【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
敗北を認められず、地に伏せたままのドゥフトモンは苦い顔をしていた。
「我が敗れるとは……唯一無二の正義が潰えるなど……!」
「ドゥフトモン、お前は愚かだ」
消滅の時を待つ身となったドゥフトモンに、アルファモンは話しかける。だが、内容とは裏腹にその言葉に嘲りの色はなく、どちらかといえば哀れみの色だけがあった。
「言ってくれる……」
「違う。お前自身も言っていただろう。お前の計画は人間によって阻まれたのだと。“それ”を知ったはずなのに、お前は未だ“それ”を軽んじた。だからこそ、お前はそうなっている」
「違う。我が負けたのは、我が力が貴様らに劣っていたからではない! 我が敗れたのはイグドラシルの意志なのだ……!」
苦しそうな声でドゥフトモンはうめく。だが、その苦しそうな声色の中にもどこか喜びに似たものがあったことに、この場の誰もが気づいていた。
もちろん、自分が負けたことに対する喜びではなく――。
「そうだ……そうなのだ! イグドラシルの真意は……!」
――未だ明らかにならないイグドラシルの真意に、自分なりの回答を見つけたからこその喜びだった。
デジタルワールドを救うという同一の目的の下にありながら、ロイヤルナイツ内部での対立、そして戦い。確たる手段と自信を持っていたドゥフトモンたちの敗北――それの示すところはつまり。
「クハハハハ……! まさか我が君イグドラシルがかようなことを望まれようとは! クハハ、そうか、そういうことか!」
「……!?」
「滅べ滅べ! 塵と消える我と同じように! あまねく世界よ……! それこそがイグドラシルの意――」
瞬間、ドゥフトモンは光となって消えた。最後まで不敵に笑みを浮かべたままで、不穏な予言だけを残して。
「……ドゥフトモンの消滅を確認した。これで敵対するロイヤルナイツはいなくなった。後は――」
『イグドラシルのデジタルワールドに蔓延するイーターをどうにかすることだけ、か』
アルファモンの言葉に、ユピテルモンからアイギオモンに退化したことで来人と身体の主導権が入れ替わったカミサマが答える。
そんなカミサマの言葉に、アルファモンもオメガモンも意外そうな顔をした。イリアスの住人であるカミサマがイグドラシルの問題の解決に手を貸してくれるのか、と。
『ふん……どのみち来人が関われば、我も関わらざるを得ないだろう。ここまで来たのならば、そこまでは手伝っても良い』
「それはありがたい!」
これからのことを考えれば、強力な仲間はいくらいても足りないくらいだ。そんな中でのカミサマという強力な助っ人を得られたということは、オメガモンたちにとってもありがたいことだった。
カミサマがイリアスの住人であるとか、複雑な感情のあるオリンポス十二神の一柱だとか、そんなことは放り投げられるのだろう。
「まずはイーターだね。この世界とデジタルワールドと。どっちからどうしようか……?」
「じゃぁじゃぁ、片っ端からやっつけちゃう? なんたって、伝説のロイヤルナイツである杏子さんモンがいるんだもんね! 伝説的なチカラでパワーっと!」
アミの言葉に、ノキアが元気よく答えた。
ノキアはアルファモンの伝説に謳われるほどの力ならば、燻煙式害虫駆除剤のようなことができると思っていた。ちなみに、燻煙式害虫駆除剤とは、部屋において煙を炊き、ゴキブリなどの害虫を駆除するアレである。
ノキアはそのような感じでイーターを世界から駆除できるといいと考えていた。
「……」
『……』
まあ、アルファモンの力に頼りきりの作戦に、約二名ほど面白くない者がいたのだが。
言うまでもなく、ノキアの唯一無二を自認する某聖騎士と、力を貸すと言っているのにガン無視され、挙句に伝説に話題を持っていかれた某主神様である。
彼らの幼稚な対抗心に、気づいていないノキア以外の面々は呆れていた。
「ノキアくんの作戦でもできなくはない。が、それではやはり時間がかかりすぎる。日が暮れるなどというレベルではなくな。それは私以外の面々が力を合わせても同じだろう」
「まぁ、だろうな」
アルファモンの否の声に、来人が納得の声を出した。全体数もわからないイーターを一体一体倒していくなど、単純に考えても非効率だ。
では、どうするか。全員が良い方法を考えて頭を悩ませる――。
「そんじゃ、あいつの力を借りるしかねーかもな。どうせいるんだろうし」
――そんな中で、アラタだけが何かに思い至ったように声を発した。
アイツ。この場の誰かがその誰かをアラタに聞く前に、そのアイツなる人物は現れる。
「はい、もちろん。さすがはアラタくん、察しがよろしい」
「末堂アケミ……!?」
「やぁやぁ、皆さんお揃いで」
現れたのは、神出鬼没でいまいち何を考えているのかもわからない科学者――末堂アケミだった。彼は本当にいつも通りの様子で、アミたちの前にやって来る。
「おやおや? アラタくん、進化を諦めてしまったのですか?」
イーターとの融合状態でなくなったアラタを見て、アケミは首を傾げる。
対するアラタは、どうせ見ていただろうそんな彼の姿を白々しく思いながらも、肯定の意を返した。ここに自分が立っていることが証拠だ、と。
「ま、それならそれでもいいでしょう。……さて、早速説明しましょうか。あなたたちが知りたいことを」
「言っておいてなんだけど、マジで俺たちの話し合ってたこと、知ってんのな。まるで覗き魔だ」
「クフッ。学者というものは得てしてそういうものですよ。セカイの理を覗き見る者なのですから」
アケミは自身が覗き魔であるというアラタの言を否定せず、さらに戯言で誤魔化す。そんないつも通りの掴みどころのない様子で、彼は説明しだした。この破滅的状況をどうにかする手段を。
まずドゥフトモンたちがデジタルラインに溜め込んで、今回の作戦の下に奪い取った膨大な力、それを利用してもう一度次元の扉を開く。
この世界に蔓延するイーターを操り呼び集め、扉へと誘導し、纏めてイグドラシルのデジタルワールドへと送り返す。
そこまでを聞いて、誰もが絶句していた。イーターを操れることは既にアケミたちに出来ることだとはわかっている。だが、その内容が内容だ。
確かにこの方法ならば、この人間の世界は救われるだろう。だが、それはデジタルワールドを滅ぼす最後の一手となることにほかならない。
「バカな……! それではデジタルワールドが今度こそ滅んでしまう! 認められない!」
「だ、ダメダメ! そんなのダメに決まってるじゃん!」
いち早く再起動したオメガモンとノキアが焦ったようにアケミに叫ぶ。
対するアケミは、そんな彼女たちの反応をわかっていたかのように、冷静に返した。大丈夫だ、と。
「イーターに本体というものが存在することをご存知ですかね?」
『何……!? イーター、の本体!?』
「ええ、ええ! イーターは全にして個なるもの! すべてのイーターは並列的存在でありながら、たった一体の本体に繋がっている! それこそが、私が“マザーイーター”と名付けたイーターです!」
アケミの言葉に全員が驚いた。
イーターに、本体。今までのイーターは独立した存在でもありながら、本体の切り別れた分身でもあった存在であったということである。
頭が痛くなるような、至極わかりにくい話だ。まあ、それはイーター自体が人間やデジモンとは根本的に存在を異にする存在であるから、仕方ないことなのだが。
年相応の頭脳しか持たない組はついて行くことに苦労していた。
「だけど、本体ってことは――」
「ええ、察しがよろしいようで何よりです。来人くん」
「……俺の名前を?」
「君のことはよく知ってますよぉ? 珍しいことになってますからねぇ。ごほん、ともかくです。その本体を排除できれば、本体と繋がっているすべてのイーターは連鎖的に消滅する!」
シンプルな解決方法だった。本体を倒せば、それで解決とは。
だが、問題は本体のいる場所だ。奇妙な予感を覚えたアルファモンは静かに聞いた。その本体はどこにいる、と。
「デジタルワールドの深奥部――イグドラシルの
「な……?」
「何だと……!?」
オメガモンにアルファモン、カミサマに来人――イグドラシルやホメロスといったような存在の力を知っている者たちは驚愕に震えるしかなかった。
それを知らない者とは驚きの具合が違う。
それの力を知っているだけに、それが侵されているという事実が信じられなかった。
「あなたがたロイヤルナイツが袂を別かってしまったのも、それが原因かもしれませんねぇ」
「っ、だったら、イーターをデジタルワールドに送り返す必要はないはずだ!」
しみじみと言うアケミに、ハッとして気づいたオメガモンが声を荒げて言う。イグドラシルの下へと行って、そこに巣食うマザーイーターを倒せばいいのだから、イーター云々は必要ではないだろう、と。
「残念ながら、闇雲に突入しただけでは意味がありません。マザーイーターの侵食によって、イグドラシルのさまざまな機能は変質しています。それはセキュリティ機能も同じこと」
そこまで言われれば、バカでもわかる。普段は世界を守るセキュリティ機能によって、今度は自分たちが排除される可能性すらあるということだった。
仕方ないこととはいえ、世界の守護者たる自分たちがセキュリティに引っかかる状況に陥るとは。オメガモンもアルファモンも、内心で苦い顔を隠せなかった。
「そこでイーターの出番です。イーターは元々マザーイーターの一部ですから、話は別。私お手製のプログラムを仕込んだイーターを送り返し、セキュリティ機能を一時的に抑制させます」
『その隙にマザーイーターを排除する、というわけか』
「ふむ。話の筋は通っている、か……」
アルファモンの言う通り話の筋自体は通っている。
全員が来人の方を見れば、彼は首を横に振った。その様は嘘はついていない、と言っていて――この場の誰もが納得はできなくとも、仕方ないと割り切るしかなかった。
「っと、実はこの作戦には一つ穴がありまして……」
「穴……?」
デジタルラインに蓄積されているデジタルウェイブを使用して次元を扉を開く。だが、次元の扉を開くことはできても、それを維持するのは現存するデジタルウェイブの量では心もとない。だからこそ、扉を維持する何かを必要がある。
そこまでのことを説明して、アケミは来人を――正確にはカミサマを見た。
「そこでロイヤルナイツの方々に依頼です。イーターをデジタルワールドに誘導し、我々がマザーイーターを排除するまでの間――扉が閉じないようにしていただきたい。具体的にはあの時の逆ですね」
あの時とは、カミサマが次元の扉を閉じようとしたことを言っているのだろう。
苦い記憶を掘り起こされて、カミサマは小さくうめく。そんなカミサマの様子に気づいたのは、来人だけだった。
「だが、戦力的な意味では我々から減らすわけにもいかない」
「えぇ、わかってますよ」
「マグナモンたちに連絡を取ろう」
「では、その間にちゃちゃっと準備しちゃいますかねぇ」
次元の扉を広げる係として、マグナモンたちをオメガモンが呼ぶ。
その間に、アケミは次元の扉を開く準備を進めていく。
「……アミ、ちょっといいか?」
「え、来人……? どうかしたの?」
僅かに生まれた間、そこで来人はアミに向かって手招きし、誰にも話を聞かれない場所に呼び出す。
そんな彼らの姿を、ノキアたちは何を想像したのか、ニヤニヤと生暖かい目で見ていて――。
「こっから先は時間との勝負になりそうだから言っとくわ。アイツ……アケミには気をつけろ」
「え?」
「アイツ、たぶん何かを企んでる。悪い奴じゃないだろうけど、それだけで終わらない奴だ」
「う、うん……」
――だが、実際に来人たちが話している内容は色気もなにもない内容だった。
「あと、くれぐれも無理はするなよ。自分の身を第一に行動してくれ。お前はすぐに無茶をするから」
「……クスッ、それは来人も同じでしょ。心配性だなぁ。大丈――」
「頼むから……!」
来人のソレは真面目な警告だった。
今までにないほどに真剣な言葉に、アミは一瞬で言葉を失う。やがて、マグナモンたちがやって来た頃に――アミはゆっくりと頷いたのだった。
というわけで、第百五話。
今日も二話同時投稿なので、次話もよろしくお願いします。