【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
ですので、前話をご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。
事が一気に解決する可能性が高いというだけあって、あれから数分も経たないうちにマグナモンたちは招集し、上空に滞空していた。それぞれ緊張しながらも、どこか覚悟を決めた面持ちを見せている。
そんな彼らの空気に、いよいよ最後の決戦なのだということがわかって――ノキアでさえも、若干の緊張と共に固唾を呑んでその時を見守っていた。
「それではぁ、さっそぅく!」
アケミがパソコンを弄り、ボタンを押す。
瞬間――光が天空に立ち上った。上空に、いや、空間そのものにポッカリと穴が開く。まるで見つめるだけで落ちてしまいそうなその穴は、正しくあの時と同じものだった。
現に、再び開いた穴に地上の人々は大混乱に陥っている。
「っ、来たか!」
誰かが呟いて、次いでその言葉に全員が気づく。
ビルの隙間から、EDENスポットから、街のいたるところから――現れたイーターが上空へと立ち上っていく。上空へと開いた穴へと向かっていく。
「……では、内側から押し広げる……」
「ムチャっぽいけど……やるしかない!」
マグナモンとジエスモンの言葉に――。
「ふん、無茶なものか。そこのオリンポスの主神でさえたった一人で真逆のことをやったのだ。我らロイヤルナイツに名を連ねた者が四人も揃ってできぬはずもない!」
――力強くスレイプモンが返す。
その彼の言葉に、全員が頷いた。最終決戦に行く者たちのためにも、自分たちの役割くらいはどんなものでも果たしてみせる、と。
「行こう!」
アルフォースブイドラモンの声に頷いて、彼らは上空の穴へと向かう。そして、やってくれたのだろう。数秒後には、穴は着々と広がり始めた。
広がった穴を前に、さらに多くのイーターたちが上空の穴を目指す。
一体どこにこれだけのイーターがいたというのか。数百を超える数のイーターが、一心不乱に穴の向こうへと消えていく。
数分も経たないうちに、イーターはこの世界から消えた。
「さぁ、これで後は我々が向かうだけです。扉は開かれましたよー」
アケミはそう言うと同時に、この新都庁ビルの屋上に巨大な魔法陣が浮かび上がる。その文様は、ある種の独特な芸術のようにも見えるほどの整った美しさを持っていた。
「一つ聞いておこう」
「はいはい、なんでしょう?」
最後の作戦を決行する前に、アルファモンはどうしても聞いておきたいことがあって、アケミに尋ねる。マザーイーターを排除する確実な方法はあるのか、と。
「おや? 説明してませんでしたかね? これは失敬。無論、あります。マザーイーターの中にある異物を取り除くのです」
「異物を取り除く?」
「はい、神代勇吾くんの精神データです」
アケミは説明する。
そもそもイーターは人間やデジモンなどを食らう食性を持たなかった。それが神代勇吾を捕食したことで変化し、生命を食らう現在の性質となった。
その変化――ある種の進化の契機となった神代勇吾の精神データをイーターは今も保護している。それも自らの中枢の中に、大事に、大切に。
結果、神代勇吾はある種のコア的な役割を担っている。
そんなアケミの説明に、アミたちは呆然とするしかなかった。まさかここで勇吾のことにまで繋がるとは、と。
「私の理論に基づく予測では……彼がイーターから存在しなくなった時、とても興味深いことが起きるのです!」
「勿体ぶらずにさっさと言えよ」
「アンタのその言い方だと、それこそ信じられないことなんだろ?」
「クフフ。せっかちですねぇ」
なかなか言おうとしないアケミに、ついつい口を出してしまったアラタと来人。
口出ししてしまった自分たちをニヤニヤと笑うアケミの様子に、何となく負けたような気になってしまった二人である。
「可逆的なプログラムの書き換え……つまりは、時間の逆行です」
全員が絶句した。時間の逆行などという妄想レベルのことが起こりうるなど信じられなかった。だが、この桁外れに優れた科学者が口にすることがただの妄言であるはずもない。
全員がそれが事実である可能性が高いとわかったからこそ、全員が絶句していたのだ。
「イーターの記憶統合ネットワークは我々この四次元的宇宙の理解や想像、概念を超越したシステムなのですよ! 彼らに限界という概念はなく、ただ記憶する! 当然、時間も容量も関係ありません」
理解の及ばない話に、誰もが何かを言おうとする。
「あなたたちはつい最近ロードナイトモンの罠に嵌ったでしょう? あれはイーターの記憶からダウンロードされ、仮想現実として再現されたものなのです。まあ、多少のアレンジは加えられてましたが……ね」
だが、その尽くをアケミは先回りして潰していく。
イーターの記憶について兎や角言おうとすれば、実例と共にその凄さをわかりさせられる。
イーターの凄さの一端を思い知りながら、誰もが同じことを思った。どうしてここまでのことを知っているのか、と。
「ああ、私がここまで知っているのは……実は今の私はイーターと繋がっているからなんです」
「何――」
「まあ、彼らのネットワークに特別な権限でアクセスしているだけなんですけどね。クラッキングと同じです。やろうと思えば誰だって出来る可能性はありますよ」
誰だって出来る。その言葉には、この場の誰もが何度目になるかもわからない絶句をした。
その可能性を本能的に拒絶している――そんな、アケミの付け足しが耳に入らないくらいには驚愕していた。
「とと、話が逸れましたねぇ。とにかく、現代の形態となる契機となった“鍵”が記憶領域から消失したならば……それは文字通り
「ってことは、八年前以前の段階に?」
「ええ、そういうことです。もちろん、信頼できる確率が前提にありますよ? つまり現在が起こり得なかった未来となり、確かな過去の延長にある起こり得た未来が現在に取って代わるのですよ!」
話はわかった。確かに過去がなかったことになればそうなるだろう。それでも、本当にそうなるのか。アミたちはこういったことに詳しいアルファモンを見る。
「デジタルの世界では十分に起こりうることだ。我々のデジタルワールドでも何度かそういったことがある。こちらの世界と違って、我々の世界は一つの大きな流れにあるわけではない。かつてのXの悲劇に、強欲の魔王の侵略、両界の接近――それら起こり得なかった時代はただの記録となり、時代は世界ごと往々に変化してきた」
「……なら、なんで杏子さんは覚えてるんですか?」
「私は特殊な立場だからこそ記録を覚えているだけだ。記録として知っていても、それを実感として覚えているわけではない」
アミの疑問に答えたアルファモンは、少し寂しそうだった。
特にXの悲劇といった時の表情にそう感じられて、アミはアルファモンをジッと見つめる。アルファモンはしばらく黙っていたが、やがて観念したように呟いた。
「私が表舞台に最も関わったのがその時だからだ。その時の後、“アイツ”との時間はなかったことになった。私もアイツもそれを後悔してはいないし、なかったことになった故にそう感じることもできないが、未だその失われた時代に思うことはある」
アルファモンは言葉少なく語る。
“アイツ”というのが誰のことかはわからないが、それでもアルファモンにとって大切な人だというのはこの場の誰にもわかった。だが、なかったことになってしまったからこそ、大切なその誰かのことをもう大切だとは思えないのだ。
なかったことになるのが良いことだとは限らない。アミたちはそれを思い知って、少し気落ちした。
「でも、杏子さんが覚えてるならきっとありますよ。その人との絆が」
「……ふっ、かもしれないな。とはいえ、今は私のことを話している場合ではない。重要なのはこちらの世界も半電脳化状態にあるということだ」
そう、先ほどアルファモンは時間逆行現象に関してこう言った。デジタルの世界では起こりうることだ、と。
それはつまり、半分デジタルの世界となっている今のこの世界にも、同じことが起きる可能性があるということで。
「はい! イーターに時間逆行現象が起きれば、繋がっている電脳世界――デジタルワールドやEDENを通してこちらの現実世界にも影響が出るでしょう! もしかしたら、EDEN症候群さえもなかったことになるかもしれませんねぇ」
EDEN症候群はイーターが人間を捕食することが原因で起こることだ。であれば、その原因である人間を捕食するイーターが消えてしまえば、因果律の関係でEDEN症候群さえも消えてしまう可能性が高い。
まあ、その辺はアケミにも予想がつかないことであるのだが。
「聞きたいんだけど、いいか?」
今まで大人しく話を聞いていた来人が声を上げた。鋭い目でアケミを睨みながら、彼は問う。どうやって神代勇吾をマザーイーターから取り除くのか、と。
「それについては問題ないはずですが? アミさんの力さえあれば」
「……」
アケミのその言葉に、来人の視線は鋭くなっていくばかりだった。
だが、そんな来人とは対照的に、アミたちは今更ながらにあることに思い至って色めき立っていく。
「EDEN症候群がなくなるなら……来人も元に戻れるってことだよね!? やった! やったよ来人!」
「おいおい、一番喜んでるけど、おたく自分の体に戻れるってこと忘れてんじゃねーの」
「みんなみんな元に戻って、それってちょーハッピーエンドじゃん!」
「希望的観測が過ぎますが……何もしないでいるよりはマシですね」
アミも来人も勇吾も――EDEN症候群によって運命を狂わされた人々全員が助かる。アミたちはそのことに思い至ったのだ。
全員が一足早い喜びに浸っていた。
「……まぁ、来人くんだけは本当にどうなるかわかりませんけどね」
ポツリと呟かれたアケミの言葉には、アミたちには届かなかった。ただ、カミサマだけがその言葉を聞き取って悲痛に沈黙を保っていた。
ともあれ、ひとしきり喜んだアミたちは先ほどにも増してやる気に満ち満ちていた。何が何でもハッピーエンドを迎える――そのために、やらなければならないことをしに行く。
「少し待ってくれ!」
いざ行こう、デジタルワールドへ! そんなアミたちを静止する声。それは聞こえるはずのない声で、驚きにアミたちは足を止めた。
「……デュークモン!? 無事だったのか!?」
オメガモンが本気で驚愕の声を上げた。
そう、話しかけてきたのはアラタに喰われたはずのデュークモンだったのだ。
「少年とイーターが分離した時に放り出されたのだ。おそらくこのデュークモンの保有データが他と比べて莫大だったために、消化しきれなかったのだろうな」
見れば、下手人のアラタはバツの悪そうな顔をしながらも、自分のしたことに向き合うつもりなのか、目を逸らすことはしていなかった。
「いろいろと言いたいことはある……が、時間もない。手短に要件を果たす。今の消耗したこのデュークモンでは、上空の者たちにも君たちにも足で纏いになってしまうだろう」
一応無傷に見えるデュークモンだが、やはりそれ相応に消耗しているのだろう。付き合いの長いオメガモンや勘の鋭い来人など、観察眼が飛び抜けて優れている者たちは気づいた。彼がここに立っているのはやせ我慢の結果であることに。
「だが、何もしないのは主義に反する。だから……メギドラモン!」
「んあ? 俺か?」
いきなり名前を呼ばれたメギドラモンは少しだけ驚きながらも、デュークモンの下へと行った。デュークモンはその手の槍を地面に突き刺し、空いた手をメギドラモンに向けて突き出した。
メギドラモンは突き出された手を前に、どういうことなのかと疑問を顔に出した。
「このデュークモンの力だけでも持って行ってくれ。奇妙な運命もあったものだが……一番、君が適合できるはずだ」
「……おう、任せろ!」
デュークモンの突き出された手に、メギドラモンは拳を当てる。直後、凄まじいばかりの力が流れ込んで来る感覚を味わって――気がつけば、デュークモンは成長期の姿だろう小さな赤い恐竜へと退化してしまっていた。
「渡せるだけの力は渡した。後は……頼む」
退化してしまった彼に全員が任せろとばかりにしっかりと頷く。頷いて、今度こそアミたちは魔法陣に乗る。
一瞬後――。
「頼みます」
「行ってこい!」
「頼むよ!」
「ふん」
――さまざまな激励を背に、アミたちはデジタルワールドへと突入した。
というわけで、第百七話。
題名に反して、デジタルワールドに行ったのは最後という……。
そんなこんなで、次回以降からいよいよ最終決戦に行きます。
それでは次回もよろしくお願いします。