Ex-1話
「なあ、りーさん」
「あら、何かしら」
「最近、かなたの様子がおかしいんだよ。何か知らないか?」
くるみは困ったようにうんうんと唸る。もちろん、同じ運動部としての仲もあるために、心配するのも当たり前のように真剣に悩んでいた。
悠里は、しばらくそうねえ・・・と、考える仕草をする。
困ったように窺うと、くるみは期待するようなまなざしをりーさんに向け、助言を求めている。
ならば応えてあげるのが一番だとは思う。思うのだが・・・。
そして悠里と言えば、内心は焦りに焦っていた。
まさか私が、とか、無理をさせすぎたのでは、とか。
この学園部に彼女が合流してからというものの、悠里には由紀以外にも心配事の塊が存在した。
それが彼女、桜庭彼方である。
彼女と悠里は幼馴染であり、唯一無二の親友とも呼べる関係で、彼女が居なくなれば、悠里は悠里としてのなにかが崩れてしまう、そんな予想さえできた。
「・・・分かったわ。私が話を聞いてみるから、ゆきちゃんをお願い」
「・・・?おう、まかせろって」
くるみは不思議そうに首をかしげた。
まさか、悠里自身が行動するとは思わなかったのだろう。
「本当に・・・大丈夫か?」
「え、ええ。任せてちょうだい。私、あの子の幼馴染なんだから」
そう意気込んで、悠里は思い任せに教室を出た。
どこにいるかは―、知らないだろう。若狭悠里という人間は、彼方という人間と2人きりになる状況など、この学校ではそうなかったのだから。
「どこにいるのかしら・・・」
念のためにサイリウムと音楽プレーヤーを持って、ぼろぼろになった廊下を歩く。
由紀が授業を受けている部屋や、シャワー室のある部屋など、様々な場所を探しては見るものの、彼方は見つからなかった。
昔の彼女は、そういえば無茶と無謀ばかりして、見知らぬ土地にさえ飛び込んでいくような子だった、と思い出した悠里は、バリケードのあたりも探してみることにした。
奴らがいないか、周りを見回しながらそっと近づくと、不意にバキッと骨の砕ける音がした。
―――まさか、と悠里の予想が見事に的中していた。バリケードの向こうでは必死に所持している鉄のバットで奴らを殴り倒しているではないか。
「・・・かなた!」
その行為を止めさせたかったのか、悠里は声を荒げた。
悠里は、彼女にこんなことをさせたかった訳ではない。それはもちろん、くるみにも言えることだ。しかし悠里は彼女の今までを知っていた。そんなことを、平気でするような子ではなかったと、自分の記憶に覚えがあるからこそ自負できる。
「・・・悠里」
彼方はよた、よたとバリケードのすぐそばまで戻ってくる。鉄のバットは、既に変形してデコボコができている。理由は言わずとも、先ほどの音にも関係しているだろう。
「どうして・・・こんなこと」
悠里は不安げに彼方を見つめた。彼方は悠里を見ていない。
「邪魔なのは、どかしておかないと」
「っ・・・いいから、今日はもう休んで」
悠里はバリケードに上って彼方を引っ張り上げようとする。彼方は嫌そうな顔をしたが、流石にこれ以上は無理だと思ったのか、潔く戻ることにしたらしい。
2人の間に、会話は起きない。
理由は、お互いが知っている。
けれど、悠里はこれだけは言おうと思っていたことがあったのだ。
「・・・くるみが、心配していたわ」
「そう・・・あとで声かけとく」
それからはまた会話がなくなり、2人とも無言のまま教室に戻り、そんな彼女らにくるみが困ったように笑うのだった。