【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
前話をご覧になっていない方は、そちらからよろしくお願いします。
デジモンたちが各々の武器を手にアラタだったイーターを攻撃する。
ベルスターモンとガンドラモンが弾丸を放った。銃声と共に放たれた弾丸はイーターにぶち当たって――鈍い音が辺りに響く。弾丸が貫通することはなかった。
「なら、これでどうだっ!」
「おらぁ!」
来人とメギドラモンが拳を繰り出した。鈍い痛みが走る――来人たちの腕に。見れば、イーターは何ともなさそうだった。
自分たちの攻撃が全く効いていない事実に、来人たちは僅かに顔を顰める。だが、これはこれでいいのだ。来人たちは、囮なのだから。
「アミに迷惑かけるのやめろよ~!」
「男なんだから、メソメソするのやめなさいってば!」
来人たちによって生まれた隙、そこをロゼモンとラピッドモンの二人が突く。高速に動き回りながらイーターを翻弄し、戦闘の主導権を奪い続ける。その中で、力を貯め――。
「えいっ!」
「や~!」
――瞬間、鋭い破裂音と爆音が鳴り響いた。
攻撃が入ったという実感はあって、これ以上なく二人は確かな手応えを感じていた。
だが。
「アア、イテェナァ……」
だが、イーターの身体には僅かな傷がついているだけ。たったそれだけだった。
「アミさんたちだけに任せるわけにはいきません、次は私たちの番です。ガイオウモン!」
直後、悠子の指示が辺りに響いた。
だが、それは次に来る攻撃がガイオウモンから来るものだと知らせるようなものだ。イーターはガイオウモンの姿を探す。が、見つからない。
「……?」
疑問に首を傾げるイーターは、その瞬間にようやく気づく。目の前に、拳を振り抜こうとしているメギドラモンの姿があったことに。
「若干卑怯臭いなー……オラァっ!」
「グッ!」
イーターは殴り飛ばされた。
見れば、悠子が騙される方が悪いんですよ、とでも言いたげな顔をしている。ちなみに、その横にいるアミは引いていた。
とはいえ、先ほどの嘘ではない。なぜならば、ガイオウモンは二刀を構えて攻撃の準備をしていたのだから。
「ハッ! “燐火斬”!」
ガイオウモンがその二刀を振り抜く。気合と共に振り抜かれた二刀が鋭く煌く。放たれた十字の妖しい斬撃はイーターを深々と傷つける、なんてことはなかった。
イーターの身体に当たった瞬間に、僅かな傷をつけただけで斬撃が霧散したのだ。それが何らかの特殊能力によるものであったのならば、どれだけ良かっただろうか。この場の誰もが信じたくなかった。それがただの素の防御力によるものだとは。
「ハジメニクエル……ノハ、ダレダ?」
瞬間、イーターが攻撃に転じる。駆け出したまま、身近にいたガイオウモンに襲いかかる。
「やらせると思うか?」
「誰一人食ベラレルトハ、思ワナイコトデス」
ベルスターモンとガンドラモンの声と発砲音。
イーターはガイオウモンに襲いかかったつもりで、無数の弾丸に襲いかかられた。とはいえ、効かぬ攻撃で生まれる時間などほんの一瞬だ。
その僅かな時間で、ガイオウモンはその場を離脱する。
「アァ……アァ! クワセロ……クワセテクレヨ……!」
アラタは苦しそうに叫んだ。
「固いな……通常攻撃はほとんど効かないぞ」
『となれば、全力の必殺技くらいしかないだろう。が……さすがにそれはキツイやもしれぬな』
カミサマの言うキツイとは、アラタが耐えられないという意味だった。来人たちの意を汲んでの発言である。彼もわかっていたのだ。来人たちが、アラタを殺さないように手加減していることは。
そして、それは杏子も同じだ。黒い聖騎士として、本当は今のアラタだったイーターを殺すべきだと考えている。彼女が手を出さないのは、単にアラタを助けたいというアミたちの意思を尊重しているからだ。
「……でも、それはきっと向こうも同じだろ。馬鹿な奴だよ」
確信を持って呟かれた来人の言葉に、カミサマは薄く笑う。
ならば、どうする。カミサマは来人に問いかける。
「とりあえずぶん殴っとけばどうにかなるだろ。少なくとも、メギドラモンの時よりはずっと楽にどうにかできる」
『荒っぽいことだ。だが、子供の躾にはちょうどいい!』
「はっ! 今時そんな荒親いないと信じたいけどなっ!」
来人は飛び出した。同時に、他の面々と目配せする。来人の表情から全てを悟ったのか、それとも自分たちも同じことを考えていたのか、全員が同じような苦笑の表情で頷いた。
「ラァッ!」
気合と共に、来人は拳を振り抜く。
鈍い音が鳴った。来人の腕とイーターの顔面の両方から。
「アァァ……アア!」
理解不能の言語を発しながら放たれたイーターの拳を前に、来人はその場でしゃがむ。
急に体勢を低くした来人を探してのことだろう。イーターの視線が下に下がる。瞬間、ガンドラモンとベルスターモンの銃が火を噴いた。
「……!?」
唐突な銃撃に、下げた視線を再び上に戻す。イーターは見た。輝く光の帯を残しながら高速で移動するラピッドモンの姿を。
だが、見切れないほどではない。イーターは迎撃のために動く――瞬間、その身体をガッシリと誰かに掴まれた。誰か、ではないか。言うまでもなく来人だ。
一瞬だけ、イーターの動きが止まる。
「まずは~一発!」
その一瞬で十分だった。ラピッドモンは急接近し、そのまま全力で拳を振り抜く。鈍い音がして、イーターは殴り飛ばされた。
「次に一発」
「デス!」
殴り飛ばされたイーターの先で、ガンドラモンとベルスターモンが拳を振り抜いた。再びの鈍い音がして、さらに甲高い銃声音もオマケについて、イーターは再び吹っ飛ぶ。
「三回目にィ――」
「一発ダ!」
その先にいたのは、メギドラモンとガイオウモンだ。鍛え抜かれた技でもって振り抜かれたガイオウモンの拳が、回転して勢いづけたメギドラモンの拳が、イーターを打ち抜く。
「グ、ガッ!」
再三に渡るダメージを受けてさすがにうめいたイーター。彼の視線の先にいたのは、良い笑顔で笑う来人だった。
「……!」
「これが、最後! 一発くらっとけ!」
全力で振り抜かれた来人の拳が、それまでのダメージと相まってイーターに突き刺さった――。
「あ、後で多分もう数発殴られるだろうから、覚悟しとけよ。アラタ」
――そんな来人の声を聞きながら、イーターは久しぶりの地面に再会した。
「ゥ……ァ……オレハ、オレハ……チカラを……力を……」
イーターは力なく起き上がる。いっそ哀れみを誘う姿だった。
そんなイーターに、アミは近づく。そして、目の前にそびえ立つ不安に立ち止まった。アミには彼を救う手立てがある。だが、不安だった。自分の声が彼に届くのか、と。
「……」
来人の時とは根本的に違う。彼は望んでこうなった。そんな彼に自分なんかの声が届くのか。彼の悲痛な思いを知っているだけに、そして半ば共感できるだけに、アミは足を止めていた。
「ま、大丈夫だって」
「あ、来人……」
そんなアミを見かねて、来人は声をかける。“たかが”それくらい、何でもないと言うかのように。
「お前なら……届くさ。あんまり自分を過小評価すんな。神様に為りかけてた俺にだって届いたんだからな」
「でも、アラタは……」
「友達なんだろ?」
「……! う、ん……」
「俺の勘が言ってるから大丈夫だって。お前の声はアイツに届くよ」
「……うん!」
見渡せば、杏子と悠子が力強く頷いてくれて――アミは苦笑した。
つくづく自分は来人が、いや、誰かがいなければダメなのだ、と。支えてくれる者たちがいて、それで初めて自分は何かを出来るのだ、と。
そんな自分が情けなくもあり、誇らしくもあり、複雑だった。だが、それでも構わなかった。
やることは決まった。覚悟を決めた。苦しみの中にいるアラタを助け出す。躊躇している暇はない。伝えるのだ。誰かが共にいるというその意味を、一人でやろうとするアラタに。
「絶対に助けるから……!」
自分は一人ではない。来人がいて、杏子がいて、悠子がいて、ノキアがいて、デジモンたちがいて――多くの仲間の思いと共に、アミはイーターを通じて電脳化しているアラタの中へとコネクトジャンプした。
悠子の時と同じだ。見える光景は真っ直ぐで、それでいて複雑難解な心の迷路。
『また俺のみっともねぇ姿を笑いに来たのかよ』
「待ってて……!」
『お前はすげぇよなぁ。いつだって正しいことを目指せて、それで正しいことができちまうんだ』
聞こえてくるのは、アラタの心の声だ。
感じるアラタの卑屈な感情にアミは身を切られそうになる。誰かを羨む強い感情、同時に劣っている自分に嫌悪する感情――心の中にいる分、アラタのその感情がアミにダイレクトに届く。
痛々しいまでの自傷の感情に襲われ、逃げ出したくなる。そんな自分を押さえつけて、アミは進んだ。
『けど、それができねぇやつだっているんだよ。俺みてぇに。また……俺はダチを助けられねぇのは嫌なんだ。なりふり構わねぇと、俺は何もできねぇんだ』
『バカだよなぁ。俺、大事なこと忘れちまってて……勇吾を見捨てた決断さえも忘れて……ほんと、みっともねぇ』
進むたびに聞こえてくるアラタの自嘲は止まらない。
いや、どんどん酷くなっていくようだった。これが彼の心だというのならば、その奥底はどれだけのものなのだろうか。
『っ、うるせぇ! 来るんじゃねぇ! 俺に構うな! 説教だろうが慰めだろうが、もうたくさんだ! 他にどうすればよかったんだよ、俺は、俺は……!』
『俺みたいな凡人のガキは、末堂みたいな天才に敵わねぇ! お前みたいに誰かが手助けしてくれるわけもねぇ! 来人のやつみたいに偶然に恵まれるわけもねぇ!』
『力が欲しけりゃ、天才に尻尾を振らなきゃなんねーんだよ! 勇吾を救うのに、他に何がいるってんだよ……』
拒絶が酷くなる。まるで広大な海の中を流れる海流に逆らっているかのように、アミは自分という存在が押し戻されようとしているのを感じた。それでも、ただ進む。拒絶に抗って、手を伸ばす。
『こんなザマで、どのツラ下げてお前らに会えばいいんだよ……帰れねぇんだよ』
最後の最後に消え入りそうな声で聞こえたソレ。それこそ、彼の本心であるような気がしてた。
アミは静かに目を瞑る。そして、再び目を開いた時、目の前あったのは心の奥底。そこの中心に、アラタは迷子の子供のように立ち尽くしていた。
ふと、アラタがアミに気づく。だが、彼が何かを言う前に――。
「いい加減に……してっ!」
――アミは彼を殴り飛ばした。
直後、視界が開ける。アミは現実世界へと帰ってきて、そこには人間へと戻ったアラタが呆然と立っていた。
「アミ!」
戻って来たアラタとアミの姿に、来人たちは一様に安堵の息を吐く。
「お、お前!? 何で連れ戻しやがった!?」
だが、そんな来人たちの安堵を吹き飛ばしたのは、アラタの怒鳴り声だった。
そんな罪悪感と逆ギレが入り混じったようなアラタの様子に、来人たちはおおよその事情を察する。すなわち――完全に力づくで連れ戻してきたんだな、と。
ちなみに言っておけば、一発殴ってイーターとアラタが分離したのは、アミにとっても予想外だった。
「何で? それを聞く?」
「ハァッ!?」
アミの答える気のない様子に、アラタは彼女の胸ぐらを掴む。だが、そんな状況にあって彼女は真っ直ぐにアラタを見つめるだけだった。
「ワケわかんねーし意味わかんねーんだよ! 何とか言えよ、じゃねぇと俺、俺――!」
「……なんとか」
「っわかった。あぁ、わかった。おたく、言う気ないだろ」
「もちろん」
「……!」
ギリギリと歯ぎしりをしながら、アラタは苛立った様子を見せる。
対するアミは不機嫌さを隠そうともせず、アラタを見つめているだけだった。
「こ、これは……杏子さん、来人さん……」
「好きにやらせとけ。どうせ茶番だから」
「ほう? 君にはそう見えるのかね? ふふ……実に探偵向きではないか」
「ま、勘だけどな」
慌ててるのは悠子だけで、それ以外の外野はリラックスして事の成り行きを見守っている。
彼らにはわかっていたのだ。あっさりとイーターとアラタが分離したということが、何を示すのかということが。
そんな外野はともかくとして、アラタにずっと胸ぐらを掴まれているアミは彼に問う。いいか、と。
「は?」
それは、そろそろ胸ぐらを離してくれという意味ではなく――。
「ぐぼっ!」
――殴ってもいいか、という問いだった。
まあ、答えを聞く気のない問いかけだったのだが。
「何しやがる!」
「今までバカして心配させた分。一応、後はノキアと悠子の分があって、ノキアはオメガモンに殴ってもらうって。……私も来人に殴ってもらえばよかったかな」
「死ぬわ!」
今のアラタは人間に戻っている。デジモンに殴られたら、さぞグロテスクなことになるだろう。その未来を想像して、アラタは叫んだ。
「……本当に、バカばっかりだよ」
ポツリとアミは呟く。
アラタはなぜと問うが、アミの行動理由など言うまでもないほどに単純だし、ある意味アラタと同じだ。
友達を見捨てられないから、たったそれだけだったのだから。
というわけで、第百三話。
アラタ戦、決着。
別名、全員でフルボッコの回でした。
二話同時投稿の今日でしたが、最終話まであと少し。
これからは(これからも)こんな感じで二話同時投稿が多くなると思います。
いや、一万字を超えるような回が多くなっちゃってるんですよね。ですので、分割して、同時投稿していきます。
さて、次回。
いよいよドゥフトモン戦――を、その前のアレコレから二話に渡って続けていきます。
それでは次回もよろしくお願いします。