境界線上のホライゾン・シャッフルズ!(マスチモ版) 作:ボストーク
皆様、こんばんわ。
今回のエピソードは、前回に引き続き武蔵外道衆(笑)のお話です。
実はこのシリーズにおけるホライゾンの正体やら立ち位置やらがチラホラと明らかになっています。
人にはそれぞれ歴史がある。
格好つければ”パーソナル・ヒストリー”とでもなるのだろうか?
その存在が生まれてから死ぬまでの小さな歴史……
その小さな歴史が集まって”世界”は形成されていく。
<配点:年代記>
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「ネンジ君、どうやら僕たちの出番は、丸々オミットされてしまったようだよ?」
「フン。どうやら作者は吾輩達を書ききるだけの技量が無いようだな」
ええ、ありませんとも!
マッチョな体操のお兄さん系インキュバスと理論値HP3程度のスライムを、一体ボストークにどうしろと……
というかネンジは喜美不在の為に同じく出番のない御広敷に地味に潰され、それを気付かなかった御広敷は、ふと振り返った浅間に派手にズドンされたりした模様。
イトケンは察するに、概ね原作どおりの活躍(?)だろう。
それはともかく、オリオトライ主催の”アルティメット鬼ごっこ”はさらに激しさを増しつつあるようだ。
”ズゥン!!”
準バハムート級航空都市艦”武蔵”は、実は
中央前艦・"武蔵野"
中央後艦・"奥多摩"
右舷一番艦・"品川"
右舷二番艦・"多摩"
右舷三番艦・"高尾"
左舷一番艦・"浅草"
左舷二番艦・"村山"
左舷三番艦・"青梅"
以上8隻の航空艦を同一平面状に連結させることで構成された【集合分散型大型航空都市艦】という極めて珍しい艦種だ。
そして今、航空艦を陸地に繋ぎとめるメタルアンカー……ではなく、それと見紛う迫力で”多摩”の最前列から”品川”の最後尾に打ち込まれたのは、
「チッ! 外しましたわ!」
そう舌打ちしたのは、豪奢な多連装ロングロール銀髪(断じて内部で力場を形成して質量弾を放つ”ロールカノン”とかの機能はない……と思う。多分)とダイナミックにシェイプされた胸部が特徴の【ネイト・ミトツダイラ】だ。
実は彼女が狙ってたのは、連結帯から”品川”の甲板に飛び降りようとしていた標的、3年梅組担任の【オリオトライ・真喜子】の背中だった。
普通なら命中し、例えば彼女が”ただの人間”なら背骨砕かれ内臓が破裂し、最後は腹部に大穴空けて細切れになった中落ちをぶちまけさせる……程度の威力はあったはずだが、オリオトライは絶妙なタイミングで軽く1ステップで回避運動終了。
まるで闘牛士(マタドール)を髣髴させる動きでネイトの”銀鎖(アルジョント・シェイナ)”ひらりとかわし、そしてネイトの鎖の先端は”品川”の甲板を貫いたのだった。
「いえ。上出来です」
その紡ぎ出された静かな言葉を追い越すような勢いでネイトの横を駆け抜ける銀色の影!
そう、言うまでもなく”武蔵”内部では実(まこと)しやかに聖連の評価に反して【教導院学生最速にして最強じゃね?】と囁かれるホライゾン・アリアダストだ。
ホライゾンは今まさに”武蔵”が進路を向けている【三河】にて”ある事故の顛末”として全身を自動人形化、擬体(サイバネティック)化した少女だった。
そう、ちょうど”人払い”がされた10年前にだ。
……いやここはもう少し風情のある言葉で、最近は”自動人形(オート・マタン)”との区別の為に少し使われるようになってきた
【機巧化(マシンナリー・ヒューマノイド)】
と表現しよう。
するとホライゾンは【機巧少女(マシンナリー・ガール)】とでもなるのだろうか?
もっともこの言い方は今のところあまりメジャーではない。どちらかと言えば中二病患者が使いたがる傾向があるようだ。
こう書くと北条の姫君と大差ないように聞こえるかもしれないが、実際には大きな隔たりがある。
いずれその詳細は書かれるかもしれないが……今言えることは『北条の姫に比べ武蔵の姫は、少なくともカタログスペック上では全般的な性能が大きく劣る』ということだ。
聖連に対する恭順の証の一環として、ホライゾンには様々な機能制限が”実の父親”である三河君主によって施錠されている”建前”であり、聖連が把握してるホライゾンのスペックは『自動人形としては最低ランク』であるはずだった。
でなければ、『もっとも無能な者に任命される』ことが慣例である武蔵の”総長兼生徒会長”などには任命されなかったろう。
とはいえいくらスペックが低くても彼女の身体の規範とされたのは自動人形であり、その特性は引き継がれていた。
その一つが自動人形の十八番で代名詞の”重力操作”だ。
***
自動人形の中には重力操作の限界質量が桁違いで、額面どおりに『武神とのタイマン勝負に勝てる』個体も存在するらしいが、残念ながらホライゾンの出力は某ダッちゃんの嫁のように【重力操作単体で戦術運用が可能】というレベルではない。
だからこそだろうか?
ホライゾンは、重力の繊細で連続性のある操作と人間特有の”柔軟な発想”を生かした戦い方を好んでいた。
例えば、
「ハッ!」
短い気迫と共にホライゾンは”銀鎖”に飛び乗り、その上を全力疾走したのだ。
本来は不安定な鎖の上だが、ホライゾンはまるでスピードトラックでも走るような安定した姿勢で走り抜けていた。
いや、それどころか本来なら速く駆けるならその分の反発や反動を得るため、強く地面を踏みしめねばならず、故に鎖にかかる反動も大きいはずだ。
単純な作用/反作用の法則なのだが……ホライゾンはそれを全く無視し、ネイトの鎖をほとんど揺らさず、そしてありえない速度で走り抜けてるのだ。
さて、作用/反作用の話が出たついでに鎖を揺らす要素、つまり蹴った時に発生する【運動エネルギー】の話をすれば『質量に正比例、速度の二乗に比例する』という話をしておこう。
速度を落とさずに運動エネルギーを軽減するには質量を軽減するしかないのだが……
地球上では質量は重量とよく混同される。正確には地球上なら混同しても問題は無い。
というのは、重量は言語分解すると”重力質量”という意味で、地球上では物体が例え静止状態でも【万有引力(重力加速度=1G)】がかかってるからだ。
つまり、地球上にある全ての物質には質量に1Gという重力が加わっているのだ。
ここで察した方もいらっしゃるだろう。
そう、ホライゾンは【ホライゾンという個体質量にかかる重力】を『重力を分散/統合制御』することにより、このような”人間離れした高機動”を可能としていた。
具体的に言うなら自分にかかる重力を、三次元的運動において強引に身体を安定させるバランサーやアクティブ・スタビライザー的な役割が基本の【能動的可変重力場(アクティブ・ヴァリアブル・グラヴィティ・フィールド:AVGF)】としているのだった。
それに加え今回は、”前へ引っ張る力(前方からの引力)”と後方から前へ”押し出す力(水平面の重力加速)”へと多めに配分/重力のベクトルを操作し、速度を稼いでいた。
ぶっちゃけ自分にかかる重量の大半を姿勢制御と加速に費やしてるのだから、そりゃ速いはずだ。
なお恐ろしいのは彼女はそれを術式で行ってるのではなく、人間の脳味噌と機巧化した身体に備わった”デフォ能力”のみで行ってることだ。
つまり、ホライゾンはまだまだ余力を残していた。
***
「ナイト、ナルゼ、近接航空支援(Close Air Support:CAS)を開始。命中しなくてもいいから姉弟子(おねえ)様の足を止めてください」
疾風の如く駆けながらホライゾンは、上空で機会をうかがっていた【オパーイが分厚くて全体的に白いんだけど黒魔術使いな”墜天”】の少女、”マルゴット・ナイト”は、
「りょうかいりょおかぁ~い♪ でもホラ子ちゃん、ナイちゃん思うに当てちゃってもいいんだよね?」
すると同じく並ぶように中空に陣取るナイトと好対照な【オパーイがかなり薄くて全体的に黒いんだけど白魔術使いな”堕天(正確には『匪堕天』)”】の少女、”マルガ・ナルゼ”も、
「ホライゾン、こう命じてもいいのよ? 『当ててしまえ』って!」
何やらナルゼの台詞はフラグっぽいが……それを気にすることもなく対なる二人の言葉にホライゾンは小さく頷き、
「なるほど……では、こう命じます」
彼女は愛刀の一つであり、色々と名称(建前)の変わる模擬戦とツッコミに主に使われる撃剣”インポッシブル”を鞘から抜き放ち、
「我が対なる翼よ、愛によって奏でられる”堕天と墜天のアンサンブル(合奏)”により、あの女剣豪をモザイクがかかるような蜂の巣にしてください……!」
その物騒な命令に、
「「Jud!!」」
二人の天道を外れた天使は、元気いっぱいに応えたという。
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さてさて、このなぜか男はスルーされがちな一連の『戦闘訓練じゃないよ。体育の授業だよ?(聖連向け資料より)』を、”武蔵”を形成する八隻の航空艦の一つ、中央前艦“武蔵野”の展望台より眺める二つの人影があった。
「非加護射撃による近接航空射撃、いや乱射か?の援護下での突貫ねぇ~。やれやれ、相変わらずウチの現役”総長閣下”は、毎度のこととはいえ随分と攻撃的なオプションを好むもんだ。にしても……」
そう苦笑したのは初老の男、若い頃はさぞかし自覚にせよ無自覚にせよ女誑しだったことであろうことが伺える、元美形の面影が色濃く残っている。
「人を乗せるのまで上手いたぁ、あれが”天性の武人の資質”ってのかもしれないな」
彼こそが武蔵アリアダスト教導院の学長で、”武蔵”が今向かっている三河が誇る元”松平四天王”の一人、【酒井・忠次(さかい・ただつぐ)】だ。
もしかしたら女誑しという意味では現役かもしれない。
苦味ばしった燻し銀の雰囲気と人を食った飄々とした性格、それに老いたとはいえ未だ端正さを失わない顔の三拍子があいまって”大人の魅力”を形成しており、今でも現役女学生(!?)の間に根強いファンがいるらしい。
ぶっちゃけ、彼に尻触られて喜ぶ娘はいるわ、人目を憚って学長室に忍び込む女学生は日常茶飯だわ、学長室から出てきた女生徒が焦点の合わない虚ろな瞳で”にへらっ”とした笑みを浮かべ、艶かしい息で出てきた……なんて話は今更、噂にもあがらない。
『来る者は拒まず、去る者は追わず』というライフスタイルを好む酒井らしいエピソードではあるが。
「Jud. 流石はオリオトライ様の妹弟子と納得できる果敢さ、高度な複合的戦闘力です。__以上」
そう返答したのは、長い黒髪を携えた女性型侍女式自動人形。暗色を基調としたブリティッシュ・スタイル(ロングスカート)に和風のテイストを加えたメイド服と清楚な雰囲気が実にマッチしていた。
そう、彼女は”武蔵”。
八隻で構成される航空都市艦・”武蔵”を統括する総艦長であり、同時に”武蔵”そのものと言える。
「だねえ。そういや”武蔵”さんは、”ミツ”さんのこと知ってるんだっけか?」
「Jud. ただし、直接お会いしたことはございませんがデータとしては保有してます。__以上」
「そっかそっか。んで、どのくらいデータが残ってるの?」
「要約すれば、オリオトライ様とホライゾン様の剣の師匠で、現在は三征西班牙(トレス・エスパニア)にいる元剣豪の”葵・善鬼(あおい・よしき)”の実母。その関連で葵・喜美/トーリ姉弟の祖母にあたります。__以上」
酒井は感心したように、
「ほう。結構、知ってるじゃない? でも、いくつか欠損情報……いや、それとも意図的に削られた情報かな?があるね」
すると”武蔵”は微かに表情と呼べそうな何かを動かし……人間で言えば好奇心を刺激されたような状態になったのだろうか?
「よろしければ、お聞かせください。__以上」
観戦を続けながら酒井は小さく笑い、
「いいさ。俺が知ってる限りでならな……そうだな、例えばホライゾン君はミツさんの弟子としては二代目、母子(おやこ)そろっての弟子とかってのはどうだい?」
「初耳です。__以上」
知識で”武蔵”で上回るというシチュエーションが珍しいのか、酒井は愉快そうに
「他にも有名所では葵・善鬼はもちろん、旦那の”小野・忠明(おの・ただあき)”もまたミツさんの弟子だったんだよ。言ってしまえば、忠明や善鬼は、真喜子ちゃんとホライゾン君の兄弟子や姉弟子にあたるってことだな」
「随分とお詳しいのですね?__以上」
酒井は笑みを苦笑という種類へと変えると、
「俺ら”松平四天王”とミツさん、それに忠明や善鬼とは、良くも悪くも色々と因縁があるのさ。もっとも、俺が忠明や善鬼と最後に会ったのは、もう四半世紀も前の話になっちまうがな。そっか、あの頃はまだミツさんはまだ辛うじて現役の”襲名者”だったっけか……」
『やれやれ。まさか忠明と善鬼が結婚して、あまつさえそのガキを見ることになるたぁな~……どうりで俺も年を食うはずだぜ』と続ける酒井に”武蔵”は、
「25年前というと、レパント海戦の歴史再現の失敗で”疲弊し過ぎた”三征西班牙に、聖連の命から三河より”人材復興支援”が行われた時期ですね?__以上」
「ああ」
酒井はどこか今はもう戻れない場所を見るような遠い目で、
「信じられないかもしれねぇが、こんなしょぼくれたオジサンにも”青春時代”ってのは、それなりにあったんだぜ?」
ニカッと笑う酒井を”武蔵”はただ静かに見つめていた。
後にたまたまこの現場を見た人物によれば、『気のせいかもしれないけど、”武蔵”さんが心なしか嬉しそうに見えた』とコメントを残している。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
某スライムとインキュバスのキンクリは(笑)楽しんでいただけましたでしょうか?
実は今回のエピソード、原本に比べて少しホライゾンの情報が改変&追加されていたりします。