【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第百四話~目覚めるは獅子なる騎士~

「あー……まぁ、漫才はそこら辺で終わりでいいか?」

 

 頃合を見計らった来人が、アミとアラタの茶番を止めさせる。

 平時ならばいくらでもやってくれて構わないが、緊急性を要する今だけは止めてくれ、と。

 そんな建前で止めさせた。

 

「あ、そうだね。ドゥフトモンをどうにかしなきゃ……っ!?」

 

 来人の言葉にアミも頷いた。頷いて、その瞬間のことだった。

 

「アミ!?」

 

 一瞬、アミの身体が霞んだ。力が抜けたように、彼女は倒れる。慌てて来人が支えたが、彼女自身も自分の謎の不調に驚いているようだった。

 

「大丈夫か……!?」

「だ、大丈夫……」

 

 支えられながら、アミは立つ。

 来人だけではなく、この場の全員がそんな彼女の姿を驚愕と心配の目で見ていた。

 

「大丈夫、大丈夫だから……とにかく、ドゥフトモンを――」

 

 アミは自分に言い聞かせるように呟いていた。

 そんな彼女の姿を、来人は厳しい目で見ていて――。

 

「っ!」

 

 ――直後、それどころではなくなった。

 この場の誰もが感じられるほどの急激なエネルギーの高まりに、轟音。見れば、ドゥフトモンが立ち上がっていた。

 

「ぶるぁあああああああああ!」

 

 ノキアは間に合わなかったのか――動き出したドゥフトモンを前に、アミたちの脳裏に最悪の展開が過ぎる。全員が厳しい表情だったが、それでも諦める訳にはいかなくて、最後のあがきをしようとしていた。

 

「それじゃ、皆やっちゃってー!」

 

 そんな時だった。ノキアの声が辺りに響いたのは。

 瞬間、ドゥフトモンの周りに線が走る。幾百幾千のか細い線が。

 

「ぬ、ぬぉおおおおおおおおおお!?」

 

 だが、一つ一つが細くとも、これだけ集まれば無視できないレベルのものとなる。

 まるでドゥフトモンを縛り付けるように走るその線は、ドゥフトモンの力を奪い取る鎖だった。無残にロイヤルナイツたちに利用され続けてきたハッカーやテイマーたちの抵抗の証だった。

 作戦が上手くいっている手応えを感じる中、最後の一人――ノキアが通信状態にしたデジヴァイスを持った状態で、オメガモンを伴ってアミたちの前にやって来る。

 

「へっへっへー。おっまたー! みんなのアイドルなノキアっちだよ! ちょっち遅刻気味だったけど、結果オーライ的な?」

 

 ピースサインをするノキアは良い笑顔だった。

 ハッカーやテイマーたちをこの作戦のためにまとめるという大役を果たすことができて、興奮気味だったのだ。

 

「しかし、通信を使った指示出しならば、私たちと合流してからやる必要はなかったのでは? 作戦実行してからの合流でも大丈夫だったでしょう?」

「え……?」

 

 まあ、そんなノキアの笑顔は悠子の一言で凍りついたのだが。

 

「もしくは準備が整った時点で私たちに連絡をくれれば……タイミングを合わせて合流することもできたはずです。ですよね?」

「……うん? ……あれ……でも、作戦会議で言ってなかった? 準備でき次第合流するって」

 

 記憶と違う――ノキアは焦る。

 ちなみに言えば、作戦会議で合流のことについては一切触れられていなかった。勝手にノキアが合流が必要だと勘違いし、記憶を改竄していただけだ。

 そんなノキアの勘違いで、作戦の実行がギリギリの綱渡りとなったのだ。アミたちの視線が自然と冷たいものとなる。

 

「お、オメガモン……? 何か言って……」

「……素直に謝罪しよう」

「……ウン、ゴメンナサイ。ボーソーしちゃった。えへ?」

 

 本当に謝る気があるのか――そんな謝罪に、悠子の眉が釣り上がる。

 

「オメガモンさん、ちゃんとノキアさんの手綱を引いてください。イチャイチャするだけでは困ります」

「……すまない」

「えっ、何でそこで謝るの!?」

 

 悠子の矛先はノキアの彼氏のような、というか保護者のようなオメガモンに向かう。彼は素直に非を認めて謝罪した。

 

「っく……! っくっくっく……!」

 

 唐突に聞こえたのは、笑い声。それはアラタのもので――。

 

「うぇっ!? バカアラタ、略してバラタいんじゃん!? オメガモン! プランなんとかだよ!」

 

 ――その笑い声で、ノキアはようやく気付いた。この場にアラタがいることに。瞬間、ノキアはオメガモンに目配せする。今こそアレをやる時だ、と。

 

「それは構わないが……本当にいいのか?」

「オッケーオッケー! あたしがゆるーす!」

「わかった。歯を食いしばれ……!」

 

 アラタは頬を引き攣らせた。

 オメガモンが構えた竜の篭手が、真っ直ぐに唸る。

 

「ぐはっ!」

 

 直後、アラタは星が見えた。

 一応、手加減はしてくれたらしいが、そんなものは関係ないくらい痛かった。「ナイス!」と言っているノキアの笑顔が腹立たしく思えた。思えて――帰って来たんだな、と。それだけが実感できて、アラタは自然と笑みがこぼれた。

 

「うぇっ!? ニヤニヤしてる……もしかして、そっちの趣味? えむとかそんな感じに目覚めちゃった!? 私やアミや黒悠子様に踏まれたいとか、そんな感じ!?」

「誰がだ! って、お前らも本気になんなよ!」

 

 ノキアの見当違いの言葉に、アラタは本気で怒鳴る。

 全員、ノキアの言葉を聞いた瞬間に彼から少し距離をとった。アミなど、一番近くにいた来人の後ろに隠れたくらいである。

 

「ま、アラタのM疑惑はこの際置いといて……」

「置いとくな! ってか、おたくは勘がよかっただろ。本当かどうかわかるだろ!」

「今限定で俺の勘はポンコツになった」

「っ! ムカつく……!」

 

 苛立った“フリ”をするアラタに、来人は苦笑を返す。いや、来人だけではなく全員が苦笑していた。

 こんな時において、いや、ある意味こんな時だからこそ、彼らはアラタが帰って来たというこの瞬間を噛み締めていた。

 

「……やっぱ、テメーらアホだ。本当に……俺も、お前らくらいアホだったらよかったのかもしんねーな」

「アホって……私たちはアホじゃないー!」

「うるせぇ、ほとんどのアホはテメェだろうが!」

 

 ノキアに怒鳴り散らしながら、アラタは思う。初めから、アホな彼らをアホなほどに信じていれば良かったのだ、と。

 今までの空回りして得たものの何もかもを失ったここに至って、彼はようやく吹っ切れた。というか、開き直れた。

 

「そんじゃ、後はアイツだけか」

「……アラタ!」

「ま、迷惑をかけた分はちゃんとやってやるよ」

 

 アラタの言葉に、全員が頷いた。

 そして、視線をドゥフトモンに戻す。見れば、ドゥフトモンは自らに絡みついていた線を必死に引き剥がし終えたところで、その苦痛に耐えながら、己の策を阻んだアミたちを睨んでいた。

 

「……グッ……我が力が失われているなどと……! まさか人間如きに我らの策が……阻まれたというのか……!」

『ふん。貴様は人間を過小評価し過ぎた……それが敗因だ』

 

 嘲笑ったようなカミサマの声がドゥフトモンの耳に届いて、彼は歯噛みする。

 人間に自らの計画を阻止されたこと、オリンポス十二神という同等存在に嘲笑われたこと――それらすべてが彼のプライドを刺激した。

 

「もはやお前の策略は潰えた。ドゥフトモン、お前一人で我々に敵うこともないだろう。終わりだ」

「貴様……何者だ? 貴様のような存在は知らんぞ……!」

 

 もう止めろ。そう言った杏子の姿を、ドゥフトモンは忌々しげに見る。

 オリンポスの主神、謎の黒い聖騎士、か弱いくせに群れる人間。想定外の者たちばかりだった。

 一方で、もう隠すこともないと思ったのだろう。杏子は口を開き、言う。自分の本当の名前、黒い聖騎士としての名前を。

 

「我が名は“アルファモン”」

 

 その名に息を呑んだのは、ドゥフトモンだけではなかった。ロイヤルナイツを詳しく知るカミサマやオメガモンたちすらも、その名に息を呑んだ。

 

「バカな……実在していたというのか!?」

「何と……」

『まさか、かような騎士だったとは……』

 

 驚愕の気配が蔓延する。アルファモンとは、それだけの存在だった。

 名は有名なほどに知られながら、だが、決して実在することのないデジモン。ロイヤルナイツ十三番目の聖騎士と、ロイヤルナイツに籍を置きながらも、不在であるがゆえに空白の席の主とさえ言われるほどの――いわば、神話の中のロイヤルナイツ。

 それが、アルファモンだった。神話と空想を意味する、始まり。決して存在してはならない、伝説。

 

「っ、なにゆえ今更に姿を現した……! しかも、我らの敵として!」

 

 ドゥフトモンが叫ぶ。そこには焦りがあった。

 策士でもある彼は知っていたのだ。アルファモンが普段存在しないその理由を。決して存在してはならないと呼ばれる、その意味を。

 

「無論、ロイヤルナイツの暴走を止めるため」

「っ!」

 

 そう、アルファモンは抑止の騎士とも呼ばれる。それはロイヤルナイツが暴走した時、彼らを止めるための抑止力という意味である。だから、存在してはならないのだ。ロイヤルナイツが暴走などしてはならないからこそ。

 そんな存在が現れた。それの示すところはつまり。

 

「人間界を滅ぼし、デジタルワールドを救う……そのための我らの行為を、暴走としたのか貴様は! これはイグドラシルの意志だ!」

「なるほど。だが、私をこの世界に遣わせたのもまた、イグドラシルの意志だ」

「馬鹿な……!」

 

 だとしたら、一体どういうことなのか。イグドラシルの真意はどこにあるというのか。ドゥフトモンだけではなく、話を聞いていた面々は混乱していた。

 イグドラシルは人間の世界を滅ぼそうとしているのか、守ろうとしているのか――。

 

「貴様が選定者だというのならば、正しい選択を成せ。人間が滅ぶのはその愚かさによる自業自得に他ならない!」

「私は人間を、そして彼らの成長を見守ってきた。そこには確かに愚かさもあったが、それだけというわけでもなかった。故に、私は彼らを信じよう。彼らの命はきっと道を拓ける、と」

 

 どちらも引くことのない問答だった。意味のない問答でもあった。

 だからこそ、ドゥフトモンは覚悟を決める。神話の中の騎士に抗い、自らの正当性を実行するその覚悟を。

 

「これ以上の問答は不毛だ。ここから先は力を押し通した者のみが語れる領域! 我々の対立がイグドラシルの意志ならば、この状況こそがイグドラシルの望みなのだ!」

「……愚かな」

「愚か者は選択を誤った貴様よ。勝ち残った方こそが真のイグドラシルの意志となる! 残念だ。最後の同胞との邂逅がかような別離の時となるとはな」

 

 ドゥフトモンがアルファモンに視線を投げかける。

 だが、ドゥフトモンはアルファモンが愚かだと言ったその意味に気づけていなかった。

 そんな彼の姿をアルファモンは哀れみを込めた視線で見る。

 

「グルァアアアアアアアアアアアアア! 行くぞ、抑止の騎士よ!」

 

 ドゥフトモンの姿が変わる。騎士然とした姿から、獣のような姿に。

 その姿こそ、ドゥフトモン:レオパルドモード。ドゥフトモンが戦場を駆ける時に変化する戦闘形態の姿だった。

 




今日は二話同時投稿ですので、次話もよろしくお願いします。
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