めのために育てられる孤児達へ課せられた教導院のカリキュラムは、幼い子供達にとりあまりに辛酸なもので、当時真実を知る者……例えば【大内・義長(襲名前の”フェリペ・セグンド”)】から問題がありすぎると声が上がるほどだった。
事実、その過酷過ぎる鍛錬は”GENESIS世界の超人機関”と呼んでも違和感ないほどのものだったらしい。
ある意味においては当然の判断だったのかもしれない。孤児である以上、どのような扱いをしようと保護者からクレームが来るわけでもなく、またその過酷な訓練であらばこそ実際に襲名者を生み出す実績を残していたのだ。
***
そして物語の始まる12年前……
教導院のやりかたに不満をためた一部の子供達が叛乱を起こした。
記録を読む限り、それは流血を伴うものだったらしい。
叛乱を起こした子供達は教導院の脱走を試み、それは半ば成功するように思われたが……運命は残酷だった。
不祥事の発覚を恐れた教導院は自ら追っ手を放ち、脱走を図った孤児の大半を捕縛。それを『悪魔憑き』と称して内々に”処分”したのだ。
だが、それでも追っ手より逃れ生き延びた子供達もいたのだった。
その一人が……
「はぁ、はぁ……はぁ」
一人の長寿族の童女だった。
長寿族は一般に生存性を高めるために10歳前後までは人間と同等の成長速度であり、そのあと徐々に緩やかになっていくといわれている。
もっともそれはかなり個体差があると言われていて、例えば現状で最も高齢と思われてる清武田の”ヌルハチ(源・九郎・義経)”は幼女の姿である。
彼女より年齢的には若い三征西班牙のベラスケスなどが老人の姿をしていることを考えれば好対照と言っていいだろう。
だが、ヌルハチのような例外を除くとすれば、やはりこの情況は過酷を通り越して絶望的と評するべきだった。
「うくっ……!」
下関からそう遠くない山中にて……その薄汚れた長寿族の童女は、今にも息絶えそうであった。
長寿族と言っても人減と比べて圧倒的なアドヴァンテージを持っているのは種族名通り寿命くらいで、ことサバイバリビリティに関しては極端に勝るものではない。
当然、存外つまらない理由で命を落とすこともままるのだった。
ましてやそれが年端も行かない童女ならなおさらだろう。
この付近に人里のない山中にいる長寿族の童女は、明らかに1人間と同じ成長速度を維持できる0歳にも満たない容姿であり、彼女がありふれた長寿族ならば見た目通りの年齢なのだろう。
しかも彼女は苛烈な逃避行の最中に自らの”半身”を失っていた……
もはや心身ともに限界を迎えつつあった。
そして、環境神群ががんばりすぎたせいで自然界は再現の元ネタになった”古き世界”よりも豊かなれどさらに厳しく、そうであるが故に同年代の人間とさして変わらぬ長寿族の童子などは”被捕食者”として食物連鎖の最上位から外されてしまう。
しかも運よく重症ではないものの傷だらけで血の匂い漂わせた満身創痍の童女など「餌にしてください」と宣伝しながら歩いているようなものだ。
そうであるが故に、
「ひっ!」
彼女の前に腹をすかせた「グリズリー並の体躯を持つツキノワグマ」という常識的でない危険生物が現れたのは、ある意味必然だったのかもしれない。
***
まだ幼かった、”14”という数字に過ぎない固有名詞しか与えられなかった童女は、その時たしかに死を覚悟した。
恐怖のあまり腰が抜け、だらしなくおしっこを漏らし小さな水溜りを作りながら涙に溢れた瞳をつぶる幼い女の子……
でも彼女が聞いたのは、自らの肢体が食いちぎられる音ではなかった。
「セイッアァァァーーーッ!!」
裂帛の気合と同時に”三つ身分身”を伴い同時四斬撃を巨大な獣に叩き込む少年の姿だった。
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残念なことにその長寿族の少女はその前後のことをよく覚えていない。
「ただよく覚えているのは、おぶわれたときの背中の温かさと、」
焚き火を囲みながら贈られた優しい言葉……
『俺はバカだから、お前が誰と別れて何を悲しんでるのかは、本当にはわからねえ。だけどさ……』
きゅっと当時は今ほど大きさの変わらなかった少年はその少しだけ自分より幼く見えたその子を優しく抱きしめ、
『だけど、今だけでもお前が一人じゃないって思わせるくらいはできるんじゃね?』
『今だけ……なのかな?』
『お前がずっとがいいなら、ずっとでもいいぞ?』
『じゃあ、ずっとがいい……! 一人ぼっちはさびしいから。さびしいよ』
『そっか。なら俺は……』
(『俺は葵・トーリ。今は他の何者でもない葵・トーリ。そして、』)
「『これからはお前が一人ぼっちになりそうになったら、必ずそばにいる俺、トーリくんさ』……だったよね?」
***
専用にカスタマイズしたテキストエディターソフトが奏填(インストール)済みの愛用伝纂器(パソコン)の神肖筐体 (モニタ) を見ながら、トマス・デ・ラ・セルバンテスはつい懐かしそうに笑みを浮かべてしまう。
ここは、先ほどと同じ三征西班牙(トレス・エスパニア)所属航空艦、ただし場所はブリッジからトマスが私室として使ってる来賓執務室(ゲストルーム)に移っていた。
実際、ブリッジで先で待ってたとはいえ、あまり打ち合わせすることはなかった。
むしろ、三河に入港して以降のスケジュールの確認という意味合いの方が強かった。
(気にするべきは、三河君主の松平・元信公よりも”K.P.A.Italia”の教皇総長ってのが、国際社会……特に聖連での立ち位置や力関係を表してるよね?)
そうなのだ。
そもそもトマスだけでなく、アルカラ・デ・エナレスの第一特務を三河入りの援軍として呼びつけたのは、件の教皇総長だった。
(まあ、そんな殺伐とした話題は今はいいとして……)
「『だけど、トーリもトマスも気付いてなかったのです。トーリは大切な物を盗んだことを、トマスは大切な物を盗まれたことを』……」
彼女は満面の笑みで、
「それは……」
「『トマスの心だったのです』……ですか?」
不意に後ろからかかる不躾な声。
だが、トマスは特に嫌な顔もせずに振り返りながら、
「Tes. ちょっとベタ過ぎかな? ”ギン”」
そう振り返った視線の先に何食わぬ顔で立ちながら画面を覗きこんでいたのは、気配を消していつの間にか部屋に入っていた立花・誾だった。
***
「いいえ。そういうセンスは嫌いじゃありません。でも……」
ちょこっと唇を尖らせて
「トマス、トーリ様との出会いをわざわざ恋愛小説化してまで発表するとは、中々あざといですね? 公認周知にはいい手段かもしれませんが」
トーリへの愛情かはたまた文才にか、ちょっとヤキモチ妬いたような表情の誾に、
「ギンにジェラシー妬いてもらえるのは光栄だけど、残念ながら今のところは発表の当てが無いただの私小説だよ。強いて言うなら”思い出日記”程度?」
苦笑するトマスに誾はよくわからないといった思考を表情に出しながら、
「光栄……なんですか?」
誾が不思議そうに聞き返すと、
「そりゃそうだよ。だってギンは押しも押されもしないトーリの”正室”じゃない? そのギンにヤキモチ妬かれるってことは、ボクもただの仲のイイ”幼馴染”やトーリの妹ってだけじゃなくて、ちゃ~んと”側室候補”と見られてるのかなって♪」
「側室どころか、トーリ様の正妻の座を争える”恋敵(リヴァル)”だと思ってますが? トマスは魅力的ですし、私には無いものをたくさん持ってますから」
「ギンにそこまで言ってもらえるなんて、それこそホントに光栄だね」
トマスは嬉しそうに頬を緩めながら、
「でも、ボクは元々正室向きじゃないし……それに今のボクにはその資格はないよ」
「資格……?」
「うん」
トマスは小さく頷き、
「トーリは”誰かへの想い”を引きずったまま想いを伝えていい相手じゃないでしょ? いくらボクだって、それがあまりに不誠実だってことぐらいわかるよ」
その意味は誾にだってなんとなくわかる。
そう、それこそもう十年来の付き合いを超えた”親友”なのだから……
「【”私”だったトマス】、ですね?」
トマスは懐かしそうにでもどこか切ない表情で頷き、
「”私だったボク”も確かに”そこにいた”んだよ。もう会えないけど、でも確かに生きていたから……居なかったことになんてできないから」
同じ場所に同じ刻を生きた二人の少女、誾とトマス……だから、同じ男に惚れるのは当然。
それが二人の帰結であり、この星に空気があることと同じくらい当たり前のことだった。
なればこそ、同じ男に惚れた誾は嫌でも理解してしまう。
第02話”甕割”の中で【トーリと喜美とその周りの大切な人たち、とそれ以外】という誾の認識区分が述べられた。
そしてトマスは間違いなく【大切な人たち】の中の一人で、より詳しく言うなら……
【幼馴染であり同じ目線に立てる親友、それに何より同じ男に惚れた恋敵】
という「あたりにでもなるのだろうか?
***
「残されし者に託された遺志……難しいですね」
「難しいんじゃなくて単に面倒くさいだけなんだよ、きっとね。難儀な性格だって自覚はあるから♪」
『あはは』と苦笑するトマスに、
「大丈夫です。私より面倒くさい女はいませんから、トマスはせいぜい私の半分くらいです」
「それならさしずめ、【ハーフ・ギン】だね?」
そう二人の少女は笑いあう。
「本当にボク”達”は面倒くさいね?」
「でも、器用に生きれない……難儀にしか生きれない”私達”でも、トーリ様がいます。それに喜美お義姉様も」
「そうだね。トーリがいてキミ姉に、お義父さんやお義母さんがいる……ボク達は、きっと」
どこか人とずれてて”普通に生きる”ことが苦手な二人は、今は確かに不器用のまま生きて、そして間違いなく幸せだった。
船はもうすぐ、三河の領空へと入ろうとしていた。
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お・ま・け(という名の実験執筆:課題『台詞回しだけで読者様に空気感が伝わるか?』)
もしくは……
【エスパニア風ガールズトーク蜂蜜添え・武蔵外道風味に仕上げてみました】
「ところでまじめな話、トマスもそろそろ閨(ねや)デビューしませんか?」
「ギン……さっきまでのちょっといい話を何事も無かったようにブッチする超展開をありがとう。というか、告白とかそういうのはオミットしていいもんなわけ? ギン的にはさ」
「……最近、段取りを無視しても早急に戦力の拡充を図らねばならないことを痛切に感じまして」
「もしかして、褥戦(しとねせん)での対戦成績がかなり悪いの?」
「Tes. トーリ様を一騎打ちでしとめるのは、もはや人の身ではかなわぬことでは?と最近、強く考えてます」
「う~ん……ギンにそこまで言わせるとは、さすがは三征西班牙(トレス・エスパニア)が誇る”暴れん棒”将軍ってとこかな? といってもギンもそっち方面は武術ほどにはタフには見えないけど」
「うっ……返す言葉がありません」
「仕方ないよ。女の子は主に性的な意味で可愛がられたら可愛がられるだけ感度が上がる構造の生物だから最初っから不利なわけだし、それは承知の上だろ?」
「でもでも、例えそうでも武人の端くれとしてこのまま連戦連敗、失神退場はさすがに悔しいです」
「たしかに助太刀は武芸者の嗜みだし、数に頼るのは兵法としてはむしろ王道だけど……でも、ボクにあんまりベッドバトルでの戦力増強は期待しないほうがいいんじゃないかな?」
「そのこころは?」
「だってギンと同い年だけど、分類的にはボクは炉式キャラじゃん? これで下半身が神格武装級とか、アソコの耐久力が魔神族といい勝負とか言ったら、逆に読者の期待を裏切るような気が……」
「別に書籍化してくれとまでは言いませんから」
「いや……なんか変な電波でも受信したかな? ともかく、ボクは褥でのHPも見た目どおり……いや、多分、敏感だから」
「その間はなんだったのかとツッコむとこ?」
「いや、詮索しないでくれると助かる。ともかく、閨でトーリの朱槍を討ち取りたいなら……そうだな、うん。最低でも耐久性が高そうなのをあと一人、できるなら二人は連れ込むしかないね」
「むぅ……候補を絞るだけで難しそうです」
「でも、ご褒美は【トーリのAhe顔】だよ?」
「なんとしても戦略/戦術を練り、作戦を完遂させましょう……!!」
熱い女の友情と、ささやかな欲望と共にガシッと手を握る二人だった。
どうやら本人そ知らぬところで内堀も外堀も関係なく埋められ、しかも外部勢力まで呼び込んで今にも包囲網ができそうだ。
しかし、彼は天下の”快男児(マスチモ)”。
果たしてこの勝負の行方は如何に?
皆様、ご愛読ありがとうございました。
これまで以上に原本との違いを浮き彫りにしたエピソードでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?
改めて読み直し、そして書き直してみて完成度が上がっていればいいのですが、少し不安がありますね(^^