【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第一話~始まりはチャットから~

 二十一世紀初頭。急激に成長したIT技術。いくつもの技術革新。

 それから時は流れて、現在。それらの存在によって、かつては絵空事でしかなかったいくつものことが現実のものとなっていた。

 それは、医療的なものであったり、宇宙分野のものであったり、仮想現実と呼ばれるような電脳世界であったり。かつて漫画やアニメでよく題材にされていたものが、現実となっている。

 今は、そんな時代だった。

 

『ようこそ!エンジョイチャットへ!』

 

 そんな時代。とある部屋の中に、どこか感情を匂わせるが、それ以上に機械的なまでの音声が鳴り響く。

 これは、音声ナビゲーションシステムだ。ネット上の使い方を音声によって説明してもらうという、かなり昔からある技術である。

 この薄暗い部屋の中、その音声を聞いているのは――。

 

『チャットルームを選択してください!』

「……えっと」

 

 ――十代くらいの青年だった。

 青年は、その音声を聞きながら、自室の机に置かれた新品のパソコンと睨めっこしている。その顔には、どこかストレスの溜まったような表情が張り付いていた。

 

『チャットルームを選択してください!』

「わかってるよ!えっと……」

『チャットルームを選択してください!』

「だからわかってるって……!」

『チャットルームを選択してください!』

「だー!少しは考えさせろ!」

『チャットルームを選択してください!』

 

 まあ、この青年がストレスが溜まるのも仕方ないことかもしれない。そう。この青年はこの時代にしては珍しく、機械音痴という絶滅危惧種のアナログな人間なのだ。他の人が簡単にできることでも、この青年にはできない。

 音声ナビゲーションシステムの指示は、目的とするチャットルームを選択し、アイコンをクリックするというだけの話である。

 パソコンに慣れ親しんだ――というか、ある程度パソコンを触ったことがある者ならば、できるだろうことだ。だというのに、この青年にはできていない。

 意を決してパソコンを買い、起動したのにこの始末。青年は、早くも挫けそうになっていた。

 まあ、初めてのパソコンでチャットとは、いささかハードルが高すぎる気がしないでもないのだが、そこは青年にも目的があった以上、仕方のないことだった。

 

『チャットルームを……』

「ぬがぁあああああ!くっそ!」

 

 部屋の中でわめく青年。

 今、青年の脳裏には、パソコンを買った時のことが思い起こされていた。あの時、青年の母親は、アンタはまたお金を無駄遣いして、とでも言わんがばかりの顔だった。というか、実際に一字一句同じことを言った。

 確かに、小学校の情報の授業でパソコンを三台も壊し、パソコンに触れさせてもらえなくなった青年だ。青年自身も無謀だとは思っていた。

 それでも、青年はある目的があって、こういった毛嫌いしていた機械類に触れようと思ったのだ。だからこそ、挫けそうになっても、諦めたくはなくて。

 

「……ここで諦めるわけにはいかないよな」

『チャットルームを選択してください!』

「……?おぉ!」

 

 そんな青年を救うかのように、助け舟はやって来た。

 いい加減にうるさい音声ナビゲーションをかき消すように部屋に鳴り響いたのは、青年の持つ携帯電話の着信音だ。

 ちなみに、機種は機械が苦手な青年でも持てるような、昔ながらのラクラクフォンという機種である。何かがいろいろと間違っているが、青年は気にしてなかった。

 青年のそれは、数字ボタンだけというシンプルな作りの携帯電話。だが、青年はその着信が誰からのものか、勘で何となくわかった。

 だからこそ、通話ボタンを押して――。

 

「助けてくれっ!」

 

 ――恥も外聞もなく、頼み込んだ。

 いや、青年にも意地やプライドくらいある。それでも、ここで羞恥も忘れて頼み込んだのは、やはりエンドレスで鳴り響いている音声ナビゲーションの音声に参っていたからなのだろう。

 

『ああ、やっぱりね。どうせそんなことだと思った』

「わかってたのかよ!」

『当たり前でしょ。子供の頃からの付き合いなんだから、それくらいわかるよ』

 

 携帯電話から聞こえてきたのは、どこか幼さを感じさせる女性の声。会話の内容からわかるかもしれないが、この青年の幼馴染だった。

 

『急にパソコンをやるって……しかも、チャット?誰かと話したかったの?』

「それは……!別になんでもいいだろ!」

『ふぅん?ま、いいけどね。でも、()()()()チャットルームでいいの?一応、みんなには連れて行くこと伝えてあるけど……本当に大丈夫?』

「大丈夫!」

『どうかな……返事だけは一人前だから』

 

 ともあれ、この電話の向こうの少女は、電話で指示を出しながら青年をチャットルームへと誘導して行く。

 そう。この少女は、先日この青年がチャットやネットをしたがっているということをこの青年の母親から聞いたのだ。

 そして、この青年一人ではどうなるかわかったものではなかったからこそ、青年を助けるために幼馴染のよしみでいろいろと動いているのである。

 

『とりあえず、鍵のついた場所あるでしょ。BBってついてる』

「ああ、あった!」

『それで、パスワードを入力して。わかってると思うけど……パスワードは……』

「それくらいわかってるよ!誰にも言わないって!」

『ま、それくらいの常識はあるよね。で、ダブルクリックして』

「だぶるくりっく?なんだそれ?」

『一応、ユーザー登録はできたんだよね?』

「ああ!何か適当に弄ってたら出来た!」

『……』

 

 一応言うと、ユーザー登録はそんなに簡単にできるようなものではない。なのに、青年はできたと言っている。通話を切りながらも、そこはかとなく不安が湧き上がった少女だった。

 まあ、いろいろあったものの、青年の目の前の画面には、“Welcome”の文字が表示された。ようやく、青年もチャットルームへとはいることができたのだ。

 

「えっと、まずは挨拶だよな……こ、ん、ば、ん、は……っと」

『こんばんわ』

 

 何事も、まずは挨拶。

 拙い動きでキーボードを押して、青年は発言ボタンを押す。ネット上のことだとはいえ、初めてのこと。青年もなかなかに緊張していた。

 

『おー!君がAI◎BAの話していた人だね!はじめまして!えっと……KY……さん?』

『ぶっ(笑)よりにもよってそれ!?』

「うぐっ……そりゃ、俺だってどうかと思ったけど!適当に弄ってたからうまく決められなかったんだよ!」

 

 アッキーノという人から告げられた名前に対しての言及に、自身の幼馴染と思われるAI◎BAの笑い。

 確かに、青年もこの名前はないと思っていた。だが、ユーザー登録を適当にやってしまった青年には、この名前でいるしかなかったのだ。

 

「って、やべ、返さないと……!えっと……」

『ななえにつういぇは触れないでください』

「よし、発言ボタン……って!」

 

 相変わらずの拙いキーボード操作で、発言ボタン。

 だが、発言ボタンを押してから、青年は気づいた。自分がとんでもない打ち間違いをしていることに。

 

『ななえ?っぷw何それ!』

『あー……おたく、パソコンに不慣れなんだよな?まずは慣れること優先しろ。ゆっくりでいいから、な?』

「うぐ……えっと……は、い、っと」

『はい』

 

 ブルーボックスという人に言われて、ちょっとだけ悔しくなった青年。

 だが、好意で言ってくれたのだろうそれに感情で言い返すことは、場の雰囲気も、招待してくれた幼馴染の立場も悪くするだけだ。だからこそ、青年は根性で湧き上がった感情を抑え込んだ。

 まあ、そもそもの問題として、青年は今すぐに言い返せるほどキーボードに慣れている訳ではないのだが。

 

『よろしくー!』

「……何か、奇妙な感じだな。顔も知らない人によろしくって言われるの」

 

 ともあれ、青年のことはとりあえずその他この場にいた人たちにも受け入れられたようである。

 これには、青年も、青年を連れてきた幼馴染の少女もホッとしていた。

 

「しっかし、闇夜の堕天使にふぁんた爺、あるじゃNON?みんないろいろな名前あるんだな」

『んじゃ、まあ、気楽に行こーぜ』

 

 そんなこんなで、チャットルームはチャットルームらしく、雑談の広場へと変わっていた。

 キーボードを打つのが遅い青年では、会話に混ざることができたは稀だった。というか、仕方のないことだが、所詮お客様の青年は、ほとんど空気になっていた。

 それでも、ブルーボックスという人物と幼馴染の少女は、青年のことを気にかけてくれて――それがありがたく思えた青年である。

 

『あっ!ねぇねぇ!聞きたいことあるんだけど!デジモンって知ってる!?』

「デジモン……?」

 

 そうして、雑談もそこそこ盛り上がりを見せた時だった。アッキーノが、そのことを尋ねたのは。

 キーボードを打つのが遅い青年は、気になってもそのことを聞くことはできなかった。だが、青年が聞かずとも、その他の面々が勝手に話していく。

 

『ハッカーが使うプログラムだろ。何か、モンスターみたいな見た目してるっていう』

『俺の友達なんか、アカウント取られたって言ってた!』

『デジモン……あ!デジタルモンスター?』

『ちょ。ソレダ……www』

 

 仲間外れとなっている現状が幸いして、サクサクと話が進んでいく――のはいいが、何と言うか、複雑な気持ちになるのを抑えられない青年である。

 ともあれ、聞き入っていた結果得られた概要としては、デジモンとはデジタルモンスターの略で、ハッカーの使うプログラムであるようである。いろいろなことができるらしいが、はっきり言って青年にはよくわからない。またハッカーがそれを使っていろいろと悪さをしているらしい。

 どれも機械音痴のアナログ人間だった青年には知りようがなかったことである。

 

『ナビットくんがログインしました!』

「……?あ、挨拶……」

『こんにちわ』

 

 そして、デジモンについてある程度知ることができたその時だった。新たな人物がこのチャットルームにやって来たのは。

 画面を見ながら、ナビットくんとやらに何とか挨拶をした青年。だが、挨拶をしたのは青年だけだった。

 このチャットルームの誰も彼もが、ナビットくんの登場に驚いていて、挨拶どころではなかったのだ。

 

「……?どういうことだ?こいつ、この部屋のメンバーじゃないのか……?」

 

 機械やネットに詳しくない青年は、そんなみんなの驚きようが理解できない。が、どうやらナビットくんとやらは公式マスコットであるらしかった。

 さすがに、公式マスコットがそう簡単にやって来るものではないことくらい、青年にもわかる。だからこそ、キーボードを打つことも忘れて、青年は画面を注視し、成り行きを見守ることにした。

 

『僕はナビットくん!ハッカーだよ!』

「へぇ……ハッカー……ハッカー!?ハッカーってあれだろ!?犯罪者だろ!?」

『君たちに素敵なプレゼントがあるんだ!明日EDENにログインしてね!絶対だよ!してくれなきゃ、ハッキングしちゃうよ!』

「やべ……こいつ本物……!?」

『じゃね!』

 

 そうして、言いたいことだけ言って、ナビットくんはチャットルームを出て行った。

 チャットルームの中では、未だ他の面々はナビットくんの言葉通り、明日行くか行かないかを話し合っていた。

 

『君子危うきに近寄らず』

『PASS』

『同じく』

 

 だが、大多数の面々は、どうやら行く気はないようである。

 まあ、それが普通だ。誰も好き好んでハッカーという犯罪者に関わるなどという馬鹿なことはしたくはないだろう。

 そうだよな、と。ホッと安堵の息を漏らしながら、青年は画面を見て――。

 

『行く!!』

「嘘だろっ!?」

 

 ――自分の幼馴染がそんな馬鹿な選択をしたことに驚いて。

 

『おれもいく!』

 

 慌てて青年は、自分も行くことをチャットで告げたのだった。

 

 

 これが、始まり。青年――神山来人の鮮烈で忘れがたい日々の開幕。

 

 




期末テスト期間の現実逃避から生まれた今作。
せっかくなので投稿することにしました。

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