【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
天王山とも呼べるドゥフトモンとの決戦。今はいよいよに迫ったそれを前にした、しばしの休息の時間だった。
各々が準備を整えたり、身体を休めたりしているそんな時間。その中で――。
「とにかくアミさん、一度しっかりと話してみたらいかがですか?」
「でも……」
――悠子は中野ブロードウェイ四階のカフェにてアミの相談に乗っていた。
内容はもちろん、ドゥフトモンとの決戦を前にしているというのに、未だぎこちない雰囲気が蔓延している来人との仲についてだ。
なぜこんなことになっているのか、と相談を受けている悠子自身も溜息を吐きたくなる。それもこれもノキアのせいだった。
『ごめん! あたしリベリオンズやハッカーのみんなに話を通しに行かなきゃいけないから、アミのことよろしくね!』
数分前のノキアの一言が思い出される。
こうなった原因はノキアの不用意な一言にあるというのに、それを解決するのが彼女ではないとは。いくら幼い頃よりの仲だとわかっても、これはどうなのだろうか。そもそも、昔からノキアは“ああ”だ。すべてが終わった後、少しばかりやってもバチは当たらないだろう。
悠子の中にさまざまな思いが湧き上がってきて、さらには黒い感情さえも湧き上がってくる。
「ゆ、悠子……?」
怯えたようなアミの声。
ハッとして悠子は正気に戻った。確かにやっていられないことだが、それでもやらなければならないのだ。これは杏子直々のお願いでもあるのだから。
「すいません、それで……アミさんはどうしてそんな不機嫌なんですか?」
理由はわかりきっているが、一応聞く。
悠子はわかっていた。自分の不機嫌な理由を他人にわかっているヅラされるよりは、自分から話す方がいいということを。
「別に、不機嫌なんかじゃ……」
「では、来人さんと普通にしてください。この後の決戦を考えれば、今のままだと不安が残ります」
「うっ……」
精一杯に普段通りだということをアピールするアミも、来人の名前を出された途端に言葉に詰まる。
だが、言いようがなかったのだ。言いようがない感情に襲われていて、彼女もうまく言葉にできないのである。
「何でだろう……助けに来てくれた時は嬉しかったのに、なんでか今は……その、気まずい、ような……いや、イライラする、ような……?」
アミは苦しそうながらも、疑問顔で言葉を発している。そこには嘘などなくて、本当に本心であることがわかった。
悠子は頭を抱えたくなった。まさか、ここからだとは。この調子だと、ノキアの言葉が原因だとも気づいてなさそうである。
「ノキアさんとオメガモンのばかっぷるもムカつきますけど……アミさんたちの天然かっぷるもイライラします」
「……ゆ、悠子?」
「さっさとくっつけばいいのに」
悠子とて、来人と出会ったのは最近だ。ユーゴとしての活動が長かった分、ノキアたちと違ってあまり会話した記憶もない。それでも、今までさまざまな人たちに出会って来た経験が、来人のアミに対する想いを見抜いていた。
露骨というほどではない。だが、アミも来人も互いに互いを贔屓しているのは明らかで、推測すればわかるくらいにはわかりやすかった。
「くっつく?」
「はぁ」
ついに悠子は堪えられずに溜息を吐いた。
視線の先には、なぜ溜息を吐かれるのかわかっていないアミがオロオロしている。これを、あと少しの時間で何とかしなければならいのだ。
なぜ独り身の自分がこんなことを。悠子のテンションは低かった。とはいえ、それで放棄しない辺り、彼女も人が良いと言える。まあ、黒さは見えるが。
「まず、一つ一つ行きましょう」
「う、うん」
「アミさん、いつからそんな感じになっているんですか?」
「えっ、いつから……?」
やる気なさげでいて、それでも確かに真剣な悠子の表情に押されて、アミは考え始める。
ロードナイトモン戦の前はいつも通りだった。罠に嵌っていた時もいつも通りだった。杏子の驚愕の事実を目の当たりにした時も、いつも通りだった。その後――そこだ。アミは気づいた。
「ノキアの言葉の時から?」
「なら、ノキアさんの言葉に原因があるんでしょう。ノキアさんの言葉は覚えてますか?」
「う、ん……えっと――」
思い出したくもなかった、そう言いたいかのような表情でアミは思い出す。来人に――幼馴染に、好きな人がいると言っていた彼女の言葉を。
「来人に、好きな人が……いるって」
「なら、そういうことですよ」
「……?」
「そ、そこで疑問顔を返されても困るんですけど……」
落ち込んだり、疑問を顔に出したり、忙しない様子のアミだ。
「どうして来人さんに好きな人がいるとアミさんは落ち込むんですか?」
「えっ……!? どうして? どうして……?」
「考えてください、さっさと、今すぐ、火急速やかに」
「ゆ、悠子の方が不機嫌なんじゃ……!?」
「いいから」
「は、はい!」
悠子に急かされ――というか脅されて、アミは思考をフル回転させる。なぜか先ほどからどんどん急降下していく悠子の機嫌を前に、アミは焦った。
アミとしてはこの持て余し気味の感情に戸惑っているというのが本音だ。戸惑っているのに、どうしてと言われてもそれこそ困る。困るが、悠子の視線を前にしては、そんな本音は萎んでしまう。
「うーん……あっ!」
「何か思いついたんですか?」
そういえば、とアミは思い出す。
「うん、似たような感じに覚えがあったよ」
「どこでですか?」
「えっとね――」
悠子に促されるままに、アミは話して行く。
以前のとある一件から暮海探偵事務所に――というよりは、来人のところに遊び来るひなという少女がいて、彼女と来人が一緒にいるところを見ると今と同じような気持ちになる、と。
「……」
「な、何?」
「いえ……」
話を聞いて、悠子は呆れてものも言えなかった。
そこまでいってどうして自覚できないのか、と。というか、幼い子に嫉妬し、その子供と同レベルの幼稚な独占欲を見せるのはどうなのか、と。
「アミさんって実は結構鈍感ですよね」
「いきなり貶められたっ!?」
「いえ、もしかしたら……誰からも好意を持たれるようなあなただからこそ、好意に鈍いのかもしれませんね」
「……?」
相変わらずアミは首を傾げている。
そんな彼女の姿を横目に見ながら、悠子はしばらく考えて――。
「とりあえず、今すぐに来人さんと話に行ってください」
――考えることを放棄した。
「うぇっ!? な、何とかしてくれるんじゃないの!?」
「やっぱり無理でした。あなたの問題は、やっぱりあなたたちが解決してください。ヒントは出しますから」
「ちょっ!」
アミにいくつかのヒントを話し、そのままカフェ店内から追い出す。
本当ならばいきなり答えを与えてもいいのだが、いち女性としてそれはいかがなことかと思い止まった悠子である。
なぜ鈍感な者に
だが、それもこれで終わりだ。ようやく解放される。そう思って、悠子は杏子に報告しに行く。
そして、そんな彼女を迎えるのは、労いのコーヒーという死刑宣告であるのだが、そんな彼女の未来はほんの余談である。
ともあれ、そんな悠子の一方で――。
「や、来人……」
「お、おう……」
――アミは中野ブロードウェイ内部を相変わらずのボロ布姿で歩いていた来人を発見していた。だが、二人の間に蔓延する空気は相変わらずだ。
「……」
何かを話そうとする二人。だが、いつも通りの言葉が出ない。
空気読まなくていいから何か話してくれ。思わず来人は内にいるカミサマに語りかける――が、カミサマはそんな彼の様子に気づいているのかいないのか、沈黙を貫いた。
「あー……ら、来人?」
「何だ?」
「……」
そこで黙るのか、と来人は叫ぶ。だが、対するアミは悠子のヒントを思い出している最中で、彼の思いは伝わらなかった。
ちなみに、悠子のヒントは――とりあえず思いっきりぶつかって来てください、だった。アミは思う。ヒントでもなんでもない、と。
「あ、あのな……アミ? えっと――」
「いるの?」
「は?」
「だから、その……好きな子」
結局、ヒント通りにアミは来人にぶつかる。
来人は頬を引き攣らせた。
「えー……あー……まぁ」
「……そうなんだ。私も知っている人?」
「まぁ、知ってるって言えば知ってる、か?」
「へぇ……? だれ? サクラ? ノキア? 悠子? やっぱりひなちゃん?」
「いや、違う……って、ひなはありえないだろ! やっぱりってなんだ、やっぱりって!」
「え? まさか杏子さん?」
「何でそうなる!?」
来人の否定の言葉に、アミは唸る。一体誰なんだ、と。
見れば、来人もだんだんと不機嫌になっているようにさえ見えて――アミは軽く落ち込んだ。やはり幼馴染相手でも詮索されるのは嫌なのか、と。
一方で、来人も少し苛立っている。なぜ、自分の好きな人に好きな人の詮索をされなければならないのか、と。
「いや、あのな……?」
「ごめん、ちょっと今は無理」
トボトボと歩き出したアミの後ろ姿に、来人は頬を引き攣らせた。あの感じは本当に落ち込んだ時の感じだ、と。
来人をもってしても何やらよくわからないうちに彼女は落ち込んでいて、だからこそ、彼はどうすればいいのかがわからなかった。
「はぁ」
悲しそうな溜息を吐いて、アミは歩いていく。
自分がこうなった時、いつもならば来人が励ましに来てくれるのに、今回はそれもない。ということは、本当は自分のことが鬱陶しく思われていたのだろうか――などと、彼女は落ち込む。
「……来人ぉ」
いつだって、気づけば一緒にいた。だから、このままずっと一緒にいられると思っていたのだ。だが、現実にそれは不可能だった。
それを思い知らされて、アミの目の前が滲む。彼女自身もわかっていないほど、今の彼女の心境は今までにないほどに不安定だった。
そんな時だ。「あぁ、もう!」耐えられなくなったかのような来人の声が、彼女の耳に届いた。
「来人……?」
「う……」
声を上げた来人はアミに駆け寄る。
駆け寄って、その酷い顔に思わず唸った。彼女にそんな表情をさせているのが、自分だとわかっているからだ。
「……あれだ。そりゃ、俺が何かしたんだろ? それは謝るから――」
「来人が悪いんじゃないよ!」
「え?」
「悪いのは、よくわからない私だから……だから、大丈夫」
「嘘だろ。大丈夫じゃないことくらいわかる。勘だけどな」
来人の言葉に、アミは力なく笑う。やはり嘘は無理だ、と。
同時、来人が自分を気にかけてくれているという事態に、彼女は僅かながらに喜んでいた。
「……俺が関係してるんだろ?」
「……うん」
本人に言うのは憚られた。だが、まっすぐと自分を見てくれる来人の姿が嬉しくて――結局、アミは少し躊躇ったものの白状した。今の自分の状況を。
「来人に好きな人がいるって聞いた時、すっごく悲しくなったんだ」
「ああ、うん……」
「それで……ごめん、私もどうして今みたいなことになってるか、よくわからないんだ。私はただ、来人と一緒にいたいだけで……え?」
「……ん?」
何かに気づいたのか、それまで静かに語っていたアミの言葉が途切れた。
見れば、彼女は自分で言っておきながら、自分で言ったことに信じられないような表情をしている。まあ、一方の来人も聞き間違いを考えるほどには、信じられなかったのだが。
「え? あれ、ん……? 来人に好きな人がいるからって、来人と一緒にいられないわけじゃないよね? えぇ!? ちょっとまって、ん? え、あ、う?」
「いや、ちょっと落ち着けよ」
自分で漏らした言葉によって、アミは混乱する羽目になっていた。
その様子たるや、来人に今の彼女の状況を考えさせないほどで――。
「私は来人と一緒にいたくて、でも、好きな人がいるからそれは無理で……え? んん?」
――というか、混乱しすぎてオーバーヒートを起こしていそうなほどだった。
周りの客の人々が面白半分に見ていくほどには、彼女の百面相は面白いものだったのだ。
「どういうこと……?」
ポツリと呟かれたアミの言葉。彼女の混乱ぶりがよくわかる呟きだ。
「いや、探偵なんだから自分で考えろよ」
一方で、来人も混乱から意味不明なことを言ってしまったのだが。
「そっか、そうだね……えぇと……」
「……」
アミは来人の言葉に律儀に考える。
考えて、思い出した。悠子がくれたヒントを。
「そう、なんだ。そうだよね。来人!」
思い出したからこそ、今さっき気づいた感情を素直に伝える。
悠子のくれたヒント故か、少し力んでしまっていたが。
「私は来人にはこれからもずっと私と一緒にいて欲しいみたいなんだ! 誰かの隣じゃなくて、私だけの隣にいて欲しいの!」
「……お、おう」
言われた言葉に、一瞬だけ来人は戸惑った。
まさか、今のは俗に言う告白なのだろうか、と。それにしては勢いづいているというか、自棄糞気味というか、何と言うか。
「……そ、それで、どうかな? やっぱり……その、ダメだよね……」
答えを気にしている辺り、やはりそう受け取っていいのかもしれない。
来人はしばらく考える。だが、答えは決まっていた。
「あのさ、できればすぐに答えを返したい。これ、ずっと待ち望んでた場面ではあるから。ずっと想ってた人に、そう言ってもらえたんだし」
「えっ!? それって……ん? えぇぇぇぇ!?」
来人の言葉の意味がわかって、アミは驚愕する。
一体、いつから――そう思うが、そんな彼女に構わず、来人は言葉を続ける。
「けど、悪いけど……少し待ってくれ」
「……?」
「今の俺はアイギオモンとしての来人なんだよ。だから、全部終わって、俺が人間に戻ったら……人間“神山来人”として、もう一度言う。だから、それまで待っててくれ……!」
本当ならば、来人はそのつもりだった。自分もアミも本来の身体に戻って、何も背負うものがなくなった時――その時こそ、来人は告白しようと思っていたのだ。
まあ、そんな彼の予定はアミの自爆というか、ノキアの天災というか、そんなものによって台無しとなったのだが。
「――わかった」
「ああ、ごめんな」
渋々と納得したアミに、来人は苦笑して返す。
そんな彼女は暮海探偵事務所に戻ろうと歩き出そうとして、その前にもう一度来人に向かい合う。
「……来人に言われて気づいたけど……私、来人のこと大好きみたい。……ん? えっ!?」
自分で言っておきながら、なぜ驚くのか。
そんな来人の呆れた視線の前で――。
「……そ、それじゃ、後で!」
――アミは恥ずかしそうに駆けて行ったのだった。
「……アイツ、自分の感情に気づいてたわけじゃないのか? これって俺が自爆したのか、アイツが自爆したのか……」
『まぁ、何にせよよかったではないか。大事にするのだぞ?』
「カミサマだけには言われたくないな……」
『ところで、ずいぶんとまどろっこしいものだ。人間の愛し合いはこのようなものが普通なのか?』
「……俺が知るかよ」
――後に残ったのは、振り回された挙句に疲れた来人と空気を読んでいたカミサマだけだった。
一方で、来人たちがそんなことになっていたその頃のこと。
「っぐ! 貴様は――!」
「ふん。こんなものか。イグドラシルの世界の守護者は。やはり新しいだけが取り柄のガキだな」
黒い神が白き飛龍の聖騎士――デュナスモンを追い詰める。
「ふざけるなっ! 貴様……どういうつもりだ。我々を邪魔することがどういうことか、わかっているのか!」
「無論だ。そうでなければこうしていない」
「貴様ァ……守護者としての誇りを捨てたか! そうしなければ、世界は滅ぶのだぞ!」
「誇りだのなんだの……正義を前にそんなものは意味のないものだ」
黒い神は嘲笑う。自らになすすべない弱い聖騎士の存在を。
そんな“敵”の姿を前に、デュナスモンは憤り――。
「……! ならば消えろ。“ドラゴンズロア”!」
――全身全霊を込めた必殺技を放つ。
放たれたのは、強大なエネルギーが秘められたエネルギー弾。並のデジモンでは消滅必至のソレが、黒い神めがけて突き進む。
だが。
「無駄だ」
だが、腕のひと振り。たったそれだけで、それほどのエネルギー弾は消滅した。
「ふん。まぁ、そこそこか。再現するのに苦労しただけあって、なかなか好調だ。これならば、いけるか?」
「無傷……!」
自らの必殺技が通用しなかった事実に、デュナスモンは苦い顔をする。
もはや、出し惜しみしている場合ではなかった。目の前の黒い神は、命を賭して倒すべき相手だと認識した。デュナスモンは内心で静かに謝罪する。今は亡き同胞たち、そして最後のロイヤルナイツであるドゥフトモンに、人間界を滅ぼすという使命の途中でこの命を使ってしまうことを。
「っく……まだだぁああああああああああ! “ブレス・オブ――」
今の今まで貯めていた全エネルギー、そして自らを構成するデータさえもエネルギーに変える。正真正銘、全身全霊の――命を放つ技だった。
「――ワイバーン”!」
放たれたのは、竜。
正確には、竜型のオーラである。だが、竜そのものとしか見えないほど強大なまでの力を放っていた。それもそうだろう。これはロイヤルナイツがデュナスモンがその命を使い果たして全身全霊で放つ技。それがただの技で収まり切るはずがない。
「ぉおおおおおおおおおお!」
「ぁああああああああああ!」
黒い神に竜が衝突する。
瞬間、世界を揺らすほどの凄まじい力が発生した。それは、この世界にいる強者たちがどこにいても気づいたほど。
「はぁっ……はぁっ……」
命を使い切ったデュナスモンだ。その存在はもはや保てない。ゆっくりと光となって消えていく。
「仮にも世界の守護者となるだけのことはある、ということか。安心しろ。その命は我の糧とする」
「ッ――!」
瞬間、デュナスモンはこの世界から消えた。
というわけで、第百一話です。
……まぁ、アレですね。
最終決戦に突き進む前のやっておかなければならないことの決着です。
とりあえず、一番の被害者は悠子とデュナスモンの二人。
鈍感とコーヒーの二連撃の悠子と、ろくに出番もなく消えたデュナスモンでした。
さて、やることやったところで、次回から最終決戦に向かいます。
それでは次回もよろしくお願いします。