【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第百八話~最後に立ち塞がるは冥府の神~

 イグドラシルのデジタルワールドへと突入した来人たち。次元の扉を抜けた先は、暗くて暗い森だった。

 

「……これは」

 

 地面に、木々に、空に、空間に――あらゆる場所すべてにイーターにあったような紋様が這い回っている。そんな光景を前にすれば、ここはまるで世界というよりもイーターの一部であるような錯覚が起きる。

 これがデジタルワールドだとは、誰もが信じたくなかった。

 

『……惨いな。前とは比べ物にならん』

 

 カミサマがポツリと呟いた。

 その言葉は、彼がこの世界に来たことがあると言っているかのようで――来人は意外な顔をした。

 

「カミサマ、イリアス側のくせに来たことあるのか?」

『む、いや……記憶にあるだけだ。我ではなく歴代の誰かが来たのだろうな』

「ふーん?」

 

 言いながら、来人は周りを見渡し、そして気づく。末堂アケミがいない。

 

「アイツは……?」

「末堂ならば先に行くと一人で進んでいった」

 

 来人の疑問に答えたのは、アルファモンだ。その表情はアケミの行方を聞いた来人と同じく、鋭い。

 

「末堂には末堂の目的がある。彼がそのために我々を利用しているのは確かだと言える」

「アイツは……末堂はすべての世界から悲しみをなくすって言ってた。きっとそのためなら、アイツはどんなこともできるだろうし、してきた。これからも、きっとな」

 

 アケミと最も長く行動しただろうアラタの言葉に、全員が考え込む。

 悲しみをなくす、それができるのならばどれほどいいことだろうか。具体的にどうなるかは全く想像がつかないが、彼はそれを本気で目指している。彼がそこまでに至るまでに何があったのか――考えても所詮は想像でしかない、詮無きことだった。

 

「けど、俺たちのやることは変わらないだろ」

『そうだな』

 

 早く行こうと催促するかのような、来人の言葉。それを前にアミたちは苦笑した。

 

「その通りだ。仮に末堂が新世界の想像を望むのならば、我々の目的は旧世界の崩壊を防ぐことだ。だろう?」

「そうですね。杏子さん!」

「では、ワトソンくんが良い感じで頷いてくれたのだ。それでは行こうか。我々の成すべきことを成すために」

 

 頷き合って、来人たちは進み始める。

 上空を見る。そこには未だ巨大な穴――次元の扉が開いていた。見上げれば、四つの光がその穴を押し広げている光景が見えて、その先に僅かに人間世界の光景が見える。

 

「あそこで頑張ってくれてるみんなのためにも、急ごう!」

「おい、アミ。急ぐのは構わないけど、焦るのはダメだからな」

「わかってるよ、来人」

 

 言いながら、先に進む。

 ふと、来人はゾッと悪寒を感じた。今までの比ではない、何か最悪の予感を――。

 

「来人? どうかしたの?」

 

 ――次いで、凄まじい気配が上空に炸裂する。

 アミの心配する声も聞こえずに、来人は上空を見上げた。いや、来人だけではないか。それを感じ取ることができた誰もが上空を見上げる。

 直後、再度の気配が上空に炸裂する。今度は先ほどにも増して凄まじく、人間であるアミたちにもわかるほどだった。

 

「っ、何が――!?」

 

 全員が上空を見上げる。

 そこには先ほどと変わらない次元の扉が――あるはずだった。いや、あることにはある。ただ、小さいだけで。よくよく見れば、先ほどまでは見えた四つの光が消えている。

 それが示すことはつまり、何者かによって四つの光――マグナモンたちが倒されたということだ。

 支えを失った次元の扉は開き続けることができない。アミたちの見るその前で、次元の扉は着々と閉じていく。

 

「これは……まさかマグナモンたちが!? そんな、いったい誰が――」

 

 オメガモンの動揺したような声が辺りに溶けて消えた。

 いかに次元の扉を開くことに尽力していたとはいえ、それでも最上位に位置する彼らが並のデジモンに遅れを取ることなど考えられない。

 その不朽の信頼が目の前で打ち砕かれて、誰もがこの事実を直視できなかった。

 次元の扉が閉じてしまったということはつまり、世界間の繋がりが切れたということ。下手をすれば、今回の作戦の要である時間の逆行現象が現実世界に起きなくなる可能性もある。時間逆行現象が両方の世界に起きるためには、二つの世界が繋がっていることが前提なのだから。

 

『この気配は……!』

 

 そんな中で、ただ一人だけがこの事態の犯人に気づいていた。

 そして、その犯人が次に狙うのは“自分”であることにも――。

 

『来るかッ! 来人、代われ!』

「っ、ああ!」

 

 ――カミサマの焦りの声を前に、来人はすぐさま身体を明け渡す。アイギオモンから本来のユピテルモンとしての姿へ、カミサマは進化する。

 直後、そんなユピテルモンめがけて黒い雷が落ちた。

 

『っ』

「っく……! ずいぶんとご挨拶ではないか! “プルートモン”!」

 

 ユピテルモンはその手のハンマーで黒雷を打ち払いながら、攻撃してきた主を見る。プルートモンと呼んだ、その者を。

 

「ふん……腹の傷は塞がったか。相変わらず妻に追い詰められているのか? ククク」

 

 そこにいたのは、黒い神だった。

 以前、ユピテルモンの腹に穴を開け、アラタを狙うデュークモンの邪魔をした黒い神。プルートモンと呼ばれる、デジモン。

 オリンポス十二神に匹敵するほどの力を持ちながら、その数に含まれない番外の神にして冥府の神。イリアスでもとりわけて特殊な位置に存在するデジモンだった。

 

「あのデジモンは……!」

「アイツ……!」

 

 その姿を見たことがあるアラタとアミは半ば驚愕を示して、そんなプルートモンの姿を見る。

 だが、当のプルートモンはそんな彼らのことを気にも留めていないようだった。

 

「プルートモン……何をしに来た。ロイヤルナイツを殺し、この世界と現実世界の繋がりを断ち! 貴様は一体何がしたい!」

「ふん、しれたこと。危険物は隔離すればいい」

 

 つまり、プルートモンが次元の扉を閉じた理由――万が一アミたちが負けた場合でもどうにかなるように、イーターをこのイグドラシルの世界に押し込んでしまえ、ということだった。

 まあ、目障りな主神さえもついでに隔離する意図があったのだが。

 

「では、なぜ貴様はここに来た? ここに来た以上――」

「この俺がそんな不毛な手違いを起こすとでも? 寝言は寝て言え。俺はどうとでもなるから来たに過ぎない」

 

 プルートモンはイリアスに帰る方法を持っている。経験からわかりきっていたことだったが、ユピテルモンは相変わらずな彼の姿に苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

「危険物を隔離など……それは負債を未来に押し付けただけだろう! もし未来にこのことを知らない誰かがこの世界への扉を開けば、世界は再び滅びの一途を辿る!」

「その時はその時だ。元々世界の滅びをどうにかしようという話。どうせいつかは滅ぶ。今の滅びがほんの少しズレるのだから、それでいいだろう」

「なっ、ふざけるなっ!」

 

 プルートモンの物言いに、耐え切れなくなったオメガモンが声を上げる。プルートモンはそんな彼を嘲るように一瞥しただけだった。

 

「ちょっと、そんなのダメに決まってるじゃん!」

「何をしてくれてるんですか!」

 

 ノキアや悠子も声を上げる。だが、弱者に過ぎない人間になど反応する価値はないとばかりに、プルートモンは無反応だった。

 

「っく。やはり貴様はここで――」

「ふん! 俺は初めからそのつもりだったがな!」

『アミ! お前ら先に行けっ! 時間がない!』

 

 事の成り行きを見守っていた来人がユピテルモンの内側から声を上げた。

 上空の次元の扉は着々と閉じ始めている。完全に閉じるまであと十数分もないだろう。再び開く手立てがない以上、それまでにどうにかしなければならない。だから、彼はアミたちを先に行かせることにしたのだ。

 

「で、でも……!」

 

 思わず声を上げたアミだったが、彼女も本当はわかっている。それしか手はないと。それでも、やはり悩んでしまう。彼を残して行っていいのか、と。

 

「なら、オレも残る!」

「あら、嫌だ。下種トカゲと意見が一致してしまったわ」

 

 そんな時のことだった。悩んでしまうアミの背中を押すように、メギドラモンとデジヴァイスから出てきたユノモンがここに残る選択をした。

 まあ、ユノモンの場合はアミの背中を押す気など微塵もないのだが――それでも、彼らが残ってくれるということになって、ようやくアミの足は動いた。

 

「なるべく早く戻ってくるから!」

『いつかのように罠に嵌るなよ! それから俺たちもなるべく早く合流する!』

「来人こそ油断しないでよね!」

 

 アミは叫んで、そのままアルファモンたちと共にマザーイーターの下へと駆けて行った。

 これでここに残ったのはユピテルモンとユノモン、メギドラモンだけ。

 

「ほう? ユノモンは生きていたか。ここ最近、気配を感じないからどこぞでくたばっているものかと思っていた」

「あらあら……引きこもりが何か言ってるわ。ずっと引きこもっていればいい、いえ、いっそ孤独死してしまえばいいのに」

「ククク」

「うふふ」

 

 にこやかに笑いながら言い合うユノモンとプルートモン。もちろん、その間にあるのは冷たいほどの殺意である。

 そんな両者を視界に収めながら、来人はカミサマに提案する。

 

『さて、カミサマ。俺たちはなるべく早くアイツのところに行かなきゃならないんだ。さっさと決めるぞ!』

「ふむ、いいだろう。この因縁はここで断ち切る!」

 

 まるで自分のことをただの障害物としか見てないような物言いに、プルートモンは僅かに口を曲げる。そこに嘲りの色があったのに、誰もが気づいた。

 

「ほざけ。そのダンベルのような玩具で俺を殺せると思うな」

「ならば、注文通りにダンベル以上のものを持ち出す。その身の勝手にその罪を贖え!」

 

 その手のハンマーは大剣へ、晴天から嵐天へ、裁判神から闘神へ。ユピテルモンはユピテルモン:ラースモードへと進化――。

 

「ククク」

 

 ――することはかった。

 

「何……!?」

『な!』

 

 タイタモンとの戦いの後から、望みさえすれば進化できると来人たちは思っていた。思っていただけに、この予想外の事態には驚くしかない。

 

「ククク……そこまで驚くべきことではあるまい?」

「何だと?」

「貴様のあの姿は有り得ない形態――言わばバグだ。いかにイグドラシルが()()()()()とはいえ、そんなものを野放しに解放させるほど落ちぶれてはいないだろうな」

 

 言われて、思い至らなかった自分に来人たちは歯噛みした。

 有り得ない姿を表出する――言うなればゲームでの改造行為のようなソレ。オフラインなどの管轄外(現実世界)で使うならばまだしも、オンラインなどの管轄内(デジタルワールド)で使うとなれば、さすがにホストコンピュータの影響を受ける。

 いかに今のイグドラシルが機能不全に陥っているとはいえ、何から何までの無法を許すほどにはなっていないということだ。

 

「残念だったな。ククク……もっともソレが使えないからこそ、俺はここを戦いの場に選んだのだが」

「っ!」

 

 つまり、プルートモンは初めから計算づくだったというわけだ。彼は厄介なラースモードが使用できないことを前提に、ここで戦いを仕掛けに来たのだ。

 

「さて、お喋りは終わりだ。死に絶えろ」

 

 その言葉と共に火蓋は切られ、漆黒の雷が地を駆けた。

 




というわけで、第百八話。

ついに始まる(主人公たちにとっての)ラスボス戦。
ええ、こういうわけで、主人公たちは原作ラスボスたるマザーイーター戦不参加です。
マザーイーター戦をラスボス戦にすると、どうしたところで最終的には原作主人公であるアミが良いところを持って行ってしまうので、こうなりました。
マザーイーター戦の一部始終が知りたい方は、どうぞ原作をプレイしてみてください。

それでは次回もよろしくお願いします。
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