【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第百二話~人間を捨てた少年~

 紆余曲折あったものの、来人たちは作戦開始に向けて動き出した。

 やって来たのは東京新都庁。日本最大規模の行政機関であるだけあって、かなりの高層ビルだ。だが、普段は見上げるほどのビルであるそこは、見上げるほどのデジタルシフトによって電脳に侵されていた。

 さらに、蔓延する強大な力に惹かれたのか、凶暴かつ強力なデジモンたちが集結しているらしく、自衛隊員たちとの散発的な戦闘すら始まっているようだった。

 そして、このビルの屋上階付近に、強力な力場とエネルギー反応がある。おそらくはドゥフトモンだろう、とアタリがつけられた。

 

「マグナモンたちが戦闘の拡大を抑えてくれているようだが、長くは持たないだろう。規模が膨らむのは時間の問題だ」

「なら、早く行かないとな。飛べる組で飛べない組を抱きつつ直接屋上に乗り込むか?」

「いや。強力な力場が周囲の空間すら歪曲させている。あそこに直接行くのは我々ならともかく、アミたちには不可能だ。時間はないが、内部から上がるしかないだろう」

 

 杏子の言葉には、来人たちも歯がゆい思いをするしかなかった。

 この時間のない時に限って、ビルを内部から駆け上がらなければならないとは。だが、言ったところで始まらない。来人たちは新都庁ビルへと突入した。

 

「これは……」

 

 ビルの中はデジタルとリアルが交差した光景――アミたちがある意味見慣れた光景となっていた。

 いつもと違うのは、その光景のところどころに人間が倒れているということくらいか。

 

「っ」

「……!」

 

 アミと悠子が息を呑む。思わず駆け寄ったが、既に彼らは事切れていた。彼らはEDEN症候群となって倒れているのではない。本当の死を迎えたから、倒れていたのだ。

 今までデジモンが死ぬところは何度も見てきた。人がEDEN症候群となるところも何度か見てきた。だが、やはり人間の死は別だった。

 

「……行こう」

「はい……」

 

 まざまざと死を見せつけられ、アミたちの中に得体の知れない感情が溢れる。それでも、足を止めるわけにはいかなかった。

 もうこのような光景は終わりにしなければならないから。その意思でもって、臆しそうになった自分を叩き上げ、進む。

 

「エレベーターは……これ、動いているか?」

「空間歪曲の影響で階層が妙なことになっているな。だが、問題はないだろう」

 

 エレベーターが動いているというのは不幸中の幸いだった。物理的に入ることのできない杏子をデジヴァイスの中に収納し、エレベーターに乗り込む。

 このエレベーターはデジタル制御のため、この状況下で少しおかしなことになっているが――そこは悠子がハッキング技術で何とかした。

 ボタンを押し、最上階まで行く。少しの浮遊感と共に、エレベーターは昇る。

 

「……」

「……」

 

 いつもならば何とも感じないたった数分間の時間が、ことさら長く感じる。

 早く、速く、はやく。アミたちは静かにその時を待って――そして、エレベーターは自らの仕事を完遂する。やって来たのは、屋上階一歩手前の最上階。

 目の前に広がる光景は不可解そのものだった。彼方此方がデジタルに侵され、空間が歪み、まるで迷路のよう。というか、半ば迷宮と化していた。

 

「行こう!」

「はい!」

 

 勢いのままにアミと悠子は駆け出した。この時間のない中で、彼女たちがヤケになっているように見えたのは――来人と杏子の勘違いだろうか。

 

「天井をぶち抜いた方が早い気がする」

『いっそ暴力的な解決だが……確かに、そう思えなくもないな』

「ふふ。まあ、彼女たちの思う通りに行かせてみようじゃないか」

 

 苦笑いをして、来人たちはアミたちを追う。

 数十分かけて、アミたちはこの歪曲した空間迷路を踏破していく。

 

「はっ……はっ……」

「ふぅ……ふぅ……」

 

 屋上階への入口――つまり、この迷路のゴールにたどり着いた時には、アミたちは息絶え絶えになっていた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 声をかけながら、来人は息を整えているアミを支える。アミは少し嬉しそうにしながら、「大丈夫」と言い切った。

 

「……天然っぷる」

 

 恨めしそうな悠子の黒い声が聞こえたが、それは無視するアミだった。

 何はともあれ、悠子とアミの二人が息を整えるのを待って、全員は屋上階へと突入する。目的とする相手は探すまでもなかった。屋上階の最も上であるヘリポートの部分、そこが太陽と間違うほどに輝いていたのだ。

 隠れる気もないようなその様には、ドゥフトモンの自信が見て取れる。

 

「行こう」

 

 気を引き締めて、アミたちはそこへ上がった。

 案の定、ドゥフトモンはそこにいた。ヘリポートの中心で目を閉じ、静かに瞑想しながらエネルギーを受け取り続けている。漏らしたエネルギーが凄まじい余波となって、周囲に渦巻いていた。杏子でさえただでは近づけないほどの、凄まじい力だった。

 だが、一つだけ。たった一つだけ、想定外のことがあった。それは――。

 

「よう、やっぱ来たな」

 

 ――この場にいたのは、ドゥフトモンだけではなかったということだ。

 アミたちを迎えたのは、エネルギー供給に全霊を注いでいるドゥフトモンではない。アラタだ。

 

「奴ならまだ充電中だ。満タンになったら喰ってやろうと思って待ってたのさ。ま、今もチマチマとおこぼれにあずってるんだけどな」

 

 おこぼれ、とはこの空間に溢れ出ているエネルギーのことだろう。

 アラタは着実に力を溜め、それでいて最後にメインディッシュとしてドゥフトモンを喰らうつもりなのだ――と、そう考えたアミたちだが、違った。

 

「俺はお前を待ってたんだよ。アミ」

「えっ!?」

「お前も思い出したんだろ? 笑えるよな……俺、ちょーだっせーでやんの。ただただビビってさぁ。怖くて震えて、友達を見捨てたんだ……!」

 

 憎しみの込められた声だった。ロードナイトモンたちと同じ、それでいて違う、自分に対する憎しみの込められた声だった。

 悔しかったのだろう、怖かったのだろう、苦しかったのだろう。すべてを思い出した今、アミと悠子もそんな彼の気持ちが多少なりともわかった。

 

「でも、やっとここまで来た。くって食って喰いまくって、やっと力を手に入れたんだ……! 今なら、何でもできる。今なら……!」

「アラタ……待ってよ! そんな力じゃなくても、きっと勇吾は助けられ――」

 

 アミの言葉は続かなかった。

 アラタは静かに首を振って、その異形の右腕を構える。ドクンッ、と右腕が脈打った。

 瞬間、光がアラタを包む。それはまるでデジモンの進化にも似た光で、ある意味同種の光でもあって、だけどそれとは全く別の光だった。

 

「あ、ラタ……?」

「アラタさん!?」

 

 アミと悠子の驚愕の声が辺りに響く。声に出さずとも、来人と杏子、カミサマも同じ気持ちだった。

 光を振り払って現れたのは、アラタ――ではなかった。人型のイーターだ。だが、今までの人型イーターとは一線を画すその姿、その圧力に、この場の誰もが絶句する。

 

『進化した……これがイーターの辿り着く果てだとでも言うのか?』

 

 ようやく捻り出したカミサマの呟き。それに応えるように――。

 

「まだダ。コンナもんじゃねぇ」

 

 ――アラタだったイーターは動き出した。

 

「俺の邪魔をしないでクレ。俺の前から消えテくれ。俺の過去を見ないでくれ。もう一度、やり直させてくれ。惨めな俺を、見ないでクレ……頼む、カラサ……トモダチ、だろ?」

 

 来人は辛そうに首を振った。勘の鋭い彼にはわかっていたのだ。もはや、彼は彼ではないことに。最後の一線を越えてユピテルモンとなってしまったかつての自分のように、彼も一線を越えてイーターとなってしまった。

 彼の記憶と感情がイーターとしての存在に何とかへばりついているだけで、彼自身であるなどとは口が裂けても言えなかった。

 

「トモダチならさ……頼むから、オマエノチカラ、ヲ……オレニクレ」

「っ! アミ!」

 

 瞬間、イーターが駆ける。即座に戦闘の気配を読み取った来人はアイギオテュースモン:ホーリーに進化しながら、その前に立ちはだかる。

 もし来人が対応していなければ、アミは喰われていただろう。イーターの一撃には、友達に対する何かはなくて、ただエサに対する何かだけがあった。

 

「オマエもオレにクワレてクレル、ノカ?」

「っち。全然効いてない……たぶん究極体……ってかロイヤルナイツ並だぞコイツ!」

『お前は我ら側なのだから、そこはオリンポス十二神並と言え!』

「そんなところで対抗するなっ!」

 

 イーターと戦う来人はその強さに舌を巻く。確かに、ロイヤルナイツの一角を喰ったとは聞いていたが、まさかこれだけの力を持っているとは。

 完全体であるアイギオテュースモン:ホーリーではさすがに勝ち目がなさそうだった。

 

『無理そうなら代わるか?』

「いい! これはアミや俺が戦うべきだ!」

 

 先ほどとは一転したカミサマの気遣いを来人は断った。

 メギドラモンの時と同じだ。例え勝ち目がなくとも、これは自分たちの戦いだったからだ。ただ勝つだけならば、ラースモードになればいい。だが、それではダメなのだ。

 来人の求める結果のためには、今回は勝敗を超えなければならない。そのためには、来人は友人として戦わなければならなかった。

 とはいえ、鍵となるのは来人ではない。

 

「アラタ……!」

 

 アミだ。

 来人とイーターの戦いを見ながら、アミは呆然とする。

 変わり果てた友達の姿が、アミは苦しかった。どうして、自分たちを頼ってくれないのかと――以前の来人にも感じた想いを抱く。

 抱きながらも、どうしようもできない。以前の来人の時とは細やかな状況が違う。

 アミはデジモンたちをデジヴァイスから出した。ベルスターモンにラピッドモン、ロゼモンとガンドラモン、そしてメギドラモン。出し惜しみなしのフルメンバーだ。

 

「あぁん、もう! 男ってどいつもこいつもアホばっかりねー!」

 

 出されていの一番に、ロゼモンが叫ぶ。デジヴァイスの中から一部始終を見ていたからこその言葉だった。彼女の脳裏にあるのは、来人にアラタに――アミに迷惑をかける男どもの姿だろう。

 

「えっ、そんなことないよ~」

「アホの何が悪いんだよ!」

 

 一応、男として男性人格を持つラピッドモンとメギドラモンが抗議するが、聞き入れられなかった。

 ちなみに、姿とは裏腹に男性気味の人格を持つベルスターモンは沈黙を貫いていたのだが、それはほんの余談である。

 

「シッカリト前ヲ見テクダサイ」

 

 この場においておふざけが過ぎるガンドラモンからの叱責が飛んだ。

 

「お前ら、出てきたなら手伝え!」

 

 必死になってイーターと戦い続けてる来人からの叫びが聞こえた。

 来人のことは割とどうでもいいものの、彼に何かあればアミが悲しむ。渋々と、本当に渋々とロゼモンたちは臨戦態勢をとった。

 

「私たちも行きます……!」

「ォオオオオオ!」

 

 次いで、悠子とガイオウモンが声を上げる。

 ドゥフトモンとの戦いを前に、アラタとの決着が先になりそうだった。

 




ともあれ、第百二話。

見たら一万字近かったので、分割。そして例によって同時投稿です。
ドゥフトモン戦前の、アラタ戦です。

それでは同時投稿の次話もよろしくお願いします。
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